二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
更新速度がバラバラで本当にごめんなさい。
アインクラッド各層にはフィールドボスと呼ばれる、いわゆる名前付きMobが存在する。
それらは要所に配置されており、だいたいが迷宮区へ至るための関門的な役割を担っている。
この二層のフィールドボスは一体のみで、巨大な牛の姿をしている。
今フィールドボスと対峙しているのは、十五人のプレーヤーではあるのだがどうやら一筋縄ではいかないようだった。
パーティー間の連携は全くなく、それぞれがタゲを取り別々で行動をしている。
これでは実質一パーティーで戦っているのとかわらない。
シリカもそう思ったらしく微妙な表情で語りかけてくる。
「これじゃレイド組んでる意味がありませんね。ただのMobの取り合いじゃないですか」
「まあ、いい。それよりちゃんと見極めておけよ。あそこのフィールドボスを倒せば迷宮区近くの村まで一直線で行けるからな。目指せ一番乗りだ」
俺らがフィールドボスとの戦闘を見ているだけなのは、あのパーティーが倒してマロメに戻る時を狙い、迷宮区攻略時の拠点となる村、タランに行くのが目的だからだ。
眼下ではフィールドボスのHPゲージがレッドゾーンに入っており、そろそろ頃合いかと思考する。
ボスの姿が青い欠片に変わり、対応していた十五人のプレーヤーが村へ引き返し、姿が確認できなくなったところで姿勢を低くしながら一気に駆け抜ける。
すると正面に見覚えのある背中が二つほどあった。
どうやらあの二人も俺と同じように考えていたらしく、タランに向かうようで追い抜くタイミングで声をかける。
「こんにちは、二人とも。俺らは少し急いでるから先に行くね?じゃ!!」
「あっ!!私挨拶してないのに!!すみませんアスナさん、キリトさん、お先に失礼します!!もー!!待ってくださいよー!!」
後ろを振り返る余裕はないが二人はポカンとした表情を浮かべているだろう。
このスタート付近で二泊三日の差は大きい。
事実俺はその分Mobと戦ってたりしたので、今のキリトよりはレベルが高い。
二人を差し置いてタランの村に一番乗りをした俺らは、早速村のクエストを一通り受けてから迷宮区に足を運ぶ。
まずは宝箱を物色し、必要そうなものだけストレージに入れ、必要のないものは丁寧に宝箱に戻す。
二階でも同じことをして、マップを埋めていく。
ここのMobは時間POPなので乱狩りは出来ないが、ボスの使うスキルを使うのでタイミングの取り方をシリカに教える。
「………これ絶対牛じゃないですよ……首から上だけの牛は牛とは言いません!!」
「それでもシステム的には牛扱いだしな、諦めろ」
確かに首から上だけの牛は牛じゃないよな、と思いながらも続々とレッサートーラスという名前のMobを青い欠片へと変えていく。
二階のマップもほとんど埋まったところで三階へと足を運ぶ。
そこでも牛頭のモンスターが闊歩しており、宝箱を物色する傍ら戦闘をこなしていく。
とりあえずストレージがいっぱいになるまでは、迷宮区から出るつもりはない。
モンスターが落としたアイテムも、いらない物といる物で分けて、なるべく効率が良くなるように立ち回る。
最初から飛ばしすぎではないかと思わなくもないが、これもRPG系ゲームの醍醐味ということで気にしないことにする。
さらに俺らは一つ階を上がった四階で、ストレージがいっぱいになり、引き返すことにした。
帰り道、なるべく他のプレーヤーたちに遭遇しないように気を付けながら迷宮区を抜け出す。
タランの圏内に入ったところで一息つき、周りを見渡すとすでにメインの通りは人で溢れかえっていた。
恐らくマロメの村を拠点にしていたプレーヤーたちが、一気になだれ込んできたのだろう。
このあとすぐにアルゴへ迷宮区四階途中までマッピングした物を渡すために、これから会合する予定があるのでシリカと二人で待ち合わせ場所まで向かう。
村の外れにある酒場まで足を運ぶと、そこにはすでにアルゴの姿があった。
「お待たせしました、アルゴ姐さん」
「こんばんは、アルゴさん」
「おー、クゥ坊にシーちゃん、そんなに待ってないから大丈夫ヨ」
軽い挨拶を済ませそれぞれ注文をしてから本題へと入る。
「はい、四階の途中までですが一応マッピングした物です」
「すまないネ、いつも助かル。でも今回はもしかしたらキー坊より進んでるんじゃないカ?」
「まあ、多分そうだと思いますよ?この層は出だしであいつ躓いてましたしね」
アルゴとシリカが揃って吹き出すような動作をする。
恐らくあのキリえもんを思い出したのだろう。
「ところで報酬はどうするんダ?規定の情報代ならいつでも……」
「それについてはもう十分すぎるほど貰ってるから大丈夫です。なにせあの情報屋のアルゴがギルドに入ってくれるんだ。これ以上は望めないですよ」
「はァー、これまた随分と高評価を貰ってるみたいだナ」
ニャハハという独特な笑い方で苦笑をするとその話は一端打ち止めとなり、他愛もない話に花を咲かせる。
そうなると必然的に女性二人の会話になり俺は蚊帳の外になる。
先程ウェイターが持ってきた飲み物で時間を潰しながら、二人の会話を右から左へ素通りさせていると、急にこちらに話が振られた。
「え、ごめん、全く聞いてなかった。何の話?」
「クゥドさん……はあ、もういいです」
シリカの言葉を聞いて、少し申し訳なかったかな、と思う。
そこで会話に一区切りついたところで、アルゴが別の話を切り出す。
「ところで二人とも、この後は暇カ?これからキー坊と会うんだがどうダ?」
このどうダ?は恐らく一緒に来るか?という意味なんだと思う。
すぐに続けてこう言った。
「二人ならキー坊と仲が良さそうだからナ。着いてきても問題ないゾ?」
そう言われどうするかシリカと相談をする。
「んー、別に俺は構わないですけど……シリカー、どうする?」
「この後予定があるわけじゃないし、いいんじゃないですか?」
ということで、アルゴに着いていくことを決めたので行動しようとするが、待ち合わせの場所はここらしいので上げかけた腰を下ろす。
すると、キリトから今から来るという事とアスナもいるというメッセがアルゴに届いたらしい。
今いる席は四人掛けの席でアスナも来るとなると、座れなくなってしまうのでウェイターに声をかけ、六人掛けの席に移動させてもらう。
席を移動して数分もしないうちに件の二人が店内に姿を表した。
こちらに気づいたようで、アルゴ以外に人がいることを驚き、開口一番にそれを言った。
「驚いたな……まさかアルゴが情報提供の場にクゥとシリカとは言え人を連れて来るとはな…」
「ニャハハ、それは済まないナ。だがこの二人とはいずれギルメンになる仲だからナ、それまでにある程度の信頼を築こうと思っただけダ」
「はあ、なるほどなー……って、はあ!?お前がクゥの立ち上げるギルドに所属するって!?いや!!その前にクゥがギルドを立ち上げることすら初耳だぞ!?」
アルゴの言葉を聞いてキリトは先程以上の驚き様を見せた。
隣で、我関せず、と言った表情で、会話に入ってこなかったアスナのその目も、驚きを映していた。
「あれ?二人には言ってなかったっけか?三層に登った後、すぐにギルクエを受けて立ち上げようと思ってたんだ。ちなみに立ち上げ時のメンバーはここ三人だ」
そう言って、俺はアルゴとシリカの二人を指す。
まだキリトとアスナの表情からは驚きが取れない。
それを無視して
「ふぅーン」
とアルゴのなるほどという声。
そのあと我に帰ったキリトの
「違うぞ」
の一言。
さらに火に油を注ぐべく俺が
「照れ隠し」
と呟いた直後、キリトに軽く殴られる。
しかしそれでも俺は次の言葉を繋いだ。
「でもさ、別に二人はコンビでも良くないか?」
「私がイヤ」
とアスナのバッサリとキリトを抉る口撃(誤字ではない)にキリトは、そこまではっきり言わなくても……と若干落ち込む。
しかし落ち込んでいたのは少しの間だけで、すぐに復活してコンビとはなにかみたいなことを饒舌に話しているが、最初の、俺たちは二人パーティーでコンビというのはクゥとシリカみたいに……の辺りからシリカ以外は誰も聞いていなかった。
話をちゃんと聞いてくれるシリカで存分に癒されてくれ、と思いながら先程と同じようにキリトの話を右から左へ素通りさせる。
ようやく一段落ついたのか本題に入り、キリトからマップのデータを受け取ったアルゴがキリトに言った。
「今回は、クゥ坊の勝ちだナ」
言葉の意味がわからず頭上に?マークが出そうな顔でこちらを見てくるので、アルゴは苦笑しながら続ける。
「今回は先にクゥ坊から、マップのデータを貰ってたんダ。それでクゥ坊は四階途中まで、キー坊のは二階までだったから、クゥ坊の勝ちだナ、って言ったんダ」
「なるほどな……というよりやっぱりなって言う方が正しいのか。なにせ迷宮区の中身が入ってる宝箱には、ほとんど必要なさそうなものしかなかったからな。そんな事ができるのは、俺より先に行った二人以外には有り得ないからな」
それでもマップのデータを提供したことに代わりはないので、情報代の話になったところで今回は珍しくキリトが交換条件を出してきた。
その条件とはレジェンド・ブレイブスなるチームの情報であった。
どこかで聞いたことあるなと考えていたが、あまり気にしないことにした。
「でも、これは憶えといてくれよナ。オネーサンが、商売のルールよりキー坊への私情を優先させたってことをナ」
この言葉にアスナが反応を示した。
それを目敏く感じた俺は、隣のシリカにコソリと話しかける。
「なあなあ、アスナさんのあれって嫉妬かな?かな?それとも独占欲?禁断の三角関係になるかーも」
「んー、それとはちょっと違うと思いますが、似たようなものじゃないでしょうか」
「はああああ、マジキリトさん天然ジゴロ。こりゃ将来刺されんな」
実際三角どころか五角とか六角になるので、あながち間違ってはいないと思う。
二人がシステムとはいえ結婚したというのに、諦められない人が何人もいたしな。
「クゥドさんも人のこと言えないですからね……」
シリカが何か言っていたみたいだが、小声で聞き取れなかった。
すると、突然寒気がしたのでそちらを見てみると、アスナがこれでもかというくらいに冷ややかな視線でこちらを見ていた。
まさかとは思うが、あれが聞こえていたのかもしれない。
それを確かめるべく自殺行為ともとれる言葉をシリカに呟く。
「さっきの言葉……アスナさん聞こえてたみたい……なんたる地獄耳…」
寒気が一段上のものとなり、もはや殺気に近い視線が送られてきた。
間違いない、確実に聞こえていた、と思う半面、ああ俺やばいな、と考えていた。
この性格は良くないと自覚はあるが、変える気はさらさらない。
しばらくして話が終わったのか、キリトとアスナの二人は席を立った。
その際アスナに笑顔でこう言われた。
「クゥド君……次はないわよ?」
……正直般若より怖かったのは言うまでもない。
これからあの人は、なるべく怒らせないようにしようと誓った。
まあ、そこは俺なので……しかもなるべくなので同じようなことを言って、また怒らせるのだろうな、と思っていたのも言うまでもない。