二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
クリスマスなのでそれっぽいことしたかっただけです。
本当に何も考えてない話ですので、それでもよければお読みください。
聖なる夜は性なる夜になりません。
うちのシリカは純情ですから!
甘み成分多目で作りたかったのに……センスがないから普通になってしまった。難しいですね……はあ…
甘ッ!!と思ってくれる方がいれば嬉しいなー……←
そのいち!!
「「「メリークリスマース!!」」」
そんな声とグラスを叩き合う音が聞こえる。今日は十二月二十四日。世間でいうクリスマスイブである。御徒町にあるエギルの店では知り合いが集まりパーティーを開いていた。もちろん店は貸し切りである。そうでもしなくては店に入りきらないほどの人数が集まっていた。キリトやアスナを始めとしたSAOのデスゲームで知り合った人や、その後のALO、GGOというゲームで知り合った人物も混ざっている。俺はそれをカウンターから見ている。どうも若い連中のノリに入れないでいたのだ。
俺こと工藤夏希は転生者である。いや、正確には前世の記憶を持ったまま新しく生を受けたと言うべきか。肉体的な年齢は十七であるが、精神だけは四十前、つまり三十路オーバーなのだ。そんな人間が心も体も思春期真っ只中の輪に入れる筈もなく、カウンターで大人しくクラインやエギルと言った成人組とだらだらとしている。
「おめぇも遠慮しねえであの中に入ってこいよ」
「遠慮してるつもりはないんですけど……どうも若い連中のノリにはついていけなくて」
「おめぇは定年間近のリーマンか」
失礼な、定年まであと二十年以上はある。クラインの言葉に内心で反論しつつ苦笑いを作る。早く合法的に酒が飲める年齢になりたい。そうすれば酒の力を借りてあの中に入れるというのに。
「エギルさん、俺は生で」
「ウチは未成年に出す酒はねえんだ、すまねえな」
ダメ元で言ってみたのだがダメなものはダメだった。クラインが美味そうに生を煽っている。喉をごくごくと鳴らすたびにジョッキの中の黄色い液体が減っていく。ドンッとジョッキを置いて口元を拭うクラインはプハーと息をはいた。
「やっぱ一杯目は冬でも生だよな!!おめぇも一口飲むか?」
チラッとエギルを見ると、俺は何も見てねえと視線をキリトたちの方に向けていた。心の中でエギルに礼を言う。
「クラインさん……いいんですか?」
「おうよ!!そんな飲みたそうに見られちゃしょうがねえかんな!!一口くらいやんよ!!」
了承を得ると、まだ半分ほど残っていたジョッキに手をかけて煽るようにして傾ける。中身は一気に無くなり空になったジョッキをカウンターに置く。
「……はー、生うめえ……超うめえ。クラインさん、もう一杯」
「誰が残り全部持ってっていいって言ったよ!!つうかオッサンくせえぞ!!」
「生は舌で味わうんじゃない、喉で味わうんだ。だから半分くらい一気に減るのは仕方ないことだと思う」
「それも高校生が言っていい台詞じゃねえかんな!?酒飲みの台詞だぞ!!……ったくよー」
クラインが何やら言っているが、今時の高校生だって酒くらい飲むと思う。エギルに追加の酒を頼むとクラインに視線で今度はやらんぞと釘をさされる。向こうは向こうでジュースで大盛り上がり。俺にもあんな時代があったんだろうな、と感慨に浸っていたところシリカと目があった。手を振ってきたので振り返すと照れ笑いのような表情を浮かべ輪の中に戻っていく。シリカがいたところには直葉がいた。二人は同じ妹的存在としてここにいるメンバーには可愛がられている。ゆえに気が合うし、気兼ねなく話せるのだろう。
「彼女持ちは羨ましいねえ……俺なんか……俺なんか……」
先程のやり取りを見ていたのだろう。クラインがカウンターに突っ伏し、どこかのギャグマンガのように滝のような涙を流していた。
「まあまあ、良い出会いがありますよ」
「勝ち組の余裕かよばっきゃーろー!!」
そんなつもりで言ったわけではないのだが、そう聞こえてしまったのかエギルに愚痴り始めていた。クラインは忘れていないだろうか、エギルはすでに既婚者だということを。エギルはクラインの愚痴を華麗に聞き流しながらカウンターで作業を続けている。
――これがプロか……!!
客の話に嫌な顔を一つせず、しかも適度な相づちとそれを肯定するような言葉を時たま言って話を聞いているように見せるエギルの姿に俺は戦慄が走った。恐らくエギルの一日はクラインの愚痴によって終わるだろう。頑張れとせめてものエールを送ってカウンターから離れ、勇気を出して未成年組のグループの輪へと入る。
「ちょっとクゥ!?遅いわよ!!シリカが待ちくたびれたじゃない!!」
「ええええ!?リズさん!?私そんなこと言ってないですからね!?」
「でも実際さっきからクゥのいるカウンターばっかちらちら見て上の空だったじゃない」
「―――――――っ!!」
リズの言葉が図星だったのかシリカの顔が一気に赤くなった。この頃シリカはいつもリズにかわれている。俺がこれで何かを言うと余計な事になってしまうのは経験済みなので黙って菓子を口に運ぶ。するといつの間にか回復したシリカが俺を見ていた。その視線は俺と俺の手の中にある菓子の二つを行き来していたので、なるほどと思った。俺は自分の食べている物と同じ菓子を手に取った。
「食う?」
「アホかっ」
パシーンといい音が鳴った。俺の頭をどこからか取り出したハリセンでリズが叩いたのだ。理由はちゃんとわかっている。俺は誰かさんとは違い、にぶちんではないのだから。
「これ作ったのシリカっしょ?いつも通り美味いよ」
「……へへ、ありがとうございます」
「わかってんならボケを挟むんじゃないわよ」
クリスマスだから一回くらいいいかなーと思っただけだ。
ちなみに今日のパーティーに持ち寄った菓子は女性陣が手作りしたものも含まれていたのである。俺はシリカが作った物をたまたま手に取り口に入れたのでその感想が気になったらしい。俺はシリカの作った物ならなんでも美味いと思うんだから、俺の感想はそこまで意味ないと思ったのはここだけの話。
時計の針はそろそろ七時を差そうとしていた。帰宅時間としてはそろそろかな、と思ったところでキリトから声がかかった。
「夏希、そろそろ帰るぞ」
「あれ?キリはアスナさんとお泊まりじゃぶっ!?」
思いきり叩かれてしまった。キリトが帰るならば当然ながら直葉も帰宅となる。そしてその近所に住む俺にも声がかかるというわけである。高校生にしては早い帰宅ではあるが、直葉もいるし御徒町から家まではけっこうな時間がかかるので、家に着く頃には九時近くになるであろう。
これを合図にして帰宅する者と騒ぎ続ける者とに別れた。後片付けの方は店に残る人がやっておいてくれるというので、お言葉に甘えておいた。店を出ると外のイルミネーションが輝いていた。
「綺麗だね……」
「……そうだな」
従兄妹同士で良い雰囲気になってしまっていたので入る隙がなく後ろから二人についていく。すると後ろからちょんちょんと肩を叩かれた。振り向いてみるとそこにはシリカがいた。
「夏希さん……この後って暇ですか?」
「この後って……もう夜だから家帰って寝るだけなんだけど……」
「ちょっといいですか?」
そう言ってシリカは俺の腕を引いて歩く。前にいたキリトと直葉は全く気づいていなかったので、メールで拉致られたことを伝えておく。
「どうしたのさ……どうせ明日も会うんだしなんで今なの?」
そう、俺とシリカは明日も会うのだ。二十四日はみんなでパーティー、二十五日は二人で過ごそうとパーティーが決まった時から決めていたのである。俺がそう言うとシリカは立ち止まり予想していなかった言葉を口にした。
「実は私……今日帰る家が無いんです。あまり遅い時間まで出歩けないから両親には友達の家に泊まって来るって言っちゃって……迷惑じゃなかったら夏希さんの家にお邪魔したいなー……なんて」
上目遣いでちらちらとこちらを伺うように見るシリカは大変可愛らしいと言えた。しかし今の俺にはそんなシリカを見る余裕すらない。この子は今なんと言った。家に泊まる?誰が?シリカが?脳内ではパニック寸前の大騒ぎとなっていた。別に家に泊まるのは千歩譲ってよしとしよう。ただ問題は俺の両親がいないことだ。うちの両親は毎年クリスマスはいい年こいて泊まりがけで出掛ける。その間は俺はいつもキリトのお宅にお邪魔しており、そのため今日も一緒に帰りそのまま泊まるつもりでいたのだ。しかしシリカが家に来るとなるとキリトの家には行けなくなる。それの何が問題があると言いたくなるが実は問題ばかり起きる。
まずは毎年泊まりに行ってたのでキリトの両親(正確には叔父叔母)が勘繰る。そしてキリトが様子を見に来る。それがうちの両親に伝わり訊問される。まだ彼女がいることを伝えていないので根掘り葉掘り聞かれることだろう。それが恥ずかしいやらなんやらである。しかしこんな寒空の下、シリカを放置できるほど冷めた人間ではない。どうしたものかと一人悩んでいると返事がない俺を疑問に思ったのかシリカが声をかけてきた。
「夏希さん?……もしかしてダメでした……?」
だからその涙目+上目遣いは卑怯だろう。毎回これで折れてしまう俺もダメなんだろうけども、これには勝てないのである。先が思いやられるがこうなってしまったものは仕方がないと諦めてついてくるように促した。嬉しそうに返事をしたシリカと手を繋いで駅までの道を歩く。もちろん空いている手ではキリトに今夜は自宅で過ごす旨を伝えるメールを打っていた。
「はい、到着。ここが俺の家だよ」
「ここが夏希さんの家……」
ちなみにシリカは感動したように見ているが、なんてことはない普通の庭付き二階建ての一戸建てだ。
「それよりもここに来る途中いかにも日本家屋って感じの門があった家があっただろ?」
「あー……ありましたねー。それがどうしました?」
「ちなみにそれがキリと直葉の家なんだよね」
おお、けっこう驚いてる。だいたい始めて見る人は驚く。場違い感が半端ないんだよなあの家だけ。洋風ばかりの一戸建ての中に和風家屋が混ざっているのだ。それも仕方がないと言えよう。俺は玄関の扉を開けて明かりをつける。
「ほら、寒いから早く入って。今日親はいないから寛いでくれていいよ」
「ありがとうございます……お邪魔しまーす……」
シリカを通したリビングには炬燵が置いてある。それのスイッチと暖房のスイッチをそれぞれつける。さすがに静かすぎるのでテレビをつけると部屋が一気に騒がしくなった。たまたまつけたチャンネルではクリスマスの特番がやっていた。変えるのも面倒なのでそのままにして風呂の用意をしに行く。
俺がリビングに戻るとシリカは炬燵に入ってテレビを見てちょこちょこ笑っていた。この特番、笑う要素などなかったはずであるがまあそれは人それぞれ。俺も冷えきった体を温めるため炬燵に入る。するとシリカは炬燵を出て俺の隣に入ろうとしてきた。しかしスペースが狭いためいくらなんでも二人は入れない。そえ言おうとしたのだが、それはシリカの言葉と行動によって阻まれてしまった。
「こうすれば二人で入れますね」
俺は元々足を伸ばして炬燵に入っていたわけではない。普通に胡座をかいているその膝の上にシリカが座ってきたのだ。炬燵の布団が持ち上がり暖かい空気が外に抜けていく。それでもシリカは俺の上から退こうとしない。
「これ寒いんじゃない?つうか炬燵の意味……」
「大丈夫ですよ。夏希さん暖かいですし……」
後ろから顔を一つ覗いてみると照れているのか、顔が赤く染まっていた。
「恥ずかしいならやらなきゃいいのに」
「……確かに恥ずかしいですけど、それよりもこうやって一緒にいられる事が嬉しいんです……それに夏希さんを感じられますしね」
こちらを見上げそう言ったシリカはさらにこう続けた。
「それに……こうやって現実でも夏希さんと一緒にいられて私は幸せです……」
夏希さんはどうですか?そう聞かれているような気がした。しかしそれは聞くまでもないだろう。俺の膝に座るシリカを後ろから抱き締めて肩に顎を乗せて耳元で言う。
「……そうだな、俺も幸せだよ。珪子……これからも一緒にいような」
「……はい、もちろんです」
そして唇が触れあうだけの軽い口付けを交わす。それだけで俺の心には言い表せないような幸福感が溢れる。シリカは自分の唇を軽く指で触れると微笑んだ。
「今日は久しぶりに一緒に寝ましょうね」
「……ダメだって言ってもムダなんだろ?」
「そんなことないですよ?断られたら潜り込むだけですし」
「やっぱムダなんじゃないか」
すると家にピンポーンというチャイムの音が響いた。こんな時間に誰だろうと考えたがすぐにそれを放棄する。この季節のこの時間に家のチャイムを鳴らすのは特定できる。しかしシリカが膝の上にいるので出られない。
「シリカー、ちょっと退いてくれ。出てくる」
「……わかりましたー……」
少し不満そうにしたシリカに苦笑して炬燵を出る。玄関に向かい、カメラを見るとそこには案の定キリトがいたので玄関を開けて招き入れる。すると靴が多いのがわかったのがキリトが訪ねてくる。
「す、すまん。誰かお客さんが来てたのか?俺は帰った方がよさそうだな」
「別に大丈夫だけど?つーかキリも知ってる奴だし……おーい、お客さん連れてきたぞー」
「いらっしゃいませー……ってのは違うか……あれ?キリトさん?」
「…………シリカ?」
「とりあえず空いてるとこ座れよ。そして珪子は退きなさい。俺が座れない」
はーい、と言ってシリカは一端退いたのだが俺が座り直すとやはり膝の上に座ってきた。人前なんだから自重するかと思ったが甘かった。というかキリトだから隠す必要もないからなのだろう。しかし反面キリトはかなり気まずそうにしていた。そして実際十分もしないうちに席を立って帰ると言い出した。一応送って行こうと思ったのだが、ついてくるなとまで言われてしまったので仕方なしにそのままの体勢で別れを告げた。
――――――――――
「……ただいま」
暗い声が木霊する。キリトというこの少年は親から言われて幼馴染みの家に行って様子を見てきたのだ。
「あっ、お帰りお兄ちゃん。夏希さんどうしてた?」
「どうもこうもない……胸焼けがしたよ」
え、どういうこと?と聞いたがキリトは答えない。毎年来るはずの直葉にとってもう一人の兄とも言える少年が気になった。
「んー……夏希さんが気になるし私も行ってくるね!!」
そう言って飛び出そうとした直葉の肩をキリトが掴む。その顔はやめとけとでも言いたげな表情であり、さらに首を左右に振ってこう言った。
「今あそこの家は無法地帯だ」
「……お兄ちゃん?何があったの?」
それ以上は問いかけても返ってこない。しかし行こうとすれば止められる。仕方なく直葉は諦めるのだった。
――――――――――
今日も一日が終わる。
すでにパーティーで夕食は済ませ、風呂にも浸かったので後は寝るだけである。出てきたばかりのシリカの髪を乾かしてやり、先にベッドに入らせる。壁側をシリカに譲り俺もベッドに潜ると、やはりというかシリカが手を絡ませてきた。
「こうやって手を繋いで寝るの……あのとき以来ですね」
あのときとは恐らくSAO最後の夜のことだろう。あの日は不安で一杯だったシリカを落ち着かせるようにして一緒に寝たのを覚えている。
「……腕枕してくれませんか?」
俺は黙ってベッドと枕、シリカの首の三点の間にできる隙間に腕を入れる。これ腕枕じゃねえじゃんと突っ込まれるかもしれないが、本当に枕にされるとこちらは腕が痺れて一時間程度で目が覚めてしまうのだ。そのあともしばらく感覚が無くなり酷いことになるのは目に見えている、と聞いたことがある。
「ありがとうございます。夏希さんおやすみなさい」
「ああ、おやすみ珪子」
腕枕をしながら手を繋ぐとかけっこう無理な体勢だがシリカの方を向いてしまえばなんてことはない。寝息を静かにたてるシリカはこちらに体を寄せて、少し丸くなるようにして寝ていた。
「愛してるよ、珪子」
普段は絶対に言えないがこんな時くらいは勇気を出してみようと思った。すると寝ていたと思っていたシリカがクスッと笑うのが聞こえた。
「私も愛してます、夏希さん」
「……聞こえてたか」
自分で顔が赤くなっていくのがわかる。恥ずかしさのあまりにシリカの顔がまともに見られない。それでもたまには悪くない、そう思った。