二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

23 / 43
23!!

 

 

「リズとキリトが行方不明?」

 

 

その話は、我がギルドホームへ駆け込んできたアスナからもたらされたものであった。

 

 

「そうなの!!メッセも送れないから多分ダンジョンにいるのは間違いないと思うんだけど……」

 

 

「いや、別にあの二人なら心配することないじゃないですか」

 

 

「そうなんだけど!!別の意味で心配というか……」

 

 

乙女心全開である。

あの二人がピンチになるようなことなんてそうそうない。

よく聞くと、まだ連絡が取れなくなってから一日しかたっていないという。

それでもいてもたってもいられなくなったアスナは、こうしてリズの所属ギルドのリーダーである俺のところへ来たらしい。

 

 

「はいはい……というかいつの間にそこまでキリに惚れ込んだんですか?あいつのフラグ建築士っぷりには驚かされるばかりだ」

 

 

「なっ……!!別にそんなんじゃないわよ!!ただ純粋にリズの身に何か起きないか心配なだけで、キリトくんのことなんかこれっぽっちも考えてません!!」

 

 

それはそれでいかがなものだろうか。

ちょっとキリトが可哀想な気がする。

とりあえず、情報が入り次第アスナにも連絡するということで納得してもらい、今日のところはお引き取りいただいた。

 

二人して行方不明ということは、十中八九素材集めをしてるのだろう。

場所は竜の巣穴とか、そんなところだったと記憶している。

原作通りに進んでいるとしたら今日には戻るだろう。そうでなくても、あの二人であれば遅くとも明日には戻るはずである。

 

そう思って呑気に構えていたが、その日から三日たっても二人は俺たちの前には戻らなかった。

 

 

 

「で、姐さん。何か情報は?」

 

 

「それがナ……その竜の巣穴に向かうのを見たのは何人もいたんダ。しかしそんなものに挑戦するのが、あの二人しかいないものだからそれ以上は何もないのが現状ダナ」

 

 

あそこはダンジョン扱いになってるから追跡も出来ないし、メッセも届かない。

巣穴に落ちて出られなくなり、竜の尻尾に捕まって出てきたはずである。

ならばもし竜が巣穴を複数持っていたり、帰ってくることがない日などがあった場合はどうなるのだろうか。

 

もちろん出てこれないで巣穴で何日も過ごすことなる。

もしくは巣穴を出た先でなにか起こったとか。いや、それこそあり得ない。二人とも安全マージンを取れるレベルは優に越えているので、たかだか五十五層のモンスター程度に苦戦するわけがない。

 

こうなってしまったら仕方がない。直接捜しに行くしかないか。

 

 

「それじゃあ捜索隊を編成するか。とは言ってもいつも通りだけどな。あー、アスナさんにも声かけとくか。絶対行くって言うだろうから。つーわけで……情報集めはアルゴ、伝達役にサチ、あとは俺と一緒に実働隊だ。ケイタは逐一俺たちの位置情報をサチに送るように。どこからダンジョン扱いされるかわからんからな」

 

全員が頷き、各々行動を始める。俺たちは万が一に備え結晶関係を持てるだけ持ち、その中にキリトたちの分も含める。

アスナにも連絡を済ませ、今からきっかり一時間後に、五十五層の転移門前に集合ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、準備はいいな?リズベット捜索隊出発だ!!」

 

 

「ちょっ!!ちょっと待って!!キリトくんは!?」

 

 

「え?あいつはついでですよ?なんせ殺しても死なないようなやつですからね」

 

 

俺の発言にアスナが色々反論をしてくるが、あの子は主人公補整がきっちり入っているので問題ないのである。

まあ、そんなことを言ったらリズにもサブヒロイン補整が入ってんじゃないかと言われるが知らん。

 

それをここの人達に言っても通用しないので、ギルメン優先になるのは仕方ないということを話す。

 

 

「まあ惚れた男がついで扱いされたら怒りますよねー」

 

 

―――――ぐるんっ

 

 

俺の言葉に全員が一斉に振り向く。

 

 

「え!?どういうことですか!?アスナさんいつからなんですか!?」

 

 

「ほうほうほうほう、大変興味深いな。あの閃光様がキリトに恋してるとな?」

 

 

「………やめとけって…」

 

 

 

上からシリカ、テツオ、ケイタの順である。

 

 

「なっ……なななな…!!そ、そんな訳ないでしょ!?何回言わせるのよ!!」

 

 

「「「ニヤニヤニヤニヤ」」」

 

 

この赤面と狼狽っぷりが物語っているのは、誰の目から見ても明らかである。

いい加減にバレてるのだから認めたらいいのに、本人はまだ隠せているつもりらしい。

 

目的の村に着き、まずはここで小休止する。

ここから西に行ったところの山にドラゴンがいるらしいので、恐らくは二人ともそこに向かったのだろう。

四人で急ぎ足とは言わないものの、若干ペースを上げて進む。

 

険しい雪道の登ること数十分。モンスターともあまり遭遇することなく頂上に到着。

周りには巨大なクリスタルが伸びており、幻想的な景色を生み出している。

 

そして山頂の中央にはさらに巨大な穴が開いていた。

 

 

「あの二人が帰ってこれなくなる要素と言ったら、これくらいしかなさそうだな」

 

 

周りには戦闘をしたような形跡などなく、のどかなものであった。オブジェクトなのですぐに元通りになっただけかもしれないが。

 

 

「……そうね。それにドラゴンは夜行性って言ってたわよね?今は昼間だけど私たちが縄張りに来たのに姿も見せないわ。巣穴から出てくる様子もないし……」

 

 

巣穴に帰らないドラゴンってなんなの?とか思いつつ先見隊を派遣する。

 

 

「という訳でレッツゴーシリカ」

 

 

「ええええ!?私だけですか!?それはかなり無理がありますって!!」

 

 

「お前には便利な空飛ぶ相棒がいるじゃないか」

 

 

お忘れかもしれないがシリカはテイマーである。

本人が強いので出番がほとんどないが、お供のフェザーリドラも立派な竜種なのである。

そのフェザーリドラ―――ピナにちょっくら巣穴の中を見てきてもらおうというわけだ。

久しぶりの出番に気合充分なピナは、シリカの命令とともに巣穴へダイブしていった。

 

ピナが戻ってくる前にドラゴンが現れたら放置することにして帰りを待つ。

すると、十分もしないうちにピナは戻ってきた。かなり優秀である。

 

 

「やっぱり二人は中にいるみたいです。それとなんかピナの脚に手紙ついてます」

 

 

なんであいつは紙なんか持ってるんだ。

四次元ポケットでもデフォルトで装備されてるんじゃなかろうか。だとしたら羨ましい。

シリカから手紙を受け取りそれを読む。

 

 

「なになに?ほうほう……」

 

 

「……?何が書いてあるの?」

 

 

一向に手紙の内容を伝えない俺に業を煮やしたアスナが促す。

 

 

「いや……リズと二人きり…ぶっちゃけ得しかねえ。って書いてある」

 

 

――――ぴきっ

 

 

アスナの額に青筋が浮かぶ。

ほんの冗談だが、心配をかけた罰として存分に報いを受けるがいい。フラグ乱立ダメ絶対。

 

ちなみに本当はこう書いてあった。

 

 

―――金属を取りに来たはいいがドラゴンと戦闘になり、吹き飛ばしにより巣穴に落下。今のところ問題はないが自力で出るには何もなさすぎて無理。救出は早めに―――

 

 

突っ込み所満載である。

何もないのにペーパーを持ってる意味とか、どんなドジ踏んで吹き飛ばしをもろに喰らったのか、色々聞きたいことはある。しかしそれは後にして、どうやって救出するか作戦を練らねばならない。もういっそのことロープでも腰にくくりつけて、現実の救助隊みたいにいくか、と考えていたら遠方から飛んでくる影が見えた。

 

それが近づくにつれだんだんと大きくなる。その影の形がわかるくらい大きくなったところで全員に目で合図を送る。

 

―――巣穴に帰るようであれば放置。こちらに攻撃を仕掛けてくるなら迎撃―――

 

その意図を悟った四人は瞬時に身を隠す。誰か一人でも見つかれば、この作戦はパーとなりまた別のものを考えなければいけなくなる。

しかしその心配は杞憂となり、ドラゴンは俺たちに気づくことなく巣穴へと入っていく。

それを見届けた俺たちはそーっと巣穴を覗く。

すると中からドラゴンの鳴き声らしきものが聞こえ、そのあまりのうるささに思わず全員飛び退き耳をふさぐ。それが良かったらしく、すぐに巣穴からはドラゴンが出てきた。あのまま覗いていたら恐らく轢き殺されていただろう。

そしてドラゴンをよく見ると、リズを抱いた格好のキリトが尻尾に捕まっていた。

俺がやることはただひとつ。

近場にいるアスナを煽ることだけであった。

 

 

「アスナさん。見てくださいよ、あのドラゴンの尻尾。キリトがリズを抱き締めてますよ。リズのレベルならそんなことする必要ないんですけどねー」

 

 

「…………別にいいんじゃない?キリトくんが危ないって思ったからああしてるんじゃないの。…………ぐすっ」

 

 

最早半べそ状態であった。

可哀想だとは思わない。本人が別にキリトのこと好きじゃないって言ってたし気にする必要はない。ただ、俺の性格がだんだんと曲がっていってるのは事実だと思われる。

 

キリトの楽しそうな声で思考の中から現実(?)へと戻る。

こっちの気も知らないで大変楽しそうである。

きっとアスナの前に戻ってきた時が一番大変だろう。

 

それにしてもここからじゃよく見えないが、リズもキリトに抱かれたままとなっている。リズのレベルならあの高度から落ちても、着地は楽々できるはずなのに。ああ、やはりキリトに惚れたか。心なしか表情が女らしくなっている。多分俺以外は気づいていないだろう。

アスナは自分の世界に込もってぶつぶつ一人で喋ってるし、他の三人は驚きでそこまで見る余裕がないと見えた。

 

とりあえずは二人の無事は確認できたので、今回の目的はこれで終了である。特にドラゴン狩りをしにきた訳ではないのでさっさと帰る。

俺はまだ正気に戻らないアスナを引きずりながら雪山を後にした。

 

 

 

 

 

俺たちは村に引き返したあと、転移結晶で四十八層の主街区であるリンダースへ戻った。なぜ村にまで引き返したかというと、それまでアスナが正気を取り戻さなかったからである。

少々思い込みが激しすぎるが、原因は自分にもあるのでしょうがない。

リンダースへ戻ったあと、すぐに《リズベット武具店》へ向かう。

するとまだ工房では、リズが武器を生成中だったので大人しく待機していると、アスナが誰もが振り返るような天使にも見紛うほどの微笑みとともに、キリトへ渾身の一撃を繰り出した。

完璧に油断していたキリトは、それをもろに喰らい妙な呻き声とともに、その場で崩れ落ちた。

 

表情ではうわあ…というものを作りながらも、内心ではちょっとスッキリしている。

フラグを乱立するからこうなるのだ、馬鹿者め。某誠くんのようにはなるなよ、と思いながらキリトの武器が出来上がるのを待つ。

 

しばらくすると奥の工房から、リズが一振りの剣を片手に持ちながら出てきた。

長年ギルメンとして一緒にいた俺たちすら驚愕するほどの笑顔とともに。

 

 

「キーリトっ!!お待たせ!!お待ちかねの武器が出来た……わ……よ……ってうわああああ!?な、なんであんたらまでいんのよ!?それにアスナも!!」

 

 

「なんでって、五日近くも姿を見せないから捜しに行ったら、問題なく出てきたので一言文句でも言いに来たんだけど……いやはや、これはこれは」

 

 

「―――――っ!?なんなのよ!?何が言いたいの!?」

 

 

「「「ニヤニヤニヤニヤ」」」

 

 

煽り耐性のついてない人には大変有効であるこのニヤニヤ攻撃。

さらに恋愛経験のない者には大打撃を与えられる優れものとなっている。

ちなみにアスナは意味がわからずにキョトンとしている。

ああ、色んな意味で鈍感なのは似た者同士なのか。

 

 

「さ、そしたら私たちは帰りませんか?お邪魔したら悪いですし」

 

 

シリカの表情が物語っていた。これは面白くなりそうだと。全面的に賛成の俺は、そのままキリト、アスナ、リズを残し他を連れて店を出る。

 

もちろんそのまま素直に帰るわけがない。野次馬根性丸出しで中の様子を伺う。

それにならいシリカとテツオもそっと窓に顔を近づける。

というかシリカはいつの間にこんな子に……前にも言ったかもしれないが、俺の影響を多大に受けすぎな気がしてならない。

 

――――まあ、それはそれ、これはこれ。ということで覗きを慣行していると、リズが店から飛び出した。

 

アスナを伴い、店の奥に入ったと思ってすぐのことだった。アスナは訳がわからずオロオロするばかりであった。

それを見たキリト、さすが主人公、何もわからずとも店を飛び出したリズをすぐに追いかけていった。

 

 

「……多分これ以上見てても面白いものはないから帰ろうか」

 

 

「だなー。それにしても若いっていいなあ……超青春してんじゃんか。なあケイタ」

 

 

「テツオ、俺はまだそこまで歳を取ったつもりはないぞ。せいぜい一つくらいしか変わらないじゃないか」

 

 

青春ねえ……そんなものは前世に置いてきたかもしれん。中学になってもろくな恋もしてなかったからな。キリトのご機嫌取りで忙しいのなんのって。

 

 

「シリカも俺みたいにはなるなよ。ちゃんと青春しな。きっと楽しいぜ」

 

 

「………そうですね、とはいってもそういう風に感じてる人が少ないので、どうなるかわかりませんけど」

 

 

シリカはそう言って苦笑した。

俺は頑張れよ、とだけ言ってシリカの頭を撫でた。

 

その時にシリカが何か呟いたような気もしたが、声が小さすぎて何も聞こえなかった。

 

 

ただいま《ゼロの騎士団》のギルドホームでは、なかなかに変なものが見られる。

それはリズが店を飛び出したあと、キリトが追いかけていった時の夜のことであった。

あんなことがあったので、どんな暗い顔をして戻ってくるのかと思ったら、なんと満面の笑みで戻ってきたのである。

これはその時の一部始終である。

 

 

 

「よー、どしたんリズ。なんかご機嫌だな」

 

 

「えー?そう?別になんでもないわよ?」

 

 

心なしか口調も柔らかい気がする。

口角が緩みっぱなしで、たまに気持ち悪い笑い声まであげる。

その際には「キリトが私の剣で………」とか「現実に戻ったら……」とかこのままゲームクリアをしない方が、キリトにとって幸せなんじゃないかと思ってしまうほどであった。

このよくわからない脳内妄想は、しばらく続いた。これが終わったのは、キリトとアスナが結婚の報告に来たときである。

その日二人の前では気にしてない風に装っていたが、ホームに帰ってから部屋に閉じ籠り泣いていた。

 

失恋など珍しいことではない。むしろ叶う方が稀有なのである。これも社会勉強だ。これも経験しておいて損はないはずである。まあ、経験しないに越したことはないのだが。

 

リズは思ったよりも強く、次の日には今までと変わらない状態で、俺たちの前に出てきた。

 

 

「………もう大丈夫なのか?」

 

 

「全然平気!!……って言ったら嘘でしょうね。それでもあの二人はお似合いだもの。それこそ嫉妬する気もおきないくらいね」

 

 

そう言っていたリズの表情は晴れやかであった。

 

 

 

 

 





まだまだ活動報告にてアンケート実施中です。
是非ご協力を。

74層まであと二話ほど挟む予定なので期限は次話投稿の時に決めます。

ちなみに今はALOまでの方が三名、それ以降の方が二名となっております。

五名の方、ご協力ありがとうございます♪ヽ(´▽`)/

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。