二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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33!!

 

 

 

二〇二四年十一月七日、午後一時。アインクラッド第七十五層コリニア市ゲート。そこには計三十六名の攻略組プレイヤーが揃っていた。これから七十五層のフロアボスの討伐が始まる。これだけ少ない人数は初めてかもしれない。それだけこれからの戦いが過酷な事を表しているようでもあった。周りを見渡すとキリトやアスナを始め、どこから見てもハイレベルプレイヤーとわかる者たちばかりだ。単純なレベルならここで俺を上回るのはやはりヒースクリフのみであろう。そして恐らくギルド的な強さでもメインが全員揃っており、なおかつ連携も阿吽の呼吸と呼べるところまで昇華させたゼロの騎士団が今回では一番上だと言えると思う。

 

俺とシリカはレベルを大台の三桁に乗せ、ケイタとテツオも九十半ばまで上がっている。人数さえ同程度ならばどこのギルドにも負けない自信がある。俺たちはそこまで強くなっていた。それでも今回のボス戦は懸念材料が尽きない。ヒースクリフは団員を四人引き連れて現れた際キリトの方へまっすぐ向かった。キリトの側にはアスナ、クライン、エギルなど見慣れたプレイヤーがいた。俺たちはキリトたちのやり取りを少し離れたゲートの隅の方で見ていたが、特に長話などする様子もなくヒースクリフはこちらに向き直り言葉を発した。

 

 

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――――解放の日のために!!」

 

 

周りを震わせるような叫び。それに答えるように集まったプレイヤーたちが声を上げる。そのあとに一瞬だけだがヒースクリフと視線が重なった。しかし俺からはすぐに視線を外しキリトへと声をかけていた。ここからではなんて話したのかわからないが、キリトが重苦しく頷くとそれを見たヒースクリフは腰のパックから濃紺色の結晶を取り出した。

 

ヒースクリフが取り出したのは《回廊結晶》という名のアイテムである。これは任意の地点を記録し、そこに向かって瞬間転移ゲートを開くことができる素敵アイテム。しかしこれは非常に希少度が高く通常の転移結晶は高値だがNPCショップでも買えるが、それとは違い迷宮区のボックスか、強力なモンスターからしかドロップしない。

 

まあ、管理者権限でどんなアイテムも手に入るのだからこれを使うことに躊躇いはないだろう。「コリドー・オープン」の言葉とともにヒースクリフの目の前に青く揺らめく光の渦が出現した。すぐにヒースクリフとKoBの四名が渦の中に入っていき、それを皮切りに次々とボス戦に参加するプレイヤーが入っていく。隅の方にいた俺たちは自然と最後方となる。

 

 

「そんじゃあ、行きますか」

 

 

「頑張りましょう!!」

 

 

「さくっと片付けてさっさと次に行こうぜ」

 

 

「七十五層でこれだと先が思いやられるな」

 

 

ある種の戦闘前の鼓舞をしてから渦に向かう。その際キリトたちを追い越して軽く肩を叩き視線を合わせる。キリトが頷き俺は笑う。そして渦をくぐると軽い目眩にも似た感覚がある。それが終わるのを目を閉じながら待つ。平行感覚が戻り目を開けると、そこはすでにボス部屋の前であり最初に発見した時と同じような感覚に襲われる。今までにない緊張感が俺を含めたプレイヤーたちにのし掛かってきた。いつの間にか回廊結晶によってできていた渦は閉じており、その後には何事もなかったかのように通路が伸びていた。俺らのあとにくぐった筈のキリトらの姿がなぜか見えないので視線を動かす。それだけでは見つからなかったので足を動かして探し始める。すると通路の柱の影に二人の姿を見つけた。ちょうど他のプレイヤーたちからは死角となっており、探そうと思う余裕がなければ見つけられないだろう。

 

 

※以下主人公の妄想

 

 

「……なあ、アスナ…」

 

 

「え……どうしたの?キリトくん」

 

 

キリトはアスナを抱き寄せた。アスナは驚いてはいるものの、嫌がるような素振りは見せていない。よく見るとアスナを抱き寄せたキリトの腕は微かに震えているようだった。まるで自分の中の何かを押さえつけているようにも見える。

 

 

「俺、もう我慢できない……」

 

 

「え!?ちょっとこんなところで!?さすがにまずいよ!!」

 

 

二人は耳元で囁くようにやり取りをしているせいで、こちらからは何を言っているのか聞き取れない。

 

 

「頼むよアスナ……いいだろ?」

 

 

「……もう、ちょっとだけだからね……」

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

そして二人の姿が重なっ……

 

 

※ここまで全て遠目から二人を見ていた主人公の妄想

 

 

……た?……っは!!どこからか視線を感じる。

 

 

「「「……………」」」

 

 

うちの三人が残念なものを見るような目で俺を見ていた。

 

 

「……よーし!!ボス戦頑張ろうぜ」

 

 

「バカ」「アホ」「最低です」

 

 

どうやら全て聞かれていたようだった。

 

 

「そんなことしてる暇があったらさっさと装備とかチェックしてください」

 

 

「おおう、シリカが冷たいよ」

 

 

そう言いながらウィンドウを操作し双剣を装備する。すると腰の辺りに鞘が出現した。後ろから見ればちょうど腰で鞘が交差しているだろう。ちなみに抜くときは両手とも逆手である。不便なので鞘の位置を変えたかったが無理なのは実証済み。

キリトとアスナの二人もいつの間にか柱の影から出てきており準備は万端。あとは戦うのみである。ヒースクリフがボス部屋の扉を開け先陣を切って飛び込みその後ろにKoBのメンバーが続く。そして全員が部屋に入りボスの姿を探すために立ち止まる。すると背後で扉の閉まる音が聞こえた。これでボスを倒すか自分等が全滅するまでここから出られなくなったわけである。全員が床一面に注意を払うなか俺は壁や天井を見る。するといた。骨だけで形成されている百足のようなボス。姿をしっかり確認し叫ぶ。

 

 

「上を見ろ!!」

 

 

プレイヤー全員が視線を上に向ける。無数の脚を蠢かせ天井を這うようにして動いていたモンスターは不意に脚を広げて落ちてきた。

 

 

「固まるな!!距離を取れ!!」

 

 

ヒースクリフの鋭い叫び声とともに全員が落下予測地点から距離を取る。しかしモンスターのほぼ真下にいた何人かのプレイヤーが、どこに移動していいか迷うように立ち止まっていた。

 

 

「こっちだ!!」

 

 

キリトが叫ぶ。その声に反応してそちらに向かうプレイヤー。だが直後に落下してきたモンスターの着地の時の地響きにたたらを踏んでしまう。しかしそこでなんとか転ばないように踏ん張ろうとする。そこを狙うようにして骨百足は、右腕にあたる部分についている鎌を振るおうとしているのが見えた。

 

 

「逆らうな!!そのまま一度コケろ!!」

 

 

瞬時に俺の言葉に反応できたのは五人のプレイヤーのうち三人。残る二人は鎌の攻撃を喰らってしまう。その二人のプレイヤーはみるみるうちにHPバーを減らしていき、地面へ辿り着く前にその体を青い欠片にしていった。

 

 

「一撃…だと……?」

 

 

誰かが呟く。目の前で散ったのを見て助かった三人は喚きながら攻撃圏内から離脱した。ここにいるプレイヤーは全員が高レベルである。それが一撃死したともなればパニックは広がる。それも物凄く早い速度で。

 

一瞬にして二人の命を奪ったボスは雄叫びを上げると、新たなターゲットを求めプレイヤーの集団に突進していく。その方向にいたプレイヤーは恐怖に悲鳴を上げる。再び鎌が振り下ろされる瞬間、その真下に飛び込む影があった。最強のプレイヤーことヒースクリフである。巨大な盾で鎌を迎撃すると激しい火花とともに衝撃音が聞こえる。しかし鎌は右だけではなかった。それは左腕にあたる部分にもついており、それを凍りついたプレイヤーの一団に突き立てようとした。しかしそれも防がれる。黒ばかりの装備品が目立つ、よく知る顔―――キリトが剣を交差させ防ぐ……が押しきられそうになっている。それを防いだのは、こちらもよく知る顔となったアスナ。下から鎌に攻撃を命中させ、勢いが削がれたところをキリトがありったけの力で押し返し難を逃れる。

またボスの攻撃が繰り出されるが、それは二人の息のあった攻撃で鎌を弾き返してしまった。それは完璧なシンクロ。俺たちはそのチャンスを逃さないように側面へ回る。するとすぐにキリトの声が聞こえた。

 

 

「大鎌は俺たちが食い止める!!みんなは側面から攻撃してくれ!!」

 

 

俺たちから遅れて他のプレイヤーも側面へ回る。俺たちはその時にはすでにスキルで攻撃を始めていた。四人の攻撃が終わった直後、ボスのHPバーを確認すると四本のうちの一本目が五分の一辺りまで減っていた。攻撃力もだが防御力もかなり高いように見える。見た目は脆そうな骨だけのモンスターなのに。するとボスは槍のような尾を使い攻撃を始めた。尾の付近にいたプレイヤーが悲鳴を上げながら飛ばされていく。こちらも鎌程の攻撃力はないものの、一気にゲージを削られているようだった。

 

 

「……ちっ、今度は尻尾かよ……行くぞ!!」

 

 

俺は悪態をつきながらもそれを止めるべく走り出す。後ろからはしっかりとギルメンの三人がついてきている。到着したときに見えたのは、尻尾がまるで別の生き物のように振り回されているところであった。正に縦横無尽、縦かと思えば横に薙ぎ、横かと思えば上から叩き付けられる。両方を警戒しても尻尾の先端についている槍で突かれる。どう対処していいのかわからず、一方的に攻撃を受けるばかりであった。

俺たちは尻尾を挟み左右に分かれる。尾が振り払われるタイミングに合わせてスキルで攻撃を相殺する。それは鎌と対峙しているキリトたちと同じ方法であり、周りに被害が出ないよう弾き返す。

 

 

「尻尾は任せろ!!これは俺たちが引き受けた!!」

 

 

鎌を迎撃しているキリトたちにも聞こえるように大声で叫ぶ。二人が落ち着いて鎌に対処できるように。すると再び尾が振り上げられる。全神経を集中させどのような攻撃でどちらに仕掛けてくるのか観察する。尾の先がピクリと動いた。振り下ろされる軌道は俺たちのいる場所の反対方向。ケイタとテツオの方向だった。

 

 

「ケイタ!!テツオ!!」

 

 

俺が叫ぶ前にはすでにスキルによる迎撃準備、そして振り下ろされたと同時に発動させていた。どうやら心配はいらないようであった。二人は尻尾を弾き返してこちらに視線を向ける。その視線は大丈夫だと言っているようで安心して見ていられそうな物であった。そして次はこちらに振り下ろされる。

 

 

「シリカッ!!」

 

 

「大丈夫ですッ」

 

 

俺とシリカのリンクした攻撃によって尻尾を弾き返す。これならいけそうである。その間にも他のプレイヤーによって着々とボスのHPは減っていく。ボスの攻撃手段は主に前方の鎌二本と尻尾での振り払いらしい。他の部分から武器のような物が生えてきたりはしていない。そしてその攻撃手段にはそれぞれ迎撃要員として何人もプレイヤーがついている。そのおかげか他のプレイヤーは攻撃に集中できていた。死なないことを最優先にしているので、攻撃するプレイヤーの入れ替わりが激しいが、それでもなんとかポーションを遣り繰りしてHPを回復させ戦線に復帰していく。

 

 

それをひたすら繰り返す。すると一時間はたっていないだろう。ボスがその体を青い結晶に変えて四散した。

 

 

 


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