宗像3女神による3つの試練を乗り越えて、ようやく3つの強化外装を完成させたテルヨシ達。
その性能にひとしきりのリアクションをして、サポート特化の《スピリット・ソード》を選んだサアヤが、ストレージに戻してから落ち着いた一同に選択の理由を明かす。
「ほら、程度に差はあってもこのレギオンの面子ってみんな頭が脳筋でしょ」
「否定できないのが辛い……」
「仕方ねぇだろ。どいつもこいつも単独で前線で戦えるから《五芒星》とかそういう呼ばれ方されたりしてんだしな」
「そう。私も人のこと言えない脳筋だけど、これまでのレギオンを見てきて思ったのよね。やっぱり1歩。ううん。せめて半歩は引いてレギオンを見れるようにならないとダメだなって。私が持ち得なかったサポート能力があれば、その役割も自覚できるかなぁって思ったのよ」
かなり自己中な目的で《サーペント・スレイヤー》を選んだテルヨシからすると、サアヤのレギオンのためにと考えた選択はかなり大人な選択に見えた。
ただしサアヤがそうした選択を出来たのは、テルヨシのようにまっすぐに強くなろうとする存在がいるからだと付け足しながら、外的な強化手段──レベルアップボーナスなどと違って取捨選択ではないという意味だ──だから得しかないと笑いながら語る。
それを考えると自分にも使えるスピリット・ソードの万能感が物凄く羨ましくなってきたテルヨシが交換を持ち出したり、いらないと言っていたクラリッサやカイが交渉を持ちかけたりとちょっとした騒ぎが起こるが、全く取り合わないサアヤは全員を一蹴するのだった。
「さて、強化外装は入手できたが、問題は《イチキシマヒメ》との約束じゃな」
「ですわね。果たしてわたくし達の仮説は正しいものなのか」
「外したらイチキシマヒメにボコられるんじゃねーの?」
「し、試練なしで暴れられたら勝ち目がないんじゃ……」
「そうなったら全力で逃げればいい。仮説が外れていたらテリトリーからは出られないだろうしな」
そして強化外装の話が終われば後回しにした問題が浮上するのは当然で、さっきまでの和やかな雰囲気とは打って変わってピリッとした緊張感を持ったテルヨシ達は、アイテムカードの前借りを条件にしたイチキシマヒメとの約束を果たそうとする。
とはいえ強化外装を完成させた段階でテルヨシ達の仮説はすでに実行済みで、あとは再び鳥居を潜ってイチキシマヒメを出現してみればわかること。
なのだが、その1歩を誰が踏み出すかで謎の牽制が発生して無言の睨み合いが勃発。
検証だけなら1人が行けばそれで済むから、わざわざ全員で仲良く鳥居を潜る必要はない。
なのでここは公平にジャンケンでいこうとアイコンタクトで以心伝心した一同が輪を作って利き手に力を込める。
『なんですか。そなた達は自分達で導き出した結論に自信がないのですね。小戦士は所詮、小戦士ということですか』
その様子を見ていた《タギツヒメ》が呆れたようにテルヨシ達を挑発。
口は悪いが自信があって交渉したなら最後まで貫き通せと暗に言うタギツヒメの言い分は確かにその通りなので、ジャンケンしようとしていたテルヨシ達も一斉にその手を引っ込めて牽制を中断。
こう言われてしまえば1人を行かせるというカッコ悪いことも出来なくなって、全員で鳥居を潜ることにして、いざ出陣! といった意気込みで鳥居を潜る。
するとすぐに本殿前にイチキシマヒメが出現して、1度引っ込んだことで腰の剣も復活し万全の状態のイチキシマヒメがテルヨシ達をまっすぐに見据えてくる。
が、試練の時とは明らかに違うのは、出現の際には立ち込めた雷雲がそのあとすぐに晴れてなくなり、イチキシマヒメもイベント会話などを挟むことなく、交戦の意思を見せずに本殿から降りてテルヨシ達に近寄ってきた。
『ふむ。これは確かに面白い結果じゃな。妾に課せられた試練の強制行動がなくなっておる』
『ほぅ。ではイチキシマヒメ。そのテリトリーから自らの意思で出ることができますか?』
それだけでもうテルヨシ達の仮説は正しかったことが証明されたが、少し嬉しそうな雰囲気のイチキシマヒメに鳥居の外からタギツヒメが更なる確認を要求すると、イチキシマヒメも自ら鳥居を潜ってテリトリーの外へと足を踏み出し、成功する。
それにテルヨシ達もホッと息を吐いて近くの人とハイタッチで喜びを分かち合う。
テルヨシ達の仮説は、3つの試練をクリアした先にある3つの強化外装を全て作成し、その作成の上限が各1つずつだという前提があった。
これだけの強化外装を量産できてはパワーバランスが悪くなるだろうとの以前の考察から至った推測は実際に正しく、3つの強化外装が作成されたことで、現状の所有者が存在している状態ができ、強化外装の作成が不可能になったわけだ。
それならば3女神の試練もその役割を休止。或いは撤廃される可能性は十分にあって、一時的なものである可能性──所有者が全損して強化外装が失われるなど──はまだあるが、《七星外装》が所有者の全損でも消滅しないことから、これも同じようなものであると考えられた。
『ホッホッ。愉快なことこの上ないな。では辺境の地におる《タキリビメ》にも報告せねばな』
『タキリビメなら、自由と知れば意気揚々と小戦士達の多くいる地に訪れるでしょうね』
「えっ……それって割と困るんじゃ……」
「うっわ。下手な徘徊系のエネミーより質が悪いわよ……」
「テリトリーから解放された《神獣級》エネミーは《メタトロン》で懲りておるというのに……」
これでイチキシマヒメとの約束は果たせたことに間違いはなかったものの、イチキシマヒメがそうならタキリビメとタギツヒメも同じということは言うまでもなく、楽しそうに《ハイエスト・レベル》に移動してタキリビメに報告しに行ったイチキシマヒメとタギツヒメの言葉に戦慄。
冷静に考えれば試練という束縛があった故にその力をある意味で制限されていた節がある3女神だが、これで晴れてその制限がなくなりどこに行くも自由で力を振るうのも自由ときた。
そんな存在が東京を徘徊していてはバーストリンカーなんて遭遇した時点で詰み。
高度なAIがあるからこそ《無限EK》なんてことも気分次第で出来てしまうことになるのでは?
それを思うとテルヨシ達がしたことは猛獣を檻から出すような行為だったのではなかろうか。
でも冷静に考えたら強化外装を3つ作ったらこうなっていたなら、それはテルヨシ達の責任ではないだろうとも思えるので、せめて言うことだけは言っておこうとハイエスト・レベルから戻ってきた2人に話しかける。
「あのぅ、自由の身になったのはこちら側としても非常に喜ばしいのですが、出来れば我々のような他の小戦士を見かけても、自分から突っかかりに行ったりはしないで欲しいなぁ、なーんて思ってるんですけど……」
『それは約束しかねますね、小戦士。妾達も長き時を自らの住処で過ごしてきましたから、少しくらいは羽目というものを外したくなるのは道理でしょう』
『少なくともこれより100年あまりは自由にこの世界を見て回ろうとタキリビメとも話してきたところじゃ。その邪魔をするような小戦士がいた場合は、是非もないぞ』
「じゃあこっちから突っかからなきゃいいってことで1つ手を打っておいて、ついでに死亡させたら蘇生を待ったりとかもやめて欲しいんだけど」
『注文の多い小戦士ですね。お前達小戦士の密集するエリアは500時間とかけずに見て回ります。その間の事くらい大目に見なさい』
神経を逆撫でするといけないのでテルヨシが下から要求して、今後の3女神の行動をそれとなく把握。
サアヤも無限EKの可能性だけは潰そうと、お願いという形で手を打ち、多少の苛立ちは覚えさせつつも危機的状況は回避できそうな段階に落ち着かせた。
ということで本日のレギオンとしての目標はこれで全て達成したことになり、あとは近くのポータルを潜れば終了ということで、一同は一気に脱力。
現実世界に戻ったらカラオケだー、と少し盛り上がってるところにタギツヒメとイチキシマヒメが興味津々に絡んでいったりを横目で笑いつつ、テルヨシはここに来る前に引っ掛かっていたことが気がかりでいた。
それを察して話を一緒にしていたサアヤが近寄って隣に座り、どうするのかを尋ねてくる。
「切断セーフティーはまだ内部時間で9日はあるし、行きたいなら行ってみてもいいと思うけど?」
「うーん。完全に興味本意だし、みんなを巻き込んでまで行く必要はないのかなぁって。どうせこっちで1日くらい離脱が遅れても、現実なら1分半くらいだし、それなら1人で行こうかなって」
「まぁその考えはわからなくはないけど、ここまできて今さらみんなで仲良く離脱しようって雰囲気をぶち壊す方が私はどうかと思うわ」
この神社に来る前にタギツヒメが多摩川の横断中に感じた異変。
東京湾アクアラインの上で起きている何事かが気になるのはサアヤも同じなようで、行くか行かないかというよりも、全員で行く必要性についてを悩んでいたテルヨシに意見。
確かに今の解散気味ではあるがまとまった空気を壊してまで「オレちょっと野暮用があるから残る」とか言うのは勇気のいる行為だし、現実世界に戻ってからのカラオケにも何かしらの影響が出ないとも言い切れない。
それならいっそみんなで行ってしまった方がいいのかもなと決断して立ち上がると、カラオケ話に花を咲かせていた一同に話しかける。
「みんな盛り上がってるとこ悪いんだけど、まだ元気があるならこれからちょっと東京湾アクアラインまで行ってみない? なんかタギツヒメが言うにはそこにエネミーが集中してるみたいなんだよね。今もそうかな、タギツヒメ」
『ふむ……依然として集中しているようですね。確認してから未だにこの状況が続いているのは、少々意図的な動きのように思えます』
「その意図的なものってのがオレは気になるから、オレとしては行って確かめたいんだけど、どうかな?」
話の腰を折る提案だったから受け入れられないかもなぁと内心では思いつつも、乗ってきてくれたら嬉しいと期待も込めて返答を待ってみる。
最悪、エネミーの集団との戦闘になるかもしれないだけにみんなが発言には慎重になるが、いち早く思考を終えたユリが口を開く。
「テイルが気になっておるのは、そのエネミーの集中している理由かの? それとも意図的なものの正体かの?」
「……どっちもってのが正直なところだけど、割合では前者に寄ってる。後者はもしかしたらって可能性はあるからね」
「なるほどのぅ。儂もテイルと同じく可能性に心当たりがある。確認だけでもしておいた方がよいかもしれんな」
「私も2人に賛成。事によっては《ISSキット》みたいな問題が起きるかもしれないしね」
ユリも話だけである程度はテルヨシの意図を理解したようで、質問のあとには賛同してくれて、サアヤも事の重要さをそれとなく匂わせて味方に。
そしてISSキットと聞いて反応したのはシズクとリクトで、ISSキットと無関係ではなかった2人も無視はできないと賛同してくれた。
残るはアキラ、クラリッサ、カイの3人になって多数決という点で言えば可決にはなるが、やはりここは満場一致での可決が望ましいと返答を待つと、
「どのような危険があるかはわたくしには推し測れませんが、加速世界の混乱と無関係ではないというのであれば、見過ごせませんわね」
「ぼ、僕もこの前のISSキットは良くないものだってわかりました。そんなものがまた出てくるかもなら、どうにかしたいです」
「あくまで可能性の話であると考えるが、テイル達がそこまで危惧するならそれなりの根拠もあるのだろう。確認してからどうするかを検討しても遅くはないか」
「よし。じゃあ満場一致で行くってことで、みんな、もう少しだけよろしくな」
渋々な部分も見せてはいても、加速世界の危機の可能性を見過ごすほど薄情な面子ではなかったと言える返答にテルヨシは思わず笑顔になる。
それは声色から伝わったのかみんなからやれやれといった雰囲気が醸し出されて、それから気持ちも1つに。
ただし話がまとまったところで「そうと決まれば」とかなんとか言いながらいきなりテルヨシをドガンッ!
強烈な一撃で攻撃したサアヤに訳がわからないといった混乱を与えられたまま死亡。
「あとは私とシンデレラとルー子とスピンね。ちゃんとリフレッシュしてから行きましょ」
「そういうことはちゃんとおっしゃってからやって差し上げればよろしいのでは……」
「口より手が先に出る女って怖ぇな……」
「さっさと死ぬなら死のうぜ。1時間以上もこのエネミー達が待つのかよ」
死亡してからイチキシマヒメ戦で消耗していた分をリフレッシュさせる目的だと話すサアヤの順序の狂った感じにこれから死ぬ面々がやんわりとツッコミ、勝手に行ってしまいそうなタギツヒメとイチキシマヒメと足並みは揃えたい気持ちはあったため、迅速に死亡して蘇生待機の1時間を過ごしていった。
「それで、お前達の推測している可能性とやらは何なんだ?」
蘇生後、すぐに出発したテルヨシ達は、交代でアキラに必殺技ゲージを満タンにしてもらいながら、シズクのアビリティを育てようとエネミー狩りもしようとする。
しかし同行者にはタギツヒメとイチキシマヒメもいるので、同族殺しを見せつける行為はなんだか気が引けて遠慮することに。
そうなると手も口も耳も空いてしまうので、歩きながらカイが先ほどの話の疑問点をテルヨシ達に尋ね、可能性についてわからない一同も耳を傾ける。
「先日にミッドタウン・タワーに現れたメタトロンのことはみんな知ってるだろ? あれが何者かによってテイムされて配置されてたってのもわかるよな」
「神獣級エネミー。それもダンジョンのボスエネミーをテイムなど信じられませんが、そうでもないとあのようなことは起きませんものね」
「そういう受け入れ方は大事よ。それで私達はそのメタトロンをテイムしていたヤツ。ううん、ヤツらと交戦してるのよ」
「そしてそやつらは件のISSキットをばら蒔いた者と同じだったというわけじゃ」
それを話す上でまずは公にはなっていない加速研究会についてを話さなければならないだろうと、順を追って話をする。
理解力も考察する力も十分にあるクラリッサ達なら、本題を切り出すよりも前に可能性については考え至れるだろうと思っていたら案の定、そこまでの話である程度は推測ができたみたいだった。
「なるほど。その組織か? が上位のエネミーをテイムするだけの力を有していることがわかっていて、今回のエネミーの密集が意図的だとすれば、その組織がテイムして配置したエネミーの可能性があるということか」
「そゆこと。あくまで可能性の話で、オレとしてはそうでない方がありがたいわけだけど」
「そうだったなら、またあいつらが何か企んでるってことに違いないわ。潰せるものなら今のうちに潰した方が良いに決まってる」
「チッ。裏でコソコソと陰湿なヤツらだな。組織ごとぶっ潰してやる」
「気持ちはわかるが、一個人で対抗するにも敵の力は強大じゃ。王達も動いておるし、決戦の日も近かろうて」
加速研究会についてを詳しく話すと心意についてや《オシラトリ・ユニヴァース》が隠れ蓑であることなどの情報もいくらか話さなければならないこともあって、これ以上の詮索はされないように注意して話すテルヨシ達は、この問題に関してはレギオンだけでは手に負えないと言っておく。
王達も動いているとわかればクラリッサ達も事の大きさは理解できたようで、色々と事情に詳しそうなテルヨシ達への言及は避けてくれる。
『それでその小戦士達は妾達ビーイングを操ってどのような行為に及んでいるのですか?』
「目的に関してはオレ達にもハッキリとはわからないが、テイムされたエネミーは主にバーストリンカーが近づけないように拠点の防衛に回されてることが多かった。今回もそこに何か重要なものがある可能性は十分にある」
『どのみち、行けばわかることであろうな。待ち受けるものが妾達ビーイングをも脅かす何かであれば、その時は力を貸してやろう』
「それでテイムされたビーイングを倒すことになってもいいのかしら?」
『メタトロンからその者達の力の根源については聞いています。ビーイングを縛る頚木を破壊すれば、倒すまでもなく解放することが出来るのでしょう。あとは中級以下のビーイングであれば妾達で非功性化させることが可能です』
人間同士の話し合いには割り込まずにタイミングを計っていたっぽいタギツヒメとイチキシマヒメは、頃合いと見て自分達の気になる部分について尋ねてくるが、テルヨシ達も加速研究会の目的までは知らないので曖昧な回答となる。
ただしエネミーは目的のための道具程度にしか思っていない空気は伝わったようで、表情こそ穏やかに見える2体も憤りは感じていることは言葉からもわかる。
状況によっては味方してくれるとも言ってくれたからには、それを最大限に活用していこうとアイコンタクトしたテルヨシ達は、のんびりピクニック気分の移動から少し気持ちを乗せてペースアップしていった。
東京湾アクアラインは神奈川県川崎市から千葉県木更津市とを結ぶ海底トンネル。
その途中に海ほたる
目的地は明確なため、アクアラインのトンネルの入り口からはほとんど躊躇なく進入して、光源は一応あるトンネル内をズカズカと進んでいく。
途中にエネミーとの遭遇戦も危惧していたが、長い直線の遥か先までエネミーの影も形もなくすんなりと海ほたるPAへと出るトンネルの出口まで到達。
ここからは要警戒ということでテルヨシだけが先行して偵察へと出て、物陰を移動しながらすぐ上の高い位置から全体を見渡す。
全長約600m。幅150mほどの大きさの海ほたるPAはちょっとしたショッピングモールくらいの施設が詰まっているが、メインとなる道路が中心を走っているため見晴らしは良い。
その視界から見えたのは、木更津市に近い方の道路の上にいる姿形の違う10体のエネミー。
遠目から見ても10mを越える体躯と威圧感から巨獣級以上であることは確実。
エネミー達には予想通り、頭の部分に銀色の冠のようなものが取り付けられていて、中でも強力そうな1体の背には憎らしい人物《ブラック・バイス》が股がっていた。
さらにそこから少し離れた位置には《アルゴン・アレイ》の姿もあり、建物オブジェクトの屋上に腰を下ろして道路の方を見ている。
そしてそのアルゴンのそばには、不自然なほど発光する空間が生み出されていて、デュエルアバター1体分ほどのその空間には朧気ながらも人の気配がする。
そちらも気になるところだが、何よりも注目すべきは、あのエネミー達の取り囲んでいる中心には、ズタボロにされながら立つ《シーバ・カタストロフ》がいたのだった。