二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
「終わった……のか…?」
さすがの俺たちも息を切らして、周りを警戒する。
すると部屋の一ヶ所が、ガガーという音をたて、扉が開く。
今度は先程の二の舞にならないよう、注意しながら外を見る。
外はただ迷宮区の通路が広がるだけで、今はモンスターの気配などもない。
そのことを確認し、伝えると全員がその場に腰を落とす。
誰もが満身創痍であった。
数えきれないMobとの戦いの後に隠しボスとの戦闘。
こうならない方が不思議であった。
しかし、助けられなかった人がいる。
犠牲者を無くす、という意味で作ったこのギルド。
早くも名前だけのものとなってしまい、どうしようもなく悔しい気持ちが込み上げてくる。
確かに今回だけじゃないかもしれない。
俺らがギルドを発足してから、今日までで何人もログアウトしているのは知っていた。
だが、自分らの前でこうなってしまったのは初めてだった。
その現実に少なからずダメージを受ける。
「……さあ、帰ろうか。いつまでもここにいたってしょうがない。まずは迷宮区を出よう」
それぞれが重い腰を上げ、歩き出す。
道中会話はなく、雰囲気も重苦しいなか迷宮区を出口に向かい歩みを進める。
「ああ、そうだ。これから二人……いや、三人は黒猫団のリーダーのところへ行くんですよね?俺もついていっていいですか?」
「……どうしてだ?」
多少落ち着いたところで、俺が年下だとわかったのだろう。
敬語ではなく、普段通りの言葉使いで聞いてきた。
「宝箱……開けるの止めきれなかったから……あのとき気絶させてでも止めれば良かったんです、だからと言ってそこを出られるかと言われればなんとも言えないですけど………謝って済む問題じゃないですけど…」
今更ながら気づく。
どうしても止めたければ、自分がオレンジになろうとも止めれば良かったのだ。
どちらにしろ自己満足にはかわりないし、後悔しても時間は戻らない。
どんな罵倒の言葉が聞こえようと、真摯に受け止めようと思いテツオの反応を待つ。
しかし聞こえた言葉は、俺には全く予期せぬものであった。
「……最初はそう思った。宝箱の時もそうだしフェイクの扉が開いた時も……。でも君らが来なければ間違いなく俺もサチも生き残れてない。あの二人が死んだのはすげー悲しいけどさ……それで君を責めるのはちょっと違うかなって思ったんだ」
そう言って少し俯く。
心の整理はついてないだろうに、冷静に場を思い出しながら出した答えであった。
客観的に見れば、どちらが悪いなどという話ではないのはわかる。
しかし、長い付き合いであろう友人を二人も失ってなおその判断ができるものなのか。
まだ年齢は高校生あたり、つまり一番上でも18となる。
その年齢でこういった答えが出せるのは素直に尊敬できる。
もしくは自分が年下だったから、というのもあり年長者の意地みたいなものだったのかもしれない。
仮に助けに入ったのが年上であったのならこうはなってないのでは、とも考える。
最終的には年上の意地もあるんだろうな…という形で納得をつけた。
「いや……俺がケイタに会うのは止めておく……」
キリトはそう言ったかと思うと、突然トップスピードで迷宮区を駆け出した。
それぞれのキリトを呼ぶ声が重なるが、振り向かずに駆け抜けていった。
最後に一言俺に、すまん、後は頼む。とだけ言い残して。
追いかけようと思ったのだが、いかんせんいきなり過ぎて誰も反応出来ず、二人を放置するわけにもいかない。
気づけばキリトの姿は見えなくなってしまい、追いかけることすら出来なくなっていた。
迷宮区を抜け、まずはウィンドウを操作し、アルゴにメッセを飛ばしキリトを追いかけさせる。
そして二十七層の主街区に到着する。
ちょうど転移門の辺りで、月夜の黒猫団のリーダー、ケイタが待っていた。
「おーい!!こっちだ、こっちー…………?」
ケイタの声が聞こえたが、だんだんと小さくなり、やがては疑問符になった。
さらに自分のギルドメンバーが三人おらず、かわりに見たこともない人物が三名いることに気づいて混乱している。
なぜこのようなことになっているかテツオが説明を始めた。
まず、ギルドの所持コルがほぼゼロになったので、自分の提案で迷宮区へ稼ぎに行ったこと。
その際隠し部屋で宝箱を見つけ、俺たちの制止も聞かず開けてしまったこと。
宝箱を開けた瞬間にトラップが発動し、一端はそれを凌いだが、後から出てきた隠しボスに二人がやられてしまったこと。
それを聞いてケイタの顔はどんどん青ざめていく。
何回も取り乱しながら、テツオに先を促し、なるべく詳しい情報を得ようとする。
隣ではサチが思い出したかのように泣いていた。
テツオの説明が終わったのは日も暮れた後で、その頃にはケイタもなんとか落ち着きを取り戻していた。
俺はタイミングを見計らい頭を下げる。
「本当にすみませんでした。俺がちゃんと止めていればこんなことにはならなかったはずです……」
「……二人のことは残念だよ…だけど君らはテツオとサチを守ってくれた。もし君らがいなければ間違いなく全滅だったと思う……だから謝らないでくれ、むしろお礼を言わせてほしい。二人を助けてけれて本当にありがとう」
その言葉を聞いた瞬間に涙が溢れそうになった。
後ろで同じく頭を下げていたリズとシリカは、堪えきれずに涙を流していた。
「………もう、夜も遅くなる。何もないけど、良かったら買ったばかりのギルドホームで休んでいってほしい」
「……何から何まですみません、お世話になります…」
断ろうかと思ったが、テツオもサチも同じ意見のようなので、三人揃って世話になることにした。
そこは主街区の中心部にあり、そこそこ値段の張りそうな物件であった。
その分作りは他と比べると豪勢であり、これから攻略組に名を連ねようとしていたギルドの門出を祝福しているようにも見えた。
ケイタが呟くように言う。
「やっと攻略組に参加できると思ってたんだけどな……メンバーが三人も欠けちゃどうしようもないな…」
自虐とも言える一人言を聞いてしまい、申し訳無い気持ちが込み上げてくる。
それからも聞こえないように気は使っているものの、耳に届いてしまう。
「……ねえ、クゥさん、私たち何の為に強くなろうとしてたんでしょう……?こういう人を少しでも減らしたいのに、なんで上手くいかないんでしょう……?」
「そうだな……世の中こんなはずじゃなかったことばっかりだよ……それでもそれを受け入れて前に進まなきゃいけない……それで人間は成長するんだ、簡単に切り替えろとは言えない。でもいつまでも後ろを向いてないで前を見なきゃだ。落ち込むのは今日だけだ。明日からはこんな人が出ないように今まで以上に気合い入れていくぞ。リズもだ、いいな」
ここに来る前……転生する前の世界で見たアニメに出てくる執務官の言葉を引用する。
そして、こんな気持ちだったのかな、と想像をする。
「………うん、わかった…」
リズは、はじの方で震える声を抑えながら答えた。
その夜、アルゴからメッセが届いた。
その内用は、キリトが狂ったようにレベリングを始め近寄り難い雰囲気を放っていた。というもので、しばらくは話しかけることも止めておいた方がいいとのこと。
昔の記憶を呼び起こす。
確かキリトが無理なレベリングをしたのは、サチが死んだのが原因のはず。
今回はサチは生きている、ならなぜそのようなレベリングをするのか。
答えは明白で、自分が許せないのである。
キリトはサチを守ると宣言している。
確かに今回は俺らが合流していたから守れた。
それでもキリトは、本当の事を言っていれば二人も死ななかった、と後悔している。
たまたま運良くサチが死ななかっただけである。
それをわかっているキリトは、こうして無茶なレベリングを始め、月夜の黒猫団から姿を消したのだろう。
「……大丈夫だよ。こっちのケアは任せとけ」
静まり返った部屋の中で一人呟く。
いつだって二人で欠点をカバーしていた頃を思い出して。
翌日になると、全員が明るく振る舞っていた。
空元気なのは丸わかりだが、沈んでばかりいるよりはマシかもしれない。
そしてケイタがそのトーンのまま、重大な言葉を放つ。
「ちょっと……どころかかなり言いにくいが、ギルド…月夜の黒猫団は解散とする。今でも攻略組に入りたいし、強いプレーヤーになりたいとも思ってるけど、二人……いやキリトも入れて三人……そして俺たち……この全員が揃ってないと黒猫団じゃない」
「……うん、そうだね」
ケイタの言葉にサチが同意の言葉をかける。
テツオも同じ意見のようであった。
まさかの月夜の黒猫団の解散である。
三人にこれからどうするのか聞いたが、おいおい考えていくらしい。
今は何も決めてないそうだ。
その言葉を聞いた俺はあるメッセを三人に飛ばす。
よく聞く機械音が三つほど鳴り響く。
三人は一斉に顔を見合せメッセを開き、表情を驚きに変え俺の方を向く。
三人の視線が一気に俺へ向いたことで、シリカとリズの二人も俺を見る。
俺は三人へこう言った。
「ギルド…ゼロの騎士団、団長のクゥドです。あなたたちは友人を失ってなお攻略組に入りたいと仰った。その心意気、大変素晴らしく思います。なのでどうでしょう?是非、ゼロの騎士団の団員となってはいただけませんか?」
そう、俺が三人へ送ったのはギルドへの勧誘のメッセである。
そっとしておけよ、なんで今なの?という言葉もあるだろう。
だが、ケイタはまだ攻略組に入りたいと言っていた。
今ここで離れてしまうと俺たちに追いつけるわけもない。
指導者もいない、攻略組経験者もいない、ベータテスターもいない。
ないない尽くしだ。
ならばゼロの騎士団で攻略組として活躍させてあげたい。
そう思った。
シリカとリズの二人は驚いていたが、メンバーの勧誘ということなので、この場では問い詰めてきたりはしなかった。
表情を見る限りでは、ケイタとテツオは乗り気らしいが、サチは顔を俯かせておりパッとしない。
それもそうか、と考えていたら顔を上げ、不安そうな表情をしながらも答えを決めたようであった。
俺のウィンドウがメッセが届いたことを知らせる。
一通ずつ開封していく。
ケイタ………ギルド入り。
テツオ………ギルド入り。
サチ………もギルド入り。
「それじゃあ三人とも、よろしくお願いします」
「「「よろしく」」」
三人の声が重なった。
俺たちはギルドホームへ案内するべく、元月夜の黒猫団のメンバーと共にいる。
そこで不意にケイタが口を開いた。
「まさかサチがゼロの騎士団に入るとは思わなかったよ。このまま始まりの街まで戻って引きこもるもんだと思ってた」
「……うん、本当は私もそうしようと思った。でも今は二人も死んじゃって…信頼できる人と離れたくなかった。今一人になると何をするかわからないから……」
サチはそう言って俯いた。
そうさせてしまった罪悪感を抑えながら案内を続ける。
十二層へ到着したところでケイタに質問された。
「なんで攻略組なのにこんな下層にギルドホームを?」
「それはですね…ここは始めて買ったギルドホームなんですけど、予想以上に良い場所でして……愛着も沸いてきちゃいましたしね」
そう言ってシリカとリズにも視線を送ると、嬉しそうに頷く。
ギルドホームに着き、中へ入る。
アルゴには説明をしてあるので、すでにここに戻っており部屋の中でくつろいでいた。
「これはこれは新入りの皆さン、初めまして、情報屋のアルゴダ。よろしくナ」
それぞれが挨拶を交わすのを確認し、これからの行動内容を決める。
「さて、そうしたらケイタさんとテツオさんは攻略組としてバンバン前線に出たい、サチさんは乗り気ではない、ということで大丈夫ですか?」
俺の問いかけに頷く三人。
「それならばリズとテツオさん、シリカとケイタさんでこれからは組んでください。リズとシリカは、二人に経験値を優先してやってくれ。勿論すぐに戦えるように最前線の迷宮区でやってもらう。サチさんは……そうだな、姐さんの助手みたいな形でどうですか?それなら前線に出ないで済みますし、ちょうど姐さんも人手が欲しいって言ってたし。ああ、ちなみに姐さんっていうのはアルゴのことですよ」
するとサチは安心したように頷き、うちの三人も問題はないという表情、しかしケイタとテツオは違った。
「ちょっと待ってほしい…いきなり最前線は無理だ。せめて一つか二つ下の層にしてくれないだろうか?」
ケイタの言葉に焦りが映っている。
それでも俺は変更はしない。
「二人とも、大丈夫ですよ。シリカもリズも最前線の迷宮区をソロでクリア出来るくらいの実力の持ち主です。それに二人で行動といっても、迷宮区の中のMob戦だけですから。狩り場までは俺を含めて五人ですから問題はありません」
二人は安心したように息を吐く。
他のメンバーに意見は無いようなのでここで終了とする。
その日の夜は三人の歓迎会を開催した。
なるべく傷を残さないように温かく迎え入れて、これからは最前線で戦う仲間として、いろいろなことを教えていく。
質問が多すぎて、結局朝までそれは続いたが大変有意義な時間だった。
次で赤鼻のトナカイ最後になると思います。
クリスマスに現れるリア充……じゃなくて血で染まった赤い服を来たおじいさん…じゃなくて……年一のボス倒すまでが赤鼻ですので。