二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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13!!

ここ第二層の東の岩山エリアは、片手剣用の素材を集めるのにはちょうどいい場所だ。

 

今日は朝一からシリカの短剣用の素材集めに時間を使い、だいたい強化分の素材が集まったところで俺の方も手伝ってもらっている。

 

シリカの方の目的のモンスターはPOPしやすく、今日の行動予定、12時間のうちの10時間足らずで集まった。

 

しかし、こちらの目的のモンスターがなかなか厳しく、二人で狩っても少なくとも明日一杯はかかりそうなくらいだった。

 

 

「はああああああ……全然モンスターがPOPせんのだけども」

 

 

「本当ですねー、目当てのより関係ないのばかり出てきますね」

 

 

辺りを見渡しても、お目当てのモンスターは見当たらない。

そんな状況が長らく続いているのか、周りのプレーヤー、俺と同じように片手剣の強化素材を集めようとしてたプレーヤー達が続々と村の方へ歩き出している。

時間的にもすでに日は落ちているし、もしかしたら狩られ過ぎてPOP率が変動したのかもしれない。

 

 

「しょうがねえかなー、俺らも今日はこの辺にして帰ろうか」

 

 

「……すみません、私に付き合ってもらっちゃったばっかりに、クゥドさんの素材集め全然できなくて」

 

 

「うんにゃあ、気にしない気にしない。コンビの強化も立派なお仕事さあ。これでシリカの武器の性能が上がるなら十分来た甲斐はあるよ」

 

 

「……!!ありがとうございます…!!」

 

 

「それじゃあ、帰るとしますか」

 

 

マロメの村まで帰るとそこにはひげの取れたキリトと、またもやフードを目深く被っているアスナを見かけたので軽く挨拶をかわす。

 

 

「こんばんはー、キリ、アスナさん。こんな時間にどうしたんですか?」

 

 

「こんばんは、キリトさん、お久し振りですアスナさん」

 

 

「こんばんは、クゥド君、シリカちゃん。私はやっとこの村に着いたから、これから宿探しよ」

 

 

「よう、クゥ、シリカ。俺もついさっき着いたばかりなんだよな…とりあえず宿は知ってるし困らないから、これから片手剣用の素材集めに行くところだ」

 

 

アスナとキリトはこの村に着いたばかりであるらしい。

さらにキリトはこれからあの全然POPしなくなったモンスターを狩りに行くようだった。

俺は先ほどその岩山から帰ってきたばかりなので、現状を教えて明日にした方が良いことを伝える。

 

 

「でもなー……それでも遅れを取り戻すためには、多少の無理は必要だし今日も一応出てみるよ」

 

 

「あーそうかい。それなら気を付けて行けよ。油断してると危険だからな」

 

 

俺がキリトにそう言うと、わかってるよ、と苦笑気味に走って東の岩山エリアに向かって行った。

 

俺はなぜ苦笑されているのかわからかったが、後ろの女性陣を見るとキリトと同じような表情をしていたため、少し気になったので視線で問いかけると二人はその表情のまま話してくれた。

 

 

「なんかクゥド君って本当にキリト君のこととなると、過保護に見えてくるのよね」

 

 

「そうですね、多分ですけど誰よりも大事にしてるというか……なんだか壊れ物を扱うような繊細な感じがします」

 

 

そうだろうか?

確かにキリトのことは大切に思っているし、十年来の付き合いにもなるのでそれなりに……って、ああ…そうか。

この二人は俺たちが幼馴染みで、リアルで長いこと一緒にいることを知らないからそういう風に見えるのだろう。

昔からあいつの精神を安定(?)させるのは俺の役目みたいなものだったからな。

 

誰にも心開かないし、俺もかなりの時間をかけた記憶がある。

 

 

「それでも過保護は言い過ぎじゃないですか?これくらいなら普通だと思うんですけど……」

 

 

「キリト君も私たちと同じように思ってるわよ、だって同じ表情してたんだから……でもキリト君もめずらしいわよ?普通男の子がそこまで過保護にされたら嫌がるものなのに、呆れはするものの全く嫌がる様子がなかったし……君たちこんな短い時間でどれだけ仲良くなったのよ」

 

 

確かにこのSAOという仮想世界に来てからは、キリトは俺よりアスナ、俺はキリトよりシリカとの方が長い時間一緒にいるであろう。

だからこそアスナもシリカも疑問に思っているらしい。

どうしてそこまで接点のない俺たちがこれほど心を許し合っているのか。

 

 

「そうですねー、これは俺たちの秘密ということで。いつかは話そうと思いますが、それは今じゃないので」

 

 

「えー、今教えてくれてもいいじゃないですかー」

 

 

シリカが頬に空気を入れて若干膨らませながら聞いてくるが、いずれ話すという形で納得してもらった。

そうしないといつまでもこの話が終わりそうになかったからである。

 

 

「それよりアスナさん、宿なんですけど良いところ知ってますが教えましょうか?」

 

 

「え!?本当に!?」

 

 

アスナは光を置いていくのじゃないかという速度で、この話に食いついた。

 

 

「確か俺が泊まってるところは俺だけの分で一杯だったけど、シリカのところなら大丈夫だったよな?」

 

 

「え?あ…はい。一応クゥドさんが予備で二部屋取ってくれたうちの一部屋が使ってない常態でありますけど」

 

 

「ちなみに金を出してるのは俺で、予備部屋は直接話したい時に使おうと思って取って置いたんです。さすがに仮想世界とはいえ、年頃の女の子の部屋に上がるのは無遠慮すぎろかと思ったので……シリカさえ良ければアスナさんに貸してあげようと思うんだけど、……どう?」

 

 

「はい、大丈夫ですよ。お金払ってるのはクゥドさんなのでお任せします」

 

 

「あ……ありがとう二人とも!!これで宿の方は全く心配がなくなったわ!!」

 

 

アスナは物凄く嬉しそうにしていた。

それほどあのキリトの泊まっていた部屋で入った風呂が良かったのだろうか。

 

同意も得られたところでシリカに道案内を任せる。

明日も朝一で、今度は岩山エリアで俺の素材集めに行く約束をして別れた。

 

 

 

 

この日、俺とシリカは主街区のウルバスまで来ていた。

目的は剣の強化ではない。

POTなどの補給物質を購入するためである。

マロメにも道具屋はあるのだが、品揃えがイマイチなのでここまで来たのだ。

 

アイテム欄に二人して思いっきり補給物質を詰め込み、さて帰ろうかというところで向こうの大通りでふざけんなよという大声が聞こえてきた。

シリカにどうする?と声をかけると、どうやら気になるらしい、一回だけ頷いて声の方向へ歩き出す。

 

俺もそれに着いていくと、何やら問題が起きていたらしい。

どうやらその問題というのがプレーヤー鍛冶屋がアニールブレード+4を+0、つまり四回連続で強化に失敗してそれに腹を立てて怒鳴っていたらしい。

 

しかし俺はそれよりも気になることがあった。

それは見覚えのある後ろ姿だったのだが、頭には変な縞模様のバンダナをつけていた。

あれが正直十年来の幼馴染みだとは考えたくない。

 

レザーアーマーにバンダナはアンバランスすぎる。変装するにしても、もっとマシなチョイスはできなかったのだろうか。

むしろあれで変装できてると思っているらしい、若干抜けている幼馴染みを生暖かい目で見ていると、すぐ脇をフードを被ったプレーヤーが通り過ぎた。

その際に軽く二人で挨拶をかわす。

通り過ぎたプレーヤーも手で挨拶を返してくれる。

 

それが終わるとプレーヤーは変なバンダナの幼馴染みの隣に立ち会話を始める。

そこに加わろうかとも思ったがここはシリカと二人でいることを優先する。

 

 

ぼやぼやしているうちに一連の騒動が終わり周りにはプレーヤーが殆どいなくなっていた。

 

今この広場にいるのは俺とシリカ、そして目の前の変なバンダナ野郎と怪しいフードだけである。

 

 

「ちょっとかわいそうでしたね……強化を頼んだ人もあの鍛冶屋の人も…」

 

 

「正直これは確率的には起こりうることだから、本当にどうしようもないんだよなー」

 

 

なので俺はここでは剣の強化を頼まないことにしていた。

強化詐欺の話を読んでいたので、なんとか気づけただけであるのだが。

すると前方の変な二人組も話が終わりそうなのかこちらに振り返った。

 

 

「そうと決まったら、さっさと狩場に行きましょう。二人なら、暗くなる前に百匹は狩れるわね」

 

 

「…………………え?」

 

 

すると、変な二人組……キリトとアスナはこちらに向かい歩き出してきた。

そして、キリトと目が合ってしまった。

その時のキリトの目は、俺らにも何かを協力させようとしている目であった。

なるべく目を合わせないようにシリカに話しかける。

 

 

「なあシリカ、お前ウインドワスプ狩りに行きたい?」

 

 

「いいえ、だってあれ飛んでるし、攻撃も当たりにくいのであまり必要じゃなければ行きたくないです」

 

 

「よし、じゃあ逃げるか!!」

 

 

シリカもキリトのなんとも言えない雰囲気に気づいていたのか、俺の言葉と同時に走り出す……がキリトの方が一歩早かったのかすぐに捕まってしまった。

 

 

「ふははは、二人ももちろん手伝ってくれるよな?」

 

 

「「……は……はい」」

 

 

あまりにもらしくない雰囲気に思わず二人して頷いてしまった。

 

 

「アスナー!!協力者をもう二人ゲットした!!これでさらに効率アップだな!!」

 

 

「あら、クゥド君とシリカちゃんも手伝ってくれるの?」

 

 

「ええ、まあ、そういうことになりました」

 

 

さすがにここまで来てしまうと逃げられないことは、シリカですらわかっているようだった。

なにせアスナの目の色でさえも嬉々としているのだから。

 

 

この四人でパーティーを組むのは第一層のボス攻略の時以来だ。

二層主街区ウルバスの西門を出て、しばらく歩くと天然の石橋があるのでそれを渡る。

そこで一旦足を休め、アスナが俺たちを順番に見渡しこう告げた。

 

 

「さあ、さっそく始めましょう。目標は……そうね、四人いるし二時間で三百にしましょう!!」

 

 

…………いや、無理でしょうよ……と思わずシリカと目を合わせてしまったのは仕方がない。

こうなってしまったのはすべてキリトのせいだと判断し、これが終わったら多少強引でも晩飯を奢ってもらうことにする。

 

 

 

 

「シリカ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

このウインドワスプ狩り、俺とシリカはいつも通りにお互いに連携を意識している。

 

そのおかげで一匹にかける時間は少なく、効率よく狩れている。

 

しかし、残りの怪しい装備(一人は過去形)組はどうだろうか、二人して競い会うようにして狩っていく。

連携も、効率もあったもんじゃなかった。

 

たまに「二十二!!」とか「二十四」とか声が聞こえてくるが、すでに俺とシリカは五十を余裕で越えている。

 

 

「………あの二人……俺らみたいに連携して狩った方が効率良いのわからないのかなっと!!」

 

 

話しかけている最中に、ウインドワスプの攻撃を受けそうになったのでギリギリでかわしてスキルを放つ。

 

そしてすぐにシリカにスイッチ、敵の攻撃前にシリカのスキルが当たり、ウインドワスプは青い欠片となって飛び散る。

 

 

「二人はああして、競争してる方がいいんじゃないですか?なにか賭けてるみたいでしたし……でも、私たちであの二人の合計より多く狩りたいですね」

 

 

確かにその通りだ。

少なくともあの二人の倍は狩りたい。

それをあの二人のどちらかに報告をして、晩飯を奢ってもらおう。

あ、あとシリカのためにデザートも頼んでおいてもらおうかな。

この中では断トツで最年少だし、軽く頼めば二人とも奢ってくれそうだ。

 

 

一時間後真っ白になったキリトに声をかけた。

 

 

「どんまい、七十五匹」

 

 

今回の二人の勝負内容は、一時間でどれだけ多くのウインドワスプを狩れるか、というものだったらしい。

ちなみにアスナは七十八匹。

俺たちは合わせて二百三匹だった。目標のアスナとキリトの合計数の二倍とはならなかったが、確実に連携の方が効率がいいことが確認できたのでよしとする。

 

 

「ところでキリトさんや、うちのシリカちゃんがな、あそこの店のケーキ食べたいって言ってるんだけど……奢ってくれない?」

 

 

「え!?ちょっ……ちょっと待ってくれ!!確かにアスナとは勝負してたけど二人とはなんの賭けもしてないじゃないか!!」

 

 

「でもさー、俺ら二人で二百オーバーよ?二人より圧倒的に倒したし、アスナさんにも貢献したと思うんだけどなー、誰かさんに無理矢理連れて来られたシリカには、ちょっとのお礼くらいあってもいいんじゃない?」

 

 

ぐぬぬ、と唸るとやがて諦めたようにわかったよ、と呟いた。

 

 

「クゥド君もシリカちゃんもありがとうね。凄く助かっちゃった。二人にも晩御飯奢るから好きなもの食べてね」

 

 

俺も奢ってもらえるとは思ってなかったので、素直にお言葉に甘えさせて頂くことにした。

 

東西のメインストリートからあっちゃこっちゃ行ったところにお目当てのレストランはある。

ちなみにこの店のケーキはお高いながらも絶品なのは、ベータ時代に確認済みで今回でベータ時代含め二度目の来店となる。

 

奥のテーブル席に四人で座り注文を済ませる。

 

 

「……で、なんでアスナはこの店を知ってるんだ?もしかして、クリームの匂いで嗅ぎ当てて……あだっ!!」

 

 

思いきり頭に拳骨を落とす。

正面の二人が半眼で睨んだような表情から、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔に変わった。

 

 

「キリ……家族じゃないんだからな?失礼な発言はほどほどにしなさいな。そんなんだからデリカシーに欠けるとか言われたりするんだよ」

 

 

正面の二人からお母さん?という呟いた声が聞こえたが、そんなことはないのでスルーする。

 

アスナはアルゴから情報を買ってこの店を知ったようだった。

その際、キリトが思い出してはいけないことを、思い出しそうになっていたのでそれをアスナが諫める。

 

キリトがやぶ蛇な質問をしたので、またもやピンチに陥っていた。

 

 

「キリの全情報ねえ……三千コルとか…まあそんなもんか?」

 

 

「……なんだか、中途半端な値段ね。それくらいなら試しに……」

 

 

「の、ノォ!!そ、そんなら俺もアスナの全情報買うぞ!!」

 

 

「いや、よしとけよキリ。多分アスナさんの情報とシリカの情報は高いぞ?攻略組と言われるプレーヤーで女性はこの二人しかいないから、必然とそうなりそうだ」

 

 

「え?私の情報も高いんですか?」

 

 

「だろうなー、なんせSAOプレーヤーの中でも相当低い年令だし、それで最前線にいるんだ。高くもなるだろうよ」

 

 

シリカがほえーと呆けたような声を出し、またもやキリトが地雷を踏みそうになったところで、ウェイターが料理を運んできた。

 

サラダ、シチュー、パンという普通のメニューを平らげる間もアスナのキリトを見る視線は、大変危険なものだった。

しかしそれも、デザートのケーキが運ばれてくるまでだった。

ウェイターが二つのケーキを運んできた途端女性陣の目が輝きだす。

 

キリトが馬鹿なことを言って場を白けさせ、アスナがショートケーキのうんちくを話す。

 

 

「クゥドさん、良かった食べませんか?ちょっとこの量……私一人じゃ食べられませんし、残すのも勿体無いので…どうですか?」

 

 

「そう?じゃあ遠慮なく貰うね……おお…!!なかなかいけるね、これ」

 

 

予想以上の美味しさに若干感動を覚えていると、隣から羨ましそうな視線が飛んできた。

それを見てアスナは苦笑しながらキリトにフォークを渡し、一言付け加えた。

 

 

「もう、そんなに二人を見なくてもちゃんと分けてあげるわよ」

 

 

「本当か!?ありがとう」

 

 

アスナがフォークを渡してたのを見て思ったが、そう言えば俺はシリカの使ってたものを使ってしまったようだ。

シリカから何も言われたりはしなかったが、今度からは気を付けることにする。

 

 

店を出るとすでに夜も遅くなり、シリカは若干眠そうにしていた。

それでもあのケーキの余韻が忘れらないのか、幸せそうな表情をしていた。

 

 

「クゥ……あのケーキ…なんか、ベータ時代より更に美味くなってた気がするな」

 

 

「全面的に同意。味覚エンジンのデータ更新はされてるな、確実に」

 

 

「そうなの?ベータテスト正式サービスでそこまで変わるとは思わないけど」

 

 

アスナの言葉にキリトが真面目に返す。

 

 

「ベータの時にはこのケーキで支援効果なんてなかったから」

 

 

二人が支援効果を有効に利用する方法を考えていた。

するとキリトが何かを思いついたように指を鳴らした。

俺は正直あまり興味がなかったし、シリカもけっこう疲れが出ているようなので二人とはここで別れる。

 

挨拶もそこそこに済ませて、シリカを送った。

 

しばらくしてキリトに一通だけ

 

 

「お前…またデリカシーのないことをやったな?」

 

 

と送ったらすぐに

 

 

「………してない」

 

 

とだけ返信があった。

この返信だけを見ても、どんなことがあったのか想像するのは難しくなかった。

 

 

 

 


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