二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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29!!

 

 

「キリトくん!!キリトくんってば!!」

 

 

ボス部屋の中に悲鳴にも聞こえるアスナの声が木霊する。キリトは顔をしかめながら上体を起こし、辺りを見回す。

 

 

「大丈夫か?ちなみにキリが気を失ってからまだ一分もたってないよ」

 

 

俺が遠くから声をかけると「……そうか」と言ってキリトは目の前のアスナを見た。

 

 

「ばかっ……!!無茶しないでよ……!!」

 

 

叫ぶと同時に自分へしがみついたアスナを見て、キリトは目を白黒させた。すかさず俺は記録結晶を取り出し、撮影を始めようとするも、ここがクリスタル無効化なのを思い出して項垂れる。ポーションを口に突っ込まれたキリトは気だるそうにしていた。

 

クラインがキリトの方へと足を運び、状況を説明している。こちらもこちらでそれぞれ回復を済ませたのでキリトの方へ向かう。

 

 

「そりゃあそうと、オメエらなんだよさっきの!!」

 

 

「……言わなきゃダメか?」

 

 

「当たり前だろー」

 

 

「「「「お前もだよ!!」」」」

 

 

おうふ。なんという息のあった突っ込みなんだ。というかシリカとアスナを除いた全員て息が合いすぎである。

 

 

「……エクストラスキルだよ。二刀流」

 

 

キリトの言葉にどよめきが起こる。すると視線は俺の方へ。後ろに誰かがいるのかと思い振り返ると誰もいない。訳がわからないので首を傾げてみる。

 

 

「「「「だからお前だよ!!」」」」

 

 

またもや言われてしまったので仕方無く説明を始める。

 

 

「エクストラスキル。双剣です」

 

 

「あン?二刀流と双剣って具体的には何が違うんだ?」

 

 

「連続攻撃回数が双剣の方が多い。その分二刀流より攻撃が軽い。あとは双剣は二刀一対じゃないとダメ。同じ剣が二本でも双剣にはならない。双剣専用の武器がある。こんなものですかね?」

 

 

このスキルは意外とめんどくさいのだ。バグだし、専用武器しか装備できないし、最高攻撃回数が百の技が解放されるのはスキルポイント千だし、いろいろしんどい。

当然これに興味を浮かべたクラインは出現条件を聞いてきた。

 

 

「「解ってたら公開して(る)ます」」

 

 

俺とキリトは声を揃える。

まあそうだよなと唸るクライン。しかしこれほどの人数の前で、初見のスキルが二つも出てしまったのだ。瞬く間に広がってしまうだろう。

 

スキルの出し方さえ判明していれば隠しておいたりはしない、キリトはそう言うが俺に至ってはバグなのでどうしようもない。さすがにこのデスゲームでバグがあることが判明すると、かなりのパニックが引き起こされそうなので当然俺は沈黙を貫く。

 

俺もキリトと同じ答えだと判断したのか、深く頷いて言葉を続けるクライン。

あえて途中で言葉を止めてニヤニヤ笑いこう続けた。

 

 

「……まあ、苦労も修業のうちと思って頑張りたまえ、若者よ」

 

 

腰をかがめてキリトの肩を軽く叩くと、軍の生存者の方へ歩いていって声をかける。

一言二言話すと軍のプレーヤーたちは続々と立ち上がりキリトやアスナ、それとこちらに向かい頭を下げて部屋を出ていくと、次々に結晶を使い街に戻っていく。

 

 

「さてと、お前らはどうする?俺たちはこのまま転移門のアクティベートをしに行くが、お前らの誰かがやるか?」

 

 

ほとんど顔見知りの身内しかいなくなったところでクラインが問う。キリトたちが来る前から戦闘をしていた俺たちはもちろん、キリトも疲れきったのかそれを断る。

クラインは仲間に合図をして部屋の奥の扉へと歩いていく。しかし扉の前で立ち止まり振り返ると、大きな声でこう言った。

 

 

「キリト!!おめぇが軍の連中を助けに飛び込んだ時よぉ……オレはなんつうか、嬉しかったよ。そんだけだ、またな!!」

 

 

意味がわからないと言った風に首を傾げるキリト。だが俺にはわかる。キリトはこのデスゲームを通してどんどん変わっていっている。それがわかるのが俺だけではないことを知り、少し嬉しくなった。

 

 

「……おい、アスナ……そろそろ……」

 

 

まだキリトの肩に頭を乗せているアスナに向かい声をかけたキリト。

 

 

「……怖かった……君が死んじゃったら……ううん……クゥドくんがいなかったら絶対死んでた……」

 

 

その声はアスナの物とは思えないほどにか細く震えていた。

 

 

「そうか、クゥすまなかったな」

 

 

「おうよ、気にするな」

 

 

俺は軽く返事をするだけに留めておく。というかこちらに声をかける暇があったらアスナを慰めんかい、などと内心思っている。ボソッとキリトがアスナに呟き、肩を引き寄せたのを見て俺は精神的ダメージを喰らう。

 

 

「なあ、なんでこの部屋はクリスタル無効化なんだ?ふざけてんのか?俺のキリトくん成長記録に残せないじゃないか……!!」

 

 

「本当にこの部屋がクリスタル無効化で良かったです」

 

 

シリカの言葉にうんうんと頷くケイタとテツオ。

これはあとで抗議をしなければならない。本当にこれだけは許せなかった。俺は今、茅場に一番憎しみを抱いているに違いない。

三人に背中を押されながら部屋を後にする。どうしてもそのあとが見たい俺は必死に抵抗するも、呆気なく転移結晶で街に戻らされた。

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、俺はゆったりとした時間を過ごしていた。エクストラスキルがバレたにも関わらず、俺の所へは誰も来ていない。何故かと問われればいつものギルドホームにはいないから、としか言えない。昨日の夜、即座にあの場にいなかった三人へ連絡し、こういう時の為に残しておいた旧月夜の黒猫団のギルドホームへと寝床を移動したのだ。

しかし俺のゆったりとした有意義な時間は、突如終わりを告げる。メッセージが届き差出人を見ると顔をしかめる。そこに書いてある名前はヒースクリフ。この前対面したときにフレンド登録をしておいたのだ。内容は至ってシンプル。クラディールを倒した女の子を連れて本部まで来い、とあった。

 

それからシリカを呼んで五十五層までわざわざ赴き、本部に入り長い道のりを経てヒースクリフの待つ部屋へ入る。するとそこにはヒースクリフ以外にも四人のプレーヤーがいたが、誰も見覚えがないのでスルーした。

 

 

「久しぶりだね、クゥド君。すまないが少し待っていてくれないか。あと一人ここに呼んでいるのでね」

 

 

「うえー、めんどくさっ。帰っていい?」

 

 

俺の乱雑な言葉使いに血相を変えて立ち上がろうとした男が一人、それを手で制した。

 

 

「そう言わないでくれないか?君にとっても恐らく重要な話になると思う」

 

 

そう言われたら引き下がるしかない。シリカはさっきからオロオロしてるだけだし、なんで連れてこさせたのか。俺にとっても重要ということは恐らくシリカが関係するはずだ。そんなことを考えていると後ろの扉が開き二人のプレーヤーが入ってきた。振り返るとそこにはアスナとキリトの二人が驚いた顔をしてそこにいた。

 

 

「クゥドくん?シリカちゃん?………どうしてここに?」

 

 

「どうしても何もあれに呼ばれたんだよ。それも直接」

 

 

そう言ってヒースクリフを指で示す。さすがにそれには我慢がならなかったのか四人のプレーヤーが全員立ち上がろうとした。しかしヒースクリフが視線で牽制すると大人しく座り直した。

俺の言動にも驚いたアスナだが、そのまま俺の脇を通り抜けヒースクリフの前まで歩を進めて言った。

 

 

「お別れの挨拶に来ました」

 

 

そこから三人でやり取りが交わされる。その間俺とシリカは手持ち無沙汰となり、本当に来た意味があるのかわからなくなっていた。いつの間にかキリトとヒースクリフがアスナを賭けてデュエルすることになった。それを欠伸を噛み殺しながら見ていると不意にこちらに話を振られた。

 

 

「先程も言ったようにこちらも戦力は常にギリギリなんだ。だからクゥド君、シリカ君、二人さえ良ければ是非うちのギルドへ入ってくれないか?なに悪いようにはしないさ。クゥド君は私と同じユニークスキルの使い手、シリカ君もクラディールを倒した腕があれば充分だ。すぐにメンバーにも認められるさ」

 

 

「……興味なし。それに俺はこれでもギルドマスターなんですー。自分のギルドを捨てる訳がないだろ」

 

 

「すみませんが私もお断りします。今のギルドが好きですし、攻略に全てを賭ける気にはなれません」

 

 

二人して丁重に断りの言葉を投げつける。何より俺のギルドのメンバーは全員俺が誘って入ってもらった人材である。一人でも渡そうとは思わない。

 

 

「というかさ……忘れてると思うから言っておくけど、キリも名前はうちにあるからな?」

 

 

キリトがそうだった、とでも言いたげな顔でアスナとヒースクリフ、俺を見る。アスナは不幸中の幸いとばかりに顔を明るくしたが、次に出たキリトと俺の言葉に唖然とした。

 

 

「クゥ……すまんが脱退させてくれ。どうしてもやらなきゃいけないんだ……」

 

 

「あいよー」

 

 

呆気なくキリトの脱退を認めてきちんとした条件まで持っていく。アスナは口をパクパクさせて何かを言おうとしていたが、驚きで声が出ないようだった。俺たちはそれをスルーして話を続ける。場所は新たに開通した七十五層の主街区となった。時刻は追って連絡するとのことでその場はお開きとなった。

 

 

アルゲードのエギルの店の二階でアスナはキリトを責め立てていた。俺たちは全員部屋から追い出され、一階に蹴り落とされた。仕方がないのでシリカにはエギルの店の手伝いをしてもらっている。

では、なぜ俺が中の様子をわかっているのか。それは簡単だ。俺は蹴り落とされた程度で、諦めるような人間ではないということだけである。ただの野次馬根性。それだけで後の事を全く考えず、扉を薄く開けて記録結晶にて撮影をしている。

 

 

キリトが座っている椅子のひじ掛けに腰を乗せているアスナは、小さく拳を作りぽかぽかという擬音がぴったりな強さで叩いていた。キリトが拳を掴まえて軽く握ると、少々顔を赤くしながら今度は頬を膨らませた。

 

なんですか、このギャップは。萌えそうになるのを懸命に堪えて撮影を続ける。

ほとんど声が聞こえないので、バレるのを承知でさらに扉を開く。耳を澄ませてようやく声が聞こえた。

 

 

「…………負けたら私がお休みするどころか、キリトくんがKoBに入らなきゃならないんだよ?」

 

 

どうやら扉が開いていることには気づいていないようだった。更に耳を澄ませて一言一句聞き逃さないよう、一挙手一投足録り逃さないように神経を集中させる。

 

 

「考えようによっちゃ、目的は達するとも言える」

 

 

「え、なんで?」

 

 

「その、俺は、あ……アスナといられれば、それでいいんだ」

 

 

キタキタキタキタ――――――――――ッ!!!!

いいぞ!!よく言った!!緊張で声が若干震えてたし、どもっていたりしたが合格点だ!!

 

 

「……もう、バカ……」

 

 

そう言ってアスナはキリトの肩に頭を預けた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで俺はついに我慢出来なくなってしまった。

扉が邪魔な物に思えてしまい、立ち上がると同時に開け放った。二人がビクンッ!!と反応してこちらを振り向く。その顔はみるみる赤くなっていた。そして二人に背を向けて思いきり叫ぶ。

 

 

「キタコレ―――――ッ!!!!」

 

 

言い逃げするように、記録結晶に保存、ドタバタと階段を駆け降りる。二人が意識を取り戻したのか慌てて追いかけてくるのを背後に感じられた。一階に降りて手伝いをしているシリカに記録結晶を渡す。

 

 

「それ絶対無くしたり誰かに渡したりすんなよ!!そんなことになったら絶交だかんな!!」

 

 

シリカは記録結晶を受け取ると、あわあわしながら自分のストレージにしまった。それを確認してから店の扉を開き、人の波を掻き分けながら逃走を続ける。後ろからはいつかのように二人が凄い形相をしながら追いかけてくる。

 

今回は俺が勝てるようだ。目の前には転移門、二人はまだ遠い。

 

 

「転移。始まりの街」

 

 

それだけ言うと視界が青く染まり始める。俺は笑いながら二人に手を振り、眩い光に当てられ目を閉じた。

 

 

 


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