お話がどんどんまとまっているので更新ペースが一段と早くなれますねぇ…
——————————夕焼け前の人里、鈴奈庵隣の蕎麦屋
—————————————立川 ハル
「……それで、これからどうするんだ。」
俺は頼んだかけ蕎麦を食いながら聞いた。
「これからって……人里の案内に決まってるだろ?」
「その『案内』が嫌な予感にしかならないから俺は聞いてるんだよ…」
「私の案内が悪いはずがないんだがなぁ…」
「人を吹っ飛ばした奴が何を言うか……」
そう言うと、魔理沙は身を乗り出して
「おぉ!?ハル、そこまで言うとはなかなか度胸があるなぁ…!!」
「あーほら、まぁた二人で言い合いになってますよ?」
……さっきからこんなことの繰り返しだ。
昼過ぎのドタバタ劇から1時間と少し、偶然出会ったこの子「心花 祢々(このか ねね)」に宥めてもらいながらこの蕎麦屋に辿り着いて別世界?で初めての食事にありつけた。
この幻想郷に着いてから散々なことの連続からやっとひと段落したと思うと腰が落ち着く。例の幻影やら、魔理沙のゴタゴタやらで疲弊した俺にとっては有り難い。霊夢の話にしたって、五体満足で帰れないとなれば易々と「帰りたい」とは言えない。そう思うと今後に対する不安でいっぱいだ。それも込みで、今ここで食べれる蕎麦が「蜘蛛の糸」のように思える。
とはいえ、嘆いていてもどうにもならない。暫くこの世界で暮らすことが決まった以上前向きにこれからのことを考えるべきだろう。
「これからと言えば……」
「どうしたんだぜ?」
「いや、霖之助さんの家に暫くお世話になる予定だったが…あの人俺と魔理沙たちが騒いでる間に急用で居なくなったんだよな。」
「そういやそうだったな。でも泊まるって約束はしてるんだし気にしなくても良いんじゃないか?私が後でアイツの店に送れば良いだけだし。」
「と言ってもなぁ……忙しそうな人だったし、そんな迷惑かけてもなぁ…」
「霖之助が忙しそうな人ねぇ……絶対そんなことないと思うぜ?気にせず押しかけちまって良いだろ。」
「君みたいな横暴なことするわけにはいかないだろう…」
「むむぅ……!!」
まいったな……霖之助さんのことだし、しっかり泊まる用意が出来ているだろうけど今後のこともあるし、どうしたもんか……
そうして俺と魔理沙が悩んでいると、
「……それなら、」
「「?」」
「それなら、私が慧音先生に掛け合ってお部屋を貸しましょうか…?」
祢々が控えめに声をかけてきた。
「部屋を……」
「貸す……?」
俺も魔理沙も、鳩が豆鉄砲を食ったような面持ちで祢々を見る。
「はい。私の家に空いてる一室があるので、そこをハルさんのお部屋として使えばこれからの生活も安定するのではないでしょうか。」
「な、なるほど…」
魔理沙は首をかしげる。
「うーん……祢々が良しとするなら私は構わんと思うが、慧音がおいそれと許可するのか?」
「慧音先生のことですし、ちゃんと話をすれば分かってくれると思いますよ…?」
「どうだろう…アイツのことだから頑固に断ってきそうだし、ハルみたいなケダモノを祢々の隣に置くってのはなんだかなぁ…」
「話が見えてこないんだが……いや待て魔理沙今なんて言った。」
「じゃあ、これから私が霖之助に教えてくれば良いのか?」
「ああ、悪いけど頼む。」
そんなこんなで夕暮れ近くなった人里で俺は魔理沙にお使いを頼んでいた。
流れとしては、俺と祢々が『慧音先生』という人に家を住まわしてもらえるようにお願いをして、魔理沙はその間に霖之助さんにその旨を伝えるという形になった。
とはいえ、運が悪いとその場暮らしをする羽目にもなる。ぶっちゃけ提案に乗っかったのは良いが、イチかバチかの賭けみたいな雰囲気を醸し出している。確かに成功すれば居を構えたい身としては願ってもない幸運が降ってきたともいえる。しかし、その慧音先生が許可してくれるかどうかに委ねられている以上、俺にとっては不安しかない。
苦虫を噛むような微妙な顔持ちでいると、祢々は優しくフォローしてくれた。
「大丈夫ですよ。先生なら快く許可してもらえますよ。」
「本当かなぁ…」
「まぁ頑張るんだぜ、失敗したらしたで何とかなるはずだろ。」
「他人事だからって……」
一抹の不安を抱えながら、魔理沙を見送る。
「さて、私達も慧音先生の所に行きましょう。」
「そうだな…えーっと。」
「祢々で良いですよ、ハルさん。」
「わかった。よろしくな、祢々。」
二人で、人里の水路沿いを歩いて慧音先生の居る『学び舎』に行く。
人里。イメージは、『江戸時代にタイムスリップした現代人。』という感覚に陥る。街並みも、人の姿やその生活も現代社会とは似つかない様相だ。
もし帰って、友達に会えたら話題のタネに数日は使えるだろう。異世界と呼べる場所に来ることが出来たんだ。今はその手のお話が流行りだった気がするし、何人かの関心は買えるだろうな。
「……」
友達か……居たんだろうか、俺には。
来た時のことを今になって蒸し返す。自分の記憶を掘り起こそうにも、友達と呼べた奴の顔も、同級生の顔も思い出せない。
靄のような、見たくても見えない壁が俺を阻んでくるせいで浮かびようがない。
幻想郷に偶然『思い出せないように』なってしまったのか、それとも『本当に全て存在しない』のか。
『…成程。
俺の前に現れたよく分からない奴。言葉を借りれば『意志として体現した存在』。
有り得ないことの連続で、とりあえずは受け入れてきたが…それでも、アイツのことを無視できるわけがないし、信じたくもない。
もしあの話が本当なら、今の俺は本当の俺じゃないって可能性もある。記憶や情報が書き換えられた。それを紐解いていくと、今ここにいる俺そのものが『俺の真の姿』とは言い切れなくなってくる。
そんな不安を抱えながら俺は生きていくのは嫌だ。どうであろうと、本当の俺が何者なのかとか、どんな記憶があるのかぐらい知っておきたい。
……でも、それを知れば今日知り合った皆と同じ顔で過ごせるか分からない。
どうすればいいのか……
「……大丈夫ですか?」
「えっ?」
ふと、祢々が俺に声をかけて心配そうに顔をのぞかせた。
余程しおらしい顔をしてたんだろう。流石に気になったみたいだ。
「いや、ちょっとだけ考え事してただけだよ。」
「そうですか…やはり、慧音先生のことで?」
「えーと…まぁそんな感じ。」
「そんなに気にしなくても、慧音先生は人に優しい
「そうかなぁ……魔理沙の口ぶりはともかくとしても、祢々は慧音先生に対して少し買い被りすぎじゃないかな。」
「そうでしょうか…でも、私にとって慧音先生は恩人ですから買い被りしたくなります。」
「蕎麦屋に行く時もちょこっと言ってたっけ。先生が住む場所や生活の仕方も授けたとかなんとか…」
「はい。私が人里で暮らすことが出来るのも、生きる意味…は言いすぎですけどそれに近いようなものを貰いました。」
「先生からは色々教えてもらったんだな。」
「読み書きや計算も出来なかったので、その辺りも先生から直々に教えてもらったんです。」
「学び舎を営んでるだけに、流石は先生って感じがするよ。」
開けた街並みの中で、少し強めに吹く風が不思議と慧音先生という人の温情のようなものを感じさせてくれた。
「ともあれ、先生のおかげでこうして暮らせているんだな。」
「本当にそうだと思います。先生が居なかったら、きっと私は……」
「……?」
そこで、祢々は口を止めた。
「祢々…?」
俺がさっきと同じように声を掛けると、
「……それより、早く行きましょう!」
少し急かすようにして返してきた。
妙に焦げるような篤い夕焼けを左の頬に受けながら、俺は狐につままれた感触を覚えていた。
次回は慧音先生回!!
果たしてハルくん無事に寝れる場所が取れるのでしょうか…()
路頭に迷わせたい気持ちもあるけど、たぶん大丈夫でしょう!!()