二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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ボスがいなくなってからも今までのように歓声は起きない。全員が精神をすり減らし結晶無効化という中戦い切り、その場で座り込む者や仰向けに倒れ込む者がほとんどだった。この場でそういう素振りを見せないのはヒースクリフただ一人だけである。

 

 

「何人やられた……?」

 

 

「……七人だ」

 

 

そう、一番最初の犠牲者以降も五人やられたのだ。決して手を抜いていたわけではない。それでも対応が追い付かず何人かはボスの攻撃の餌食となってしまった。俺は立ち上がる。するとヒースクリフは視線をこちらに向けた。その目は慈悲に満ちていて哀れむような物でもあった。その背後でキリトが音もなく立ち上がり剣を構える。スキルによって補正された動きで一気にヒースクリフまで距離を詰めた。ヒースクリフはそれに反応し盾を構えるが、その動きを予想していたかのような立ち回りでキリトは攻撃を当てた。しかしその攻撃は通らない。ヒースクリフの目の前で不可視の壁に阻まれたように剣が弾かれ、衝撃音が辺りに響いた。

 

キリトとヒースクリフの間に出た一つのメッセージ――――Immortal Object。それが見えた瞬間キリトに駆け寄ろうとしていたアスナが立ち止まる。他のプレイヤーたちも動けずにいた。

アスナがヒースクリフへ問いかける。それに答えたのはキリトであった。ヒースクリフのHPは何があってもイエローまで落ちない。システム的に保護されている、と。そしてキリトはヒースクリフが茅場晶彦であることを看破した。そしてそれを聞いた茅場は俺を見た。俺は何もしていないという意を込めて首を横に振る。再度キリトを見て気づいた要因を問う。キリトはデュエルの時のことを話した。すると納得したかのように頷きこう宣言した。

 

 

「―――確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

 

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

 

 

「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……彼を除けば君はこの世界で最大の不確定要素だと思ってはいたが、ここまでとは」

 

 

辺りを静寂が包む。その中で一人だけ動いたプレイヤーがいた。KoBの正規の服装に身を包み、なにやらぶつぶつと言ったと思ったらヒースクリフに向かって走り出した。そして巨大な斧を叩き付けようとしたが、それより早く茅場は左手を振りウィンドウを操作した。すると駆け出した男は急に動きを止め地面に倒れ伏した。

周りも似たように不自然な格好で膝をついたり、地面に倒れたりする者が相次いだ。それはすぐに俺にも襲いかかってきた。体が思うように言うことを効かず座り込む。HPバーは緑の枠が点滅しており倒れた全員が麻痺状態となっていた。

 

キリトと茅場は何かやり取りをしている。それは周りも聞こえているらしく、アスナやクラインなどが声を上げている。しかし俺の耳には届かない。ここは結晶無効化空間である。そのためウィンドウを開き結晶を取り出しても意味はない。それでも俺はなんとかウィンドウを出そうと力を振り絞る。印象に残っているSAO編最後のシーンを思い出す。キリトと茅場以外の全員が麻痺で倒れる中、アスナがキリトの前に飛び出しその刃を受けたことを。ならば尋常じゃない精神力があれば動くことは可能なはずだ。それを信じて懸命に左手を持ち上げようとする。しかひ腕は全く動かない。それでも諦めたらそこで終わりである。

 

その間にもキリトと茅場は壮絶な打ち合いを始めた。するとなぜか急に腕のみが動くようになった。理屈はわからないがこれはチャンスだ。ウィンドウを操作し新たな武器を手に出現させる。それは剣がものを言う世界では異質な武器―――銃である。

 

スキルカテゴリは射撃。

そしてまさかの二丁拳銃。

 

 

一丁は俺の左手へ、残りは座り込んでいる俺の腹の上に落ちてきた。茅場はキリトへ対応していて気づいていない。そしてキリトは終盤でシステムアシストがつくスキルを使ってしまった。スキルは茅場により作られた物だ。いつ、どのタイミングで剣が出されるのかをわからないはずがない。そしてその全てを防ぎきったあと、キリトの剣は一本折れ、スキル後の硬直に入る。そこを狙って茅場の剣がキリト目掛けて振り下ろされる瞬間、二人以外に動き出す影があった。もちろんアスナである。アスナはキリトの前に立ち庇うようにして茅場の剣を己の体で受け止めようとする。

アスナの体に剣が振り下ろされるタイミングを見計らい左手にもった銃を使う。聞き慣れない、パ――――ン!!という音とともに弾薬が経口から飛び出す。それは思い通りの軌道を描き、アスナの体に剣が食い込む前に茅場の剣へとあたる。キ―――ンという衝撃音が辺りを包んだ。誰一人として現状を理解できている者はいない。ただ一人、この状況を招いた俺以外は。

 

 

「さすがにアスナさんをやられるのは困るんだ。うちのキリのやる気が落ちるんでね」

 

 

「やはり君か……それにしてもその射撃スキルは投剣スキルと体術スキルの双方を極めなければ出現しないはずだが……どうしてそれを君が?」

 

 

「へー……そうだったのか。じゃああれじゃね?バグだよバグ。アスナさんはなぜか完璧に麻痺が解けてるし、俺も左腕のみだが解けてるんだ。ほら、お前のゲームには今更じゃないか」

 

 

とは言ったが実は両方ともスキルの数値は最大となっている。ヒースクリフがラスボスとわかっているし、こうなることもわかっていたので誰にも話さないで隠しておいたのである。わざわざ言う義理もあるまいし、いくらGMと言えど常に全てのプレイヤーを監視できるはずもない。

 

 

「それよりも、よそ見してて良いのか?ほら最強タッグがくるぞ」

 

 

茅場がキリトの方へ向き直るとすでに剣を振り上げた二人の姿があった。それを盾によって防御する。キリトの得物はダークリパルサーのみとなっている。それでも慣れ親しんだ片手剣、影響はあるが問題はないように見える。そしてその影響はアスナがカバーしていた。先程も見せた思考すらリンクしているような合わせ技。息も尽かせぬ応酬に徐々に茅場にも余裕がなくなり始めていた。そしてキリトやアスナのHPバーが減少するよりも速く茅場のそれが減っていく。ついに危険域のレッドに入り、止めとばかりに二人は猛攻を仕掛ける。するとその攻撃は茅場の持っていた盾を弾いた。それは茅場の手から離れ床に転がっていく。盾のなくなった茅場はなんとか持っていた剣のみで対応を続けるも追い付かない。

 

 

「「はあああああああああ!!」」

 

 

二つの剣が二つの軌跡を描いて交差する。そして茅場のHPバーがなくなった。

 

 

「この勝負、君たちの勝ちだ」

 

 

パリ―――――ン。

聞き慣れた音とともに茅場の姿が青い硝子片となり散っていった。そしてすぐにアナウンスが聞こえてきた。

 

 

ゲームはクリアされました―――ゲームはクリアされました―――ゲームは―――――

 

三回目のアナウンスが聞こえてきたと思ったら、俺の意識は急に暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

 

辺り一面が真っ白な空間、そこに俺はいた。病院でもなければアインクラッドでもないここはどこなのか。試しに歩いてみるも進んでいる感覚がない。どうしようかと考えていると不意に声がかかった。

 

 

「ここは君の精神の世界とでも言うべき場所だ」

 

 

声の方に視線をやるとそこには茅場晶彦がいた。

 

 

「なるほど…確かにここには君ではない君の記憶もあるようだ。すまないが勝手に見させてもらったよ」

 

 

「本当に趣味が悪い。人の過去を検索して何がしたかったんだ」

 

 

「なに、これから起こりうることに多少なりとも興味が出てきてね。まあ、それでも君が覚えている以上のことは残念ながら見れなかったのだが……一つ興味深い物があった」

 

 

勿体ぶるようにして口を閉ざす。さっさと先を言えと視線で促す。茅場はやれやれと嘆息すると続けた。

 

 

「私の後輩……須郷君が……と言っても後輩であること自体君の記憶で思い出したのだが、何かをやらかすようだね?これは餞別だ。その時に使うといい」

 

 

そうして茅場は俺に何かを投げ渡す。俺はそれをキャッチし見つめる。なにか結晶のような物だが使い道や用法がわからないでいた。

 

 

「それは一度きりだが私の権限を使用することができる物だ。ナーヴギアで私のソードアート・オンラインを軸にしたゲームをプレイするのならばどれにでも使用できるはずだ」

 

 

「なぜ俺にこんな物を?」

 

 

「言っただろう?君の過去からこの先の未来を見たと……その通りに進むのじゃあつまらない。あれとは違う未来にしてみたい、ただそれだけだ」

 

 

「それならば別に権限を渡す必要はないだろう?ただ俺が行けばそれだけで未来は変わる」

 

 

「……私も人間だ。そしてソードアート・オンラインは私の世界だ。そこへログインしたプレイヤーは私の世界の住人と言っても過言ではない。私はそう思っている。それを勝手に掠め取るような事をされては私でも不愉快になる。つまり代わりに仕置きをしてきてほしいだけだ」

 

 

簡単に言うと、自分のおもちゃを横取りされて面白くないから泣かせてこいという訳か。とりあえず利用はできるので、有り難く受け取っておくことにする。そして気になる点を一つだけ聞いておく。

 

 

 

「俺はこのあと人体実験のサンプルにされんのかね?」

 

 

「ここにいる時点でその線は消滅したと言ってもいい。あとは帰るだけだ、安心するといい。それに君がサンプルにされてしまえば、それも無駄になってしまうだろう?」

 

 

そう言って俺が受け取った結晶を指差す。

 

 

「それではそろそろ失礼するよ、私もいかなくてはならないからね。最後に……ゲームクリアおめでとう、クゥド君」

 

 

そう聞こえた。同時に目が眩み、思わず目を閉じる。そして次に来たのは自分が寝ている感覚。目を開けると電灯が見えた。さらに視線を左右に振ると窓と壁が見えた。自分の周りには何もなく、隣には花瓶に花が活けてある机があるだけだった。そして思う。

 

 

(予定通りかな?)

 

 

声帯が弱っているのか声が出ないことはわかっている。よろよろと立ち上がり他の病室へ足を運ぼうとする。キリトとは家が近所なので同じ病院に搬送された可能性が高い。病室の扉を開き点滴がぶら下がっている物を杖がわりにして歩く。病室を出た途端にガラガラと隣の病室の扉が開く音が聞こえた。そちらを見ると同じようにそれを杖がわりにして歩いてきたと思われるキリトの姿があった。

 

視線が合い、声は出ないが表情で笑う。

 

 

――――お疲れさま、キリ

 

 

――――お互いにな

 

 

 

どちらからともなく歩みより、震える体で拳をコツンとぶつけあった。

 

 

 





SAO編これにて完結!!


活動報告にてこれからの予定などを書きますので気になる方はそちらをご覧ください。

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