「どうも~~真中です」
「小宮山でし」
「「真中淳平です!!!」」
それは唐突に始まった。
西野はずっと走る駿介を見ていたせいで、後ろから現れた彼等に思わず「キャッ」と叫んだ声を留めるように口元を押さえた。
しかしそんな様子にも真中達は気付かない。一人は寝不足と初の告白という事で高ぶっていたせいで。一人は降られたとは言え、未だに想いは変わらぬ恋心ゆえ。
「何でコンビ名に君のフルネームなんだい!」
「それはー……俺が今から告白するからさ!」
「何々真中、告白するの、どうやって」
「西野つかさちゃあああああああん!!!俺と付き合ってくださあああああい!!!」
え?え、え、と困惑を隠せない小宮山と、写真を撮ることすら忘れてダメだありゃ、と頭を抱える大草。突然絶叫するように、告白の言葉を口にした真中。
誰よりも驚いたのが西野である。小学生の時から告白され続けてきた彼女からしてみても、それは驚愕に値する告白だった。思わず吹き出して大笑いしてしまう程に。
「あーーはっはっはっはっはっはっは」
真中はしてやったりとガッツポーズ。受けたぞ受けたぞと小宮山の肩を叩いた。小宮山はそうだな、と休み時間の殆どを費やして覚えた段取りが全て無駄になったことをようやく気付いた。本来であれば漫才の中で、イチゴパンツを撮らせてほしいという願いを入れながら告白する流れがあったのだ。
「さあ西野、それだけ笑ってくれたということはOKってことでー」
「はぁっはぁ……ごめんなさい。私、付き合っている人がいるから、君とは付き合えません」
西野は言い終わり、やってしまった、と自らの失言に気付いた。笑いすぎていたせいで、今まで親友のトモコにさえ話していない事実をぽろっと口に出してしまったのだ。
「つ、つかさちゃんに恋人がーー……」
先に倒れたのは小宮山。既に一度振られているとはいえ、恋人がいるという話など聞いたことが無かった。まさにノックアウト。続けざまに真中が無言のまま後ろへと倒れ、そのままいびきをかきながら眠ってしまう。
立ちすくむ西野。思い出したと言わんばかりにシャッターを切る大草。
「何だこのカオス」
ようやく100周目を終えて、小走りでやって来た駿介はあきれ果てた様子で言った。こちら側に来た大草もまた、自らもそのカオスの中にいたので何も言葉を返せない。
ただ一人。西野は久しぶりに近くで駿介を見たことで、「もう無理っ!」と勢いよく彼に抱き付いた。いつの間に近くに来ていたのだろうか、東城もまた「だ、だったら私も…」と控えめな言葉とは裏腹に、彼の腕を取り抱き締める様に自分の胸に当てた。共通して言えるのは、二人の美少女が顔をイチゴの様に顔を真っ赤にさせていることだった。
部活中の生徒や下校しようとする生徒たちから注目を集めてしまっていた事もあり、駿介の提案により駅前のファミレスに来た六人。
校則では下校途中での寄り道は禁止であるので、彼等は一番奥の席に座ることにした。
「あたし駿介くんともう離れないから」
「わ、私だって離したくない、もん」
と、西野と東城の二人が言うので片方にはその三人が座り、対面に残りの三人が座ることにした。
幸いな事に彼等以外の客は殆どいなかった。店員たちは美少女二人に“拘束”された駿介という現実離れした姿に面食らっていたが、流石にプロである。何も見ていないですと言わんばかりに、メニューの注文も取り終えた。
「そもそもなんだけど、そちらの子はどちら様で? 」
ノックアウトしたままの二人はあてにならないと、大草が東城の方をチラリと見て、やはり知らない顔だと再認識した上で言った。
「そうだぞ駿介くん!あたしは駿介くんの作る後宮に入る準備だってしてるし、たぶん生半可な気持ちだと駿介くんを傷付けるだけだし」
「私だってもちろん分かって、ます。初めて逢って、初めて告白されてからずっと!」
互いに駿介の腕を抱いたまま、西野が先に口を開いた。
しかし東城も彼女の言葉の途中で遮るように自らの覚悟を口にした。
すると同じ男を愛する者同士、何かを感じ取ったようで少しだけ納得した表情になる。
その時、二人が注文したパフェとケーキが届いたからだろうか。
見計らった様に同じタイミングで、全く同じタイミングで彼の腕を離した。
「わっ、なにこれ、凄い美味しい! 駿介くんも食べて食べて」
「駿介君イチゴが好きだったわよね? はい、あーん」
西野はスプーンですくった生クリームが乗ったアイスクリームを。東城はケーキの上に乗ったイチゴを駿介の口元まで近付ける。
「ん……おおくさ、綾だよ綾。東城綾。クラスメイトの顔くらい覚えてろー…って、三つ編みも外れてるし、前髪も下ろしてるから分からなくてもしかたないけど」
もぐもぐとイチゴとアイスクリームを咀嚼する駿介に他の三人の男の視線は冷たい。氷点下だ。
しかし冷静な大草である。まさか東城綾だとは思いもしなかったが、先日の様子から知り合いであり、かつ仲が悪くは無いであろうことは察しがついていた。
まさかこれ程の美少女だとは思わなかったが。
「あとつかさ、綾。一応確認だけどな、俺が告白して馬鹿みたいにハーレムに入れって言ったのは小学生になる前だった気がするんだが」
「あたしは小学一年生の、夏休み最後の日だよ。夏休み初日に出会ったんだもん」
「私は幼稚園の時、ウチに来てた駿介君に言ってもらえたわ」
互いが今度は、“手強い相手”だと認識したらしい。再び駿介にあーんとスプーンを向けた。
その頃には全員に注文したメニューが届いていた。
真中と小宮山はカツサンドと炭酸飲料。大草はサンドイッチとコーヒー。駿介はコーンスープである。
「えーっと、二人は駿介の彼女って事かな?」
大草の爽やかスマイル。落ち着くために一口、コーヒーを飲んで言った。
自分の最大限、見せることが出来る大半の女子が恋に落ちるスマイルで。
「うん。そうだよ」
「はい。そうです」
「は、はははは。そうなんだ、凄いな駿介。まさにハーレムだ」
誰にも話してはいないが、密かに西野の事が気になっていた大草である。歯牙にもかけない彼女達の様子に少なからず衝撃を受けているようだ。
「げ、すげー冷めてる」
駿介の言葉に笑ったのは彼女を称する二人だけだった。