二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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ユイを見つけた次の日、俺たちは約束通りに迷宮区の攻略をしていた。出てくるモンスターは七十四層の時とあまり変化はない。しかしモンスターのPOP数は格段に上がっており戦闘回数は自然と多くなっていた。恐らく迷宮区の上部辺りであろう、まだマッピングされていない所を隅々まで攻略していく。骸骨の剣士を次々と硝子片に変えていく中、道が途中で切れた。どうやらこちらの道は先へは行けない行き止まりのようだった。来た道を戻り、分かれ道を別の方向へ進む。この階は先程の行き止まりを含めれば、大体マッピングされたので今進んでいる道が次の階へ続く階段があるはずだ。

 

しばらく進むと予想通り階段を見つけた。階段の前は大きな広間となっており罠があります感満載な見た目であった。様子を見てみると俺たちが来た道と、他の通路から繋がる道が二つで、そこの広間から通路が三つほど伸びていた。

 

 

「……クゥさん、どうしますか?」

 

 

「どうするも何も俺らが一番最初みたいだし、行くしかないだろうよ」

 

 

まずは俺が広間に入る。続いてシリカ、ケイタ、テツオと順番に入ったところで全ての通路が塞がれて閉じ込められる形となってしまった。

 

 

「やっぱり罠かよ……かあーッ!!めんどくせえ!!」

 

 

「そう言うなテツオ。最初からわかってた事だろう。さっさと倒して攻略を続けよう」

 

 

ケイタが言うとそう簡単にはいかないとでも言いたげに目の前に二体の骸骨剣士が出てきた。通常の骸骨より一回り巨大な体をしており、俺たちの二倍はあろうかという大きさであった。HPバーはそれぞれ二本あり、恐らくはこの迷宮区の小ボス扱いだと思われた。

 

 

「テツオとケイタは左の骸骨!!シリカは俺と右の骸骨だッ!!それぞれ倒したらもう一方の戦線に加われッ!!言うまでも無いが最優先は自分の命!!以上だ!!戦闘開始!!」

 

 

そう言ってまずは俺とテツオが飛び出しそれぞれ別の骸骨へ攻撃を当てる。すると骸骨のタゲが俺とテツオに別れる。敵を引き寄せながらお互い離れて戦闘を始める。二対四で戦うよりも、一対二で戦う方が意識を一体に集中できる。そうすることで早期決着も望める。俺が壁役、シリカが攻撃役でスムーズに骸骨のHPを減らしていく。Mobの骸骨より攻撃力や防御力は高いものの、使うスキルなどは一緒であり見極めも容易い。特に手こずることもなくシリカのソードスキル、トライ・ピアースで一気に巨大骸骨のHPは削れていきすぐにゼロになった。

もう片方の骸骨の方に目をやるとこちらもすでにHPバーは危険域の赤になっており、ケイタの一撃でゼロになったところであった。二つの骸骨がパリ――――ンと体を青い欠片に変えると同時に、閉まっていた扉全てが上に開き、階段及び通路へ続く道が開けた。俺たちはすぐに階段を駆け上がると、先が長く幾つにも枝分かれしている通路が飛び込んできた。

 

一番最初に上がってきたのでまだ宝箱などは開けられていない。まだ見ぬレアアイテムがあればと思い左の通路から順番にマップを埋めていく。うろちょろしているMobを斬り倒しながら進んでいく。どうも階を上に行く毎にモンスターのPOP数が増えている気がした。二十五層と五十層の二つの区切りの層でもそうだったことを思い出し、それならば七十五層もそうであっても可笑しくはなかった。

 

大体この階全体の三分の一ほどマッピング出来ただろうか、というところでいい時間になったので今日の所はこれまでということになり、ホームまで引き返した。

 

 

 

 

その六日後、ついにボス部屋へと続く扉を発見した。一番最初に見つけたのは俺たち四人。テツオはボスの姿だけでもと扉を開き入ろうとしたのだがそれは俺が止めた。原作知識など薄れてしまったが、今までの区切りの層のボスの強力さと、前の層のボス部屋が結晶無効化空間だったことを考えて結果を伝えると、納得してくれたのか満場一致で大人しく引き返すことに決まった。それに部屋の前に立っているだけで嫌な感覚が止まらないのだ。とりあえずは他の攻略組にも伝えるため街に戻った。

 

攻略組を集めた緊急攻略会議でボス部屋を見つけたことと、偵察には万全を期すべきだと伝えると、ヒースクリフはギルド合同のパーティ二十人を偵察隊として指名した。その中に俺たちの名前はなく、どうやら大規模ギルドの精鋭から選んだようだった。会議が終わると偵察隊以外は解散となる。結果はしばらくわからないがギルドホームで待つことにした。

 

その日の夜ギルドリーダーに送られる一斉送信のメッセが届いた。そこには不穏なことが記しており、俺はいつもの三人を連れて会議場へと急いだ。そこにはすでに風林火山のメンバーや慣れ親しんだギルドのメンバーが揃っていた。会議場の中央に立っているヒースクリフが重苦しい空気の中話し出した。

 

 

「今日の昼頃送り込んだ偵察隊の二十人の内十人が帰って来なかった」

 

 

ヒースクリフの言葉に周りが浮き足立つ。仮にもヒースクリフが選んだ精鋭が十人も死んだのだ。周りがこうなるのも仕方がない。

 

 

「話によると十人が後衛としてボス部屋入口で待機し、最初の十人がボス部屋の中央に到達し、ボスが出現した瞬間に入口の扉が閉じたそうだ。それからは何をしても扉は開かなかった。五分以上たち、ようやく扉が開いたのだがそこには十人の姿も、ボスの姿もなかった。転移結晶を使った形跡もない。念のためモニュメントの名簿を確認させに行かせたのだが―――」

 

 

長い台詞のあとに首を左右に振って、その先は言葉にしなかった。

 

 

「そこで私は考えた。今回はボスの出現と同時に退路も絶たれてしまう構造らしい。ならば統率の取れる範囲で可能な限りの大部隊をもって当たるしかない。もし怖いのならばこのまま帰ってくれて構わない。これほど危険なものでもボスに当たっていく勇気のあるものだけ残ってほしい」

 

 

ヒースクリフの言葉に反応して帰る者が多数出てきた。一人、また一人と会議場を去っていく。今回ばかりはリーダーも何も関係ない。風林火山からも何人か離脱するメンバーが見えるが、リーダーたるクラインはそれを気にすることなく笑顔で送り出していた。それを見る限りではクラインも参加するようだった。他にもどうやってこの会議を嗅ぎ付けたのかエギルの姿もあり、彼も残っていた。俺も漏れることなく三人に声をかける。

 

 

「三人とも、できれば帰ってほしい。俺は皆を死なせたくない」

 

 

「クゥさんが残るなら私も残ります」

 

 

「だなー。一度命を救われてんだ、ここは絶好の恩返しのチャンスだろ」

 

 

「俺も同意見だな。テツオとサチ、二人を助けてくれた恩返しをさせてほしい」

 

 

どうやら三人とも帰る様子は微塵も見えない。そして帰る者がいなくなった所でヒースクリフが人数を数えた。残ったプレイヤーは三十四人。誰も彼もが歴戦の猛者たちばかりである。

 

 

「ふむ……それならば明日の午後一時に七十五層コリニア市ゲートに集合。それまでは各自、自由だ。では解散」

 

 

そう言うとヒースクリフは颯爽と会議場を去っていった。まさかここまで大変だとは思ってもみなかった。結晶無効化空間に加え、ボスが出現した瞬間に入口が閉じるとはもうムリゲーに近い。命を大事にを選択しても回復がポーションのみでは心許ない。慎重に慎重を重ねても足りないくらいにはなりそうだった。それにしても明日午後一時まで自由時間か。とりあえず帰って全てのステータスをMax値に戻さないといけない。

 

 

「よおー、おめェらも参加すんのな。当日はお互いやられねえように気をつけようぜ」

 

 

気さくに話しかけてきたのはクライン。その後ろには参加することを決めた風林火山のメンバーが二人程いた。

 

 

「どうも。風林火山は随分と小さくなりましたね」

 

 

挨拶がてらのちょっとした嫌味を飛ばす。それでも嫌な顔をしないのだから、予想以上に出来た人間だ。

 

 

「今回はな……なるべく参加させたくねェんだよ。これでもギルメンの命背負ってんだ、本当はコイツらにだって帰ってほしかったんだがよ」

 

 

そえ言って後ろのメンバーを差すのだが、自身たちはどこふく風である。どうやら俺についてこい以外の命令を受け付けないように出来ているようだった。

 

 

「本当にメンバーに愛されてますね。男ばっかですけど」

 

 

「くぅぅううう!!どうしてキリトの野郎はあんな可愛い彼女が出来たのに俺にはできねえんだよッ!!」

 

 

「下心が丸見えだからじゃないですかね?黙ってればいい男なのに、喋るせいで台無しにしてますよ」

 

 

「なんだとッ!!俺に喋るなって言いてえのか!?そんなことじゃあアプローチもかけられねえよ!!」

 

 

「だからそういうのがいけないと言ってるのに……」

 

 

これから大事な一戦を目前としているのにいつもと変わらないやり取り。内心は誰もが不安で仕方ないはずだが、それを押し殺して普段通りにしている。目の前のクラインもそうだろう。だからわざとらしく大声を張り上げて緊張を解そうとしている。俺は別の意味で落ち着かない。きちんとキリトたちが来てくれるかそれが問題でもある。新婚さんなのにごめんと今のうちに心で二人に謝っておく。

 

 

「それじゃあ今日はこの辺で……また明日頑張りましょう」

 

 

「おう!!ぜってえボスをぶっ潰そうぜ!!」

 

やっぱりクラインはこういう時のリーダーシップは人一倍強い。男は案外クラインみたいな男に惹かれると思う。普段は下心満載なのにこと戦闘となると別人のようになる。このギャップが格好良かったりするのである。俺だって多少ならずクラインに憧れみたいな気持ちはあった。誰にでも物怖じしない性格と裏表のない明るさ、多分女よりも男に好かれるタイプであるのは間違いない。だから友人も男ばかりが集まって女は逃げてく。しかしこれを教えても結局は意味がない。クラインはクラインなので仕方がないとしか言い様がなくなる。

 

さて、と長いクライン思考に区切りをつけてギルドホームへと戻る。道中、特に目立った会話もなく静かに戻る。これもいつも通りといえた。ボス戦が始まる前のいい緊張感が生まれている。リズたちもそれを感じ取り、余計な事は言わないでおいてくれている。それぞれ部屋に戻ると不意に俺の部屋の扉がノックされた。

 

 

「開いてるよ」

 

 

入って来たのはシリカだった。寝巻き姿であり、なぜか枕を持参していた。

 

 

「どしたの、シリカ。そんな格好で……風邪ひくぞ」

 

 

「……二人の時は珪子って呼んでください」

 

 

「お前なあ……それはネトゲではタブーだぞ?わかってんの?」

 

 

「それくらいわかってます。それでも二人の時はそう呼んでほしいんです。……ダメですか?」

 

 

シリカはこれだけは譲らないぞっていう目をしていた。しかも目元が若干ウルウルしてる気がする。そんな目で見られたら断りきれないのは明白であった。

 

 

「……はあああ、二人きりの時だけだからな」

 

 

「………ッ!!ありがとうございます」

 

 

長い溜め息をついて結局は俺が折れると、シリカは満面の笑みを見せて礼を言った。シリカはこちらに近づいてきて俺のベッドに腰をかける。もともと俺もベッドに座っていたので、その隣にシリカが座ったため二人の距離はゼロに近くなっていた。すると俺の手にシリカの手が重なる。シリカをよく見てみると体が小刻みに震えていた。

 

 

「ほら、言っただろ。そんな格好でいたら寒いに決まってんじゃない」

 

 

「違います。寒くて震えてるんじゃありません。むしろ体は暖かいですよ?こうしてクゥさん―――夏希さんと手を繋いでますから」

 

 

本名のことを突っ込もうとしたが、別にシリカならいいかと思ったのでそのままにした。それにしても恥ずかしいことを堂々と言えるその肝はどうなってんだと問いただしたい気分になった。それも空気を読んで華麗なスルースキルを発動させる。

 

 

「それならどうして?」

 

 

俺の質問に震える声で答えた。

 

 

「私……本当は怖いんです。今までのボス戦より格段と苦戦しそうで……もしかしたら明日で終わっちゃうかもしれないって考えると不安なんです……」

 

 

「それは毎日がそうだったじゃないか」

 

 

「それはそうですけど……今回は危なくなっても結晶は使えない、入口からも退避できない、こんなこと初めてじゃないですか……」

 

 

確かにそうだ。というかこんなムリゲー具合が前半から続いていたら全員クリアを諦めるだろう。

 

 

「でも、夏希さんといたらそんな不安も無くなるような気がして……だから今日は一緒にいたいなって……迷惑でした?」

 

 

微笑、というのだろうか。儚げな笑い方をしたシリカは、俺の目には今までのどのシリカよりも脆く写った。それに恐らく今日がアインクラッドで過ごす最後の夜となるはず。最後くらいはいいかなと自分に言い聞かせる。結局は最後までシリカの甘えに抵抗できることなく言われるがままに許してしまった。まあそんなことがあってもいいんじゃないだろうか。人間だもの、いつだって誰かに負けて誰かに勝つのだ。今回負けた相手がシリカだったということだけだ。惚れたら負けだなんて先人は上手いことを言ったもんである。

 

俺はそのままベッドに横になり布団に入る。シリカもおずおずと俺の隣に入ってきた。俺が何も言わないでいるのを了承と取ったのか、さらにシリカは布団の中で手を絡ませてきた。

 

 

「……ねえ、夏希さん……手…繋いでいいですか?」

 

 

「もう繋いでんじゃん」

 

 

「ふふっ……そうですね……それじゃあ、手を繋いだまま寝てもいいですか?」

 

 

「……好きにすればいいよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

しばらくするとシリカの整った呼吸音が聞こえてきた。この状況でしっかり寝られるとはどれだけ信用されてるのか。好きな子が隣で寝てるのに我慢できる男がどれだけいるのだろう。というか眠れる気がしない。しかしそれでも体が正直なのか脳が正直なのか、早く睡眠を取れと訴えかけてくる。次第に目蓋が重くなりそのまま睡魔に身を任せた。

 

 


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