二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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28!!

 

七十四層の迷宮区の攻略を始めてから今日で九日目、そろそろ終わりが見えてくる頃である。迷宮区の最上階であろうフロアでシリカ、テツオ、ケイタとともにそれぞれモンスターを狩っていく。すると俺とシリカより、少し先の位置で敵である骸骨の剣士と戦っていた二人が、どうやらフロアボスの部屋を見つけたらしかった。

 

まだ俺らの周りにいる骸骨たちを全方位攻撃のスキルで、一気にHPを削り取り二人の隣まで急ぐ。通路には円柱が何本も等間隔に立っている。その通路を駆け抜けると突き当たりとなり、そこには灰色と青色を混ぜたような色の巨大な二枚扉があった。

今まで何度も見てきた、フロアボスの部屋へ続く扉である。

 

 

「そんで?どうするよ……開ける?それともマッピングは済んだし引き返すか?」

 

 

テツオが指示を仰ぐ。俺がそれに答えないでいると後ろから足音が聞こえた。恐らく攻略組の誰かだろうと思っていたが、来たのはアスナとキリトの二人であった。

 

 

「あれ?私たちが一番乗りかと思ったけど先客がいたわね」

 

 

「結局二人きりの時間を邪魔しちまう結果に……」

 

 

「あーあーあー!!聞こえませんー!!」

 

 

アスナは相も変わらず往生際が悪いというかなんというか。キリトのような鈍い主人公はこれくらいじゃ気づきません。今だって俺とアスナの会話が全くわかってないのだから。

 

 

「みんなはこんなところで何をやってたの?」

 

 

「ああ……このボス部屋、開けるか引き返すかクゥに決めてもらおうかと思って相談してたんですよ」

 

 

「んで?クゥはどうするつもりなんだ?」

 

 

「六人かー……よし決めた!!総員転移結晶準備!!これから様子見として扉を開けたいと思います!!」

 

 

「よっしゃ!!そうこなくっちゃな!?」

 

 

なし崩し的にキリトとアスナも巻き込んで、全員で扉を押してみる。その扉は一押しするとあとは自動扉のように、勝手に奥へと開いていく。先頭に俺とキリト、真ん中にシリカとアスナ、最後尾にテツオとケイタ、という順番で二列になり部屋へ入る。

部屋の中は真っ暗で何も見えない。それでも一歩踏み出す。すると入り口付近の床の両側に、青白い炎が音を立てて煌めいた。思わず全員が体を強張らせてしまう。すぐにまた先程の位置から一メートル離れた辺りに炎が灯る。それが次々、部屋の奥へ向かっていき、最後には炎の道が出来上がった。

今まで何度も経験してきているが決して慣れるものではない。最後に部屋の最奥で一際大きな火柱が上がり、全体が薄い青の光に照らされる。徐々にだが、確かにボスと思われる巨大な影の輪郭が見えてきた。

 

その姿は正に悪魔と呼ぶに相応しいものだった。体は人間、尾は蛇、頭は山羊という誰しも見たこと、聞いたことは一度はあるような、悪魔の代名詞である姿で現れた。SAOが始まってから初の悪魔型のボスモンスターである。ここは一度引き返し、作戦を細かく練ったり、偵察隊を何度も出して攻撃パターンなどを調べた方がいいだろう。

 

そこまで考えてボスの名前を確認してないことに気づいた。それを確認するため視線を上げた途端に、突然悪魔が雄叫びをあげた。空気の振動で部屋全体が揺れたような感覚を受けた。悪魔を見ると口と鼻から青白い炎を出しながら、巨大な剣を振りかざして真っ直ぐこちらに向かってきた。

 

 

「はい、全員回れ右だ!!というか歩幅の違い!?超速いんですけど!?」

 

 

俺が声を上げるまでもなく、全員が即座に逃げ始める。

 

 

「いやいやいや!!あれなんだよ!!やっべーよ!!」

 

 

「口を開いてる暇があったら走れバカ!!」

 

 

テツオが軽く笑いながらパニックになっていた人間驚きが強すぎると笑ってしまうこともある。それをケイタが諫める。

そして、シリカの姿が見えないと思ったが、一人早くも離脱済みであった。敏捷パラメーターは恐らくこの中で一番高いため、俺たちより早く階段を降りて行くところを見つけた。そのすぐ後をアスナが追い、男四人は最後尾から安全エリアへ向けて懸命に走り抜けた。

 

 

全員が安全エリアまでたどり着くと、一斉に安堵の息が漏れる。それほど恐怖心を煽る姿のボスだったことは間違いない。ボス部屋までのマップデータは後程アルゴに渡すとして、ようやく余裕が出てきたのかそれぞれがボスについての意見を交わし始める。

 

 

「……凄く怖かったですね……思わず一目散に部屋を飛び出しちゃいました……」

 

 

「気づいたらシリカいなかったもんなー。つか逃げ足早すぎだろ」

 

 

「……だってー……怖かったんだから仕方ないじゃないですかー……」

 

 

テツオの言葉にシリカは顔を赤くしながら俯きがちに答える。ぷくーという擬音が聞こえるかのように頬を膨らませながら。

 

 

「テツオー……あんま俺のシリカを苛めるなよ?」

 

 

「ふええっ!?」

 

 

「……どったのシリカ?いきなり変な声出して」

 

 

「いいいいえ!!なななななんでもないです!!……ふふふ……えへへへへ」

 

 

シリカはさっきから赤くしたりニマニマしたり俯いたり忙しそうにしている。一人で顔芸をしているシリカは置いておいて、これからの対策を練っている。先程俺が考えたこと以上のことは出なかったが、全員で確認が取れたので意味はあった。

 

しかし本来なら二人きりの時間のはずが、俺たちがいるせいでそうならないのは大変心苦しい。それでもなんとなく二人の距離は縮まってる気はする。二人からそれとなく距離を取って俺たちは安全エリアから離れる。階を幾つか上がるとモンスターがうろちょろし始めたので暇潰し、もしくは八つ当たり気味にテツオが無双モード(もしくはモテない男の叫びモード)に突入する。ケイタはそれを見てやれやれと言いたげに首を左右に振ると、暴れまわるテツオを止めに行った。

 

すると近くからガチャガチャ音を立てて近づいてくる集団を見つけた。無駄に規則正しいその音に俺たちは警戒することもなく、目を合わせることもしない。その音は俺たちの脇を通り抜けて行った。ボス部屋へ真っ直ぐと向かっているようだった。それを見た俺たちは周りに敵がいないことを確認すると先の集団について話す。

 

 

「なーんか怪しくねえかあいつら……軍の奴らだよな?久しぶりに見たと思ったらいきなりボス部屋ってか?」

 

 

「正直なところ様子を見に行った方がいいと思う。あの人数で勝てるとは思えない」

 

 

「私もそう思います……人が死ぬのはもう見たくありませんし……」

 

 

うちも大概お人好しの集まりだなと思う。自分たちも死ぬかもしれないのに、さらに赤の他人の心配もできるとはなかなかどうして素晴らしい。

俺も元よりそのつもりだったので、軍の集団に気づかれないように後をつける。やはり先頭にいるリーダーらしき人物はボス部屋へ入るらしく、大きな扉を押し開け隊列を崩すことなく進んでいく。その後に続き俺らは辺りを警戒しながら進む。

早くも軍の集団はボスとの戦闘に入っていた。どうやらボスのみで手下となるモンスターはいないようである。それを確認し、俺たちも戦闘に加わる。リーダーらしき男が余計なことをすんなみたいな目で訴えかけてきた。

 

しかし初めて見るタイプのボスが相手では何人いても困らない。むしろ多ければ多いほど攻撃パターンを解析しやすくなる。そこで俺はなるべくタゲを交互に持たせながら攻撃パターン等を見極めようとしたが、何を思ったのかリーダーらしき男は部下を並べて突撃させた。

 

それに反応してボスは持っていた巨大な剣を降り下ろす。幸いそれに当たった者はいなかったが、その衝撃で何人かのプレーヤーが飛ばされ隙が出来ていた。

 

 

「勝手に動くなよっ……!!軍ってのはバカばっかりか!!行くぞお前ら!!ぼさっとしてたらあっという間に全滅だ!!」

 

 

そう言って一足早く駆け出す。そのあとを三人がついてくる形となりボスの足下へ近づき初めての攻撃を当てる。するとタゲが俺にかわり、ボスの動きが俺を目掛ける物へとかわる。細心の注意を払い一挙手一投足も見逃さないよう集中する。こちらは四人なのでこれを分けても意味がない。なので一つに固まり男三人を壁として、シリカにアタッカーを務めてもらう。まだ軍に犠牲者がいないことは良かったのだが、先程の攻撃を見てもリーダーの男は攻め方を変えずに突撃あるのみであった。今はボスのタゲが俺に向いているのでまだいい。しかしこれが軍に向いたらどうなるかわかったもんじゃない。

 

ボスがこちらに攻撃を仕掛けてきた。手始めに先程見せた巨大な剣での攻撃だ。バラけるのは得策ではないので同じ方向にかわすように指示。剣が叩きつけられた衝撃で俺らは宙を舞うが、同じ方向へ避けているので固まって飛ばされる。上手く着地をして、同じように三人で壁となりシリカを援護する。

 

通常攻撃の合間を抜けてシリカがスキルを打つ。さらに追撃とばかりに軍の奴らが一斉に攻撃を始める。不意打ちの形で背中に攻撃を喰らったボスは、怒りの叫びとともに持っていた剣を降り下ろした。それを回避できる者は軍にはおらず、なすすべなく攻撃を喰らった。するとHPバーが一気に下がった。恐らく三分の一は下がっただろう。圧倒的な破壊力で一気に軍は統率が取れなくなった。

するとそれをチャンスだと思ったのかそのボスは立て続けに攻撃を開始する。なぜかこちらには目もくれずに。

それが気にくわないのか、テツオがタゲを取りに攻撃を仕掛ける。スキルが当たり少々ボスのバーが減るも、意に介さないように軍に攻撃を続ける。まるで意思があるようであった。多対一では基本的に弱い敵から叩いていくのがセオリーであるが、それを誠実にこなしているようにも見えた。

 

どうしようもなく、なんとかタゲを返せるように四人で後ろからスキルを当てまくる。しかしついに一人目の犠牲者が出てしまった。それから二人目は早かった。ボスのHPの上段が無くなるかという頃に、突然仁王立ちになった。俺は嫌な予感が止まらずに声の限り叫んだ。

 

 

 

「総員退避ー!!」

 

 

俺の言葉に従ったのは、やはりギルドの三人だけで、軍の人間は構わず突っ込んでいった。するとボスは口から眩い噴気を全方位に撒き散らした。突撃した十人が一斉にダメージを喰らう。どうやらあの息にもダメージ判定があるらしかった。

 

ダメージを喰らった十人目掛け、すかさずボスが大剣を突き立て、そのうちの一人をすくい上げる。そのプレーヤーはボスの頭上を越え、さらには俺たちの上すら越えて、入口付近まで飛んでいき落下した。

気づかなかったがそこにはキリトやアスナ、ギルド風林火山のメンバーがいて、その光景を見て絶句していた。

落下したのはリーダーらしき男で、キリトたちの目の前で自分の体を無数の欠片として散った。これでいよいよ軍の統率も取れなくなってしまった。

 

 

「くそったれが……!!お前ら!!タゲはこっちで取ってやる!!さっさと結晶使って離脱しろ!!」

 

 

俺は叫び、ボスに向かって走り出した。

 

 

「だめ――――ッ!!」

 

 

走り出した俺の横を見慣れた後ろ姿が追い抜く。後ろを振り返ると焦ったように追いかけてくるキリトの姿が見えた。見慣れた後ろ姿の持ち主……アスナが背中を目掛け、渾身の力で攻撃をした。それは命中したのだが、今までどうしても振り向かなかったボスが、こちらに攻撃をしてきた。一撃目はなんとかかわしたアスナだが、完全には避けきれず衝撃で地面に倒れこんだ。そこにすかさず次の攻撃が容赦なく襲う。

 

 

「アスナ―――ッ!!」

 

 

そこへようやく追い付いたキリトがアスナの前に身を投げ出した。そのタイミングで何をしたいか理解した俺は、キリトが弾こうとしてる方向へボスの剣目掛け、己の武器を突くようにして当てる。

 

俺はその反動でノックバックしたが、おかげでわずかに攻撃の軌道が逸れて、キリトがさらに自分の剣で攻撃の軌道を逸らす。

アスナからほんの少し離れた所にボスの剣は降り下ろされ、その衝撃でアスナはこちらに吹き飛ばされてきた。

 

その間にキリトはボスと対峙していた。俺はアスナを即座にシリカに任せテツオとケイタを連れてキリトの援護に向かう。風林火山の面々は軍のプレーヤーの援護に回した。すると軍のプレーヤーの一人がこちらに向かって叫んだ。

 

 

「―――ッ!!ダメだ!!何回やってもクリスタルが使えない!!」

 

 

思わず反応してしまいそうになるが堪える。ボスと対峙している今、油断は禁物である。クリスタルが使えない状況ならば自力で部屋から出てほしいのだが、部屋の中央を戦場にしてしまっているためなかなか動けないでいた。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

今まで四人で何とか回していたがついにキリトが攻撃を喰らってしまった。今まで攻撃をかわしきれずに徐々に減っていった分を考えても、半端じゃないバーの減り方だった。

 

 

「頼む!!全員で十秒持ちこたえてくれ!!」

 

 

いきなりそう叫ぶとボスの攻撃範囲から抜け出した。代わりにシリカ、アスナ、クラインが飛び込んで六人で応戦する形となった。それでもすでにゼロの騎士団の面々は俺も含め、バーがイエローゾーン近くまで減っている。

 

それを見たアスナとクラインは積極的に前に出て、ボスの攻撃を捌いてくれる。

 

 

「こンのおおおお!!」

 

 

ボスの降り下ろされた剣を、刀の刃で滑らせるようにかわすクライン。重さに堪えきれず膝をつくと、そこにすかさずボスが攻撃を仕掛けてくるが、先程と同じように、今度はシリカと二人で剣の腹を突いて軌道を逸らす。

 

 

「いいぞ!!」

 

 

キリトの声が聞こえ、アスナとボスの得物がぶつかり合い合間が出来るとキリトが「スイッチ!!」の言葉と共に敵の間合いへと入り攻撃を始めた。

 

ここまで来るとあとの結果はわかるので、警戒しながらも様子を見てみるもどこかおかしかった。ボスに比べてキリトのHPバーの減り方が早かったのだ。これではどう見てもキリトは死ぬ。そう思った俺はボスの後ろに回り込みスキルを放ち援護を始める。

 

他のメンバーも同じように思ったらしく、それぞれ別方向からスキルを打つが、キリトが与えるダメージが大きすぎてこちらにタゲが回らない。早くもキリトのバーはイエローゾーンを下回りそうであった。俺はウィンドウを開き装備を変更する。先程までは隙がなかったのでどうにも出来なかったが、キリトが一人でタゲを取っている今がチャンスであった。

 

スキルカテゴリは双剣。

武器の名称はオルトロス。

二刀一対の唯一の武器である。

 

 

スキルを発動させて敵へと向かう。

右手の剣で外に払い、左の剣でも外に払う。手首を返し両腕を交差させるように払い、またも両腕で外に払う。右、左、右、左、両、両、右、右、左、両。

 

武器を逆手に持ち変えたりしながら、幾度となく攻撃を繰り返す。

双剣スキルの中位剣技、スクウェア・エンペラー。

連続三十七回攻撃となっている。前も言ったが最高連続攻撃回数が百というふざけたスキルだ。スキルの数値が低いので今使えるの双剣スキルではこれが最高位の技だ。

 

 

「「らああああああああ!!」」

 

 

俺とキリトの叫び声が重なる。タゲはずっとキリトのままだ。しかしボスのバーの減り方が、先程よりはるかに速くなりキリトのそれを下回る。二刀流より攻撃速度が速い双剣。キリトの最後の攻撃がボスの胸を貫き、俺の最後の攻撃が背中を引き裂いた。

 

俺は横目でボスのバーを確認する。するとボスは膨大な青い欠片となって散った。

それを見たキリトは安心したのか、自分のバーを確認したあと倒れるように意識を失った。

 

俺も内心ヒヤヒヤであった。俺の記憶もほとんど薄れてしまっているみたいで全く当てにならなくなり始めている。キリトに駆け寄ったアスナを見ながらそう思った。

 

 

 


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