二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
「ほい、到着っと…」
やっと着きました、ホルンカの村。
すでに俺ら以外のプレイヤーもちらほらと見える。
キリの姿は見当たらないな。すでにクエストに行ったか。
まあ、俺らはコンビ組めたし問題なかったけどモンスターとは基本戦闘してたからな。
おかげでレベルは俺、シリカ共に3になっている。
これからキリも受けているクエストを受けに行くつもりだ。
俺もスキルの一つは片手用直剣なので3層まで使えるアニールブレードは欲しい。
「シリカ、この村でクエを受けたいから悪いけど付き合ってもらえないかな?」
「はい、大丈夫ですよ」
「このクエは片手用直剣使いには重要なクエでさ、短剣使いのシリカには申し訳ないけどね」
「そんなこと気にしないでください。ここまでSAOのやり方とかで色々お世話になってますから」
………ええ子や…ちょっとおじさん感動で涙が……
「ありがとう。そしたらクエ受けに行くからついてきて」
シリカがうなずいなのを確認してから俺は村の奥にある一軒家に入る。
うん、キリが村のおかみさんって言ってたからどんなもんかと見てみると本当にそう表現するのが一番ぴったりだ。
「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」
「それで大丈夫ですよ」
NPCのおかみさんは俺とシリカの前に水を出してくれた。
それを飲んでると隣からシリカに話かけられた。
「クゥドさん、あの人お鍋かき回してるのに食事を出せないってどういうことなんですか?」
まあ、最もな疑問だよね。
「そこがこのクエのヒントなんだよ。もうしばらくこのまま待ってればわかるよ」
シリカとそのまま待ち続けているとドアの向こうから子ども特有の少し高めの声の咳が聞こえてきた。
するとおかみさんの頭上にクエスト発生の証の金色の?マークが点灯した。
どう?という視線を込めて隣を見るとシリカはなるほどといった表情でうなずいている。
若干表情が曇っているのは子どもの咳を心配してるからだろう。
俺は?マークが消えないうちにおかみさんに話しかけた。
「どうかしましたか?」
これもNPCクエスト受諾のフレーズなんだよね。
幾つかってキリは言ってたけど基本的に質問になってれば受けられることがわかった。
「旅の剣士さん、実は私の娘が……」
大変長いおかみさんの説明を聞いたあとすぐに任せてください。と言うと家から出る。
「クゥドさん!!頑張って胚珠を手に入れてあの子に届けてあげましょうね!!」
シリカのやる気が物凄いんだけど…さっきの説明聞いて助けてあげたくなったみたい。
「じゃあ、これからその胚珠を取りに行くんだけど戦闘はここに来るときと同じ方針で。ひたすらターゲットのリトルネペントを倒す」
シリカは黙ってうなずいて説明を聞いてくれている。
「そして、こいつの注意点なんだがやはり毒状態にならないこと。もしなってしまったらすぐにスイッチ、結晶で回復。判別方法は口が開閉するとき口の中に花が見えるから。今回のターゲットはそれだ。また、花つきと同じ割合で出るのが丸い実をつけてるネペント、こいつの実を割ってしまうとデカイ音出して破裂して嫌な匂いを撒き散らす。こいつはプレイヤーにとってはなんでもないが周りから仲間のネペントを呼び寄せるという特性があるんだ。さて、こんなところだが何か質問は?」
…………うん、大丈夫そうだね。
確認をとってから俺とシリカは村から西の森へ移動した。
西の森に着いてから俺とシリカはひたすらにリトルネペントを倒していた。
そして数えるのも疲れるくらいに倒したところでシリカが声をあげた。
「なかなか花つき出ないですねー」
「普通のネペントを倒してれば通常よりPOP率は上がるはずなんだけどな」
なんてしばらく話しているとついに花つきが出てきた。
「シリカ!!花つきが出てきたぞ!!援護頼む!!」
「はい!!」
シリカの返事を聞く前に走り出した俺は花つきネペントにスキル、スラントを叩き込む。
一撃では倒せなかったらしくスキル後の硬直を狙ってネペントが攻撃を繰り出してくる。
「ちっ、シリカスイッチ頼む!!……………スイッチ!!」
ネペントの攻撃より早く硬直の解けた俺はすぐさまシリカとスイッチする。
そしてスイッチした後、ネペントの攻撃より早くシリカのスキルが当たった。
ポリゴンの砕ける音と共に俺のアイテムストレージに胚珠が加わる。
「ふー、長かったな。ありがとうシリカ、おかげで助かったよ。一人だったら今日中にクリアできなかったかも」
「えへへ、お役に立ててよかったです」
ヤバイ……俺、ロリコンじゃないのに今の笑顔はグラッときたぜ………
その時どこかでパアアアアンという凄まじい音が響いた。
「………っ!?今の音って………」
「ああ、誰かがネペントの実つきを割ったみたいだな」
「それなら早く助けに行かないと……!!」
「そうだな、とりあえず行くだけ行ってみよう。もし助けが必要なさそうなら引き返すからな。余計なお世話になるだろうし」
そう言って俺は音のした方に走り出す。後ろからはシリカがピッタリとついてきている。
そのまま走り続けること約5分。一人の剣士の周りにネペントが20体程度いた。
「シリカ!!とりあえず隠れるぞ!!」
俺は小声で叫ぶという器用とも言えることをしながらその剣士の様子を見る。
…………おいおい…奴はどうした?ちょっと引き寄せすぎじゃね?周りをよく見たらスモールソードと円盾が落ちてる…ってことはもう退場したあとか………
だとしたらおかしいだろ……くそっ、考えてる暇はないみたいだ。
「ちょっとあの人危なくないですか?助けに行きましょうよ!!」
「…………そうだな。今の俺とシリカなら問題ないかもしれない。だけど十分に気をつけて、一歩の油断が死につながるから…………じゃあ行くぞ!!」
数秒だけ悩んだフリをして決断をする。
ここからはもう、殲滅あるのみだ。
助走の勢いをそのままにスキルを叩き込む。
今は俺もシリカもリトルネペントならば複数体を同時に相手にしても十分やれるので今回はバラバラで動いている。
「おいキリ!!驚くのはわかるが説明は後だ。お前も手を貸せ」
そう言われて状況を再確認したのか急いで戦線に加わる。
キリはなんでこんなとこにいるんだって目をしてたな、その説明も考えておいてつじつま合わせを頑張ろ………
「やあああああぁぁ」
シリカのスキルが最後の一体を貫き、なんとかキリの周りに集まったネペントたちを倒した。
そしてキリは何か聞きたそうな顔をしている。
「……よう、キリ。久しぶり?」
「久しぶり?じゃないだろ!!なんで………クゥドがこんなとこにいるんだ!?」
名前の前でどもりやがった、絶対夏希って言いかけてたぜ。
「いやー、ニュースで茅場が色々言っててなー。事実かどうか確かめるために飛び込んでみました」
もちろん嘘です。その前からログインしてるしね。
「ちなみにお前の親と妹さんには手紙書いて渡してあるからお前のナーヴギアが外されることはないから安心しな」
まあ、他にもいつくらいに目を覚ますとかもろもろ書いたけどいいよね?
問題はあるかもだけど情が湧いちゃったんだもん、仕方ない。
「この事は現実でもニュースになってるのか。やはり茅場の言っていたことは事実としてとらえた方が良さそうだな」
「だからそう言ってんじゃん。まあ、とりあえず村に戻ろうぜ。俺の相棒も紹介したいしな」
そこでシリカに視線を向けると若干恥ずかしげな表情で頭を下げた。
ホルンカの村に戻ると二人の自己紹介が始まった。
「さっきは助けてくれてありがとう。俺はキリトだ。これからは顔を合わせる機会が何度もあると思うけどその時はよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします。私はシリカって言います。ナーヴギアを使ったゲームとか初めてでそこをクゥドさんに色々教えてもらいました」
ちなみにシリカには余計な事を言わないように釘を刺してある。
俺ってこういうところが黒いなって思うけど今更変えられないよねー
「それじゃ、互いの紹介もすんだことだしさっさとクエ完了させますか」
やっと終わったー。
ネペント狩り大変だよ、早くベッドで休みたいぜ。
そのまま三人で会話もそこそこにクエを受諾した家に入る。
そこでおかみさんに話しかけるとクエが終了したようでその娘が奥の部屋から出てきた。
その娘にお礼を言われる。
そしたら隣で嗚咽をこらえるような感じの声が聞こえてきた。
シリカもそれに気づいたらしくキリに声をかけようとしていたが俺はそれを止める。
「あいつには妹がいてな……それを思い出したんだろ、今はそっとしておいてやってくれ」
「わかりました。それじゃ出ましょうか」
そのままキリを置いて二人で家の外に出る。
外はすでに深夜と言って構わないくらい静まりかえっている。
その中を俺とシリカは二人で歩みを揃えながら宿やに向かった。
次の日、恥ずかしがるようにしてキリがメッセージで昨日助けた事への感謝と、先に次の村に行くと書いてあるものが届いたのはここだけの秘密だ。