『ハッハッハッ! 愉快、愉快!』
殺意の強い《イチキシマヒメ》の《知恵》の試練を試行錯誤してようやくクリアしたテルヨシ達。
イチキシマヒメの持つ剣が砕けたことで、あれだけ荒々しく巻き起こっていた竜巻と雷が止み、直前に必殺技の硬直で雷に打たれたサアヤ、シズク、リクトの3人も2発目を受ける前に事なきを得て死亡を免れた。
空も雷雲が晴れて本来の《工場》ステージの曇天に戻ると、剣を失ったイチキシマヒメが戦闘の意思を消して笑い出すから困惑。
『よいな小戦士。妾の攻撃で冷静さを失わずに戦い抜いたこと、誉めてつかわそう』
「……それはどうも」
『妾の試練は冷静さを失わせるための仕掛けが多く、挑んだ者達は皆、己の未熟さを呪って散っていったが、そなた達は見事である』
どうやらイチキシマヒメの試練はまだクリアした者がいなかったみたいな口ぶりから、その初めてのクリア者となったテルヨシ達をやたらと誉めてくる。
エネミーとしてその喜びはどうなのだろうかと思わざるを得ないが、ずっとこの日を待ちわびてもいたのだろうイチキシマヒメを思えば理解できないこともない。
だがそうして楽しそうなイチキシマヒメに反して不機嫌そうな様子の者がいて、試練が終わったことでテリトリーの周囲に展開されていた風の壁も消えたから普通に移動してきた《タギツヒメ》がキリッと鋭い眼光でイチキシマヒメを睨む。
『見事である。ではありません。どうしてもっと小戦士達を苦しめないのですか。あなたの《タケミカヅチ》はチャージタイム以外の制限はなかったと記憶していますよ。この試練中だけで5発も撃ち損じています』
最初からテルヨシ達の悪戦苦闘を見学しに来ていたタギツヒメとしては今の試練には不満があったらしく、その理由の1つとしてあの即死攻撃、タケミカヅチが何の制限もなく使えたという事実にテルヨシ達が驚愕。
それと同時にそれなら何故5度も使えたというタケミカヅチを使わなかったのかと疑問が出てくるところで笑いながらのイチキシマヒメが口を開く。
『小戦士達もタケミカヅチへの警戒が強いことはわかっておったからな。使用頻度を上げればそれだけデータを与えることになる。簡単に諦める様子もなかった故、長期戦を想定しておったが、まさか出し惜しみで終わるとは思わなんだ。ハッハッ』
「……はぁ。つくづくただのAIじゃないわね。この3姉妹は……」
「つまりこれ以上の回数を重ねれば何れはタケミカヅチも容赦なく使っていたってことか。ここで終わって良かったぜ……」
「話だけ聞けば対人戦をしているようなものですわね。もはやクエストと呼ぶべきものかも怪しいですわ」
笑ってはいても言っていることはテルヨシ達にとってはそら恐ろしくて寒気がする。
エネミーが相手に合わせて長期戦を想定し適度に加減するなど、プログラムとしてバグが発生していると言われても不思議はないレベル。
それを平然とやってのける辺りが高位エネミーの証明なのかもしれないし、事によっては《タキリビメ》もタギツヒメさえも同じようなことが出来てしなかっただけかもしれない。
ともかく、試練自体はクリアしたことで目的は達成したのは間違いないので、雑談もこれくらいにして報酬の方を貰いたいと切り出したテルヨシに、試練を突破されながらご満悦なイチキシマヒメは両手を合わせて放し、そこからアイテムカードを出現させてテルヨシへと渡してくる。
「《Spirit Sword Proto》。《スピリット・ソード》かぁ」
「直訳なら魂の剣ね。ニュアンスから言って《
「おい、機嫌が良いならあと2枚寄越せ……むぐっ!?」
「あなたの口の悪さはなかなか治りませんわね!」
念願の3枚目のアイテムカードにはそんな名前が書かれていて、これまでの例からサアヤも少し調べていたのか当たりをつける推測を述べる。
さらにシズクが交渉すべきところで相手を怒らせかねない言葉で上からものを言うから、クラリッサがツッコミつつチョークスリーパーホールドで言葉を強引に切る。
ある意味で安定したシズクの行動にも即対応できるようになってきた仲間には複雑な思いがありつつ、イチキシマヒメが消えてしまう前に言葉を選んで交渉に持ち込む。
「なぁイチキシマヒメ。ここにいるタギツヒメとも交渉してるんだが、また試練をクリアする行程を省いて、あと2枚アイテムカードを貰うことはできないか?」
『ほぅ。交渉とな。タギツヒメはどのような交渉で納得したのだ?』
『妾はこの地へと赴くまでの護衛と、小戦士達がお前の試練に挑む様を見学することを条件に差し出す流れとなりました。ちなみにタキリビメはこの小戦士達の冒険譚を長々と聞くことで由としたようですよ』
『ふむふむ。では妾もそれに倣って何か条件を提示してみるか』
タギツヒメと違ってかなりあっさりと交渉に応じてくれそうな雰囲気を醸し出してきたイチキシマヒメに、テルヨシ達も少し明るい気配を出す。
しかし悩む仕草を見せて沈黙したイチキシマヒメが提示してきた条件は、あまりにも理不尽なものだった。
『とはいえ妾にはこの地に縛る制約以外に不満もあまりないからのぅ……どうじゃ、いっそこの忌々しい制約を解除してくれたら、アイテムカードをやろうではないか』
「…………えっ?」
「それって……」
「もしかしなくても……」
「無理じゃね?」
「それはどうやんだよ」
イチキシマヒメが何を言ってるのかすぐに理解できないほどの衝撃で、1人で言える台詞を分割して言うという珍技を披露。
そして言ってからその方法すらわからないぶっ飛んだ条件にテルヨシ、サアヤ、クラリッサ、リクトが絶叫。
これならタギツヒメとタキリビメの条件の方が何万倍も楽だと思わざるを得ない条件には動揺するしかない一同を見て愉快そうにしたのはタギツヒメで、人の不幸は蜜の味とでも言いかねない邪悪な笑いには怒りが湧いてくる。
「ハハハ……制約の解除? ああ、つまりこの神社をぶっ壊せばいいんだ。なーんだ簡単じゃない。アハハー」
「うわー! ガッちゃんが壊れた! そんなことしても《変遷》で元に戻るからね!」
「何を言ってますの? やるなら徹底的にですわよ。オホホホ」
「なんだぶっ壊せばいいのか。おーしやってやらぁ!」
「マズい! 女どもが壊れた! 1人いつも通りだがヤバいぞ!」
システムに干渉するような案件を解決など出来ようはずもないために古参ゆえなのか真っ先にサアヤが壊れて、全く無意味な神社の破壊に乗り出すのをボケ担当のテルヨシが止める逆転現象が発生。
さらにクラリッサとシズクまで便乗してしまってカオスな状況になり、ますますタギツヒメが愉快そうに笑うのが拍車をかけていく。
収拾がつかなくなってきた現場の有り様に頭が痛くなってきたテルヨシだったが、自分以上に取り乱した人間を見ると逆に落ち着くあれな心理で頭が少しクリアな状態になると、手に持っていたアイテムカードに目が落ちて何かが引っ掛かる。
「…………あっ!」
その何かの正体に気づいて出てきた声にサアヤ達も反応して暴走気味のその手を止めてテルヨシを見てくるので、まさかの抑止力に自分で驚きつつもサアヤ達を集めて気づいたことを話す。
それでもあくまで推測の域の話だからと前置きして、焦らすなとツッコまれてから語った話に、4人ともが沈黙して各々で考察を始めた。
やがて4人ともが同じような結論に至って、それならばと全員でイチキシマヒメへと向き直る。
「なぁイチキシマヒメ。その条件を呑めるかはわからないが、とりあえずオレ達を信じてアイテムカードを渡すことはできないか? 返すってのも不可能だけど、もしかしたら制約ってやつを解除できるかもしれない」
『ふむ。アイテムカードを先に欲するということは、妾達からの褒美を使用したいということか』
「そういうことよ。タギツヒメも条件は満たしたんだから渡してもらうからね。あと仲間の蘇生も待たなきゃだし、あと3000秒くらいは待ってちょうだい」
『少々物足りないところはありましたが、約束は約束ですからね。仕方ありません』
『ではそなた達に1つ、賭けてみるとするかの』
代表してテルヨシが進言してアイテムカードの提供をお願いしてみると、こちらの意図を汲んだイチキシマヒメは説明の必要もなしにこれからやろうとしていることを理解したようだった。
イチキシマヒメがわかったならタギツヒメもだろうと、サアヤが条件は満たしたことを強く言うとかなり渋々な様子ではあるものの、タギツヒメもその手を合わせて放し、アイテムカード2枚を出現させ、イチキシマヒメもそれに倣ってテルヨシ達を信じてアイテムカードを託してくれる。
その後、剣を破壊されてしまったイチキシマヒメは大幅な弱体化をしたとあって1度神社に引っ込んでしまい、呼び出してまた試練が始まったら面倒なのでみんなで鳥居の外まで移動して死亡した3人の蘇生を待つ。
45分くらいで無事に全員が蘇生して集まると、死亡中にも話は聞こえていたらしいカイやユリもテルヨシ達の仮説は有力だと後押ししてくれて、預かっていたアイテムカードの2枚をアキラへと渡して、テルヨシ、サアヤとの3人がアイテムカードを3種類揃えた。
「それじゃあまずは第1志望からいこうじゃないか。せーのでいくぞ。せーのっ! オレこれー!」
「私これ」
「ぼ、僕はこれです」
名前の違う3種類のアイテムカードは、以前のタキリビメの言葉から推測するに、ゲームで言う《アイテム合成》で1つの強化外装を作り出せると考えられた。
実際にアイテムカードを3種類揃えてから、アイテムカードに追加項目がプッシュアップしてきて、サアヤの翻訳ではまず『ベースにしますか?』というメッセージが出てきたらしい。
その先に進むとおそらく他の2枚が合成の素材として使われてアイテムの合成が開始され、強化外装が出来るのは明白で、同じ完成品は出来ないだろうという推測も以前にしていたから、被らないように合成前に誰がどれを選ぶか選択。
一応、合成開始の手前にまで進めると完成品のステータスを簡易ではあるが確認が出来て、その上で3人が最初に選んだのは、奇跡的にバラバラ。
テルヨシが《サーペント・スレイヤー》。サアヤが《スピリット・ソード》。そしてアキラが《フェニックス・ブレード》となる。
被らなかったので予想外のスムーズさでいよいよ合成の時が訪れると、当人であるテルヨシ達のみならず、見守るシズク達まであれだけいらないと言っておきながらガッツリと見てきて苦笑してしまう。
そうしてみんなに見られながらベースにするアイテムカードをそれぞれストレージから取り出し、合成するかの確認のメッセージにOKボタンを押す。
するとアイテムカードは強い光を放って宙に浮くと、ストレージから勝手に出てきた2枚のアイテムカードを取り込んで、その形状をアイテムカードから剣へと体積などを無視して変化させる。
光が収まると3人の視界には「強化外装を入手しました」というシステムメッセージが表示され、正式に所有者として登録された。
テルヨシのサーペント・スレイヤーは2刀1対の双剣で、両刃の直刀ながら、刀身が蛇の鱗が幾重にも連なったようにして形成されている。
どちらかというとノコギリのような印象が強いが、刃の部分だけはちゃんと普通の剣をしているから、斬るという面では他の剣と変わらない。
サアヤのスピリット・ソードは日本刀型で鞘なしだが、サイズとしては脇差しくらいでとてもじゃないがメインウェポンを見据えたものではない。
見た目にもかなり普通の刀で、あれだけの苦労に見合った強化外装と言われなければわからないレベル。
対してアキラのフェニックス・ブレードはこの3本の中で一番剣らしい剣をしていて、片刃の長刀。
刀身は幅が15cmほどもあり、見た目にも重そうながら、炎の紋様のような刃紋もカッコ良いが、刀身全体が深紅と純白の2色で構成されている。
ただこれは強化外装が所有者のデュエルアバターカラーを反映させる影響で元々の深紅にアキラの白が追加されたゆえの結果だ。テルヨシなら青色が混ざって微妙な色合いになったかもしれない。
「それで、その強化外装にはどのような能力がありますの?」
「サーペント・スレイヤーには2つあるよ。1つは《サーペント》っていう、こんなやつ」
ひとしきり観察を終えてテルヨシ達がインストメニューからそれぞれの強化外装の能力を確認し終わったタイミングで、クラリッサが少しワクワクしながら尋ねると、まずはテルヨシから披露。
サーペントは説明が難しいので実際にやってみせることにして右手に持った方を振るい、その勢いで刀身が鱗が重なったような部分がバラバラと離れて伸び、刀身に隠れていたエネルギーのワイヤーで繋がった1本の鞭のような剣になる。
俗に言う蛇腹剣という分類のもので、テルヨシの弱点の1つである射程の短さを幾分か克服できるもの。
「んで、もう1つが《ダブルセイバー》。こうやる」
それからもう1つの変形型としてそれぞれの柄頭をくっつけて両端に刀身がくるようにした形で、これにはロマンに生きる男衆が「おぉっ」とちょっと羨ましそうな声を上げた。
「あとは《エクストラスキル》があって、必殺技ゲージを消費してこうすると……」
最後にダブルセイバーのまま余っていた必殺技ゲージを消費して頭上でグルグルと回してみせると、さっきのサーペントが発動してビュンッ! と刀身が荒ぶり、長射程の範囲攻撃技へと変化。
思いのほか危ない感じで展開されたからテルヨシもビックリしてすぐに戻したものの、いきなり攻撃されたに等しいサアヤ達はしっかりとしゃがんで回避してから注意喚起しなかったテルヨシをタコ殴りにしたのだった。
「だが単に射程をアップさせたいだけの選択なら、ずいぶん決め手に欠けるような気がするが、その辺の理由はどうなんだ?」
「ぐぇ……そ、それはまぁ射程目的じゃないから」
とりあえず死ぬ1歩手前くらいまでボコボコにしてから、テルヨシの選択理由に疑問が生じたカイに対して、ヨロヨロになりながら射程補強が目的ではないと答えたテルヨシに、ほぼ全員がえっ? という雰囲気を出す。
普通ならそう思うだろうなと納得しつつ復活したテルヨシは、どういうことかとちゃんと説明する。
「みんなオレに《スイッチ・アーマメント》ってアビリティがあるのは知ってるよね。この《テイル・ウィップ》も元々は鞭としての強化外装を別の用途にして装備してるわけで」
「おいおい、まさかその剣も装備できるってことか?」
「そゆこと。アビリティの使用確認で見たら、こういう感じに装備できるみたい」
普段から普通に装備しているから忘れられがちだが、テイル・ウィップがそういうアビリティによって装備されてることを再認識した一同は、それでサーペント・スレイヤーを始めから装備する目的で獲得したとわかりテルヨシの挙動を凝視。
テルヨシもスイッチ・アーマメントが表示した装備の仕方を実践して、サーペント・スレイヤーを逆手に持つと、両足の側面の装甲が腰辺りからガバッと開いて、サーペント・スレイヤーを左右で1本ずつ格納するようなスペースに躊躇なく差し入れて、サーペント・スレイヤーを格納した装甲は静かに元に戻る。
終わってみれば見た目には全く変化はないが、ふふんっ、と自慢気なテルヨシは新たに表示されたモーション確認画面で効果を理解して、今度はみんなに迷惑がかからないようにオブジェクトを対象にして試運転。
「《スレイヤー》」
ボイスコマンドで切り替わるらしいそれを発動すると、テルヨシの両足の前後からジャギンッ!
収納したサーペント・スレイヤーの刃が飛び出してきて、膝から爪先まで切れ味鋭い剣と化す。
これは蛇腹剣という特性が足の関節にも順応したからこその性能であることは間違いない。
その足で工場ステージのオブジェクトを振り抜けば、圧倒的な切れ味でオブジェクトを両断し、今までの打撃力が全て切断力へと変換された蹴りに一同も驚き、テルヨシ自身もビックリ。
「こんな感じです。次はイーターどうぞ」
少し長くなったものの、見せたいものは見せたテルヨシは満足して次の性能チェックをアキラへと譲り、バトンを受け取ったアキラは珍しくテンション高めに口を開いた。
「僕のフェニックス・ブレードはテイルさんのサーペント・スレイヤーほど多機能じゃないですけど、効果は強いですよ。まず必殺技ゲージを常時消費して刀身に炎を纏わせることができます!」
何でそんなにテンションが高いのかと苦笑いする一同にも臆さずに語るアキラは、手に持ったフェニックス・ブレードの刀身にゴウッ! と少し離れていても伝わるほどの熱気の猛々しい炎を纏わせて、その状態で試し斬りすると、工場ステージのオブジェクトはその切断面を溶かしながらバターのように切り裂かれる。
シンプルながらに明らかに強いフェニックス・ブレードにテンションが高くなるのは仕方ないなと納得しつつ、まだエクストラスキルがあるらしいアキラのデモンストレーションに付き合う。
「そしてこれがエクストラスキルです!」
炎を纏わせたまま剣を頭上へと掲げたアキラに呼応するように、炎は火柱となって剣先から伸びると、10mくらいの長さになった炎の剣を豪快に振り下ろしてオブジェクトを業火の炎に包み込み燃やし尽くす。
範囲も射程も申し分ない大威力の炎熱系の攻撃はアキラの弱点を見事に補強する結果となる。
しかしながら炎の剣を見た目が雪だるまなアキラが操る姿は相当にシュールな絵面で《親》のサアヤが真っ先に笑いを堪える姿を見せたのは大変に失礼だった。
最後にサアヤのスピリット・ソードの説明に移り、ある意味で一番特徴のないスピリット・ソードへの関心はみんな強かったりした。
「この剣は派手な攻撃技はないわよ。でもエクストラスキルが3つある感じ」
「3つもあるとはの。して、その効果は?」
「切りつけた対象に60秒間《状態異常・デバフ無効化》付与に、ゲージ消費量に応じて回数が段階的に増える《ダメージ完全無効化》付与。それから部位欠損ダメージを修復する《再生》ね。完全にサポートに振り切った強化外装だけど……」
テルヨシやアキラと違って物凄く落ち着いた口調で坦々と説明するサアヤは、派手好きな性格からは打って変わって真逆のサポート系でテンションの上げようがないみたいな調子。
しかし説明を聞いただけなら3つの強化外装の中でも普通に凄い性能をしていることから、まだ何か言おうとしていたサアヤの言葉を切って全員が総ツッコミ。
『それめちゃくちゃ強くない?』
「あー、うん。強いと言えば強いんだけど……そんな寄らないで。怖いから」