二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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10!!

周りからは叫び声、もしくは悲鳴ともとれるような声がボス部屋を満たしていた。

 

レイドメンバーのほぼ全員が一時的なスタンになったように動くことができない。

 

 

とりあえずこの状況を何とかしないと勝てるものも勝てなくなってくる。

正直なところここで退くということは、恐らくこの先……このSAOというデスゲームのクリアそのものの失敗が濃厚となってくる。

 

 

だからというわけじゃあないが、俺には撤退するという選択肢はない。

 

さっきもキリトにたしなめられたしな。

 

 

「さてと……そんじゃまあ行きますかね」

 

 

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 

 

キリトは何故か待ったを掛けた。

前線はすでに崩壊に近く、未だに動けずにいるプレーヤーも何人かいたりする。

 

すると、キリトは近くで項垂れていたキバオウの肩を掴んで、無理矢理引っ張り上げた。

 

 

「へたってる場合か!」

 

 

キリトが叫ぶと、キバオウの目にはかすかな敵意が宿っていた。

 

 

「……な……なんやと?」

 

 

「E隊リーダーのあんたが府抜けてたら、仲間が死ぬぞ?いいか、センチネルはまだ追加で湧く。そいつらの処理はあんたがするんだ!」

 

 

「……なら、ジブンはどうすんねん。一人とっとと逃げようちゅうんか!?」

 

 

「そんな訳あるか。決まってるだろ?」

 

 

 

「――――ボスのLAを取りに行くんだよ」

 

 

 

あーあ、言っちゃった。

まあこういうやり方しかなかったのかもしれないけど、なんか進んで孤独の道を走りに行ってる気がするよ…

 

すると、キリトと目が合った。

そろそろ行くつもりらしい。

シリカとアスナは置いていくみたいなのでこれから説明に入る。

 

 

「二人は後方に留まり、前線が決壊したら即座に離脱してくれ」

 

 

「私も行く。パートナーだから」

 

 

キリトの言葉にアスナが一拍も置くことなく答える。

 

 

「それは大丈夫です。アスナさんの代わりに俺が行きますので」

 

 

「それでも行くわ、数は少ないより多い方が良いでしょう?」

 

 

「わかりました……じゃあ、シリカは……聞くまでもないみたいだな、という訳でおミソパーティー全員参加だとさ」

 

 

「……解った。行くぞ!!」

 

 

思い切り呆れたような溜め息が聞こえた気がしたが、そこは気にせずキリトの声で、四人で走り出す。

 

俺とキリトが前に出て、その後方からアスナとシリカが追いかけてくる形だ。

まだティアベルに続く死亡者は出ていないらしいが、それもすでに時間の問題となっているようだった。

 

前衛部隊の平均HPは全て半分を下回っていて、さらにリーダーを失ったC隊に至ってはすでに二割を切っていた。

完全に恐慌して逃げるだけのプレーヤーをいるので、このままでは一分にも満たないうちに隊列は崩壊するだろう。

 

それを阻むにはまず、皆のパニックを鎮めなくてはならない。

その手段はすでに考えてあり、そのサインを俺がアスナに出す。

 

すると周りに一瞬だけだが静寂が訪れる。

シリカもいたのでこの方法が成功するかは不安だったが、どうやら上手くいったみたいだ。

 

その方法とは、まあ、普通にフードを取って頂いただけです。俺がハンドサインでアスナに指示を出す。そこで上手くいけば、そのままキリトが

 

 

「全員、出口方面に十歩下がれ!!ボスを囲まなければ、範囲攻撃は来ない!!」

 

 

という感じで周りに指示を出す形にした。これが上手くいかなかった時のものも一応考えてはいたが、上手くいったのでそれは必要のないものとなった。

 

 

「みんな、手順はセンチネルと同じだ!!それを四人でやるだけだ。……行くぞ!!」

 

 

「「「了解!!」」」

 

 

前方で、コボルド王が野太刀を左の腰だめに構えようとしていた。

すると、キリトもそれに気づいたのかソードスキルを発動させ、一瞬でボスとの距離を縮めた。

キリトのレイジスパイクとボスの辻風の軌道が交差し、甲高い金属音と共に大量の火花が弾け、二人は互いの剣技を相殺させた。

 

そこで生まれた隙に俺、アスナ、シリカの三人で同時にソードスキルを発動させる。

俺たちの攻撃はボスの脇腹、両足のちょうど鎧が覆っていない箇所を正確に打ち抜く。

 

すると、確かに少量だがボスの四段目のゲージが減少するのを確認できた。

しかし、それでもボスのHPは膨大であり、なおかつ原作より、ベータテストよりパワーアップしている。

それでも四人でやれるところまでやるしかない。

 

 

「考えるのは後にしろ、次……来るぞ」

 

 

なーんでこうも考えてる事がわかるのかな。

やっぱり十年以上も一緒にいると大体わかってくるのかねー…

 

 

 

 

 

うん、そろそろかな……

 

 

「キリ!!」

 

 

キリトは俺が声をかけたと同時に一歩下がりアスナとシリカに並ぶ。

代わりに俺が今までキリトがやっていたボスの剣技の相殺を担当する。

 

しかし、これを何回か繰り返したところでキリトの集中力が途切れた。

 

 

「しまっ………ッ」

 

 

キリトの毒づいた声が聞こえた。

同じモーションから上下ランダムで発動する幻月。キリトは上からくると読んでいたのだろう、しかしそれはくるりと半円を描いて、真下に回った。

必死に武器を引き戻していたが、急にキリトの動きが止まった。

 

 

「キリ!!」

 

 

俺が叫んだ時には、キリトの正面を野太刀が捉えていた。

キリトのHPが一気に三割以上減っていた。

 

それを見ていたアスナとシリカは、そのまま今まで通りにコボルド王に突っ込んだ………ところで高く斬り上げられたままの刃が、ぎらりと血の色に光った。

 

 

「クゥ!!」

 

 

「わかってる!!」

 

 

キリトの言葉が発せられる前に俺はスタートを切っていた。

まずは軽くシリカに追い付き、襟元を掴んでキリトの方にぶん投げる。その時ちょっとした悲鳴が聞こえたが気にしない、死ぬよりかマシだろ。

 

ギリギリの間合いまで詰めていたアスナには、申し訳ないが技の範囲外まで軽く蹴り飛ばす。

そうなるとアスナのいた位置に俺がいるわけで、太刀が俺を襲うとき、先程アスナを蹴り飛ばした勢いでソードスキルを発動させようとしたが、

それは思わぬ形で阻止された。

 

 

「ぬ……おおおッ!!」

 

 

野太い雄叫びが轟いて、俺の頭上を掠めるようにして、巨大な武器が撃ち込まれる。

 

ボス部屋全体に震える程のインパクトが生まれ、ボスが大きく後方にノックバックした。

俺を助けてくれたのはエギルだった。

 

しかし、何やら二つの視線を感じる。振り返ってみるといかにも怒ってますと言わんばかりの表情をしたアスナとシリカがいた。

 

 

「ちょっとクゥドさん!!いきなり投げ飛ばすなんて酷いじゃないですか!!」

 

 

「シリカちゃんはまだマシだわ。私なんて蹴り飛ばされたのよ?」

 

 

「しょうがないじゃないですか……ボスの緋扇が発動寸前だったわけですし、二人は二人でなんかすぐに走って行っちゃうし……死ぬよりかマシじゃないですか」

 

 

「それにしても、もうちょっとやり方を考えてくれても……」

 

 

「考えてる時間がなかったのでああいう結果になったのです。悪いとは思ってますけどね」

 

 

どうやら前に出てきたのはエギルだけではないようだった。傷の浅かった者が回復を終えて戦線に復帰したようだった。

 

キリトに視線で問いかけると頷きが帰ってきたので、この場の指示はそのままキリトに任せるとする。

 

 

「ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃がくるぞ!!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!!無理にソードスキルで相殺しなくても、盾や武器できっちり守れば大ダメージは食わない!!」

 

 

「おう!!」

 

 

キリトの指示の声に野太い声が答える。

センチネルの湧出回数も増えているので早めにボスに止めをさしたい。

 

キリトが後ろからソードスキルを判別して逐一指示の声をこちらに飛ばしてくれている。

エギル達は一か八かの相殺には挑まず、盾や武器でガードに徹している。

俺、アスナ、シリカのメインアタッカー三人は、その間を縫うようにしてスキルによる攻撃を繰り返す。

 

ボスの憎悪値も三人で攻撃、なおかつ壁のプレーヤーもヘイトスキルを適宜使用してくれてタゲを取り続けてくれている。

 

しかし、それが五分近く、ボスのHPが赤く染まったところで壁役の一人が脚をもつれさせた。

 

その場所が運悪くボスの真後ろだった。

 

 

「そこはダメだ!!」

 

「早く動け!!」

 

 

俺とキリトの声が重なるように聞こえた。

だが、間に合わなかったのかボスが取り囲まれ状態を感知し、一際獰猛に吼えた。

ぐっ、と巨体が沈み全身のバネを使って大きく垂直にジャンプ。その時点で全方位攻撃、旋車をさせようとしているのがわかる。

 

 

「……っ…クゥ!!頼む!!」

 

 

「はいよ!!」

 

 

キリトは自分が出そうになったところを俺に任せるように言った。

俺は右肩に剣を担ぐように構え、左足で床を蹴りつける。

俺は体を上空へと向け、砲弾のように飛び出させる。

このスキル、ソニックリープは軌道を上空にも向けられる。

 

 

「よい……しょおおお!!」

 

 

気合いを入れて思い切り剣を振るった。

剣の切っ先が空中に長いアーチを描き、旋車が発動寸前のボスの左腰を捉えた。

 

すると鋭い斬撃の音とともに、クリティカルヒット特有の激しいライトエフェクトが俺の視界をふさぐ。

次の瞬間、ボスの体は空中で傾き、床へと叩きつけられた。

 

ボスのコボルド王は立ち上がろうと手足をばたつかせる。人形モンスター特有のバッドステータス、転倒の状態―――

 

 

それを見るやいなや、キリトが叫ぶ。

 

 

「全員、全力攻撃!!囲んでいい!!」

 

 

「お、おおおおおお!!」

 

 

今まで防御に専念してきた壁役のプレーヤー達が周りを囲み、一斉に攻撃を始める。

 

俺はようやく地上に脚をつけて、攻撃に参加する。

しばらくするとボスはもがくのをやめて立ち上がろうとしていた。

 

 

「くそっ……クゥ、アスナ、シリカ!!最後の攻撃、まとめて行くぞ!!」

 

 

「はいよ」

 

 

先に六人の武器が光り、ボスの体を包み込む。しかしその光が薄れるのを待たずにボスが雄叫びとともに立ち上がる。

 

ゲージの方は少ないながらも確実に残っているのがわかる。

エギル達はスキル発動後のディレイを課せられ、動けずにいる。

 

「「「「はああああああッ!!」」」」

 

 

四人の声が重なりボスにダメージを与える。

 

まずアスナのリニアーがボスの左の脇腹に撃ち込まれる。

すぐにシリカが間髪を入れず、短剣スキルのラピッド・バイトを同じところへ叩き込む。

二人がそれぞれ退いたところで俺もまたソードスキル、ホリゾンタルを喉元へ当てる。

 

俺が落下するタイミングでキリトが飛び上がり、キリトの剣がコボルド王の肩口から腹までを切り裂いた。

 

HPゲージは減り切らなかった。

ボスが笑った気がした。それに対してキリトも笑い返していた。

 

 

「おおおおおおっ!!」

 

雄叫びとともにキリトが剣を跳ね上げる。

前の斬撃と合わせてV字の軌道を描きボスの左肩から抜ける。

片手剣の二連撃スキル、バーチカル・アークが炸裂した。

 

不意にボスの巨体から力が抜け、両手が緩み、野太刀が地面に転がった。

 

直後にアインクラッド第一層フロアボス、イルファング・ザ・コボルドロードは、その姿を青い欠片へと代えて盛大に散った。


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