「どういう状況だこれ……」
宗像3女神の試練を乗り越えて、無事に3種類の強化外装を入手したテルヨシ達。
これで現実世界に戻ってカラオケという雰囲気の中、テルヨシやサアヤが気になっていた東京湾アクアラインに密集するエネミーを調べに行きたいと言うと、その理由を聞いた一同はもうひと仕事といった感じで同行を了承してくれる。
《タギツヒメ》と《イチキシマヒメ》も引き連れて何の障害もなく東京湾アクアラインの海上にある人工島。海ほたるPAまで辿り着き、まずはとテルヨシが偵察。
その視界に入り込んできたのは、10体のエネミーに囲まれる《シーバ・カタストロフ》に、エネミーを操る《ブラック・バイス》と見物人と思われる《アルゴン・アレイ》だった。
もう1つ、謎の発光空間もあるが分析するのに必要な情報が不足しているため、とりあえず保留して飲み込めない状況を把握しにかかる。
会話はさすがに聞こえない距離で難易度は高くなるものの、雰囲気は明らかにカタフが加速研究会と対峙している。
《ISSキット》の一件以来、その安否が心配されていたカタフがとりあえず無事だったことはテルヨシとしても安心することだが、状況は呑気なものではなかった。
何かを話しているっぽい雰囲気があるうちは動きがなかったカタフ達だったが、その会話が終わったかと思われた瞬間にバイスの命令を受けたエネミーが一斉にカタフを攻撃。
この海ほたるPA全体が軽く揺れるほどの総攻撃を避けられるわけもなかったカタフは、今ので即死。
土煙が晴れた場所には死亡マーカーが浮かんでいた。
まさかこんなことを繰り返していたのか?
テイムされたエネミーによる《無限EK》はある意味で最も残酷な手段と言え、そのやり方を平然と実行する加速研究会には反吐が出る。
だが同時にあの加速研究会がこんな『地味な作業』を延々とやってるのかと疑問も浮かぶ。
単にカタフを全損させる目的なら、あの組織はもっと効率の良いやり方があるのではないのかと考えてしまう。
それだけの悪い意味での信頼と実績があるだけに今の状況を正確に理解するに至れなかったが、不意にカタフの死亡マーカーの周囲に白い光がキラキラとまばゆき、マーカーを包み込む。
すると死亡マーカーは光が収まるのと同時に消滅して、カタフが蘇生待機時間を無視して蘇生。
それに驚く様子もないカタフは、すでにこの行為に慣れているのか、或いは……
「強制蘇生の必殺技? だとするとあそこにいるのか」
元から知っているかの2択と考えたテルヨシは、今の現象が分類として《回復》に当たると見て、未だに加速世界で2人しか現れていないという
3人目と言われているチユリは厳密には回復アビリティではないし、強制蘇生もできないのでもちろん違うし、残る2人のうち1人は悲劇のヒロインのごとく自分を巡る争いに耐えられず自らアンインストールしたと黒雪姫などからも聞いていた。
そして残る1人は《白の王》である《ホワイト・コスモス》。
《オシラトリ・ユニヴァース》のレギオンマスターにして加速研究会の会長である黒幕が、今あそこにいるのだ。
だとすればアルゴンの隣に現れている発光空間の中。いるとするならそこしかない。
まだカタフをどうしたいのかはハッキリとしないが、何かの目的が遂行中と見て偵察を切り上げてサアヤ達のいるところへ戻り、見てきたものをそのまま伝える。
「コスモスがいるのね。なら向こうもそれだけ重要な計画を進めてるんじゃないかしら」
「じゃな。バイスとアルゴンもおるなら尚更じゃ」
「お、おい。お前達は普通に受け入れているが……」
「コスモスって、白の王ではありませんの。そんな人がISSキットをばら蒔いた方々と一緒にいるのですか?」
「いや、話からして白の王は協力者どころの話じゃねぇだろ」
「黒幕はそいつか」
さすがに伝えていないことを一気に話したから、カイを始めとした面子はコスモスがいることに明らかな同様を見せてしまう。
だからといって物証もないことを話しても、はいそうですかと素直に納得できることでもないから、テルヨシ達もその辺の話はあとでゆっくり話すしかないと、今はシズクの解釈でいいと疑問に対しては無理矢理に終える。
問題なのは現在進行形でカタフが延々と死亡と蘇生を繰り返されているかもしれない事実と、放置すれば全損もあり得ることだ。
話をしている間にまた微震動が伝わってきて、これがエネミーによる総攻撃だと説明すれば、いよいよ危機感を抱いた一同もカタフ救出のためにどうするかを考え出す。
『話を聞くに、操られたビーイングに小戦士が1人、蹂躙されているのですか』
『妾達にはどうでもよいことではあるが、その者達の行いはビーイングを軽視している節がある。そこは見過ごせんな』
無策に飛び出してもエネミーに殺されるだけなのでシズクすらさすがに先行したりはしなかったため、少しの沈黙が続き、そんなタイミングでタギツヒメとイチキシマヒメがいたことを思い出させるように存在アピール。
カタフに関してはどうでもいいという価値観の違いこそあれど、加速研究会のしていることが気に食わないという点では合致した以上は、協力してくれる流れにはできる。
「タギツヒメ、イチキシマヒメ。エネ……ビーイングは10体。たぶん全部2人と同じレベルのビーイングだけど、まとめて相手できるか?」
『妾達の力はエリア制限があるゆえ、ここでは本来の70%ほどの力しか出せないでしょう。ですが全てのビーイングをまとめて相対する必要はありません』
『突破口は妾達が作ろうぞ。そなた達は小戦士を救い、忌まわしき頚木を破壊することに集中せよ』
一応の問題点として10体のエネミーを相手取ることを挙げてみても、どうやら問題なく対処できる自信があるようで、そこまでの自信があるならテルヨシ達もそれを信じて行くしかないと決意。
何をどうやって相手するのかも具体的に説明せずに善は急げみたいな行動力で移動してしまったので、そこはもうちょっと慎重に行こうよと思いながらも、もう止められない流れには乗るしかないので、半分くらいは破れかぶれな気持ちで進軍していった。
『《
物凄く堂々と道路の真ん中を突っ切ってエネミー達のいる場所付近まで接近したタギツヒメとイチキシマヒメは、さすがにその存在に気づいたバイスとアルゴンに反応されてしまう。
しかし《変遷》によって復活したタギツヒメの武装類の1つである水晶を1つ砕いた後、エネミー、カタフを含めた対象が力の試練の時に出てきたキューブに閉じ込められる。
あのキューブは対象の大きさに絶妙なサイズで調整するようになってるのか、エネミーには超巨大なキューブが出現し、カタフ達デュエルアバターには相応のサイズが出現。
そして予想通り、あの発光空間も丸ごとキューブに閉じ込められたところから、そこにコスモスがいたことが確定する。
『《タケミカヅチ》』
タギツヒメが個々で捕らえたのを確認するかしないかで、今度はイチキシマヒメが剣を抜いて雷を纏わせると、固まっていたエネミー達に向けてタケミカヅチを放ち、衝撃に強いキューブはそれに耐えながらもその威力で吹き飛び、10体いたエネミーは一気に3体にまで減少。
キューブを破って戻ってくるまでの時間稼ぎでしかないかもだが、それにしても結構な勢いで飛んでいったので、千葉県まで吹っ飛んだかもしれない。
残るエネミーもタギツヒメがキューブを操作して互いにぶつけ合うことで左右に吹き飛ばし海上へと放り出され、バイスごとキューブに閉じ込めていた最後の1体を処理しようとしたところで向こうも反撃。
キューブは確かに強固な檻としての機能を持つが、そのステータスを無視する心意攻撃にはあまり効力はないようで、コスモスが放った破壊の心意によってカタフ以外のキューブが一撃で破壊されてしまう。
「いやぁ助かったわ会長はん。いきなりカッチカチの檻に入れられて閉所恐怖症になるとこやったわ」
「いやはや、毎度のことながら君には驚かされるよ、テイル君。まさかそちらのエネミーはお仲間というわけでもあるまいに……テイムもされた様子がない。不思議なものだね」
「御託はいい。それよりもこんなところでなぶり殺しとは良い趣味してんな、コスモス」
「なぶり殺しですか。端から見ればそう見えてしまうのかもしれませんが、私はカタフに対して悪意や敵意など一切ありませんし、全損させるつもりもないのですよ」
「だったらもっと平和的な話し合いってのができないのかしら。それが出来ないほどバカってわけでもないでしょ」
「カタフの決心はすでに話し合いのみでは揺らがないほど固まってしまっていますから、説得にも強引さが出てしまうのは致し方ないことなのです。とはいえ、こうして邪魔が入っては説得などと言ってもいられませんね」
テルヨシ達の乱入にもまだ余裕がありそうな雰囲気の加速研究会は、短い時間で戦力分析をするように会話に応じてきて、超然とした雰囲気のコスモスの話に嘘がないのがわかる。
どういうことなのか理解するには情報が不足しすぎているので、その辺を探ろうとしたら会話など不要とばかりにイチキシマヒメが風を纏った剣を振るってコスモス達を攻撃。
その風はバイスの操るエネミーが持つ巨大な尻尾が振るわれることでかき乱されて威力を大幅に減退させられてしまったが、好戦的なイチキシマヒメとタギツヒメを面倒と見たか、バイスもエネミーの背中から影に沈みこんでコスモスの隣まで移動する。
「そちらのエネミーとはリンクが形成されているわけではなさそうですね。何かしらの利害が一致しているといったところですか。となると《四神》クラスのAIに成長していると見て良さそうです。そのようなエネミーがどこにいたのかはわかりませんが」
『ホワイト・コスモスとやら。そなた達のビーイングに対するぞんざいな扱いは目に余ります。その傲慢な振る舞い
。この世界の神にでもなったつもりですか』
『愚かな小戦士よ。その蛮行はいつかそなた達自身に返ってくることになろうぞ』
「バチでも当たる言うんか? ハハッ、そやったら会長はん含めてウチらはとっくの昔に裁かれとるわ。そうやないってことは、神様もウチらのやっとることにも寛容やってことやろ」
「少なくとも、我々は我々のしていることが絶対的な悪であるなどと思っていない。それはすでに伝えているとは思うんだがね」
「そのわずかな正義を貫くために犠牲になるものが多すぎるって話もしたと思うんだが、その辺は考え直したのかよ」
「多大な犠牲を払ってでも成さねばならない。そうしなければこの世界もまた滅びの道を辿る。これも以前にお伝えしましたよ」
「話すだけ無駄でしょ。世界を救うとか大義名分を掲げて悪にでもなろうってヒーロー気取りのコイツらは、そこに生きる私達を見ていない。救うっていうなら私達もまとめて救いなさいよ。それが出来ないからアンタらは受け入れられない。独りよがりの正義ほど滑稽なものはないわ」
バイスの影移動も位置的に千葉方面に逃げるトンネルまで伸びてしまっているので、撤退するとなればもう止められないことは確実。
話しながらバイスのそばに寄ったアルゴンの動きからもそこはもう諦めるとして、相変わらず話が通じない感じが否めない加速研究会にテルヨシも無駄な会話をしていると思う。
そこをバッサリと切り捨てられるサアヤの言い分には拍手を贈りたいところではあったが、向こうも分かり合おうなどという気持ちは毛頭ないからか、肯定も否定もせずに言葉を飲み込んだようだ。
「私達は止まりません。あなた達もあなた達が守るもののために戦うのでしょうが、その結果がどうなるかは、楽しみにしておくとしましょう」
結局はぶつかることでしか決着はないと言い切ったコスモスは、そのまま一礼して影に沈んだバイスと呑気に手を振ったアルゴンと一緒に影の中へと沈んでいき、あっという間にこの場から逃走。
このまま戦っても向こうに分がありそうな気配はあったが、撤退したならそうしたくない理由もあるのだろうと考えて、コスモス達の撤退で沈黙していたエネミーが動き出し全員が臨戦態勢に。
1体だけ残ったエネミーは、ライオンの頭にサソリのような尻尾を持つ真っ赤な体色をした四足歩行の肉食獣型のエネミー。
固有名は《
当然、このマンティコアもテイムされているため、その頭の部分には銀色の冠のようなアイテムがはめ込まれていて、体表面に内側からトゲのように食い込んでいる。
外すというよりは壊す方が手っ取り早そうなのはすぐにわかったので、連戦で疲労はあるが10体同時に相手をするような事態を避けられたと思えば気持ちは軽い。
「んじゃ他のエネミーが戻ってくる前にこいつを解放してやろうか!」
「意気込みはいいけど、まずはカタフをあそこから出すわよ! 戦力は多いに越したことないんだから!」
「狙いはエネミーを縛るあの冠じゃ! テイム状態が解けたら、タギツヒメとイチキシマヒメに任せるぞ!」
『あの者が素直に引き下がればいいですが』
『そなた達がいらぬ攻撃をすれば逆上するやもしれんから、攻撃は確実に当てるのじゃぞ』
「てゆーか俺達への説明はなしかよ!」
「勝手に話を進められて不満がありますわよ!」
「うっせーな! うだうだ言ってる暇あったら攻撃しろバカが!」
悠長に作戦会議を待ってくれるなんて都合の良いことはないので、マンティコアは猛り狂う猛獣のごとくテルヨシ達をターゲットして殲滅に動いてきて、まだコスモスが黒幕であることを受け入れられないクラリッサ達に混乱が生じる。
無理もないことだが、まずは場を落ち着かせることが最優先なのは誰が見ても明らかであり、ここでのシズクの悪態が正論になるため、ごちゃごちゃしているだろう頭を1度リセットしたクラリッサ達もようやく集中して動き出してくれた。
タギツヒメとイチキシマヒメは攻撃が割と容赦ないので冠だけを狙うといった器用なことが出来ないとかで、戻ってくるエネミーへの警戒をお願いし、テルヨシとサアヤはカタフの救出へ。残りのユリ達がマンティコアを引き付けながら攻撃をしていく。
キューブの特性はここでも変わらないようなので2人で挟んで押し合って壊しカタフを中から救出すると、何の脈絡もなくこんな海の上の孤島のようなところに来たテルヨシ達に本気で疑問があるようだった。
「どうしてテイルさん達がここにいるんすか」
「完全にたまたまなんだけどな。あのエネミーがここにエネミーが密集してるって教えてくれたから気になって来てみれば、お前が虐殺されてるからビックリだよ」
「コスモスは敵意も悪意もないとか言ってたけど、そんなことあり得るの?」
「コスモスさんの考えはもう、僕にもわからないっす。いや、理解者であったという認識からすでに間違っていたのかもしれないっすね。あの人はもう、僕が何を言おうと止まらないっす。だから僕は今日……」
まさかあの状況から助かるなんてという驚きよりもそちらの疑問の方が気持ちとして大きいというのも不思議な話だが、のんびりと話している暇はないと理解させるようにマンティコアが咆哮。
吹っ飛んでいったエネミーもキューブから続々と脱出しているとタギツヒメの感知から報告もあり、まずはこの危機を乗り越えようと話を切り上げる。
「近接組! 遠隔組とスイッチで合わせろ! 防御で隙を作る!」
「俺とシンデレラが一陣! ガストとイーターで二陣! テイルは1人で三陣のローテ! 遠隔は間で攻撃しろ!」
マンティコアの攻撃はテイムの影響かずいぶんと単調なようだが、その攻撃力はカイでも多くは受けられそうにないレベル。
それでもタンクを遂行しようとするカイに応えるようにリクトもすぐに指示を飛ばして役割分担を決定。
近接組が多く狙いの冠も割と小さいのでローテーションを組むのもナイスだが、攻撃力のバランスも取っている。
「防御には僕も回るっす! リリースさんは攻撃に回ってくれても良いっすよ!」
「バカを言うな! こいつの攻撃力は2人で抑えるべき……」
あとは攻防のバランスが取れれば効率が格段に上がるというところにカタフが加わったことで、カイ1人の負担が軽減。
何せカタフにどんな攻撃力も一撃なら確実に耐えられるアビリティ《クリティカル・ガード》があるから、それを体験したテルヨシも未だに覚えている奇妙な感覚に背筋が凍る。
全ての衝撃をゼロにするという破格の威力を誇るクリティカル・ガードは、マンティコアの攻撃であっても関係ないようで、サイズの全く違う剛爪から繰り出される攻撃もカタフの拳に当たった瞬間にその勢いを失って止まり、その隙に近接組が冠を攻撃。
離れたところに遠隔組が的確に追撃して怯ませ、怒り狂って攻撃したきたところをカイとカタフが交互に受け切りまた次に繋ぐ。
「おいおい、タンクがカタフに防御力で負けてるんじゃねーの?」
「無効化と防御では勝手が違うだろうが! 喧嘩を売ってるなら買ってやるぞ、スピン!」
「喧嘩は良くないっすよ! 僕が同じアビリティなしに攻撃を受けたら5発と持たないんすからリリースさんは十分凄いっす!」
士気を高めたり雰囲気を盛り上げるタイプのリクトが、地味だが確実に大事な仕事をするカイに対して気持ちが盛り下がらないように煽るだけの余裕を見せ、カタフもその輪に自然と入ってくれたのはパーティーとして非常に喜ばしいことだ。
それを狙ってやったのかはわからないものの、鼓舞されたカイも珍しく気合いの声を上げて「お前達も早く壊せバカが!」と叱咤激励。
煽り合いではシズクが最強レベルなので、そんなことを言われてダメージが上がらないわけもなく、近接組とのスイッチのタイミングが一気にシビアに。
苛烈極まるシズクの攻撃の合間に割り込むこっちの気持ちも考えて!
と弱音も吐いてられない猛攻のサイクルを狂わせるわけにもいかないし、言ったところで攻撃が緩むこともないだろうシズクに合わせて続行するしかないまま、10分という短い時間ながら恐ろしいまでのDPSを叩き出したテルヨシ達は、かつてのメタトロン戦よりも圧倒的に早くマンティコアに取り付けられた冠を破壊することに成功するのだった。