二次元の中の二次元~最初の二次元は三次元に変わりました~ 作:祭永遠
さて……今俺はちょっとした問題を抱えている。
今日は十二月四日。ボス戦の日なのだが何が問題かってただいまの時刻が十時を回ってることだ。
正直こんな落ち着いている場合じゃない。
今は状況を整理してる反面、手や足は忙しなく動いている。
本音を言えば今すぐにでも取り乱してどこかの三國志(武将は全員女の子)に出てくる蜀軍の軍師みたいになりたい。
だが、それで状況が好転するわけじゃないのでネタに走るのはまたの機会にする。
そんなことを考えているうちに用意も整って宿を出る。
ちなみに俺が借りてる宿からいつもの広場までは案外近い。
とりあえず猛ダッシュして着いたのだが……パーティーの三人の視線が痛い。
「あははー、待ったー?」
「おい、少しは悪いと思わないのかよ」
いやいや悪いとは思ってますよ、ええ。ただ遅れちゃったのはしょうがない、もう覆せない事実なので諦めてほしい。
「クゥドさん…昨日はあれだけ遅刻しないで下さいって言ったじゃないですか……」
「おい、その言い方だといつも俺が遅刻してるみたいじゃないか」
「いつも私との待ち合わせに遅刻してるのは事実です」
ぐすっ…この頃シリカちゃんが反抗期のようです…
いや、まあ自業自得なんですけどねっ
「おい」
「はいな」
なんか後ろから不意に声をかけられたため癖で返事をした俺は悪くない。
振り向いてみるとそこにはダミ声とサボテン頭が特長と言っても過言ではないキバオウさんがいらっしゃった。
「随分と余裕そうやのう。まあええ、それよりも今日はずっと後ろに引っ込んどれよ。ジブンらは、わいのパーティーのサポ役なんやからな」
「へいへい、というかいまさらそんなもの確認しなくてもわかってますよ。わざわざその事を言うために来たんですか?」
キリト君が反応しなかったので、まあつい売り言葉に買い言葉的な感じになったけど相手はあまり気にしてしないらしい。
「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」
ここまで言ったところで言いたいことは無くなったのであろう、キバオウは身を翻すと自分のパーティーの方に戻っていった。
「何ですか、あの人…失礼にも程があります!!」
「本当、何あれ」
さあねー?何を考えてるのかよくわからないってのは原作読んでて思ったけど、実際に相対してみても全くわかんねーな。
「さ、さあ…、ソロプレーヤーは調子に乗るなってことかな……」
「はいはーい!俺とシリカはソロプレーヤーじゃありませーん。コンビですよー!?」
とりあえず小学生みたいに質問する形で発言してみた。
「……さ、そろそろティアベルも始める頃だと思うし雑談はこれくらいにしとこう」
…またスルーされた、今度はキリト君に……PCとか機械系がないから対人スキルは多少良くなったみたいだけど、それと同時にスルースキルまで上げてくるとは……!
キリト君恐るべし……
心の内でキリトの成長を喜んだり若干のショックを受けたりしていると、いつの間にか噴水の縁に立っていたティアベルが声を張り上げた。
「みんな、いきなりだけどありがとう!たった今、全パーティー四十六人が、一人も欠けずに集まった!!」
……あるえ?もしかして俺ってばそんなに急ぐ必要なかった…?
十時って言われたから急いで来たのに……
「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止しようって思ってた!でも……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、すげー嬉しいよ……こんな、最高のレイドが組めて……まあ、人数は上限にちょっと足りないけどさ!」
それでも通常よりは二人多いんですよ?
それと、みんな浮き足だってるのかはしゃぎ過ぎのように思える。
キリトも同じ意見のようで二人で視線を交わす。
どうやらエギル他数人も同じように感じているらしく、厳しい表情をしていた。
それからティアベルのみんなを鼓舞する言葉に反応して、巨大な鬨の声が上がった。
今までは多少の差異はあれど大まかには原作通りに進んでいる、これからは戦闘も含まれていくため、俺の心には幾ばくかの不安があった。
「……?どうかしましたか?早く行きましょう」
「っ…!おお、ごめんね。ちょっと考え事してたよ」
シリカに声をかけられた途端、心にあった不安が少し軽くなった気がした。
全く………俺の不安ってのはいろんなものに左右されやすいようだ。
いやー、凄いですね。
こんな人数が一つの目的地に向かって行軍するさまは、なんというか…圧巻の一言に尽きる。
他人事のように話してますが俺もその一角を担ってるのですが。
今はキリト君とアスナさんは二人で話してます。
まあ、遠足がどうとかなんたらかんたら話してるんだろうけど。
「それにしても凄いですねー…ここまで誰も欠けることなく来れましたよ」
「まあ一瞬というかけっこうヒヤヒヤする場面はあったけど、そこは的確な指示があったからね。素直に称賛の言葉をかけたいね」
ふむ、なんという上から目線。俺は一体何様のつもりだろうか。
「なんか凄い上から目線ですね…」
はい、シリカからもツッコミが入りましたー。
そんなこたぁ俺もわかってらい!
「クゥ、シリカ、ちょっといいか?」
「はいはい、なんでごさいましょう」
「なんですか?」
「いや、今日の戦闘で相手をするコボルドについてちょっとな」
ちなみにクゥというのは俺の略称である。
けっこう違和感があるが、それはそれ。
そんなものはどこかの開いてる小さな宝箱にでも詰めて横へ放り投げる事にする。
「アスナには説明したし、二人共前線で戦ってるし、倒し方もわかってるだろうけどけど、もう一度確認しよう」
「ん、オーケー。俺とキリでひたすら武器の跳ね上げ、んでシリカとアスナさんでトドメ。なるべく鎧には攻撃しない、こんなもんだったっけ?」
「だいたいの方針はそうだ。それに加えてアスナとシリカのHPがヤバくなったら俺とクゥの二人で対応って形にする」
キリトは同じベータテスト出身である俺がそこまで危なくなることはないと思っている。
ゆえに、この形をとることにしたのだろう。
「俺はそれでいいよ。一層のボスの取り巻きが相手だし、油断さえしなければ無傷でいけると思う」
「私もそれで大丈夫です。武器が短剣なのでちょっと危なくなる場面もあるかもしれませんが、その時は二人にお願いしますね!」
「私も大丈夫だとは思うけどボス戦なんて初めてだしね……危なくなったら二人に任せるわ」
さて、基本的な方針が今決まったところでボス部屋の前に到達した。
デスゲームになってからの初めてのボス戦……周りからもいつもとは違う緊張感が漂う。
ティアベルは己の得物を高々と頭上に掲げる。
それに応えるように他のレイドメンバーもそれぞれの得物を頭上にかざす。
とりあえず俺もやってみた、やらないとなんか流行に乗り遅れた感じになりそうだったし…
「………行くぞ!」
扉の中央に左手を当てながら一言だけ叫んだ後、思い切り押し開けた。
ヤバイ、緊張で手汗が…
っと……んなこと考えてる場合じゃないね。
俺たち余りグループはボスに攻撃しないけど余波とかにゃあ注意しないと。
それじゃあ、第一層のボス戦……スタートだ!