いちごの輝き   作:むらさきみどり

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第3話

 壁にかけられた学生服と、部屋の隅にたてかけられたベースの入ったケース。それだけが、この一室の家主である彼のアイデンティティだった。

 テレビや娯楽の類いは無い。今どき珍しい木造築50年を超える1kの部屋が中学生である駿介の、一人で暮らす家だとは誰も思わないだろう。

 その家主である駿介はというと、未だ睡眠中であった。

 先程から何度も携帯電話の着信音が鳴り響いている。何の設定もされていない、ベルのような音だ。

 ハッと彼が目を覚ました。最悪だ、と額に滲む汗を拭いながら。

 時刻は9時20分。ようやく自分が遅刻の真っ最中である事に気付いたのは、それから直ぐの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

「放課後グラウンド100周て、俺はサッカー部かってーの」

 

 

 昼休み。たっぷりと教師達からお叱りを受けたあと、ふて腐れたよう机に突っ伏す駿介と「折角だし入るか、今更だけど」と既に最後の大会を終えて引退している大草が冗談混じりにサッカー部へと勧誘して笑う。

 少し離れた席では綾がちらちらと心配するように視線を寄越している。気付かないふりをする駿介は、興奮を押さえきれないといった様子の真中に言う。

 

「……それで、本当に告白するのかよ」

 

「ふふ。深夜3時に思い付いたんだよ、俺は!最高の告白をな!仲間は走りながら俺の告白を見ていてくれ!」

 

 席を立った真中はクマの出来た目元を擦りながら教室を出ていった。「小宮山と打ち合わせしてくる」と謎の言葉を置き残して。

 

「やっぱりダメだ。真中に恋愛は10年早いかも」

 

「かもな」

 

「……なぁ、今凄い不満そうな顔してるぜお前。もしかして西野のこと」

 

「可愛いとは思うよ、うん。可愛い可愛い。俺なんかとは釣り合わないくらいな」

 

 自分に言い聞かせるように言った。大草もまた、友人が時折見せる他者を寄せ付けない部分に気付きながらも、どうすることも出来ないと嘆息。

 

「だったら東城は? 学校で話してる所なんて見たこと無かったけど、昨日はノート届けたんだろ」

 

「あー、うん。“親”同士が知り合いで、ガキの頃から知ってんの」

 

「へぇ」

 

「それに、俺男が好きらしいぞ。最近知ったんだけど、そんな噂があるらしい」

 

 今まで知らなかったのかよ!と今度は大草が珍しく手を叩きながら大きく笑う。どうやら彼はすでにその噂も知っていたらしい。

 

「俺並みの顔してて、浮いた話の一つもなけりゃそういう噂も流れるんだよ」

 

 あー腹が痛いと言いつつ彼が言った言葉に、駿介は少し不満げに立ち上がる。

 

「うるせーー。トイレ行ってくる」

 

「じゃあ俺も」

 

 いわゆるツレションである。

 二人が出ていった後で、一部の女子たちがきゃーきゃーと騒いでいた。

 東城もそんな女子たちの妄想話に顔を真っ赤にしながら、意識を反らすためにと必要の無い参考書を開くのだった。

 

 

 

 

 

 西野つかさもまた、東城綾に勝るとも劣らぬ美少女である。

 東城と比べると腰や胸は控えめではあるが、すらりと伸びた脚は健康的だし、小さな顔に配置された目や鼻はバランスがとれている。百人に聞いて百人が美少女だというだろう。

 

 しかしそんな彼女は今、不満です!と言わんばかりに頬をむくれさせ、小さく砂を蹴りあげた。

 彼女の視線の先にいるのは幼馴染みであり、“恋人”の仲間駿。その人である。

 

「どうして自分の彼女が告白されようとしてるのに、グラウンドを走ってるんだよっ。もう」

 

 今までも沢山告白をされてきたが、今回は彼と“いつも一緒にいる”友人が告白しようとしているというのに。

 

「駿介くんのばーか」

 

 

 

 

 

 真中は友人であり、今回のパートナーである小宮山と深呼吸を二回、三回と行った。

 彼等の視線の先にいるのは校庭の隅にある高鉄棒の下である。制服の上にショート丈のダッフルコート。くるりと巻き付けたマフラーと吐き出された白い息。

 愛らしい彼女のそんな姿を二人はすぐ近くにあるツツジの木の間に隠れるように紛れていた。

 

「ふふふへへへ……いいか小宮山、いくぞ」

 

「お、おおう」

 

 実は真中が降られる姿をカメラにおさえたかった小宮山だが、真中の明らかに常軌を逸した様子に思わず今回の計画に乗ることになったのだ。ちなみにではあるが、貯めていたお年玉を使って昨晩購入した一眼レフカメラである。

 

 

 

「小宮山、お前性格悪すぎ!!!」

 

 

 ようやくというか、早くもというか、既に80周目。駿介は叫んだ。

 そんな彼を東城は少し離れたけやきの陰に隠れて、心配そうに頑張って!と応援するのだった。

 

 

 

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