「流石ですね兄貴。あんな可愛い子達と付き合うなんて、兄貴にしか出来ませんよ! 」
翌朝。寝坊することなく家を出た駿介を待ち構えていたのは長い前髪に目元を隠した、人畜無害な顔の少年ーー外村ヒロシだった。
「……俺の彼女をホームページに載せたいって事なら、断るからな」
呆れたような言い方に、外村は悔しげに膝をつきアスファルトを殴ったように見せて、すんどめ。そしてすがるように駿介を見上げた。
「ちなみに、どうして俺の頼みが分かったんだよーー仲間」
「お前が兄貴だーとか俺を呼ぶときはしょうもない願い事がある時だけだしーー昨日、ホームルームの時にずっとつかさと綾の事を見ていたし。美鈴が兄貴が変なホームページ作ってるって言ってたから、かな」
手を差し伸べ、外村を立たせて駿介は呆れたように小さく息を吐き、笑いながら歩き出した。彼に付いていくように外村もまた歩きはじめる。
「無駄に鋭いよな、やっぱりお前は。そんなんでよくハーレムの主人公みたいなことやってるよ。」
「別にそんなつもりはないし。そもそも、ハーレム主人公なんてやってないからな」
「いやいや! ずっとやってるだろ、本当に。昔から美少女ばかりが駿介の所に集まってるし」
そんな事は無いーーはずだろうと、駿介は自信無さげに言う。
外村はそんな彼を、昔から変わらないなあと思った。妹(美鈴)と共にずっと遊んでいた幼少の頃や小学生の頃を思いだして。
「この野郎! 」
「いっーーたくは無いけど、いきなりどうした馬鹿野郎!! 」
唐突に背中を殴られ、駿介は驚きをあらわに空を見上げる外村へと一歩歩み寄る。
駿介がよく見ると、外村は達成感を感じたらしく清々しい顔でいった。
「最近はまた美鈴が嬉しそうにしてるのを思い出したんだよ。妹のこと、泣かせたら許さないからな」
普段は見せない妹が好きなシスコンな一面を覗かせながら、外村はいった。駿介は「分かってるよ」と答え、彼の肩を軽く叩き、再び歩き始めるのだった。
「あはは、外村君って面白いんだね! 」
「本当にそうね。面白いわ」
寝坊しないように、と待ち合わせをしていた駿介である。
談笑しながら待っていた西野と東城と合流し、あっという間に外村は二人と気さくに話していた。二人が知らない駿介の昔の話を、だ。
「一応言っておくけど、俺が女装したのはその一回だけ。そんな趣味はないからな」
ご機嫌ナナメになってしまった駿介を見て、二人の美少女は顔を見合わせ楽しそうに笑う。
「そういえばその時の写真があるよ。俺のホームページにも載っけてるし」
「えっ! 見たい! 」
「そうね。是非見てみたいわ」
そんなつもりは無いとは分かりながらも、欲しいものをねだる二人に外村は思わず本性を現し、デレッと鼻の下を伸ばし絵にかいたような変態の姿になってしまう。
すると二人は波が引くようにさっと離れ、駿介の後ろに隠れた。
「ぐぐぐ……何故だーーっ! 」
「悪いやつでは無いんだけどな。本当に」
慣れた様子で西野と東城の二人の頭を撫でながら、駿介は困ったように唸り続ける外村を見るのだった。
どこか懐かしそうにしている駿介を見て、二人もまた嬉しそうに駿介の腕へと抱き付き、幸せそうに笑う。恥ずかしさや照れもあるが、そんな二人を見ていると離れさせる事など駿介には出来なかった。
「人の気持ちも知らないでーーっ。だけと、あたしは諦めないんだから!」
そんな彼等の後ろにはポニーテールを揺らす美少女(さつき)が、闘志に燃えている事を駿介はまだ知らない。
休み時間となるとどこから湧いて出てきたと言いたくなる程に、廊下に男子が押し寄せる。それは同学年の者だけに留まらず、上級生の姿も多い。教室への出入りはもちろん、廊下を通り抜ける事すら難しくなる程に。
「はぁ……どうしてこうなるかなあ。中学の時より、絶対に悪化してる気がするんだよね。綾の可愛いさを見てるって人も多いから、尚更」
「私のことなんて見てる人は少ないだろうけどーーつかさを見に来てる人は本当に多いと思うわ」
西野は駿介の席に座り、隣の席の東城と話していた。
ちなみに駿介は動けないでいる。膝の上に西野が座っているから。
「なぁつかさ、このラブラブアピール作戦が上手くいく気がしないんだが」
そう。実は一時限目が終わり、その人の多さにうんざりした西野がラブラブな所を見せつけて諦めさせようと提案したのが、駿介の上に西野が座るという作戦だった。最初は渋っていた駿介も、二人の可愛い彼女達に上目遣いで頼まれては断れなかった。どうやら事前におねだりの練習をしていたらしい二人なのだ。ちなみに東城は“流石に恥ずかし過ぎるから”と今回は断っている。
とはいえ、そんな事で諦めてくれるなら簡単な話だ。
実際は嫉妬に狂った男たちが、目を血走らせながらそんな駿介達を睨み付けていた。作戦は完全に裏目に出てしまっていたのだ。
「ぁっ……んっ、ちょっと動かないでよ駿介くんっ。もぞもぞ禁止! 」
「う、動いてないからな!! つかさこそあんまり動くとちょっと色々ヤバイから、マジで!! 」
「ちょっと二人とも、流石にダメよ!? 」
二人だけの世界に入り込み、いちゃつく二人の世界へと入り込むように東城が言って、椅子だけ動かし駿介の腕へとえいっと抱き付いた。
うおおおおっと、悲鳴なのか怒号なのか分からぬ叫びが教室へと木霊する。恥ずかしさや、羨ましさであえて目を背けていた駿介のクラスメイト達もよく見ればそんな三人の姿を伺うように見ていた。
「ち、ちょっとあんた達ねえ!! 」
しかし黙って見ているだけではダメだと長い栗色のポニーテールを揺らし、立ち上がった女子生徒がいた。大きな胸を張り、細い腰に両手を当てて紅潮した顔で仁王立ちする北大路さつきである。
「そんな人前で羨ましいーーじゃなくて、恥ずかしい事は止めなさいって言ってるの!! 」
ついつい本音を漏らしてしまうが、気付かれていないと思っているさつきは平静を装えているつもりで駿介を見つめた。
思わず見とれてしまうさつき。見つめあったまま、二人の間にゆっくりと時間が流れる。
「あたしやっぱり、仲間のことがーー」
「はいはい。その気持ちは尊重するけど、今は違うだろーー? 」
西野はせっかくの告白なのだから、と思い立ち上がってさつきの口を塞いだ。
もがもがと暴れそうになるさつきを、駿介が抱き締めて落ち着かせる。
「つかさのいう通り、ちゃんと聞くから。今はあれを何とかしないとだからーー待っててくれるか」
「う、うんーーありがとう、仲間っ」
抱き合ったままさつきは駿介の胸に一度顔を埋め、しばらくして軽やかに離れていき自分の席に戻りーーにやにやとその温もりを感じるように、自らの身体を抱き締めて楽しんでいる。
「勝手な事ばっかりでごめん。だけど、俺が二人のこと」
「分かってるわ。ちゃんと、ね。駿介君が私達の事を好きでいてくれているってことも、伝わってる」
「綾のいう通りだよ。駿介くんは、どれだけ彼女が増えてもその愛は変わらないって信じてるし」
頭を下げようとした駿介の手を取った二人が、真っ直ぐに彼を見つめる。その視線から逃げることなく受け止め、駿介は二人の頬に軽く口付けをした。自分を奮い立たせるために。
駿介は真っ赤な顔のまま石のように固まってしまった二人を背に、此方を睨み付ける男子たちの所へと歩み寄る。
「さっきも言ったとおもうんですけど、そんな所にいられると迷惑なんですよ。お願いしますから、他の人の邪魔にならないようにしてもらえませんか」
駿介は廊下に出ると、最前列で何もしゃべることなく西野や東城、さつきの姿をじっと見ていた岩から切り出したような見た目の大きな男に頭を下げた。集まる男子たちの多くが、彼に付き従っている事が明らかだったからだ。
「…………お前を、彼氏とは認めない。ただの浮気野郎じゃないか。お前のような軟弱な男を、俺は認めない」
ぶっきらぼうな言葉だったが、その声と同じで深く重いその言葉はぐっと駿介へとのし掛かる。しかし駿介とて二人の彼氏として
は引き下がる事は出来ない。もう逃げないと、決めたから。
「本来なら、あんたに認められる必要なんてないーーだけど、あんた達を認めさせられるくらいにならないと、彼女達を幸せにするなんて夢のまた夢かもしれないな」
「ふん。軟弱者のくせに、よくいった。俺は前田進、ボクシング部の三年だ。放課後、うちの部に来な」
男は言うと、駿介の返事を聞くことなく男達を引き連れて去っていく。タイミングよく、その時に次の授業が始まるチャイムが鳴り響いた。
「ーーふん。少しはやるじゃないか、仲間ジュニアも」
こっそりと廊下の曲がり角に隠れて盗み聞きをしていた黒川は口許に浮かんだ笑みを隠し、教室へと入っていくのだった。
西野がこんなことするかなあと結構悩みました。
まあこれはこれで可愛いからいいかなと思います笑。
何となく想像がついちゃう展開は何とかしないと、とも思いますが。
あと、更新が遅くなっていることに関しては申し訳なく思います。