時間も時間だからと解散した三人は公園にいた。
一応、二人は少しだけ遅くなると家に連絡をして駿介の両隣に腰かける。入り口付近の、全体が見渡せるベンチだ。
「俺が言うのもなんどけどさ、やっぱりおかしいじゃん。ハーレムとか後宮って。これが普通だって思ってた昔とはやっぱり考え方だって違ってくるんだ」
心なしか小さくなる彼に、二人は一応の納得はしてみせる。
しかし、と切り返したのは西野だ。
「でも、あたしたちの気持ちは変わらない。変えられない。だってずっとずっとずっと、君だけが好きで、大好きで、やっと同じ中学校に入れたって思ったんだよ? 」
「それでも私は駿介君が、学校では極力話さないで欲しいってお願いもきいてあげることにした。私も西野さんに負けないくらい、駿介君が大好きだから」
「それはー…うん。本当に情けないし、申し訳無いと思ってる。だから、俺なんかはやめてーー」
ぱあんと渇いた音が、静かな夜の闇の中に消えて行く。
外灯の真下。立ち上がった西野の目尻には溢れんばかりの涙が溜まり、次の言葉と共にこぼれ落ちる。
「そんなこと言うなよ!あたしは、あたしたちは分かっているよ、駿介くんの気持ちも。でも、でも、今駿介くんが言おうとした言葉は優しさがつまってるかもしれないけど、だけどーーあたしたちの気持ちまで否定しないでよ」
「西野さん……。駿介君。私も西野さんと同じ気持ちよ? きっと周りからは色物扱いされるし、笑われるかもしれない。それでも、一緒にいたいの。駿介君と一緒に」
逃げて逃げて逃げて、結局はまたこうして彼女たちを傷付け泣かせている。
親父はーー父さんは、女には嬉し涙以外は流させるなと言っていた。何人もの女性を愛し、共に幸せになっている男の言葉だ。
それを人とは違う、普通じゃない。なんて、世界を知った気で切り捨てて、最低な事をしているのは俺の方じゃないか。
駿介は立ち上がり、東城の手をひき立たせると、西野の手も取り走り出した。
彼の琥珀色の瞳が、学校の方を向いている。戦う男の目だと、二人は胸が高鳴るのを感じた。
走っているから?
違う。愛する男の決意を感じ、心と身体が共鳴しているのだ。
普段ドジで、運動神経もあまりよくない綾も、この時ばかりは身体が勝手に動いていた。
これが恋なんだと、信じて。
夜とはいえまだ八時少し過ぎ。校舎の殆どの電気は消えているし、部活動の活動時間も過ぎているので生徒の姿は見えない。ただ職員室だけは、まだ教師たちが残っているらしく、灯りが灯っている。
駿介は持ち前の身体能力を生かし、先に閉ざされた正門を乗り越え学校の敷地内に入った。次に西野、東城の順で彼に支えられながら入った。
どこに向かっているのか。少しも疑問になど思わなかった。
繋がれた手の温もりがいっそう冷えてきた気温をも吹き飛ばし、逆に暑いくらいである。もちろん、ここまで走ってきたせいでもあるだろうが。
「俺変わるよ。変わらなきゃいけない、そう思ったんだ。きっと直ぐには強くなれないかもしれない。それでも、二人には一番近くで見ていて欲しい。自分勝手だってことは分かってるけど、今からこの決意を示して見せるから」
ゆっくりと語りかけるように言った彼に、二人は思わず感極まり泣きそうになってしまった。
しかし、しかしまだ泣いてはいけない。今から彼が、これまでの自分と決別するその瞬間を見逃してはいけないのだ。
「東城さん、きっと他にも増える、はずだよね」
「ええ、でも駿介くんならきっと、ううん。絶対、一緒に幸せになれるわ」
二人は背を向けて離れて行く彼の大きな背中を見つめながら、彼女達もまた、改めて彼の恋人となる事を決意した。
振り向くと、駿介は走り出した。
つい数時間前にグラウンドを100周したとは思えない、疲れを一切感じさせ無い全力疾走。
普段の冷静な彼をよく知る二人は驚いた。
「つかさああああ!!! 綾ああああ!!! 」
駿介にのに足が力強く大地を蹴った。
そして、二人の上にある鉄棒に自身が持てる力の全てを奮い飛び付いた。
目の前にぶらさかった彼に、二人は驚きながらも瞬きひとつしないで、その姿を脳裏に焼き付けようとしていた。
「ずっと、ずっとずっと一緒にいてくれえええ!!!」
駿介の頭が鉄棒の上にきた。
筋力が少し足りないせいか、言い終えるとしばらくして砂の上に落ちてしまう。
「くー…失敗した」
「ずっと一緒だよお」
二人の声が見事にシンクロした瞬間だった。
駿介が彼女たちを抱き寄せ、キスをしようとするとーー
「誰かいるのか!!」
と、冬のこの寒い時期にもタンクトップの体育教師、白鳥がやって来ているらしい。幸いなことに、まだかなりの距離があった。
駿介は二人の手をひき、再び走り出した。
逃げるためではなく、彼女たちとのこれからの事に決意して。