校内ではあの西野つかさに男が出来たという話で持ちきりだった。他にも東城綾は実は美少女であり、彼女もまた駿介と付き合っているという話も同じくらいに多くの人から語られていた。
今も東城は友人たちはもちろん、今まで話したことも無かったクラスの女子たちから質問攻めにあっている。困惑した様子ではあるが、嫌そうな感じでは無いので駿介は静観する事にした。
「それにしても、まさか二人と同時に付き合うとはな。流石の俺でもバレないようにするぜ」
駿介の机に座る大草の言葉に頷く真中と小宮山。
「真剣に向き合う事にしたんだ。迷惑かけることもあるかもだけど、ごめんな」
「そんな事は気にするなよ馬鹿。友達だろ。なあ大草、小宮山」
睡眠をしっかり取って、体調も全快の真中が晴れやかな笑顔で言った。手には泉坂高校の受験対策本。昔からの夢である映画監督になるために、近場で唯一映画研究部があるその学校に行くために勉強しているのだろう。
「そろそろ本気で受験だしなあ。俺は推薦で泉坂決まってるけど。二人はどうするんだ? 」
「し、駿介はどこに行くんだよ。俺は駿介と同じところにするつもりだ」
部活で推薦入学が決まっているのが大草だ。
小宮山は鼻息を荒くしながら駿介の肩を掴む。
「近い近い。そうだな、俺も一応泉坂かな。正直受かるかギリギリのラインだけど」
「そうなのか!? よし駿介、一緒に勉強しよう。に、西野も一緒に」
一度は離れた小宮山だが、再び駿介に詰め寄り言った。
呆れるのは大草と真中である。
未だ想いを捨てきれぬ彼が、一緒の時間を過ごしたいことがバレバレだったからだ。
「あ、まだ二人とどこの学校に行くか話してないな」
二人とも既に志望校があってもおかしくはない。
むしろまだ決めていない小宮山のような人間が少数派なのだ。
「俺も勉強はしたいし、もし東城が一緒に勉強出来るなら分からないところとか教えてもらえるよな? よし仲間、何とか皆で勉強出来ないか聞いておいてくれ」
「期待しないで待っててくれ」
駿介は友人達の変わらない姿が嬉しかった。
これから色々と変わっていく事もあるだろうが、恋人達はもちろんのこと、友人達の事も大切にしなきゃいけないなと思う駿介だった。
昼休みの図書室は以上ともいえるほど静まり返っていた。
理由は明白である。
彼等の話を聞こうと本を読むのも止めて、息まで止めようとしているのだ。
「えー、泉坂高校! 」
「こ、声が大きいわ西野さん、」
たしなめる東城に素直に謝る西野だが、驚きは隠せないし抑えられない。
「ど、どうしてそんなレベルが高いところ? 駿介くんの成績だとギリギリだし、あたしはまだ数学さえ何とかなればいけるかもしれないけどーー」
と言った所で西野は気付く。
「東城さんはもっとレベルが高いところ狙ってたりするのかな?例えば、桜海学園とか」
駿介も遅れて気付いた。この中で一番成績がいいどころか、学年でもトップの彼女の志望校がどこなのか。そして、もし自分達にあわせるとしたらレベルがかなり低くなってしまう事に。
ちなみに桜海学園は由緒正しい名門女子高である。仮に駿介が女の子だとしても、成績の面で入学は出来ないだろう。
「私はずっと、駿介君と同じ学校に行きたいなって思ってたから、実はまだ決めてなかったの。先生たちは桜海学園に行くって思ってるかもしれないけど」
イタズラを企む幼子のような可愛いらしく笑う東城に、一瞬惚けてしまう駿介と西野。
先に我へと帰った西野が言った。
「可愛い過ぎない? 東城さん」
「めちゃめちゃ可愛い。でも同じくらいつかさも可愛いからな。逆に、俺幸せ過ぎない? 」
図書室にいた全員が喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「幸せ過ぎるんだよ」という言葉を。