最近“バイト”に行っていない事をバイト先の上司から来た久しぶりに来ないかというメールを見て思い出した。
「最近色々あったからなあ」
最近というより昨日今日。主に恋愛面。
だからバイトに行っていないのは、やはりただ逃げていただけなのだろう。
いい加減向き合わなければいけない。
「それで、今からバイトなのか。バイトしてることも、一人暮ししてることも初耳だけど」
放課後。一緒に帰ろうと教室にやって来た西野と東城に謝り、二人で帰ってもらうことにした駿介と街の方にある書店に用事があるという真中が駅前の繁華街を歩いていた。
「まぁな。言ってなかったのは、何か恥ずかしくてな」
「ラノベの主人公っぽいし? 」
「違うから! 」
からからと笑う真中に「あれ、思ったより違わないのか」と一瞬頭を過るが受け流す。
「でもあんまり驚いてなかったよな真中は。小宮山は凄く驚いてたし、あの大草もあんなに驚いてたのに」
実は先程、四人で帰る途中で打ち明けたのだ。小宮山はまさしく飛び上がるように驚き、大草はポカーンと固まり、「もう一度言ってくれないか」と言うほどに。
そんな中でもこの真中淳平だけが、そうなのかとすんなり受け入れたのだ。
「一応、ガキの頃からの付き合いじゃん俺たち。よく思えば、昔からモテてたし、人とは何か違うなって感じだったからさ」
「……意外と優しいっていうか、何か人間的にいいやつというか、真中が友達でよかったよ」
「何だよそれ」
と、笑いあったのが約三時間ほど前の事だ。
駿介は自分の為に作られた部屋で、音楽を作っていた。
「違う違う。こうじゃないんだけど、しっくりこないなあ」
一人でギターやベース等を使い頭に浮かんだメロディーと詩を形にしていく。
そんな彼の姿を見るのが整えられた長い髭が特徴の、サングラスをかけた中年の男、外村康正である。
彼は駿介の父親である仲間徹の友人でもあった。故に駿介のことも彼が幼い頃から知っているし、彼の性格なども熟知していた。だからこそ、今は止める事にする。
「よーし、今日はここまでにしておこうぜ。……おーい、聞こえているかー」
無心で鍵盤を叩く駿介に、「遅かったか」と外村康正がぼやいた。こうなってしまうと、完成するまで止まることはない。
案の定駿介が納得のいく曲が完成し、オフィスを出たのは深夜零時を過ぎていた。
「天才だな、本当に」
「天才の血を引いてるだけですけどね」
助手席で鼻唄を歌う駿介に、まだもう少しかかるかと苦笑の外村。彼は僅か数時間で完成したとは思えない、駿介が自ら演奏するデモテープの音色を聴きながらにやけてしまう。これは売れるなと。
「そうだ駿介、娘が最近特に生意気でな。会ってやってくれないか、お前ら昔は仲良かっただろ」
返事が返ってこない。ちらりと駿介の方を見ると、彼はうとうとと眠り始めていた
まだまだ子供だなあと思う外村であった。