二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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さっちゃん助けるお



18!!

ある日突然キリトからメッセが入り、ギルドを抜けたいという申し出があった。

 

一応理由は聞いたのだか教えてはくれなかった。

そして自分のウィンドウについている時計見て悟った。

本日は二〇二三年の四月八日…今は夜となっている。

 

 

ついにこの日がきた。

俺が救済する方法として、まずキリトを月夜の黒猫団と関わらせない、というのは失敗したらしい。

 

今、最前線は二十六層、迷宮区には到達したばかりであった。

アルゴからの情報でキリトが少し不安定と聞いていたし、時期もそろそろだとわかっていたので驚きはない。

 

キリトの脱退を認めるメッセを送る。

それには反対するものもいたが、なんとか納得させた。

 

この頃にはリズのレベルも俺たちと変わらぬ程になり、ちょくちょく攻略組にも参加するようになった。

 

本業にする予定の鍛冶屋は、まだスキルを上げてる最中ということで本格的にはスタートしていない。

 

それでもスキル上げに協力するため、俺とシリカの武器のメンテナンスなどは、リズに全て任せている。

 

本格的に鍛冶屋をスタートさせたら、攻略組からは外れると本人からも伝えられている。

 

リズが俺たちに追い付いたことにより、ギルドメンバーの全員が、最前線でしかもソロで戦えるほどの実力を持っているので、このゼロの騎士団の名前が有名になるのに、そう時間はかからなかった。

 

キリトが抜けても四人の平均レベルは40を超え、リズとシリカは敵のスキルを自身のスキルで相殺することもできるようになっている。

 

俺が教えたことを、スポンジのように吸収し、すぐに自分のものにしていった。

 

もちろん、うちのギルドはコンビネーション主体のチームなので、単独行動をしているのは情報屋のアルゴと、キリトだけであった。

 

そして、リズの直感はなぜかよく当たる。

例えば迷宮区に空けられていない宝箱があり、それを空けようとして止められたことがある。

直感、なんとなく止めた方がいいと思ったらしい。

イマイチ信じられなかったが言う通りにした。

するとその宝箱を他の攻略組のプレーヤーが開けたら、トラップが発動。

リズの直感に助けられたというわけである。

そんなようなことが多々あれば、さすがに信じざるを得ない。

そして今回もそのよくわからない直感が働いたらしい。

俺に一つの提案をしてきた。

 

 

「なーんかこれからキリトに良くないことが起こりそうな気がするのよねー。しばらく……というかキリトが前線に復帰するまで私たちも離れない?」

 

 

「さすがにそれは不味い。今すぐって訳じゃないならダメだな。攻略組に名を連ねているプレーヤーが、一度に四人も抜ける影響は計り知れない」

 

 

「でもでも、クゥさんはキリトさんが心配じゃないんですか?」

 

 

「リズの直感がそこだっていう時に、キリのところに行けばいいだろ?」

 

 

俺がそう言うと、リズはそれもそうね、と納得して引き下がった。

そのかわり、ここだという時には攻略から抜けてキリトの元へ駆けつけるということになった。

 

 

そんなやり取りから、すでに一ヶ月以上がたった。

 

まだキリトは攻略組には帰ってきていない。

すでに二十八層まで来たのだが、ボス戦にすら参加をしていないキリトを心配する声はかなりあった。

 

アスナやエギル、この世界でキリトの初めての友人であるクライン、そのギルドメンバーである風林火山のプレーヤーたち。

などなど挙げればキリがない。

 

中にはキリトの情報をアルゴから買おうとするプレーヤーもいたが、そちらの方は俺が言うまでもなく売らなかったらしい。

今回は、ギルド内での問題だからギルド内で解決する、の一点張りでかわし続けたようだった。

 

キリトが名前だけとは言え、ゼロの騎士団に名を連ねていることも攻略組からは知られているので、それを逆手に取ったかわし方だ。

 

 

「それで?姐さんなら知ってるんだろ?」

 

 

「当たり前ダロ?オネーサンに入手出来ない情報はないからナ。今、キー坊は何を思ってか二十三層付近をメインに活動している月夜の黒猫団というギルドに所属しているゾ」

 

 

「どうしてキリトさんは最前線のゼロの騎士団を抜けて、わざわざ下層のギルドに入ったんでしょうか」

 

 

こうしてアルゴから確実性のある情報を聞くと少し緊張が走る。

 

キリトが月夜の黒猫団に加入するのは、避けられないものだった。

アルゴが情報屋になったように、シリカがテイマーになったように、である。

 

これは元から変えられないシナリオであったようだった。

 

 

「リズ、直感の方は?」

 

 

まだ時期ではないことを知りながらもあえて聞く。

俺という原作にはない不確定要素があることで、ズレが発生するかもしれないので念には念を入れたい。

 

 

「うん、まだ大丈夫みたい。でも先月よりは近づいてきてるからそろそろかも」

 

 

こちらとしては、何がなんだかさっぱりだが、リズがこう言うのだからまだ大丈夫なのだろう。

 

その時がくるまでは、大人しく攻略を続ける。

 

 

そこからさらに一ヶ月近くが経過した。

キリトは約二ヶ月間、ついに一度も攻略組の方には顔を出さなかった。

 

少し前からキリトは死んだんじゃないか、何か問題を起こして地下牢送りにされたんじゃないか、などの噂が飛び交っている。

 

しかしそれはキリトをよく知らないプレーヤーたちが言っているだけ。

 

クラインなんかは、前にフィールドで会ったらしい。

それを聞いたアスナたちは夜にそこら辺のフィールドに出たりしてるらしいが、結局一度も会えていないという。

 

そしてついに六月もついに十日、ギルメンを集め交渉を始める。

内容はキリトのことなので、反対意見なんぞ出るわけがないのだが、形としてやっておく。

 

 

「さて、そろそろきたらしい……」

 

 

昨日リズからそういう話を聞かされた。

ギルメンの三人を見る。何が言いたいかはわかっているようだ。

 

 

「OK、何も言わないっつーことは反対はなしだな?よし、行くぞ」

 

 

そう言って、俺は軽く三人に視線で促し、ギルドホームから出る。

 

向かう先は二十七層。

トラップのレベルが一段上がり、各人ソロで攻略できる俺たちも、最初は警戒し、宝箱がある場所や他の怪しいところなどは、絶対に一人では行かないようにしていた。

 

そして、二十七層の主街区へと到着した俺たちは、とりあえず宿を確保し、キリトたちを探すが見つからない。

 

どこかの迷宮区にでもいるのだろうか。

と、そこで思い出す。

今はキリトはパーティーでもギルメンでもないので、居場所を確認できないのだった。

 

 

 

 

アルゴがいるにも関わらず、なぜかキリトたちを見つけられないまま二日がたった。

六月十二日になりいよいよ焦り始める。

しかし、ここでアルゴからメッセーが届いた。

 

 

「今からここの迷宮区に潜る。迷宮区を張っていた姐さんからの情報だと、黒猫団はここ、二十七層の迷宮区に入ったらしい」

 

 

「確か黒猫団ってずっとミドルゾーンにいたわけよね?どうして急に?」

 

 

「ここの迷宮区は知っての通り稼ぎがいい。しかもレベル的には安全圏らしい」

 

 

ちなみにアルゴの情報は、必ず俺を通してからシリカとリズに報告される。

今回もそれは守られ、俺が黒猫団のレベルを知っているのも、それが原因だと二人は思っている。

 

 

「だがここからトラップの難易度も上がるし、おかしい量のトラップが設置されている。しかも中にはえげつないものもある。それを引いた場合キリだけじゃカバーしきれない……最悪キリですら死ぬかもしれない」

 

 

「だったら早く追いかけましょう!!もしかしたら今にもそのトラップにかかりそうかもしれないんですから!!」

 

 

「だから、迷宮区に潜ると言ったんだ。リズはどうする?」

 

 

「行くに決まってんでしょ?」

 

 

「なら、決定だな。急ぐぞ」

 

 

こうして、俺たちは一番遅いリズに合わせ、迷宮区へと入る。

一階からくまなく探し回ると、黒猫団の四人とキリトを発見した。

 

今のところは問題がないようなので、後ろから気づかれないようにつける。

そのまま何も起こらず帰ってくれ、と願う。

 

しばらく様子を伺っていると、何階か降りたところで一番前を歩いていたシーフの男が、隠し扉を見つけそれを開ける。

ここだと思い二人にサインを出し、一人先に飛び出す。

 

するとシーフの男が宝箱を開ける直前だった。

俺はなるべく嫌味にならないように声をかける。

 

 

「すみません」

 

 

その場にいた黒猫団のメンバー全員がビクッと反応した。

キリトは表情を驚愕の色に染めて俺を、俺たちを見ていた。

なぜ、ここに?と聞きたいような顔をしていたが、目で黙らせる。

キリトが黙ったのを確認すると、呆然としているシーフに話かける。

 

 

「いきなりすみません、ビックリしましたよね…ただその宝箱…開けない方がいいですよ?多分トラップの可能性が高いです」

 

 

「なんでわかるんだ?」

 

 

シーフに聞かれたので、そのまま答える。

 

 

「それは俺たちがすでにここの迷宮区をクリアしている……だけじゃダメですかね?」

 

 

「へえ、ってことは攻略組か……もしかして自分たちが発見出来なかったから、横取りしようとしてんな?」

 

 

少し意地悪そうに、それでも嫌味には映らない、友達同士で見せるようなからかいが入ってる笑顔で言う。

それをシリカが否定する。

 

 

「違います!!確かにそれは私たちは見つけられなかった物ですけど、ここはトラップの多発エリアで無防備に宝箱を開けるのは危険なんですっ」

 

 

「この人たちの言う通りかもしれない……だから開けるのはやめないか?」

 

 

シリカの言葉にキリトが便乗し、キリトのそばにいる女の子、サチもしきりに頷いていた。

しかしシーフや他の二人は笑ってこう言う。

 

 

「大丈夫だって。キリトもサチもビビってんのか?」

 

 

「攻略組すら発見出来なかった宝箱だぞ!?きっとすげーアイテムが入ってんだって!!」

 

 

「よっし、んじゃ開けますか!!」

 

 

また、宝箱を開けようとしたシーフを、今度は本気で止めようと俺とリズが声を上げた。

 

 

「やめろおおおおお!!」

 

 

「開けちゃダメえええええ!!」

 

 

もう俺とリズの声には、振り返る事もせずに宝箱に手をかけ、それを開けた。

 

すると一面青かった部屋が、赤色へと変わり、防犯ブザーのような音が部屋中に鳴り響く。

 

 

ビ―――――――――――

 

 

音と同時に入り口が閉まり、別の扉が開く。

その扉は三つあり、そこからモンスターが雪崩れ込んできた。

一応転移クリスタルを試すが、やはり無効エリアであった。

しかもあり得ない……数が多すぎる。

どうやらこの部屋は原作と違い、トラップにかかった人数によって、最初に出てくるモンスターの数が変わるようであった。

最前線で幾度となく戦ってきたシリカやリズ、キリトでさえ軽度のパニックに陥る。

それは無理もないことであった。

こうなる事を予測していた俺でさえ、このモンスターの多さに冷静さを欠いていた。

それでも何とかするために、心を落ち着かせすぐに二人へと指示を飛ばす。

 

 

「くそっ……パニクるな!!リズは左!!シリカは右の扉だ!!そこから出るモンスターを中心に対処しろ!!俺は真ん中を抑える!!」

 

 

「「………っ、了解!!」」

 

 

俺たちはモンスターを切り捨てながら、少しずつ進む。

 

 

「前の三人!!しゃがめ!!」

 

 

俺の声に驚き、どうするか悩んでいたが、自分たちでは対処できないようで、俺の指示に従いそこで伏せた。

 

 

「いいか!!多少攻撃は喰らうが死にはしない!!そのまま伏せてろ!!シリカ!!ピナのブレスで三人の辺りを焼き尽くせ!!」

 

 

「はっ、はい!!ピナ、お願い!!」

 

 

すると、ピナの口からその姿からは想像できないような強力なブレスが炸裂する。

 

三人の周辺にいたモンスターは、倒せはしないもののほとんどが、HPゲージがレッドゾーンへと突入していた。

 

 

「よし!!三人とも立て!!HPは問題ないな!?」

 

 

三人が頷くのを見て、さらに指示を出す。

 

 

「今のMobのHPなら、スキルも使わず、ただ殴るだけでほとんどが倒せる!!そのままキリトというプレーヤーの周りに固まれ!!」

 

 

指示を出しながらも、俺たちは扉から、次から次へと出てくるモンスターの対応に追われている。

これの解決法はトラップそのもの、すなわち宝箱を破壊してしまえば、扉は閉まりモンスターは出てこなくなる。

そしてこの対応はキリトたちに投げる。

 

 

「よし!!五人固まったな!?そしたら五角形になれ!!頂点をキリト君として、宝箱へ向かって壊してくれ!!それさえ壊せば扉は閉まり、モンスターも出なくなる!!」

 

 

指示を出すと、それに従い五角形になって宝箱の方へ進んでいた。

Mobを相手にしながら横目でそれを確認する。

俺は二人に指示を出し、それぞれモンスターをスタンさせるスキルを発動させた。

 

モンスターの間を縫うように進み二人と合流、ここで個人の無双は終わり、本来のコンビネーション中心の戦い方に切り替える。

 

三人で背中合わせになり、死角が出来ないように構える。

Mobたちが多方向から攻撃を繰り出すが、それを上手くいなし懐が空いたところにスキルを叩き込む。

 

その同じような作業を五分ほど続けたところで、宝箱がある方向から何かが壊れるような音が響き、次いで耳障りなアラームが音を潜め、開いていた三つの扉が閉まる。

 

だが、扉が閉まっただけで開くことはなかった。

どうやら出てきたMobたちを全て倒すまでは、脱出は出来ないようだった。

 

しかしモンスターが出てこなくなってからは、黒猫団も冷静さを取り戻し、事に当たる。

 

そして、全てのモンスターを倒し終わった頃には、黒猫団はキリトを除く全員が疲弊しきった様子だった。

HPもイエローゾーンを下回っており、あと少しでレッドゾーンの危険域へ入るところで、ギリギリもいいところ。

 

これで最大の目標を達成した俺は安心して扉が開くのを待っていた。

 

 

 

 

 

 


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