二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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だいたい、毎回3000~4000文字くらいにしようと思ってたんです。

他の方はどうかわかりませんが、俺はそれくらいが一番すらすら読めるので…


しかし、ここ最近は何故か一話の文字数が多くなってきています。
区切りが悪いところで終わらせるのもなんなので、まとめてしまってるのですが……もし読みにくかったりしたら教えてください。
以後、気をつけます。




11!!

辺りが静寂を包む。

まだ誰もボスを倒した実感が湧かないようだった。

するとボス部屋が不意に明るくなり、これまでの激闘を称えるかのようだった。

 

しかし、それでも誰も動こうとはしない。

キリトですら、剣を振り上げたままの体勢で辺りを伺っている。

 

その時、俺の目の前を栗色の長い髪が通にすぎた。

その髪の持ち主はキリトの剣をおろさせ、一言だけ声をかけた。

 

 

「お疲れ様」

 

 

すると、その声を待っていたかのように俺の視界に新たなメッセージが流れた。

そこでようやく安心感から言葉を発する事ができた。

 

 

「うっはー……疲れた…いや、マジで…」

 

 

「本当ですね……まさかボス攻略がここまでとは思ってなかったです…」

 

 

俺の言葉にシリカが返す。

それと同時に周りでも歓声が上がり始めた。

ここまできたら、あとはそのまま。無邪気に喜ぶ者、仲間と抱き合う者、中にはすでに次のボス戦を考えているように見える者もいた。

 

そして、その歓声の中、床から立ち上がりこちらに近づいてくる人影があった。

 

 

「あー、あの時はありがとうございます。助かりましたよ」

 

 

俺が声をかけると、気にするなというような笑みを浮かべる。近づいてきた人影は斧使いのエギルだった。

 

 

「……見事な指揮だった。そしてそれ以上に見事な剣技だったぞ。この勝利はあんたのもんだ」

 

 

そう言って右手を拳にしてキリトの方に突き出してきた。

キリトは照れたような表情を浮かべて、何を言おうか迷っているようだった。

 

 

「あっれー?キリってば柄にもなく照れちゃってますー?こんなストレートに褒められたことなんてないもんねー?」

 

 

横から肘でつんつんしながら話しかけると凄いジト目で見られてしまった。

とりあえずエギルにかける言葉が見当たらなかったようなので、無言で笑いかけながら拳を合わせようとした時だった。

 

 

「―――何でだよ!!」

 

 

突然そんな叫び声が聞こえた。

ほとんど泣いているかのようなその声に、広間の歓声が一気に静まりかえる。

 

声の主に注目していると、どうやらキリトに話しかけているようだった。

 

 

「―――なんで、ティアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

 

その言葉は俺ですら疑問を覚えるものだった。

しかし、ティアベルのC隊の仲間はそうではないらしい。

顔をくしゃくしゃにして立っていて、同じような表情でキリトを見ている。

 

 

「見殺し……?」

 

 

キリトは言葉の意味がわからないといった風だった。

 

 

「そうだろ!!だってアンタは、ボスの使う技を知っていたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えていれば、ティアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

 

そのような叫びに、他のレイドメンバーたちもざわつく。

 

なんで?やら、攻略本にも書いてなかったのにとか、そのような声が生まれ、徐々にそれが広がっていく。

 

その疑問に答えたのは、キバオウではなく、彼の指揮するE隊の一人であった。

 

 

「オレは知ってるぞ!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」

 

 

その言葉を聞いてもレイドメンバーの顔に変化はなかった。

誰もが初見のはずのボスの刀スキルを見切った時点で、うすうす全員が気づいていたのだろう。

 

 

「んー、でもさ、昨日配られた攻略本にも攻撃パターンはベータ時代のものだ、って書いてあったじゃん?もしアイツが本当に元テスターなら、知識は攻略本……もといここに参加したオレらと同じなんじゃない?」

 

 

そう言い放ったのは、最後まで壁役を務めたプレーヤーだった。

そう言われると、E隊のメンバーは何も言えなくなり、若干バツの悪そうな顔をした。

 

しかし、そうやって言われる事を考慮していたのか、C隊の一人が憎悪に満ちた表情で一言返した。

 

 

「あの攻略本が嘘だったんだ。アルゴって情報屋が嘘を売り付けたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ」

 

 

ここまで言われると、例えキリトがこれからどんな糾弾を受けるのかを知っていても、原作をブレイクする恐れがあるとしても黙っていられなくなる。

 

そこで、俺は流れを変えるべく言葉を発してみる。

 

 

「いや、あのさ……アルゴさんがもし偽の情報を売っていたとしてもですよ?感謝こそすれ憎む謂れはないと思うんですが…」

 

 

俺の言葉に周りが注目する。

何人かは何を言ってんだ、こいつは、という表情で俺を見ている。

特に元C隊のメンバーが分かりやすくターゲットをこちらに変えた。

 

 

「はあ!?何を言ってんだ!?情報がちゃんとしていればティアベルさんは死なずに済んだんだぞ!?それを憎むなだと!?ふざけるのも大概にしろよ!!」

 

 

「だったら最初からアルゴさんの情報なんて鵜呑みにしないで、自分たちで偵察戦を行えば良かったんじゃないですか?まあ、そうしたらティアベルさんだけじゃなくあなたたちもどうなってたかわかりませんけどね……そろそろ、元ベータテスターたちのせいにして、色々糾弾するのはやめませんか?」

 

 

「………アンタ、なんでそんなに元テスターを養護するんだ?もしかして、お前も元ベータテスターなんだな!?」

 

 

そこまで言ったところで、急にキリトの表情が変わり、こちらに近づいてくる。

 

 

ああ、結局は止められなかったみたいだ。

世界の帳尻合わせっていうのかな……どうしてもキリトはこうなるらしい。

 

 

「元ベータテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

 

俺と話していたせいで、いきなり出てきたキリトに誰も反応出来ないでいると、そのまま構わずキリトは次の台詞を言葉に乗せる。

 

 

「いいか?よく思い出せ、SAOのベータテストは有り得ない倍率での抽選だったんだ。受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーがどれだけいたと思う?五十人もいれば良い方だったよ。ほとんどはレベリングのやり方すら知らない初心者だった、今のあんたらの方が全然マシだ」

 

 

空気が一気に変わった気がした。

他のプレーヤーたちの冷たい視線がキリトに集まる。

 

 

「………だが、俺はあんな奴らとは違う」

 

 

キリトをよく知るこちらからしてみれば、あまりにも似合わなさすぎる笑いを浮かべ、その続きを口にする。

 

 

「俺はベータテスト中に、数少ない人数しか到達出来なかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのは、その層で刀を使うMobと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ?アルゴなんか目にならないくらいにはな」

 

 

すると、周囲からは、チートじゃないか、ベータのチートだろ、という声が生まれる。

それらは次第に混ざり合い、ビーターという単語となった。

 

 

「ビーター……か、いい呼び方だな、それ」

 

 

ボソッとキリトが呟き、この場にいる全員を見渡し今度ははっきりと、部屋全体に響くような声で告げた。

 

 

「そうだ、俺はビーターだ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」

 

 

するとキリトは先程のボスからドロップしたアイテム、コート・オブ・ミッドナイトを羽織り、そのままボス部屋奥の扉へと向かって行った。

 

 

「二層の転移門は、俺が有効化しといてやる。この上の出口から主街区までは少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMobに殺される覚悟をしとくんだな」

 

 

そう言って歩きだそうとするキリトに視線を投げかける。

そうしているのは俺だけではなく、エギル、アスナ、シリカも見つめていた。

 

キリトはその順に目で笑いかけると最後に俺を見る。

俺は皮肉の意味も込めて、バカ野郎と声には出さず視線を送る。

向こうも言いたい事がわかったのか、それはお互い様だろ?というような視線を送り返される。

 

どうやらこれからどう行動するかはバレているみたいだった。

 

そこまでしたところでキリトは第二層へ繋がる扉を押し開け、そのまま見えなくなった。

 

 

 

「はあああああ…、昔から甘いとは思っていたけどまさか見ず知らずのテスターたちまで庇うか……」

 

 

わかってはいたが、実際にキリトの幼馴染みとなってしまっている今は、なんだか複雑な感じがした。

一人言のように呟いたつもりだったが、それは聞こえていたらしい。

 

 

「やっぱりキリトさんはいい人ですね……多分ああいうのは誰でも出来ることじゃないですから……」

 

 

シリカの言葉に頷いておく。

 

 

「さて、シリカ……君はここからどうする?俺はさ、先に言っておくがキリトが言ってた数少ない人数のうちの一人だ。つまりビーターになるな」

 

 

そこまで言ったところで一息入れる。

ここからは、シリカのこれからにも関わるので真剣な表情で語りかける。

 

 

「俺はこれからキリトを追いかけて扉を抜ける。そして、そのまま二層の主街区まで走り抜けるつもりだ。これがどういう意味かわかるか?」

 

 

「ええっと……ちょっとよくわかりません……」

 

 

「詳しく言うと、ここでレイドメンバー全員で帰る事を選択するのではなく、二層へと行くということは本人にその気は無くとも、周りからしたらビーターについていく裏切り者とされてもおかしくはないってことだ。だから、シリカ……君はこのままここに残るか?それとも俺とキリトを追いかける?どちらを選んでも構わない。任せるよ」

 

 

本当に裏切り者扱いになるのかはわからないが、これくらい言っておけばついてくるにしろ、残るにしろそれなりの決断力が必要となる。

この先、何か大切な分岐点に差し掛かった時にこの経験も役に立つはずだ。

 

そして、シリカの迷いは一瞬だった。少し俯いたあと、ゆっくりと顔を上げ、俺の目を見て、こう言った

 

 

「私は最初……始まりの街でクゥドさんに助けてもらいました……それからこの第一層のボスを攻略するまでずっとです……」

 

 

そして、さらに目の力を強くさせ俺にしか聞こえない声で告げた。

 

 

「……私は始まりの街で助けてもらった時に決めたんです、何があってもこの人について行こうって……例え足手まといになるとわかっていても、貴方について行きたい、

そう思ったんです。そして、その思いは今も変わっていません。だから私は、ここには残りません。なので裏切り者扱いになっちゃったらそのあともよろしくお願いします」

 

 

「………了解、それじゃあさっさと追いかけよう。早く行かないと離されちまう」

 

 

二人で並んで歩きだす。

周りはこちらに聞こえない声で何かを言っている。

 

そこで、周りの空気が驚愕の物へと変わった気がした。

二層へと続く扉へ手をかけようとした時、一人の女性プレーヤーから声がかかった。

 

 

「私も行くわ」

 

 

そのプレーヤーは、綺麗な栗色の髪の持ち主のアスナであった。

シリカにああ言った手前、はい、そうですか。と簡単に一緒に連れていくわけにはいかないので、同じような言葉をかけておく。

 

 

「わかりました…ですが、リスクはわかってますか?」

 

 

「リスク?そんなのないわよ。だってすぐにここに戻ってくるつもりだしね」

 

 

俺の言葉にあっさりと返す。

そこまで話したところで扉を開け放った。

 

扉の向こうには螺旋階段が続いている。

階段を登りきる前に、扉が目に入った。

その扉を開けると、近くのテラスに座っているキリトを見つけた。

すると、向こうも気づいていたのだろう。やれやれといった表情でこちらを見て、次いで驚いた表情でシリカとアスナを見た。

そして、ため息をつきながら喋りだした。

 

 

「……来るなって言ったのに……クゥはわかってたが、二人もいるとはな」

 

 

「あら?そんなことは言ってなかったわよ?死ぬ覚悟があるなら来い、って言ってたわ。ねえ?」

 

 

最後のねえ?の部分だけはこちらに向けて発していた。

 

 

「そうですよ、それに私にはクゥドさんがいますし…死なないから大丈夫です!!危なくなったらきっと守ってくれますしね!!」

 

 

ちょっと色々言いたくなったが、ここは我慢をしておく。

 

 

「まあ、そういうことだ。それに俺だってお前と同じビーターだ。簡単に死ぬつもりはないしシリカを守りながら二層の主街区へ行くことくらい訳ないさ」

 

 

キリトの表情が度を越えてに呆れていた。

今にでも恨みがましい視線を送りながら、盛大な溜め息とともに叫びだしそうな顔をしていた。

 

 

「それじゃあ、俺とシリカは先に行ってるぞ。ぼやぼやしてたら有効化、俺らがしちまうかんな」

 

 

そう逃げるように言い残し、シリカを伴い歩きだす。

後ろでは多分アスナが何か、言伝てや感謝の言葉などを述べているだろう。

それをわざと聞かないように、少しペースを上げる。

 

誰だって聞かれたくない言葉の一つや二つはあるものだからな。すぐにキリも追い付いてくるだろう。

 

するとお話が終わったのか、キリトが一人で歩き出すのが遠目に見えたので声をかけてみる。

 

 

「おーい、せっかくだから一緒に行こうぜー。一人だと寂しいだろー?」

 

 

「うるさい!!余計なお世話だ、バカ野郎!!」

 

 

などと言いながらも、こちらに笑いながら近づいてきた。

 

俺とキリの間柄じゃあ、これくらいのからかいは普通だからな。慣れたものだ。

 

しばらく進んでいるとキリトが何かに気づいたように足を止めた。

 

 

「どうしたんですか?キリトさん」

 

 

俺はわかっているので、声をかけないでいると、疑問に思ったシリカが声をかけた。

 

 

「いや、アルゴからメッセージが届いただけだ。なんかさっきのお礼とかでなんでも情報をタダでくれるらしい」

 

 

「ほー、あのアルゴ姐さんがねー。そんで?何を売ってもらうか決めてんの?」

 

 

俺の問い掛けにキリトはニヤリと悪い笑顔を浮かべた。

 

 

「もちろんだ……さて、返信もしたしさっさとウルバスに向かおう」

 

 

「え!?待ってくださいよ、私たちには教えてくれないんですか!?凄く気になるんですけど……クゥドさんも気になりますよね!?」

 

 

どうやらシリカはその売ってもらう情報が気になるらしい。

キリトと仲の良い俺が自分に着けば教えてもらえると思っているようだ。

 

 

だが、甘い!!

なんせ俺はすでに知っているのでわざわざ聞く必要がない。

 

 

「シリカ、それはキリトだけが売ってもらえる情報なんだ。俺らにも売ってもらえる訳がないだろうよ」

 

 

えええ……そんなー…というシリカの残念そうな声が聞こえ、教えてあげたくなるが、ここも我慢をする。

 

 

「ほらほら、もう諦めてさっさと歩く!!」

 

 

「……はあい…」

 

 

とぼとぼと俺の横を歩くシリカを眺め、キリトと軽く苦笑する。

 

しばらく歩いていると、二層主街区、ウルバスが見えた。

 

一番乗りと有効化はキリトに譲り、シリカと二言三言話しているとすぐに始まりの街の門とウルバスの転移門は連結された。

 

 

 





やっとこさ第一層が終わりました。

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