内容としては今回のレギオンとしての最後のミッションである《イチキシマヒメ》の《知恵の試練》に挑んでいたテルヨシ達。
まずはと様子見で挑んだ1戦目からテリトリー外の待機組を無理矢理に引き込むイチキシマヒメの挙動に動揺しながら相対することとなり、案の定その猛攻によって全滅。
全滅したらそこでイチキシマヒメも消えてくれてリセットになり、蘇生後は作戦会議だなと思っていたところで、《タギツヒメ》が予告していた《変遷》が起きてしまい、強制的に蘇生させられたテルヨシ達に反応したイチキシマヒメが消える前にまた戦闘体制に入ってしまう。
1度はテリトリー外への逃走を図ってみたテルヨシではあったが、風の防壁が内側へと押し戻して叶わず、意図しない第2戦の幕が上がってしまったのだった。
「最速のテイルで避け切れない雷をどうしのぐ!」
「身代わり案は数を出しすぎれば手数を増やされるわ。でも蘇生直後じゃまともに防御できないわよね」
真っ先に退路の確認をしたのに、逃走という選択だったというだけでみんなから白い目で見られたテルヨシが落ち込んでいたら、イチキシマヒメの最初の突風攻撃からの落雷が迫っていて、同時の蘇生直後のせいで必殺技ゲージはみんな空っぽ。
それでまともにあの一撃必殺の落雷を防ぐ手段は皆無に等しく、アキラが急いでシズクに《フリーザー・アイス》を渡しているのが見えた。
それで無防備状態になったシズクをアキラが抱き止めている間に、サアヤとカイが取り急いで差し迫る脅威への対策を練り、苦肉の策としてサアヤが《ブレード・ファン》を展開剣へと変えて、それを等間隔で離して自立させる。
展開剣の数は合計で18本。外枠の剣じゃないものも含めれば20本を一気に避雷針代わりに用意したことにはなるが、さっきの戦闘で4分の1の確率にまで命中率を下げたら、途端に挙動が変わり6発の雷が同時に落とされてしまった。
展開剣を避雷針にしたことで確率としては約3分の1にはなったのは回避策として間違っていないし、それしか方法がなかったのも理解しているが、これでいきなり6発の雷を落とされたら堪ったものではない。
その危険性も考えた上でいきなり1人脱落するリスクを重く見たサアヤに文句など言えるわけもなく、無慈悲に振るわれたイチキシマヒメの剣によってテルヨシ達は地面から足が離れ、そこに6つの太鼓の1つが鳴り響き雷が落ちる。
1つ。そう認識した時にはサアヤの展開剣の1本が跡形もなく破壊されてしまうが、この数ならまだイチキシマヒメも許容範囲だと判断してくれたようだ。
「10秒だ。イチキシマヒメの攻撃はわからないが、太鼓は必ず10秒間隔で鳴る。確率の上でなら全滅までに270秒。先ほどの《クレイモア》も補充していけばもっと生き残れる」
「生存時間を延ばしつつ太鼓を確実に破壊してけばいいわけだ。んで、攻撃が届かないヤツは……」
「イチキシマヒメ狙いで特攻!」
強制的な蘇生からの第2戦で統率を失ったのは事実だったものの、ここぞの集中力では誰も見劣りしないレベルが集まっていれば動揺も少ない。
前回真っ先に死亡して冷静に観察する時間の長かったカイが落雷攻撃のクールタイムを確定させ、避雷針の数もある程度のラインを引く。
そして優先してすべきことをリクトが述べて、それが出来ないテルヨシが代表して近接のやることを叫び、クールタイムの間はサアヤも分散配置していた展開剣をまとめて射程重視の長大剣でイチキシマヒメを一番槍で狙う。
イチキシマヒメは風の防御で接近や物理攻撃を弾き返してくるから攻撃も届きにくい。
その問題をサアヤは風の影響を受けない展開剣のリーチで解決しにいき、サアヤの鋭い刺突に合わせてズララッ! と前方に並んだ展開剣がイチキシマヒメを強襲。
『ほぅ』
風の防御を無視して突き進んできた展開剣に少し声を漏らしたイチキシマヒメは、繰り出そうと準備していた風を纏う剣を使って展開剣を弾き、さらに抵抗を受けにくかっただけと見抜いてわずかに横にズレた展開剣を横から突風で煽りサアヤ自身の展開剣を支える力に負荷をかけてきた。
展開剣は連動操作のアシストでサアヤ自身にそこまでの負荷はないが、手元から離れればそれだけ津波のように負荷は増していく。
ただサアヤが先鋒を務めてくれたおかげでテルヨシとリクトは左右からイチキシマヒメに接近することに成功し、カイも重量を活かして真正面から確実に歩を進める。
「9秒ですわ!!」
イチキシマヒメへの接近の検証も進めなきゃならない中、アキラから意識のないシズクを預かっていたクラリッサが次の雷攻撃が来ると知らせてくれて、その声でサアヤは再び展開剣を散開させ、雷攻撃はランダムなことは判明していて、どうせ避けられないからとテルヨシ達は突貫を続行。
幸い、次の雷攻撃もサアヤの展開剣の1本を撃ち抜いて全員が生存し、これも新発見で雷攻撃の前に剣に纏わせた風を放出させると、浮き上がらせるための突風は繰り出さないようだった。
そしてテルヨシとリクトの挟撃でイチキシマヒメに肉薄出来るか? というタイミングで剣を地面に打ち付ける挙動を見せると、イチキシマヒメを中心にサアヤの《リベレイション・ストリーム》のような突風が発生し攻撃の寸前で吹き飛ばさせれてしまった。
が、風というサアヤが長く扱ってきた攻撃手段を散々受けてきたテルヨシは、その経験値から吹き飛ばされることを前提に体を動かして、吹き飛ばされた瞬間に素早く体勢を変えて《インスタント・ステップ》でブレーキをかけて踏み留まると、もう片方の足でまたインスタント・ステップで蹴り出し前へと出て回転からのかかと落としをイチキシマヒメへと放つ。
意外性という意味で奇襲にはなったはずの攻撃にイチキシマヒメも動揺するかと淡い期待をしても、現実は眉1つ動かさない冷静さでテルヨシのかかと落としを素手で掴んで受け止め、その手の剣でテルヨシの足を切断しようと振るってくる。
「よっとぉ!」
しかしこれもまた度重なる黒雪姫との戦闘経験から『斬られる』という一点において並々ならない感覚を養ってきたテルヨシは、振るわれた剣を持つイチキシマヒメの手首を掴まれていない方の足で塞き止めて防御。
ただしイチキシマヒメはエネミーとしての圧倒的ステータスを有しているせいで振りを遅らせるのが精一杯で、その一瞬の隙で掴まれている足を振りほどき、《テイル・ウィップ》を地面に接地させて振り抜かれた剣を紙一重で躱す。
そうやってテルヨシがイチキシマヒメの意識を集中させた時間を有効に使えるのが仲間達であり、剣を振り切った瞬間を狙ったサアヤの展開剣の刺突がイチキシマヒメを襲ってミリ単位のダメージを与え、さらに空中に留まるテルヨシが無防備な剣に2連蹴りを食らわせる。
そこで深追いはせずまともに攻撃を食らう前に地面に降りてバックステップで距離を取ったテルヨシに突風で吹き飛ばしてきたイチキシマヒメの挙動は少し意外だったせいで、勢い2割増しで吹き飛んでしまったものの、それと入れ替わるようにリカバリーを終えたリクトが背後からイチキシマヒメを強襲。
それに素早い反応で振り返り迎撃の突風を起こそうとした手の振りをサアヤの展開剣が突き崩し阻止すると、リクトがインファイトで拳のラッシュを剣に叩き込む。
「次、来ますわよ!」
戦っていると時間の感覚が恐ろしく早く感じ、それが集中していれば尚更なため、クラリッサの予告は非常にありがたく、サアヤもまた展開剣を散開させて避雷針にして、テルヨシも自分が撃たれてもいいようにみんなから距離がある位置で着地し太鼓の音を確認。
もちろんこの間にもユリが太鼓を《リトル・ボム》で攻撃してくれているので、確実にダメージは蓄積してきているはずで、シズクもあと3回ほど攻撃をしのげば行動不能から必殺技ゲージ満タンの状態で復活できるから、アビリティの恩恵は少ないが火力は上がる。
よく見ればクラリッサはアキラからフリーザー・アイスを受け取って、シズクの復活と入れ替わりで必殺技ゲージをチャージしようとしていたようで、クラリッサにフリーザー・アイスを渡したアキラもイチキシマヒメが釘付けになれば少し楽になるとわかって攻撃に参加しようとしている。
それらをほとんど一瞬の処理で観察したテルヨシは、そこで太鼓が鳴り響き雷が落ちてくるのを感覚的に察知してどこに落ちたかを視認すると、まさに不運。
さすがに4分の1の確率。いつかはと思っていたらそれがもう来てしまい、またも最初に雷を撃たれたのは、イチキシマヒメまであと10mを切っていたカイ。
誰であろうとあの落雷に耐えられないと思っていただけに気落ちするテルヨシだったが、そこでふとさっきとは違う状況だと思い至る。
「……あっ。リリースって確か……」
さっきは前回の《タギツヒメ》戦で相当消耗し、残りのHPゲージも2割を切っていたカイは呆気なく一撃死してしまったが、ほぼ万全の状態のカイはあるアビリティの発動条件を満たしている。
それは残りHPゲージが30%以上の状態からなら、どんなに強力な一撃を貰って死亡するダメージであっても、必ず残りHPゲージを1%残して踏み留まるアビリティ《
いわゆる《ガッツ》と呼ばれるゲームにたまにある根性系のアビリティで、それが発動していればカイは即死を1度だけ免れることができる。
「う、おぉおお!!」
その際に部位欠損が起こるダメージももちろん可能性としてはあるが、それはアビリティで完全防御され、カイは五体満足でその場で咆哮。
ご自慢の《アーマー・シェル》も見事に全破壊されてアバター素体が露となったが、それだけの一撃を受けたなら《リサティテーション》の威力はかつてないほどの威力になっているはず。
それがわかってての咆哮だろうと苦笑いしながらも、シズクに負けず劣らずの超火力を目にできるとあってテルヨシも内心では男としてワクワクが止まらず、カイのかつてない気迫にビクッと反応したリクトもこの上ない危険を察知したかイチキシマヒメから距離を取る。
それを見て装甲を外して一転、高機動力のアバターになったカイは、リクトに対して突風を放ったのを確認してから一直線に飛び出し必殺のリサティテーションを……
「リサティテ……」
『《
今まさに解放されようとしたところ。
まるでカイの危険性に気づいていたかのように初めての挙動で剣を引き絞って刀身に手を添えたイチキシマヒメ。
そこから風ではなく超高圧の電気を剣に纏わせて鋭く突き放つと、その射線にいたカイに落雷とほとんど同じ威力の雷の槍が射出される。
途方もない威力でカイを呆気なく貫通した雷の槍は一瞬でその後ろの鳥居の中を流れていき、近くにいたタギツヒメがギロリとイチキシマヒメを睨むのが見えた。
『………………』
あまりにも無慈悲で呆気ないカイの幕切れに言葉を失ったテルヨシ達は、絶好のチャンスを逃した脱力感がその身を襲うのを自覚しかけてブンブン頭を振り、何秒無駄にしたかを把握するためにイチキシマヒメを見る。
接近戦をしている相手がいなかったおかげで元気一杯なイチキシマヒメは、堂々とその手の剣に風を纏わせて突風を発生させ、それを受けたテルヨシ達はわずかに宙を舞う。
その際にユリが飛んでいってしまわないようにサアヤが手を繋いで助けていたが、直後の落雷は不運にもそのサアヤがユリのどちらかに落ちてしまい、2人ともが即死。
さらにサアヤが死亡したことで展開剣も自然消滅して避雷針代わりはユリが残したクレイモア3発分だけに。
ビックリするくらいのスピードで3人が脱落してテルヨシ達のモチベーションがガクッと落ちたのは言うまでもないが、それを汲み取って手を抜いてくれるような相手ではない。
まだシズクも行動不能から復帰していないので1分も経っていないという衝撃の事実も精神的にクルものがある。
太鼓を安定して攻撃できるのもシズクのみで、あと20秒。つまり2度も落雷に耐えなきゃならないとあって、クラリッサもフリーザー・アイスを食べるタイミングを完全に失ってしまったし、残ったメンバーで何をすべきかがいまいちまとまらない。
こういう時のリーダーシップがテルヨシにはまだ足りないと痛感するも、何かしないと次に繋がらないのが現実。
なら今やれることは……
「リリースとイーター、シンデレラはイチキシマヒメを狙って! ルールーはオレが預かる!」
次の雷が自分に落ちる確率も低くないため、試したいことが1つだけあったからせめてそれだけは確認しておこうと指示を出しながらクラリッサからシズクを預かり、テイル・ウィップで絡め取って持つ。
イチキシマヒメを攻撃したことで1回分だが《インパクト・ジャンプ》が使えるテルヨシは、その1回で光明を見出だせればと意気込む。
そのテルヨシが狙っているのは、一見するとランダムに落ちている雷攻撃だが、ターゲット自体は確実にランダムなのは揺るがないにしても、実は直前に鳴る太鼓には順番が存在している可能性があった。
変遷による連戦は確かに不運ではあったものの、そのおかげで太鼓は出現したまま攻撃が継続されたことから、6発同時に撃たれた後からのカウントで次の雷が合計で10発目になる。
イチキシマヒメをターゲットしながらも音の発生源だけはしっかりと聞き分けていたため、どの太鼓が鳴ったかをちゃっかり把握していたテルヨシにしか気づけなかったこの可能性は、太鼓が一巡して鳴った後に疑問が生じた。
そしてここまでの3発が同じ順番で鳴らされたことから、テルヨシは次に鳴る太鼓を特定し、もしかしたら太鼓が鳴るタイミングにピッタリと合わせて攻撃を加えて鳴るのを阻止すれば、雷攻撃をキャンセルできるかもしれないと考えたのだ。
「チャンスは1度きりか」
あくまで推測での検証で無意味に終わるかもしれない行動だ。
しかしそれでもやれることは全力でやる。それがレギオンマスターとしての意地であり、バーストリンカーとしてのプライドだと鼓舞し、しっかりとカウントしていた太鼓が鳴るまでのタイミングとインパクト・ジャンプを使って太鼓に攻撃を加えるタイミングを合わせにいく。
「3……2……インパクト・ジャンプ!」
完全に太鼓に集中する都合で、どうしてもイチキシマヒメへの意識を切らなきゃならないから、ここで突風が来たらマジで終了だったが、それが起きなかったということはリクト達がしっかりとイチキシマヒメに肉薄してくれたということ。
それに感謝しながら跳んだテルヨシが、ここしかないというタイミングで太鼓がドッ……とほんの少し鳴りかけたところに痛烈な蹴りを加えて派手なサウンドエフェクトを発生させる。
音の鳴り方が落雷を呼ぶ鳴り方とは違ったせいなのか、空の雷雲からはその時が来ても雷は落ちてこなく、それにはイチキシマヒメに攻撃していたリクト達も何が起こったと落下中のテルヨシに目を向けてくる。
──これはもしかしなくても成功ですか!?
そうとしか思えない結果に意外な雷攻撃の防御手段を発見できてガッツポーズをしたテルヨシだったが、完全に色々とお粗末なリカバリーが災いして、着地しようとしていた場所に都合良くユリのクレイモアが。
当然、浮かれていたテルヨシがそれに気づいたのはクレイモアが爆発の予兆として鳴らす「ピピッ」という電子音を聞いてからで、それを耳にしたが最後、その爆発範囲から逃れることはできなく、持っていたシズクもろとも爆撃を受けて自爆。
HPゲージこそまだ余力はあったが、シズクとの装甲強度の関係でおそらくシズクには割り増しでダメージを入れてしまった。
これは起きた時にキレられる……
それはまず間違いないと確信しながら、あと次の落雷攻撃の前後で目覚めるだろうシズクに先に土下座してから、さすがに今から太鼓が鳴るタイミングに攻撃してキャンセルを狙えと指示しても無理かと悟る。
そもそも空中にある太鼓を狙えるのはリクトの《ジャイロ・ショット》が精々。
たとえ攻撃が出来たとしても一定値以上のダメージが必要かもしれない以上、牽制や不意打ち程度の威力のジャイロ・ショットではキャンセルまでは見込めない可能性が高い。
なのでここはワンチャン。次の落雷攻撃で自分とシズクが死ななければ、暴れようとするシズクを取り押さえて落雷のキャンセルの方法だけを伝えて試させるくらいはしておこうと決心。
どうせ自分とシズク。どちらが欠けても成立しない行動ならとシズクを持ったまま次の落雷攻撃を待って、太鼓が鳴る直前でビカッ! とアイレンズを光らせて復活したシズクが状況の把握より攻撃を優先したのを咎めたら、揃って落雷の餌食となって即死したのだった。
こういうところで運が悪いのがオレなんだよねぇ……
とかなんとか蘇生待機中に自虐しながら、残った3人の奮闘を考察を交えて観戦し、無事に3人が順番に死亡したのを見届ける。
そして大事なことなのでしっかりとイチキシマヒメが全滅を確認し、その姿を消して雷雲が晴れたのも見てホッとする。
これで蘇生するまで本殿前で待ちぼうけし始めたりしたら堪ったもんじゃなかったから、引っ込んでくれて本当に感謝しかなかった。
こうしてイチキシマヒメ戦の第2戦の幕は敗北で閉じ、カイから順番に蘇生しては速攻で鳥居の外まで走ってテリトリーから抜け出す作業をすること8回。
誰も捕まることなく鳥居の外にいたタギツヒメの近くで集合したテルヨシ達は、ようやくまともに話し合いができる状況になってみんなしてその場で力なく座り込んでしまった。
改めて振り返ってもこのイチキシマヒメ戦は他の2つの試練に比べて殺意が強く、その辺でサアヤやユリが愚痴をこぼすのに便乗してみんなも賛同。
それでぐったりとしたテルヨシ達の様子に唯一楽しそうにクスクスと笑っていたのは、Sっ気たっぷりなタギツヒメで、ここまでの奮闘を労うでもなく口元を隠しながらのタギツヒメは、完全なる他人事として口を開いてくる。
『よい見せ物でしたよ。この調子でもっと足掻いてみせてください』
『お前のためにやってんじゃねーよ!』
イチキシマヒメの試練も何もかも知っていながら何の助けにもなろうとしなかったタギツヒメの言葉はテルヨシ達の神経を逆撫でしかしない。
その気持ちが完全に一致した一同は一言一句違わない言葉で呑気なタギツヒメにツッコんでみせたのだった。