二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~   作:祭永遠

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十二月三十一日、今日まででなんとか用意出来たと言われたソフトの数は自分の分も含めて三つだけと聞いた。あれからもう一度だけ集まり、その時ログインは皆でやろうということが決まり、今日も全員が家に来ることになっている。

 

シリカとリズにはナーヴギアを持ってきてもらい、除夜の鐘が鳴り終え、挨拶をしてからログインすることとなる。初詣は別に一日でなくても構わないし、行くにしても昼頃だろう。皆もそう言ってたので遠慮なく三人でALOをプレイしようと思う。

 

 

今日は全員が夜になってから家に来る予定で、両親には予め家の近場で初詣をするため、現地集合じゃ集まりも悪くなりそうだから泊まりに来ると伝えてある。

この理由ならば全員で雑魚寝をしてて初詣に行くのが遅くなっても怪しまれないと思う。

 

これから俺は菊岡からソフトを受け取りに近くの喫茶店まで足を運ぶ必要がある。

そのため外出する準備をしてから家を出た。

 

外は寒く、雪は降っていないが、口から出る息が白く染まっていた。黒い皮の手袋をはめて自転車をこいで目的地まで向かう。菊岡はわざわざこちらまで出向いてくれるので楽だった。普通ならこちらから出向くのが礼儀だろうと思ったのだが、なぜかそこは譲ろうとしなかった。

もしかしたら菊岡は原作と多少変わっているのかもしれない。こちらから見た印象だと凄くいい人である。それでも原作ではキリトを巻き込みまくっているのだから油断は出来ない。警戒心が高いからそれを解こうとして、いい人を装っている可能性も否定出来ないためなんとも言えない状況である。

 

 

 

今回指定された場所は駅から少し離れている喫茶店、電車で来ればいいのにわざわざ車を出してまで駅から離れている所にするらしい。それには理由があるのだろうか、いまいち考えてる事がわからない。

 

 

ペダルを漕ぎ始めて十分ほどしたところに目的地が見えた。見たところ個人経営っぽきゃ気がする。木造の外観によくわからない模様がペイントされている。外に出てる看板には【喫茶店ルルー】と書いてあった。

 

店の入り口の端に自転車を止めて、しっかりと鍵をかけてから引くタイプの扉を開く。

 

店内は静まりかえっており、客がいる様子は微塵もない。この店の主であろう人に待ち合わせなのでテーブル席を使う許可を得て、 ブレンドコーヒーを注文する。

よく見るとメニュー表も手書きのようで、いささか字も古ぼけていた。

 

二、三分待つとすぐにコーヒーが出てきたのでそれを飲んで待っていると、十分ほどしたころだろうか、菊岡が扉を開けて入ってきた。そして俺の座っているテーブル席の対面側に座った。

 

 

「すまない、待たせたようだね」

 

 

「そんな待ってませんよ」

 

 

お決まりのやり取りをしてから菊岡も俺と同じブレンドコーヒーを頼む。

同じく二、三分で出てきたのだが、その間会話などなく、菊岡は何かを考えているような感じだった。

その沈黙を破ったのは菊岡、ソフトをテーブルの上に出す。

 

 

「これが今日までで手に入れられたソフトだ」

 

 

「ありがとうございます。これでもしかしたら目覚めない人たちの手掛かりが見つかるかもしれません」

 

 

鞄から出したALOのソフトを受け取り無くさないようしっかりとバックに入れる。

 

 

「……未だに半信半疑なんだが本当にそこにいるのかい?」

 

 

「それはわかりません、しかしSAOにいたアスナさん……この画像の女性は確かにALOにいます。ならば試してみる価値はあるんじゃないかと」

 

 

「それは前も聞いてるからわかっている。だからこそこうやって少しでも手掛かりを得ようとソフトを手に入れて君たちに託してるんだ。VRMMOのことなら僕らより君たちの方が詳しいからね」

 

 

「ならば何が言いたいんです?」

 

 

「僕らは……こうしてそこに閉じ込めた容疑者も探しているんだ……それでさっきの質問だ、そこにいるのかい?」

 

 

「もし目覚めない人たちがALOにいれば、少なくとも介入していることは確実です。それだけでも大きな前進となるでしょう?」

 

 

「……そうだね、僕は先を急ぎすぎているのかもしれない。それほどSAOからの事件は大変なものなんだ」

 

 

それはこちらもわかっている。茅場はあんなんだったが確かに天才であった。字面にしたら天災の方が正しいかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとしばらく近況を報告してから解散となった。

一応進展があればまた報告することにして、家に引き返す。自分の部屋に戻りSAO開始前にある程度書き溜めておいたノートを取り出し、改めてALO開始日を確かめる。

 

 

ノートには一月二十日にキリトがエギルから例の話を聞いてALOに飛び込むことになっていた。俺が教えてやれよと言う人もいるかもしれないが、原作でエギルが言っていたように確実ではないのだ。それでもキリトはなんの躊躇いもなく行くだろう。

 

だが、なぜ助けに行くのがキリトである必要がある?

どうせならロマンチックに、アスナが目覚めた時にキリトがベッドの脇にいる方が面白い……じゃなくて感動するだろう?

 

よって俺個人の目標としては二十日までにアスナさんを助け出す。無理ならキリトの力を借りる。これで万事抜かりなし、問題ない。

当然ながらデジカメはアルゴに渡してあります、病室の外からこっそりと撮ってもらう予定です。

 

盗撮?あの二人に関しては今さら過ぎてなんの罪悪感も湧いてこない、披露宴で流す予定なので多目に見てもらいたい。

ちなみにSAO生還者が通う予定の学校でもバッチリ活躍する予定なので大切に扱おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちてから数時間たち、我が家ではNHKの年末恒例歌番組を見ている。この二年の間によくわからないアイドルやら歌手やらが出てきて、その一部も紅と白に分かれて歌っていた。

 

アルゴは母となにか話しているが詳しい内容は聞こえない。やっぱり女の子も欲しかったんだろうな、なぜかいくら頑張っても俺の下は授からなかったみたいだ。もしかして父親の種全部死んだのかね?

 

そんなどうでもいいことは丸めてゴミ箱へ捨てておき、そろそろ皆が来る時間が近づいてきている。

 

 

「舞さん、そろそろ時間ですし部屋に行きましょ。母さん、前も言ったけど友達が来るから部屋で準備してくる」

 

 

「わかったわ。年越しそばはちゃんと人数分用意してあるから遠慮しないで言ってちょうだいね」

 

 

母親の言葉に頷き返してアルゴと部屋に向かう。

先ほどまでリビングにいたので、部屋の中は暖房など効いてるはずもなく、室内だというのに息が白くなる。テーブルの上に置いてあるリモコンを操作しエアコンの電源を入れる。

十分もするとだんだん部屋も暖まり、外から来た皆がついついあったけーと言える温度に設定をしてリモコンを元の位置に戻す。

 

 

それから三十分ほどたった頃だろうか、インターフォンが鳴り、母親か父親のどちらかが対応していた。自分で出るとは言っていたが、距離的にはリビングの方が近いし、何より二人して自分らが対応するから部屋にいろと言うものだからお言葉に甘えた。

 

どちらが対応したかわからないが、すぐに俺の部屋に案内されたらしく、階段を上がってくる足音が聞こえる。すぐに扉をノックする音が響いたので軽い返事を返す。

 

今日最初に姿を見せたのはシリカであった。

 

 

「今晩は、お邪魔しますね」

 

 

「おーう、今日はシリカが一番だな」

 

 

「クゥさん……リラックスしすぎじゃ……」

 

 

シリカにそんな事を言われた俺はベッドの上で仰向けに寝そべっている。脇を開いて肘を立て、視線の先には携帯電話のアプリを見つめている。

 

 

「おいおい、シリカさんや。今から気張っててもしょうがないって。まだ一日まで三時間近くあるし、本番はアスナさんを助けてからだ。それまでは急ぎつつもゆっくりいこう」

 

 

「クゥ坊、それは矛盾してるんじゃない?」

 

 

アルゴは部屋の中央に鎮座しているテーブルの前に座っている。シリカもそこに座るのかと思いきや、堂々と人のベッドに腰かけてきた。しかも座った場所が俺の頭の脇なので、ついついそちらに目がいくのは男として仕方がないと思う。

すると視線を感じ、目線を上げてみるとシリカがこちらを見ていた。

 

 

「……夏希さんのえっち」

 

 

シリカが少し頬を赤く染めて俺にだけ聞こえるように囁く。

クゥドに計り知れないダメージ!こうかはばつぐんだ!

 

 

一瞬だが電波を受け取ってしまったが、それほどシリカの台詞と表情の相乗効果はヤバい破壊力があった。危うくアルゴの目の前でシリカを押し倒してしまうところだった。

 

 

「……二人の時ならいつでもいいですからね……?」

 

 

うん、これは吐血する。

シリカも言った後になって恥ずかしさが込み上げてきたのか、目に見えてわかるほどに真っ赤となっている。

 

 

「はあ……二人とも?ピンクな空間作るのは二人の時だけにしてちょうだい……私には毒にしかならないわ」

 

 

「そそそそそんなピンクな空間だなんて……!!」

 

 

おろおろしてるシリカも可愛らしい。もうこの子は何をやってても可愛いんじゃないだろうか?切実な疑問である。

 

 

「……んんっ、クゥさん、一応ナーヴギアは持って来ましたがソフトは大丈夫ですか?」

 

 

シリカは軽く咳払いをして、恥ずかしさを誤魔化すようにして話を戻した。

 

 

「それは皆が来てから説明するよ。いちいち一人ずつ説明するのはしんどい」

 

 

そこからしばらく沈黙が続く。今さら俺らの仲間内で沈黙が気まずいなんてことはなく、思い思いのやり方で時間を過ごす。ちなみに俺の場合はアプリ、魔法少女なんちゃらフェイトとかいうものだ。このアプリ、物語はフェイトという主人公がいきなり異世界に召喚されたところから始まる。周りの召喚された人物は歴史上の偉大な人物なのに、なぜか彼女だけは別の世界の今を生きる魔法を使う女の子なのだ。

色んな世界観がごちゃ混ぜになってるようなアプリだが、なんとなく始めてしまったので空いてる時間でコツコツと進めている。

 

 

時計を見るとそろそろ十時を回ろうとしていた。その頃にようやく二人目のお客が来る。

 

 

「お邪魔しまーす!!はあああ……暖かいわねー……」

 

 

部屋に着くなりノックもせず、まるで自分の部屋のように上着をハンガーにかけてリズはアルゴの近くへ座る。

 

 

「お前なあ……一応男の部屋なんだからノックくらいしろよ」

 

 

「何よ、同じ屋根の下で一年くらい一緒に住んでたんだから今さらじゃない?」

 

 

「そうじゃなくて、俺は常識の話をしてるんだが……」

 

 

「こんなことすんのはアンタの部屋くらいよ。それより何か飲み物とかない?出来れば温かいヤツ!!」

 

 

「はあ……まあそれもお前のいいところか。ちょっと待ってな、持って来る。アルゴとシリカはどうする?」

 

 

最初の一言は一人言のように呟く。

ついでだからアルゴとシリカにもリクエストを聞いておき、リビングでえっちらおっちら飲み物の用意を開始する。

 

タイミングが良いのか悪いのか、その途中でズッコケ三人……仲良し三人組が現れた。

リビングから顔を出して挨拶を交わす。

 

 

「三人ともいらっしゃい、今飲み物持ってくとこなんだけど三人は何か飲む?」

 

 

「あっ……クゥ、ありがとう。なら私は紅茶が飲みたいかな」

 

 

「ようクゥ、邪魔するぜ。俺はコーヒーな、砂糖とミルクも忘れずに!!」

 

 

「今晩はクゥ。こんな遅い時間になって悪いね。俺もテツオと一緒でいいよ。砂糖とミルクはいらないけど」

 

 

「了解、淹れたら部屋に持ってくから先に行っててくれ。もう全員揃ってるから適当に話でもしてて」

 

 

そう言って三人を見送りご要望である紅茶とコーヒーを淹れる。面倒くさいので砂糖はスティックタイプ、ミルクは牛乳で我慢してもらおう。ファミレスとかにあるタイプのミルクは家に置いてなかった。父親が砂糖を入れてコーヒーを飲むだけで、俺と母親はブラック派だからミルクは使わないのである。

 

全員分の飲み物をトレンチに載せ、自分の部屋まで待っていくと、けっこう盛り上がってるらしくわいわいと楽しそうな声が聞こえる。

 

 

「お待たせー。紅茶が三つにコーヒーが四つな。ミルクは牛乳で代用しろ、家にはなかった」

 

 

ちなみにお察しだろうが、紅茶はシリカ・リズ・サチ。

コーヒーが俺・ケイタ・テツオ・アルゴである。

 

どうやら砂糖や牛乳を使うのはテツオだけのようで、他はストレートやブラックで飲んでいる。まあ、正直これからやることに対しての眠気覚ましみたいな意味合いが強いからそんなものだろう。

全員が一息つき、俺は手持ちのコーヒーが無くなるとベッドにダイブし、ゴロゴロする。時刻はすでに十一時の方が近くなり始めていた。

 

 

「よっしゃあ、そろそろ説明を始めようと思うけど大丈夫かーい?」

 

 

「私らはいつでも大丈夫よ、というかアンタが一番大丈夫そうに見えないわよ!!」

 

 

「まあまあ、俺はこの姿勢のままやらせてもらいまーす。どうも夜は力が出ない、顔は濡れてないから平気だと思ったんだけどな……」

 

 

「いいから始めなさいっ!!」

 

 

どうしよう、リズがいるとツッコミにキレがあるな。ついついふざけてしまいがちになるが、そろそろ真面目にやりましょうか。

 

 

 





次でようやくALO本編に入れそうです。

キリトの出番……下手したらなくなるなー
原作は多分行方不明になるかも……

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