全員の決死の攻撃で《タギツヒメ》の試練を見事に突破したのも2時間ほど前の話。
試練によるテリトリーの固定化をされていたタギツヒメが、テルヨシ達の試練の突破によるリザルトで、その固定化が一時的に解除されている事を良いことにこの後に行く予定だった鎌倉の《イチキシマヒメ》のいる神社までついてきて、その試練を見学するとか言い出した。
ただしタギツヒメの力の大半を占める腰の剣が破壊されてしまったため、フィールドを闊歩するエネミーが煩わしいということでその道中をテルヨシ達が護衛。
それら全てを交換条件に試練を乗り越えて手に入るアイテムカードを貰える予定でいるので、一応は全員が納得して今も移動していた。
『ふむ。あれが《エリア00》ですか』
「《帝城》ってそういう呼び方なんだな」
「でも《ハイエスト・レベル》からなら帝城くらいいつでも見られるんじゃないの?」
のんびりと移動するつもりもなかったので、エネミーとの交戦は極力控えながら早足で東京まで戻ってきて、神奈川県に向けて緩やかに南下を始めたタイミングで、見ずに通るには不可能なほどの存在感を放つ帝城が見える。
すると歩きながらのタギツヒメはまるで帝城を初めて見るかのような反応で高くそびえる帝城を見上げるので、その辺についていくつか尋ねると、テルヨシ達を哀れむようなため息を漏らす。
『これだからハイエスト・レベルに至れない小戦士は困ります。エリア00。お前達の言う帝城はハイエスト・レベルでは《ノード》が見えず大きな空洞地帯のようになっていて、観測できないのです』
「ノード……それは何でかはわかっておるのか?」
『この世界で帝城だけが隔絶されているからです』
ハイエスト・レベルなどの話はテルヨシとサアヤとユリにしか理解がないため、耳だけ傾けているシズク達は口を挟めない。
タギツヒメの言うノードというのは、文化祭の時の作戦の後にハルユキの説明の中にあって、加速世界を構築する情報を集めて繋がり流れる光。
つまりは現実世界の日本に溢れんばかりに設置された《ソーシャル・カメラ》を示していて、ハイエスト・レベルでは無数の光点として認識されるらしいのだ。
だがそれなら帝城は現実世界の皇居であり、そこは厳重に守られるべき場所でソーシャル・カメラも他よりも多く配置されているはずで、そこにノードが見えないのはおかしい。
それをタギツヒメは隔絶と表現し納得させにくる。
「ねぇボンバー。帝城のノードが見えないって、つまり……」
「そうじゃな……考えられるとすれば、このブレイン・バーストでさえ、皇居のソーシャル・カメラにはハッキングが出来んということを示しておるのやもしれん」
「でも実際問題、その帝城には最難関ダンジョンが形成されてるわけで、千代田区の大半。これだけの規模を情報の補完だけで補えるものなのかね」
「そこよねぇ……つまり皇居のソーシャル・カメラとも情報統制は取れてて、その上で運営側がそのラインを断ってる。もしくは加速世界の完成の段階で隔絶された」
『面白い話をしていますね。この加速世界の創造の話であれば、妾にも推測はありますよ』
情報によって構成される加速世界で存在を認識できないなら、その情報自体が断たれてしまっているのは確かに納得できるが、ならば何故そんなことになっているのかを現実世界での話も交えて小声で話していたら、ちゃんと聞こえていたタギツヒメも仲間に入れろと暗に言ってくる。
大天使《メタトロン》もそうであったように、タギツヒメもまた長い時の流れの中で自問自答や考察を繰り返してきたのは確かなようで、加速世界の誕生の理由についてもなかなか鋭い考察を見せる。
『そもそもとしてこの加速世界が誕生した理由は、妾達ビーイングが作られたこととイコールではありません』
「その口ぶりは根拠があるわね」
『お前達は《アクセル・アサルト》と《コスモス・コラプト》という2つの異なる世界がかつて存在していたことも知っていますね。かの2つの世界でさえ、その目的があの帝城にあった。ならば妾達ビーイングは、お前達小戦士が勇猛果敢に挑む必要もないサブイベントのようなもの。オプションでしかないということです』
「でもゲームにはそういうのは必要なものだろ」
「違うわよバカテイル。アンタ帝城が何で難攻不落のダンジョンかって考えてないでしょ。そもそもほぼ攻略不可能なダンジョンが存在する時点でゲームとして破綻してるのよ」
「じゃな。東京の4大ダンジョンなどは難関ではあるが、決してクリア出来んような作りにはなっておらん。そこには運営側の『攻略法』がいくつか用意されておるのが証拠じゃ。タギツヒメ達の試練とてその理屈が通るじゃろ」
「えーっと……つまりは、何?」
ズバッと答えを言うわけでもないタギツヒメにピンと来ないテルヨシとは違い、今のだけでタギツヒメの言いたいことを理解したっぽいサアヤとユリがヒントを与えはするが、それでも閃かないためガクリとしたサアヤとユリに、やれやれな態度のタギツヒメ。
ちょっと色々と考えすぎていたかと意識を集中させて改めて頭の中を整理し、何をハッキリさせるべきかを決める。
「…………帝城だけが想定外の作りをしている?」
「そういうことよ。それがどういうわけかはわからないけど」
「少なくともこの加速世界が誕生する段階ですでに帝城が存在していた可能性は高いのぅ」
『その推測は正しいでしょう。妾達ビーイングが誕生した時にはすでに帝城は存在していた。そして帝城の中にある《ザ・フラクチュエーティング・ライト》へ至るためにブレイン・バーストの創造主は妾達ビーイングや様々なオプションを生み出した。そこで妾は引っ掛かったのです。ではどうしてそのような帝城の存在を創造主たる者が許容しているのかを』
「あ、そっか。開発者なら適正な難易度に調整とかも全然出来るはずだもんね。それをしないってことは、オレ達に攻略できる超ギリギリのラインで設定してくれてるっていうスパルタな感じなのか……」
「何らかの理由で難易度の調整が出来ない。だから私達が万が一でも攻略できるように日本中にその手助けになるものを配置した」
『そういうことです。小戦士の割には聡いですね』
ちゃんと考えれば答えに辿り着けるだけの思考力は持ってるのに、普段からあんまり使わないからこういう時の理解力が落ちるんだと、視線だけでサアヤに言われたテルヨシではあるが、皆の言わんとしてることはわかったので話が進んでくれる。
それで自分の言いたいことを理解したテルヨシ達に対して相変わらずのタギツヒメの上からの物言いにムッとなったサアヤの気配を敏感に察知して、間に入ってなだめつつ、今度はタギツヒメ自身の話にシフト。
『ではその上で妾達ビーイングはお前達小戦士に倒されるためだけの存在なのですか? 妾達姉妹は小戦士に試練を与え、その褒美を与えるだけが存在理由なのですか?』
「ゲームとして考えればそうなるとは思うけど」
「それならば自我と呼べるほどの思考力を生む高度なAIを持たせる理由がそもそもとしてないからの。もしもタギツヒメ達が『こうなること』を開発者が想定しておったとすれば……」
「単に役割を与えられた存在じゃないってことになる、のかしら」
『詰まるところ、妾達姉妹や《四聖》達が求める答えはそういうものだということです。もしも妾達ビーイングがそれだけの存在ではないというのならば、妾はお前達小戦士のように「自由」というものを謳歌してみたいものです。此度の行軍はその先駆けといったところでしょうか』
何らかの理由で隔絶されてしまった帝城にある最後の神器ザ・フラクチュエーティング・ライトへと至るために、開発者側が用意したのが《無制限中立フィールド》とエネミーや《ショップ》などであるならば、バーストリンカーの敵として用意されたエネミーが果たして本当にそれだけの存在なのか。
タギツヒメ達のような特殊なエネミーもその枠組みからは外れはしないが、高度なAIを持つ彼女達にそれを与えた理由があるなら知りたいとする話は、ハルユキが言っていたメタトロンの話とも符合する。
テルヨシとしても自我の生まれたタギツヒメ達のようなエネミーを単なる敵として見ることはもうできていないし、開発者が本当にテルヨシ達の戦力アップのためだけに倒される存在として生み出したというなら、今はそれを否定したいとさえ思う。
だがそうなると日々エネミー狩りをするバーストリンカーを咎めるといったことにも意識が向いてしまうのも仕方なく、《小獣級》や《野獣級》エネミーは良くて、タギツヒメ達は特別と線引きするのも残酷な話だろう。
どうやってもバーストポイントという有限の命に縛られるバーストリンカーがそれをやめてしまえば、この世界からバーストリンカーは消滅し、タギツヒメ達とともにアクセル・アサルトやコスモス・コラプトのように消えてしまう。
『……何やら深い思考に入ったようですね。それはもしや妾達ビーイングの在り方や接し方をどうすべきか悩んでしまっているといったところですか』
「どうしたってバーストポイントの総量は減少傾向にある。それを補填するにはタギツヒメ達エネ……ビーイングを倒してバーストポイントを得なきゃならない」
『弱肉強食。妾達ビーイングが小戦士に力によって倒されることがあるのならば、それは自然なことでもあるということです。妾とてこの命が正当な理由で尽きる日が訪れるのであれば、悔いはありません。だからといって、お前達のビーイングを倒す行為そのものを助長したり推奨したりもしたくはありませんが』
「それはごもっともね」
表情などこの世界では絶対にわからないはずなのに、絶妙のタイミングでテルヨシの思考を読んだタギツヒメにいま思っていることを正直に話す。
タギツヒメとしては同じエネミーを倒されることに思うところはあるのだろうが、この世界が存続するために必要な行為であるともわかってはいるのか、ある程度の割り切り方はしているようだった。
最後にはちゃんと非推奨行為ではあると言いはしたが、それは立場的には当たり前だとツッコんだサアヤが話を締めて、帝城のことは後日、改めて黒雪姫達とも話すべきだろうと判断してサアヤ達もそれに合意してくれた。
話が終わったのは移動中にその帝城が視界の後ろの方へと流れてしまったからもあって、わざわざ後ろを向きながら話を続けるつもりもないとだんまりになったタギツヒメ。
テルヨシ達との話が終わったのを少し離れた位置から見ていたシズク達も、もう少しゆっくりと話す時間があれば聞こうとするような意思は見せつつ、今はそれはいいと暇になったタギツヒメに近寄ってくる。
「タギツヒメ。聞くだけ聞いておきたいのだが、これから挑むイチキシマヒメの試練。その内容について何か知っていないか?」
『不躾な質問ですね。なぜ妾が小戦士の手助けをしなければならないのです』
その中で代表するようにカイが口を開いてタギツヒメにこれから挑むイチキシマヒメについての情報を聞き出そうとする。
しかしタギツヒメはさっきまでの友好的な雰囲気から少し距離を離すような態度になってカイを睨み付ける。
『妾がお前達の試練に挑む様を見たいのは、イチキシマヒメにコテンパンにされた後にどのような策を労するのかの過程を見学したいからです。その過程を短くするような行為はこちらにとって損失でしかありません』
「ケチくせぇな」
「おいそこ。思ったことすぐ口にするな。エネミーは耳も良いぞ」
『ビーイングと呼びなさいとも言ったはずですよ』
怒らせるとアイテムカードを貰えない可能性も十分にあるので強くも言えない現状、強気なタギツヒメの振る舞いは暴君に近い。
だがその暴君に恐れ知らずのシズクが対抗し、普段なら乗っかるタイプのリクトが止めるという光景も見えた。
「ですがあらかじめどのような試練かを知って挑むというのも存外、味気ないものとなりますわよ。タギツヒメの味方をするわけではありませんが、こういった攻略は自分達であれこれと調べて模索する時間の方が楽しいものですし」
『そこの小戦士は良いことを言いましたね。開拓者というものは常に己の足で道を切り拓く者でなければなりません。それは小戦士達にも言えることですよ』
「特にブレイン・バーストはダンジョンとかそうよねぇ。1度でも攻略されちゃうと熱も冷めるっていうか。あと少しで《東京地下大迷宮》を攻略できそうだったのに、1日の差でソーンのとこに先を越された時は地団駄踏んだもんよ」
「あれは《アマテラス》の攻略に時間を食ったからのぅ。ライダーがソーンのやつと要らん賭け事をしていたこともあったが、それ抜きにしても悔しかったのは事実じゃ」
タギツヒメとしては自分から楽しみを減らす行為は嫌というちゃんとした理由もあって、別に試練の内容について知らないといったことではないとわかる。
そのタギツヒメに同調するようなことを言ったのがクラリッサで、ゲームならゲームらしい楽しみ方をしたいと言うクラリッサの言い分にはタギツヒメもご満悦。
さらに攻略と聞くと昔話に花が咲くサアヤとユリが、旧プロミ時代の苦い経験を漏らす。
その話を聞く限りでは、タッチの差で《パープル・ソーン》がダンジョンを攻略して、そこにあった《ザ・テンペスト》を入手したのだろうから、終始で神器を持てなかった旧プロミとしてはその悔しさも一際だったことだろう。
ただこういう昔話で《レッド・ライダー》とソーンが出てくると微妙な空気を放つのが、ライダーのリアル妹であり、ソーンが親代わりのシズクで、2人が仲良くやっていた過去を聞いての今を考えれば、決して心穏やかなものではないだろう。
そういう心の動きには敏感なテルヨシがケアしようとシズクに近づくところを、ユリがサッと腕を挟んで引き止めてきて、何か狙いがあるのかと様子をうかがうと、昔話を持ち込んだサアヤ自身がシズクに近寄ってその頭をポンポンと触ってみせた。
当然、そんなことをされても気に障るだけなシズクは「んだよっ」とその手を払うが、お姉さんみたいな雰囲気を醸し出すサアヤはその目で「アンタはこれから」と今ここにいる仲間を見るように促す。
現実のライダーとソーンとシズクの関係は、ライダーの全損をきっかけに変わってしまったのかもしれない。
でもそれを悲観したところで仕方のないことだというのもシズクはもうわかっているし、偶然とはいえ加速世界でライダーと話が出来たことで、ずっと胸につっかえていたものが取れて今ここにいるシズクは、まだまだ仲間を頼るという行為には前向きではないが、一緒に未来を歩こうという気にはなってきたことを再認識したようにテルヨシ達を見回していた。
まぁこういうことは同性の方が波風立たないからなと、ユリが引き止めた理由にも一応は納得しておき、なんだか和やかな空気に耐えられなかったのか少し離れて《小獣級》エネミーを引っ張ってきたシズクの奇行に、全員がツッコミながら倒す羽目になるのだった。
無駄な戦闘は極力避けて行こうと決めてのこれにはサアヤがお説教しながら対応することになり、女の子を怒れないタイプのテルヨシとしては助かるが苦労はかけるなぁと思っていたら、東京を抜けて神奈川県に突入し、大田区と多摩川を隔てて隣接する川崎市に差し掛かっていた。
その川崎市に辿り着くまでに大師橋を渡っていたら、近くを歩いていたタギツヒメが不意にその顔を左方向。東京湾の方へと向けて歩みを止めたので、何かあったのかとテルヨシだけが反応する。
『……なんでしょうね。この先に……いえ。今は詮無きことですか。先を急ぎましょう』
「何か感じ取ったなら教えてくれてもいいんじゃないか?」
『……ハイエスト・レベルから見ればわかりますが、あの大海の中腹辺りにビーイングが集中しています。それが少し気になっただけのこと』
「海の真ん中? どうやって……」
「タギツヒメの感知はちょっと気になるけど、海の上ってことならアクアラインじゃないの?」
どうやらタギツヒメは今の時間だけでハイエスト・レベルに行って帰ってきたことがわかり、それによるとこの多摩川の先にある東京湾の上にエネミーが集中しているらしいのだが、海の上にそんな多くのエネミーがいるものなのかと首を傾げる。
すると歩みを止める時間が長かったからか気になったサアヤが引き返してきて話が聞こえたのか、テルヨシの疑問に割とすぐに答えてくれた。
確かに言われてみれば神奈川県と千葉県を結ぶ東京湾アクアラインが現実世界には存在し、その途中には海上施設もある。
東京湾の真ん中にエネミーが集まるならそこしかないだろう。
「さすがにそれ全部がタギツヒメ達みたいな自我を持ってるってことはないよね? ならオレはちょっと気になるかも」
「そうね……エネミ……ビーイングが何か目的を持って集団行動するなんて聞いたことないし。タギツヒメ、そういうことはないわよね?」
『行動原理という点においては妾よりも下位のビーイングに仲間意識があるとは思えませんね。だからこそ気になった程度のこと。フィールド・アトリビューションの変更がされた後ならば、帰りがてらに確認しておくのもいいかもしれません』
「どのみちアクアラインの先は千葉だから、少し遠回りになる程度だしね」
ただサアヤでもそこで何か特別なイベントやダンジョンがあるとは言わなかったので、本来は何の変哲もないところなのはわかるし、不思議じゃなければタギツヒメが反応することもない。
考えるとどんどん気になってきて今すぐにでも確認しに行きたい衝動が芽生えるものの、そんなテルヨシの内心を察したサアヤが頭にチョップを振り下ろして制止。
タギツヒメも今の興味がイチキシマヒメの試練の方に向いているからまた歩き出してしまうし、誰も同行してくれないタイミングなら仕方なく諦めるしかない。
「そんなに気になるならみんなに了承取りなさい。試練のあとにそんな気力があれば私も付き合うわよ」
「そんなガッちゃんが大好きですッ!」
「ちょっと!? 抱きつくなー!」
『小戦士の愛情表現は個性的ですね』
ただし現実世界の切断セーフティーはまだまだ余裕を持って設定してはあるので、サアヤもモヤモヤを残したまま今回のダイブを終えるつもりはないといったニュアンスでテルヨシに進言。
なんだかんだでテルヨシのわがままも通してくれるサアヤの優しさは最早ありがたすぎて涙が出る。
それを表現するために精一杯の気持ちを込めてハグしたら、案の定蹴られてしまったが、それを愛情表現と言うタギツヒメの感性はなかなか鋭いと思うテルヨシだった。