二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
今日も迷宮区に篭り、他の三人と共に日夜攻略に勤しんでいる。少し早目ではあるが日没前に主街区へたどり着くために本日は引き返す。
すると帰り道の途中で逃げ足の早いモンスターと遭遇。周りに人がいないのを確かめ双剣を装備する。実はこの双剣スキルには、なぜか投擲技が登録されており、それを使いモンスターを撃破。そしてすぐにアイテム欄をチェック。お目当ての物が見事あったので、その場で小躍りしてしまった。
そそくさと急ぐように七十四層の主街区を目指し走り出す。俺はこんなところで結晶は使わない。四人もいれば充分安全だと言えるからだ。
だが誰かにバレても面倒なので走っている。
主街区に到着したあとアイテムストレージの物を売り捌くため、エギルの元へと向かう。
するとそこにはキリトがいた。どうやら順番待ちをしているようで、大人しくキリトの後ろに並んで待つ。
「よー、キリ。お前も何か売りに来たん?」
「ん?なんだクゥか。ちょっとレアなアイテムをゲットしたんでな」
そう言ってニヤリと笑った。
エギルがかなり安値でアイテムを買い取ってご機嫌なところでキリトがそのアイテムの名前を見せた。
「おおっ、ラグーラビットの肉か!!これS級食材だかいいのか?」
「まあな、持ってても料理できるヤツがいないからな」
その時誰かが店に入ってきた。
――――ピカーン
俺の脳内で雷が落ちた。
面白いことが起きそうな予感にワクワクが止まらない。
その人物はこちらに目を向けて軽く手を上げたあと、キリトの方へ歩みを進めた。
「キリトくん、こんにちは」
「シェフ捕獲」
「え?なんのこと?」
今来たばかりのアスナは状況が飲み込めていない。
キリトが丁寧に説明し、ようやく状況を理解、ラグー・ラビットの肉を調理する代わりに半分奪うことで手打ちになったようだ。
エギルは自分も食べたいと遠回りに言っていたが、感想文を提出されるだけという悲しい結果になった。調理場だがアスナの家でやるらしくキリトは多少どぎまぎしていた。するとずっとアスナの後ろにいた、影の薄い痩せ細った男が急に声を上げた。
「アスナ様!!いけません!!こんな汚ならしいところに顔を出すだけではなく、訳のわからない男を家に招くなどもっての他です!!」
「ブフォっ!!!!汚ならしい……訳のわからない男……アスナ様……ぐはっ…!!あひゃひゃ……」
つい笑いが堪えられず、汚ならしいでエギル、訳のわからない男でキリト、アスナ様でアスナを指差す。ひーひーと笑いを殺しながら涙を拭う。
「もー……失礼ですよ、クゥさん」
然り気無く俺の隣に来たシリカに言われるが、面白いのだから仕方がない。しかも笑い出したら、その発言をしたヤツが軽く睨んできたがお構い無しに笑い続ける。
「あー……笑った笑った。おっと失礼。続きをどうぞ」
そう言って先を促すとアスナが呆れたように切り出す。
「様って私が呼ばせてる訳じゃないからね!?……全く…それよりもクラディール、あなたが訳のわからない男と言った彼は多分あなたより十はレベルが高いわよ?」
「そんな馬鹿な!!私がこんな奴に劣るとでも!?」
こんな言い合いをしているうちに、周りに野次馬が集まって来てしまったのでそれを捌けさせる。ここはあくまで店であり見世物小屋じゃない。
憧れ(笑)のアスナを一目見たい気持ちはわからなくもないが、エギルの迷惑となってしまうので用がない方はお引き取りいただく。
すると話が纏まった、というかアスナが強引に切り上げたようで、護衛のクラディールとやらを放置して店を出ていってしまった。
俺はクラディールに近づき肩に手をおき一言だけ呟いた。
「……ど…どんまい……ブフッ」
「うるさい!!!!………っち…くそがっ!!」
最後に吹き出してしまったのがいけなかったのか、クラディールは怒ってしまいそのまま残っていた見物客に八つ当たりをするように怒鳴りながら出ていった。それを見送ったあと、俺はリズにメッセを一通送り、返事を待つ間ストレージに溜まっているアイテムをエギルへ売る。
するとそのなかの一つを目敏く見つけ、エギルが声を上げた。
「なっ!!お前もラグー・ラビットの肉を持ってたのか!!」
「まあ、そうですね。でもさっきのやり取り聞いてたら俺も食べたくなったんで売るのやめます」
「……しかしだな…誰か調理出来るヤツはいるのか…?」
「シリカが出来ますよ?用事が終わったら調理を頼みます」
「え、私ですか?……出来るかなー……」
そのあとエギルが次の言葉を発しようとしたところでリズからの返信がきた。それを見て素早く残りのアイテムを適当な額で押し付ける。俺の次の目的地はセルムブルグに決まった。
そうと決まれば後は早い。
エギルの話を聞くまでもなく放置、シリカたちには先に帰ってるように言い付け店を出る。転移門までダッシュして六十一層へと転移。あとは本人たちに見つからないように近場で待ち伏せる。
空が暗くなったころ二人が転移門から姿を見せた。俺の前を通り過ぎるのを待ってから尾行を開始する。
大通りを進む二人は何かを話していて、大変いい雰囲気と言えた。当然の如く記録結晶を常備している俺は、そのまま二人にバレないようにこそこそと後をつけ、その姿を記録していく。しかしこの記録結晶、遠いところの音が拾えないのが残念である。
すると二人が細めの路地へと姿を消した。慎重にその路地へ入り込むと、そこには二人の姿はなかった。辺りを見回しても姿を見つけられなかったため、諦めて後ろを振り向いて引き返そうとしたが、振り向いた方向には二体の鬼がいた。
俺の背中から仮想の冷や汗が流れ、額からは仮想の脂汗が流れ始める。
「三十六計逃げるが勝ちよ!!」
俺がその場で選んだのは逃げの一手である。化け物二体と戦闘をするぐらいなら即座に逃げる。
「「逃がすかあ!!」」
俺が逃げるのを見て追いかけてくる化け物、アスナとキリトの二人。転移門まで逃げてしまえば、どこに転移するかなどわからないのでこちらの勝ちになる。人の波を掻き分け、時には人の間を縫うようにして駆ける。さながらアイシールド○1になった気分だ。
大通りを全速力に近いスピードで駆け抜ける。すると転移門が見えてきた。俺はそのままスピードを緩めることなくラストスパートをかける。
――――これで俺の勝ちだ
転移門へ手をかけようとしたのだが、
その前に俺の肩に手がかかる。
恐る恐る振り返ると、そこには息を切らしつつも得意気に笑うアスナがいた。これが普通の笑顔であれば見とれるようなものであったのは間違いない。しかし今の笑顔は、まさにニヤア……というかドヤアみたいなものであったため震えるのも仕方がないであろう。
「フフ……フフフフ……ついに現行犯で捕まえてやったわ……!!これまで散々からかわれてきたこと……忘れてないわよ?」
「はははは、やだなぁ……俺がそんなからかうだなんて……俺は二人の距離を縮めようと思っただけであって……」
「問答無用!!さっさとついて来なさい!!」
俺は半ば引きずられるようにしてアスナに連行されていく。途中でキリトと合流したのだが、奴も同じような笑顔を携え俺を見る。正直生きている心地がしない。しかもキリトが合流してからは、逃げないようにとの配慮のためか二人の間を歩かされた。これではさながら警察に連行される犯罪者のようである。
「ここが私の家よ。特別に入れてあげるんだから感謝しなさい」
「あ、じゃあ俺は特別じゃなくていいんで帰ります。お疲れっしたあ………ぐへえっ」
大人しく引き返そうとしたら
襟首を掴まれ、変な声が出てしまった。
「クゥドくん……大人しく言うことを聞いてね?」
「さーせんっしたあ」
アスナの顔を見て即座に土下座態勢。もうまともに見ていられる顔ではなかった。キリトですらひきつったような笑みでアスナを見ているのだから、俺が土下座をしてしまったのも無理はない。と思いたい。
中に入ると二人は装備を変えて部屋着のようなものになっていた。それから俺への尋問が始まった。
「それじゃあ、クゥドくん、なんで君は私たちの後ろをついて来たのかしら?」
「そりゃあ……二人きり、手料理、夜、悪くない仲、これだけ揃えばなにか起きると思った。というか起きなきゃ枯れてるとしか……」
「はあ……起きるわけないだろ……お前は俺らの仲を勘違いしてるんじゃないか?」
「え?だってアスナさんはお前のこと「わああああああ!!」たよ?」
近所迷惑にもなりそうな大声で俺の台詞を遮ったのはアスナ。アスナの隣にいたキリトは、予想外のところから大声が聞こえたので思いきり耳をふさいでいた。
「あ、アハハハ……もうこの話はいいわ。それよりも二人ともお腹すいたでしょ?すぐ用意するわ。あっ、そうだ。クゥドくんも食べていくわよね?それなら三人分用意しなきゃだね。久々に人の食事を作るけど、腕はいいから安心してちょうだい。さあ頑張っちゃうよー」
俺とキリトは目を点にして元気よくキッチンへ向かったアスナを見る。二人の様子を見るにどうやら誤魔化せたようであった。あのままだったらどんな恐ろしいお仕置きがあるかわかったもんじゃない。命拾いした俺は緊張感が一気に抜けた。
そのまましばらくキリトと雑談をしていると、キッチンの方から食欲をそそる匂いがしてきた。今日のメニューはシチューであるらしく、すでに盛り付けられた皿がそれぞれの目の前に置かれていく。
「それじゃあ食べよっか」
「なんかなしくずし的に俺まで……すみませんねえ、二人の時間を邪魔してしまったようで……」
キッとアスナに睨まれそれ以上は言えなくなってしまう。三人でいただきますをして、シチューを口にした瞬間にわかった。これは今まで食べてきたどの食材よりも間違いなく美味い。S級食材の名に恥じない美味さであった。それに料理人の腕も良かったのだろう、それぞれの素材の味が極限にまで活かされている。ゲームではあるが当然ながら料理にも腕が必要である。そしてそれぞれの食材をここまで完璧な味に仕上げるとは、さすがスキルをマスターしただけのことはあった。俺は最初の一皿で遠慮しておいたが、二人の食べるペースは全く落ちることなく大鍋にあったシチューを完食していた。
「美味かったなあ、アスナさん御馳走様でした」
「本当に美味しかった……ここまで生きてきて本当に良かった……」
かなり実感の籠った言葉だった。それほどまでにラグー・ラビットの肉は美味かったのだろう。気持ちはわからなくもない。三人で余韻に浸っていると不意にアスナがこんなことを切り出した。
「ねえ、クゥドくん。君ってシリカちゃんに告白されたんだって?」
「え?なんで知ってんですか」
「リズに聞いたから」
「俺知らないんだけど。クゥ……お前告白なんてされてたのか」
「まあなあ」
唐突すぎることで、特に警戒もすることなく正直に答えてしまう。しかしそれがいけなかった。アスナの目が興味を示しているし、キリトの目はイタズラをする子供のように輝いて見えた。アスナはわからなくもないが、キリト、お前はなんなのだ。そんな恋バナに興味があるのか。気持ち悪い。
そこから何を話しても結局は話を戻される。どうやら言外に話せと言っているらしかった。俺は諦めの溜め息とともに言った。
「はあー……別に聞いても面白くないぞ?」
「いいから早く」
そう急かされ、話すことにした。ありのまま、言ったこと言われたことをそのまま話す。
―――告白されてから大体どれくらいたっただろうか…答えは出ているがそれを言い出す機会がなく、ずるずると返事を返せないままでいる。今日こそはと思いながらも、そう簡単に二人きりになれる時間などない。
それならばシリカがやった時のように呼び出してしまえということで、夕食後シリカを俺の部屋へと呼んだ。はっきり言って心臓に悪い。この待ってる時間はどんな時よりも緊張した。それこそ迷宮区の攻略の方が全然楽チンだとは思えるくらいの緊張具合である。
突然こんこん、と俺の部屋の扉が二回ノックされる音が聞こえた。とりあえず「どうぞ」と言うとシリカが静かに入ってきた。
「今日もお疲れさま。とりあえず座れよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
俺は空いている椅子へ座ることを勧めたのだが、シリカはなぜか俺が座っているベッドに腰をかけた。しかもすぐ隣である。先程から心臓の音がうるさい。隣にいるシリカにも聞こえるのではないかというくらいに、心臓の音は大きくなり、さらには速度も上がっていく。しばらく無言の時間が続き沈黙が辛くなった俺は、軽く気合いを入れて立ち上がる。
「………クゥさん?」
急に立ち上がった俺に反応を示すシリカ。
「あのさシリカ……これから俺が何を話そうとしてるかわかるか?」
「………はい……」
「そっか……ならいいんだ」
ようやく心が固まる。ここまで……いやそれ以上に大変な思いをしてシリカは想いを伝えてくれた。俺には出来そうもないなと内心で苦笑し続きを言うために口を開く。
「俺はシリカに告白された時嬉しかったよ。驚きとか焦りとかよりもまず嬉しかった。すぐにでもOKの返事を出したい気分だったよ……それがこんな世界じゃなかったらね」
「………どういう……ことでしょうか……」
「この世界は安全じゃない。危険度で言えば俺たちがいた日本よりは数段上だ。俺はさ、シリカと付き合えたら油断して下手したら死ぬかもな。守るために強くなれる人間もいるけど俺はそうじゃない。まずは隙が出来るんだ……嬉しくてな。つまりな……悪いがここでは付き合えない。俺のせいでシリカを危険に晒すことはしたくないんだ」
「………そう……ですか」
シリカの顔が歪む。それを見ていると心が痛む。俺も本当はそういう関係になるのも悪くないと思ってる。それでも死ぬかもしれない可能性は少しでも潰しておきたい。付き合って舞い上がって油断して……そんなことにはなりたくないし、させたくもない。
「だからさ、ごめん。現実に帰ることが出来たらその時は改めて俺からシリカに告白するよ」
「え?」
シリカが驚いて俯いていた顔を上げる。言っていたことがわからなかったのだろうか?
「いや、だから現実に帰れたら告白するって言ったんだけど……SAOはどんな些細なことでも死に繋がる可能性があるからさ、なるべく避けたいんだ。でも現実ならばそうはならないから……」
「それって……つまりどういうことですか?」
「まだわからんか!?」
危険だとか死ぬとかなんだかんだ理由をつけてたが、結局のところ俺が今回シリカの告白を断る理由は一つだけである。
「俺からシリカに告白したいから現実に帰るまで待てよ。女から告白されてそれを受けるのはなんかやだ」
「ふ……ふふっ……なんですかそれ。それじゃ頑張って生き残りましょうね」
「ああ……お前は何があっても死なせねえよ」
「私もクゥさんを守ります」
こうして夜は更けていく。
次の日の朝は多少ぎこちなくも普通に過ごせたと思う。
その次の日にはほとんど違和感がなくなり、またその次の日には告白される前のような感じに戻っていた。しかし俺らの根本にある気持ちは出会った頃とは全く違う。人間なんてそんなものだろう、日々変わってくのもなのだ――――
「とまあこんな感じで断った」
「そういう事ね。付き合ってる訳でもないのに二人の距離がけっこう縮まってたから気になったのよね。納得」
話終えた俺は席を立つ。
「あら、もう帰るの?」
「まあね、これ以上邪魔しちゃ悪いし、シリカにも帰るって言ってるから」
「はいはい、そういう事ね。S級食材の料理なのにあんまり食べなかった理由もそこにあるのね?」
「そこは黙秘権を行使させていただこう」
それこそ見る人を全て振り向かせるような微笑をしたアスナ。アスナは気づいていないが、キリトはそれを見て少し顔を赤くしていた。二人がくっつくのも時間の問題だろう。そう思いながら俺はアスナ邸を後にし、シリカ(やギルメン)の待つホームへと足を急がせた。
アンケートの結果まさかのGGOまでです。
そこまで見たいと言ってくれる方がいることを嬉しく思います。
というかSAO編で終わりでいいと言う方がいなかったのはビックリです…
これからも精進しますのでよろしくお願いします。