いちごの輝き   作:むらさきみどり

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第25話

 嫌な名前を見つけた。

 懐かしくもあり、過去に置いてきた苦しい想い。

 目を閉じると、学生時代の甘く苦しく苦い思い出がまるで昨日の出来事のように脳裏に映し出される。

 もう、忘れられたと思っていたのに。

 

「黒川先生、どうかされましたか? 」

 

「……いえ、少し考え事をしていただけですよ」

 

 昔と変わったのは、こうやって何事も無かったように笑みを浮かべる事が出来る事だろう。中年の同僚はへらへらと笑いながら自分の席へと戻っていった。

 

 切り替えよう。過去の事など考えても何の意味もないのだから。

 

 

 そう思っていたというのに、早速問題が起こった。

 入学式に件の生徒の姿が現れないのだ。

 それもよりにもよって、校長や更にその上の人間が秘密裏に特別として認められた一人暮らしの生徒ーー生きる伝説とまで吟われるロックバンドのボーカルトオルこと、仲間徹の一人息子である仲間駿介が。

 悪いことは続けて起こる。普段は人に頭を下げないことで有名な校長が、私に頭を下げて言うのだ。「と、とりあえず仲間さんにご連絡を。くれぐれも機嫌を損なわないように頼みますよ」、と。

 

「……はあ、最悪だーーなんて愚痴っても仕方ないか」

 

 聞きなれた呼び出し音が、いつもより長く感じられる。しかし恐らく三十秒程で声が聞こえた。女の声だった。

 

「わたくし、泉坂高校の教師をやっております、黒川と申します。実はまだご子息様が学校に来られておりませんでーー」

 

「まあ! すぐに様子を見ます。御手数おかけしてすみません」

 

「いえ、お気になさらず。お待ちしております。失礼致します」

 

 静かに電話が切れると、彼女は誰もいない職員室全体に響き渡る程に大きなため息を吐き、ぐったりと机の上にはちきれんばかりに大きな胸を乗せ、力抜けたように上体を倒した。

 

「何やってるんだろ、私……」

 

 その呟きは虚しく宙へと消えていった。

 

 

 

 時は少しばかり遡る。

 入学式が始まる数分前。西野と東城、他いつもの三人は廊下にいた。本来であればクラスの生徒達と共に整列に加わり、体育館へと行かなければならないのだが、まだ駿介が来ないことを心配して集まっていたのだ。

 

「でもよ、仲間なら大丈夫じゃねえか? 朝が弱いことは皆知ってるだろ」

 

「小宮山のいう通りだ。だけど流石の仲間でも、入学式には遅刻しないだろ……たぶん」

 

 自信無さげに大草がいうと、全員が確かにと大きく頷いた。西野以外の全員が。

 

「つかさ、大丈夫? 」

 

 駿介へと電話をかける西野に、東城は不安げに彼女の肩を叩く。

 電話が繋がらないのだ。何度かけても。実際はメールをしながら眠ってしまった為に、電源が切れてしまっているのだが、そんなことを知るよしもない。

 

「あたし、駿介くんの家に行ってみる。もしも事故にあってたりとかしてたらあたしーー」

 

「落ち着いて、つかさ。大丈夫だよ、きっと。昨日だってメールしてたじゃない」

 

 鬼気迫る表情で、今にも泣き出してしまいそうな西野に誰もが息を飲むみ、かける言葉が見つからなかった。しかし東城は自身の不安や心配という感情を押し殺し、平常心を装いながら微笑みかけた。だが西野には伝わる。彼女も不安なのだと。そしてやっと一回深呼吸をして、真っ直ぐ東城を見つめた。

 

「ごめん。あたし、どうかしてた。綾は流石だね。いいお嫁さんになれるよ」

 

 西野がにししーと笑うと、回りにも花が咲いたように笑顔が起こる。東城も不安さを隠しながら、同時に妄想してしまった花嫁姿に赤面してしまう。

 すると、西野と東城の携帯が同時に震えた。メールである。

 

「小宮山くんの正解。はぁー良かったぁ」

 

「ふふ。駿介君、寝坊しちゃったみたい。今から送るからって、駿介君のお父さんから」

 

 やっぱりかー!!! と真中が呆れたように笑い、小宮山と大草も困った奴だと安堵する。何だかんだといいつつ、皆駿介の事を案じていたのだ。

 

「……そういえばさ、大草くんたちは知ってるの? 駿介くんのお父さんのこと」

 

 ふと思い出したように、西野が問いかける。すると指名された大草が、「まあな」と短く答え、補足するように真中が口を開いた。

「駿介はあんまり知られたく無いみたいだから、知ってるのは俺たち三人くらいだと思う。駿介が口を滑らせて、“トオルさん”がテレビに出てた時に親父って言ったんだ。本人は誤魔化してたけどね。俺は小さい頃からの付き合いだから知ってたんだけど」

 

「へぇ……慌てて誤魔化す駿介くんはちょっと見ていたいかも」

 

「私もちょっとだけ見たいなぁ 」

 

 本人がいないところでもこうして幸せそうに彼女達を笑わせる駿介を、心の隅で尊敬する真中と小宮山。そんな二人を尻目に大草は全く同じ質問を返した。

 

「あたしたちは駿介くんに避けられてる時に、メールをもらったんだ。トオルさんから」

 

「ばか息子を嫌じゃなかったらこれからもよろしく頼みたいって

 ね」

 

 二人は互いの事は知らなかったが、トオルの口ぶりから他に女の子がいることは知っていたのだ。今、こうして仲良しなのはトオルのおかげかもしれないと、二人は改めて思った。

 

「駿介くんは隠してるっぼいけどね」

 

「いつかはきっと言ってくれるはずよ。だから待ちましょう? 」

 

 ちょっと不満げな西野に東城は微笑みかけた。

 信じる女の顔だ、と西野は改めて手強い相手だと認識する。もちろん、親友であることに変わりはないが。

 同時に東城も、自分の感情を素直に表せる西野のことを羨ましく思い、高い壁だと再認識。いつかは駿介の隣に並び立ちたいと思った。

 

「なあ大草、お前はこの二人クラスの女の子にこんなキラキラした顔させる事が出来るのか? それとも駿介だけが出来る特別なのか? 」

 

「俺でも無理だな。アイツは天才なのかもしれないな」

 

 真中と大草はそんな二人を眺めながら、そんなことを虚しく言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、その頃駿介はと言うといつかの黒い名も知らぬ高級車に送られ、学校へと着いていた。親達はどうしても外せない仕事があるらしく、来ていない。

 学校から連絡があったということは先程運転手の男(父親のマネージャー)から聞いた駿介である。

 

 一昨日は遅刻しないようにと早く就寝したのだが、昨夜は“今日起きれたのだから”と、彼女達ふたりと遅くまでメールを楽しんでいた駿介。もちろん、間違って学校へ行ってしまった事は隠し、さつきと遊んだ事は素直に話している。

 

「この時間だとーー入学式も終わる頃かな」

 

 時計と日程表を見比べ、途中で入っても目立つだけだと自己解決。自分のクラスである八組の教室へと向かう。数年前に建て替えられた校舎は、古くさい感じもなく新しい。幸いなことに八組の教室へは迷うことなく到着。実は入試の時に使った教室だったのだ。

 それもこれも、駿介のことを心配してメールをくれた西野と東城がクラスを教えてくれたおかげである。

 

「……仲間駿介か」

 

 ピンヒールが床を叩く音が聞こえ、駿介が顔をあげると教室に女が入ってきて、一瞬だけ驚き、近付いて来る。

 白いシャツ隠れたはち切れんばかりに大きな胸を揺らし、黒いミニスカートの大きく男を誘うような尻を揺らしながら。

 長い茶色の髪を後ろでひとめとめにしているが、額にかかった前髪とその眼光は駿介を貫く程に鋭い。

 

「えーーっと、はい。あの、遅刻しちゃって。先生ですよね? 」

 

 黒川は駿介の問いに答えることなく、駿介の前の席へとどかっと座り込む。駿介は思わずぶるんっと揺れた胸を見てしまうが、彼女の小さな咳払いによりはっと顔をあげた。

 

「なっーー」

 

「よく似ている。本当に。だが、少しばかりお前の方が可愛らしい感じがする」

 

 彼女は駿介の顎をそっと掴み、互いの息が顔に当たる距離でまじまじと彼を見つめた。駿介が驚き、慌てて椅子を引き離れる数十秒間。

 

「黒川だ。このクラスの担任でもある」

 

「はあ、よろしくお願いします」

 

 こんな時でも律儀に頭を下げる駿介。しかし驚きは未だ消えていないらしく、続けざまに「もしかして父の知り合いですか」と弱々しく聞いた。

 

「……ああ。まだウチに中等部があった頃の、先輩だよ。五歳も歳上のな」

 

 一瞬だけ見せた懐かしさと悲しみに濡れた様な表情に、駿介は思わず息を飲む。しかし次の瞬間にはそれがまるで渋柿を食べたような、苦々しい顔へとなっていた。

 

「おっと。思わず話してしまったが、この事は他言無用だ」

 

 組んでいた足を解き黒川は立ち上がる。と同時に教室が開き、見慣れた顔が入ってきた。西野と東城、それにさつきだ。しかし何故かさつきだけ表情が暗く、どこか覇気もない。昨日の天真爛漫な姿が幻だと思う程に。

 

「もーー駿介くん、入学式から遅刻するなんて、めっ! だよ、もう」

 

「つかさったらずっと何かあったんじゃないかなって心配してたんだよ。もちろん私だって心配だったけど、つかさの事も心配になるくらい 」

 

 黒川と入れ替わるように入ってきた二人は駿介の前と横に座り、そんなことを言う。ちなみに前が西野で、横が東城、更に隣がさつきである。

 

「……面目次第もごさいません」

 

「ーー分かってくれたならいいよ。でも、本当に無事で良かった

 」

 

 手を胸の前で組み、安堵の表情を浮かべる西野に駿介は「もう心配かけないようにするから」と立ち上がり、ぽんっと頭を撫でた。すると東城が消え入るような声で「私も撫でてほしいなあ」と言うので、同じように撫でる。

 その度に学校全体が揺れるのでは無いかというほどのざわめきが起こり、男子の大半が殺意の視線を駿介へと向けた。残りの少数は駿介達と同じ中学だったり、駿介の事をよく知る者だったりする。

 

「あの男子よく見れば格好いいけど、二人の女子といちゃついてる時点で無いわーーそう思うでしょ、さつきも 」

 

「ーーーーなかま」

 

「さつき? 」

 

「え!? あ、うん。そーーだね」

 

 心なしか落ち込む友人を心配そうに、さつきの友達は何かあったのかと聞こうとした。がしかし、教室の扉が開き、若く色気を撒き散らす教師ーー黒川が入ってきたことにより、出来なかった。

 

 駿介はそんな状態のさつきをぼんやりと心配そうに見つめる。

 隣の席であるために、東城は自分の右となりの元気の無い女子を駿介が見ていることに気付いた。

 実は先程、教室へ入る前におかしな事を聞いてきた女子生徒なのだ。

 駿介に話せば良かったかなあと少し後悔する東城。

 

 彼女は知らなかったのだ。その質問をしてきた少女が、昨夜メールで聞いた北大路さつきという人物だと。

数分後に自己紹介の順番が回ってきて知るまでは。

 

 




なかなか詰め込んだ感はありますよね、、
投稿予約していた部分に書き足してしまいました。
いつか書き直すかもしれませんが、ご容赦ください。

それと、黒川先生はやはり素敵ですよね。大好きです。普段は勝ち気なのに、二人になると甘えてくれる歳上の女性。大好物かもしれません。(気持ち悪いのは自覚してます笑)
ただハーレムに加えるとなるといかがでしょう。
ハーレムに入れたいという気持ちはあるのですが、悩みます、、、

一部矛盾点を修正しました。6/7。
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