アクセル・ワールド~蒼き閃光Ⅱ~   作:ダブルマジック

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Acceleration Second12

 6月20日。木曜日。

 文化祭で行う講義の内容説明のためにバイトを休んでいたテルヨシは、帰宅早々にサアヤとユリに連れられて《無制限中立フィールド》にダイブし、港区赤坂にある《東京ミッドタウン・タワー》を目指して《原始林》ステージのジャングルの中を移動していた。

 

「ダンジョンのボスエネミーが?」

 

「話だけ聞いたってそういう反応になるでしょ。だから直に見ようって話になったの」

 

「しかもそのエネミーが本当にダンジョンを出て居座っておるなら、厄介極まりないしの……」

 

 2人の話では東京にある最強クラスの強化外装《七の神器》が鎮座していた4つのダンジョン。そのダンジョンの最奥にいるはずのボスエネミーが何故かそのダンジョンから出てきて、現在向かっている東京ミッドタウン・タワーの頭頂に陣取ってるらしい。

 まだ2人とも情報で知っただけで実際には見ていないから半信半疑ではあったが、このところの異常事態は特に異常の度合いが凄いので、何かしらの関連性があると踏んでいるみたいだ。

 

「さ、さすがに4大ダンジョンのボスエネミー全部がいるわけじゃないよね?」

 

「それはないわね。もしそんな仰々しい陣取りしてたら、今頃は噂レベルで済んでないし」

 

「そっか。そんな目立ってたら噂じゃ済まないよね……ん? ってことは出てきてるエネミーってなんか目立たない感じの地味系とか、オレらくらいのサイズで見つけるのも難しいとか、そんなの?」

 

「地味系ではないが、目立たないというのは合っておる。なにせ凝視でもせんと『見えん』からの」

 

「見えない? 物理的に?」

 

 古参である2人がそうして直に見ないと信じられない怪奇現象に驚きの度合いは違うかもしれないが、それでも普通ではあり得ないことと理解しつつ、その出てきたエネミーとやらの情報を得るために色々と聞いてみる。

 すると2人して物理的に見えないエネミーなのかという質問に首を縦に振って肯定するので、まさかの透明なエネミーとやらに興味が湧いてくる。

 

「言っとくけど興味が湧いたから仕掛けてみようとか思わないでよ。何の攻略法もなく突っ込んだって近づく前に即死させられるんだから」

 

「じゃな。儂らでもどうすることもできんじゃろうて」

 

「2人でも攻略法がないって……透明ってだけじゃないの?」

 

「いちいち説明するの面倒臭いわね。今からガーッと説明するから移動と聞きに徹しなさい」

 

「……うい」

 

 そういった雰囲気をテルヨシから敏感に感じ取ったらしいサアヤが言う前に釘を刺してくるので、上がりかけたテンションがガクッと下降するが、聞いてくることに答える対応が面倒臭くなったサアヤは、移動の速度アップと効率を考えて自分の知る情報を矢継ぎ早に言うことにして、テルヨシも順応するしかなくて黙って速度を上げて走り続ける。

 

「エネミーの固有名は《大天使メタトロン》。《神獣級》エネミーで、大きさは……とにかく大きいわ」

 

「……テキトーすぎない?」

 

「うっさいわね。メタトロンは芝公園地下大迷宮《コントラリー・カセドラル》のボスエネミーで、ある1つのステージ属性を除いて、常に不可視・即死攻撃・全属性ダメージ透過とかいう冗談みたいなステータスになるのよ」

 

「当然、そんなステータスのエネミーなど倒せるわけもないが、ダンジョン内であれば不可能ではない。ガストが言うた通り、メタトロンはあるステージ属性ではそのステータス補正が弱まって攻撃可能となるのじゃ」

 

「本来ならダンジョン内にその属性に任意で切り替えるパネルがあるから、攻略自体は苦戦はしても不可能じゃないわ。でもそんなステータス持ちがダンジョンから出られたら、どうしようもないじゃない」

 

「……んで、そのステージ属性って?」

 

「お主も見たことは限りなく少ないであろう……暗黒ステージの中でも最高峰の《地獄》ステージじゃよ」

 

 ……言葉が……すぐに出てこない。

 一気に説明されたことでメタトロンがどれほどふざけたエネミーかは十分に理解できたが、それでも『ゲームとして』ならちゃんとした攻略法が用意されているダンジョンのボスとして納得もできた。

 攻略法どころか攻撃方法すらまともに出てこなかった《四神》とは違って、聞く限りではまだ希望的な部分はあるものの、攻略の恩恵とも言えるものがない状態でメタトロンを相手にするのは現状では不可能であることを確信すると愕然とせざるを得ない。

 ユリの言った地獄ステージは、暗黒系のステージの中で最も邪悪なステージ属性で、バーストリンカーになって2年ちょっとになったテルヨシでも、これまでの対戦でそのステージをお目にかかったことは『1度だけ』なくらいに出現率は低いのだ。

 おそらくはサアヤとユリですら両手の指で数えられる程度しか見たことがないはずのステージ属性を、ダンジョンにあるというパネルなしでダンジョンの外にいるメタトロンを倒そうとしたら《変遷》によって地獄ステージになるのをひたすら待つしかない。馬鹿げた話だ。

 

「…………待ってくれない? そもそもそのエネミーがどうやってダンジョンから出たのよ。まさかエネミーが意思を持って勝手に出てきたなんてことはないでしょ?」

 

「四神はともかくとしても、そんな高度なAIを持ったエネミーの話は聞いたことがないしね。おそらくは……それも不可能に思えるけど、誰かがメタトロンを調教(テイム)して移動させたくらいしか考えられないわ」

 

「調教……か……」

 

 とにかく、地獄ステージ以外で挑んだところで為す術もなく即死させられることはわかったが、そもそもなことを尋ねてみると、ここも推測の域を出ない様子だった。

 それでも調教と聞いたテルヨシは、春先に起こったあの事件を思い出すきっかけとなって、その時のことを鮮明に思い出しながら、メタトロンについても考察を始める。

 

 調教といえば沖縄で出会った《サルファ・ポット》とかいうバーストリンカーが神獣級エネミー《ニーズホッグ》を操っていて、その強化外装であった《幻想の手綱(ミスティカル・レインズ)》は今もおそらくは黒雪姫の手元にあることだろう。

 その性能は確かに神獣級エネミーをも調教していたことから、今回のメタトロンもあり得ない話ではないとサアヤとユリ以上には納得しはするが、ニーズホッグはおそらく徘徊するタイプのエネミーであり、ボスエネミーをも調教してしまう強化外装というのは規格外。

 それこそ《ブルー・ナイト》の持つ神器《ジ・インパルス》や《グリーン・グランデ》の持つ《ザ・ストライフ》といったレベルでなければ可能性すら……

 と、そこまで真剣に思考したところで急に黙ったテルヨシを心配する声が飛んできたので、そちらへ反応しつつ現在位置を大まかに把握すると、ほぼ直進コースで進んだはずだが、ジャングルの景色ではよくわからなくて冷静になって1度立ち止まる。

 

「えっと……今どの辺?」

 

「はぁ……言うと思ったわ。まぁこのジャングルを迷わず進めって方が無理な話よ。ボンバー、お願いね」

 

「まっすぐ来たはずじゃから……おおよそ向こうじゃの。頼む」

 

 真面目な話をしていたところでのこれにはサアヤとユリも微妙な空気を作ってしまったが、自分達も楽して移動していた手前で文句は言わず、2人とも下ろしてもらってから、サアヤが《ブレード・ファン》を呼び出してその上にユリを乗せると、そのまま真上へと投げ飛ばしてユリをジャングルから抜けさせて進路の確認をさせる。

 アビリティ《ディセント》によってゆっくり降りてきたユリは、現在地が大体で代々木公園付近であることを知らせ、目的地までの進路も示してくれて、改めてミッドタウン・タワー目指して進むこと約10分。

 巨大な樹木と化していた東京ミッドタウン・タワーは、周囲からも頭ひとつ抜けて高くそびえていて、傘のようになった天辺も見える位置からテルヨシも目を凝らして見てみる。

 

「んーっと……あー。なーんかうっすら見えるような見えないような……」

 

「ボンバー。メタトロンの反応圏ってどのくらいだっけ?」

 

「さぁの。ボスフロアの大きさから考えれば、半径200mはあるものと考えてよいかもしれんな」

 

 太陽光もあるのでなんとか輪郭程度なら見えないこともないレベルで見えたメタトロンは、確かにサアヤがテキトーに言ったくらいには大きく、天辺に収まりきれてないほど。

 それをサアヤとユリも確認しながら、メタトロンの反応圏を探ろうとしていたが、テルヨシがここで勇猛果敢に「1発食らう覚悟で近づいてみる?」なんて言ったら火に油。

 先日のスザクでEKになっておいて、今回もまたEKされに行くなんてバカ以外の何者でもないし、そうでなくてもすでにダンジョン攻略経験のある2人はおおよその反応圏は推測できているのだから、わざわざ怒られるためにしゃしゃり出る必要はない。

 

「とりあえず事実の確認はできたわけだけど、あれをどう思う?」

 

「普通に考えて、調教してわざわざあそこに配置してるんだから、メタトロンを操ってるやつはミッドタウン・タワーに近寄らせたくないってことだよね?」

 

「そうなるとあの建物自体。或いは内部に近寄らせたくない『何か』があると仮定できるわけじゃが……」

 

 そして今回は別にメタトロン攻略のために来たわけではないので、危険を冒すこともない。

 それでもバーストポイントを払って来ている以上、それで撤収では勿体ない。

 ならばその危険に含まれる行動を避けて出来る限りの考察はしておこうと、メタトロンの反応圏に注意しながら周囲を探索がてら話し合い。

 もはや難攻不落の要塞とも言える東京ミッドタウン・タワーだが、これほど強力なエネミーを調教してまで連れ出したからには、建物自体か内部に何か隠したい、守りたい何かがあることはユリの予測の通りだろう。

 テルヨシとサアヤもそこには意見を一致させるが、その何かを探るとなると難しくなってくるので少しだけ唸る。

 

「何らかのアイテムを手に入れたけど、どうにも扱いが難しいから人の手に触れられないようにした可能性」

 

「そんな善良な思考の持ち主がメタトロンなんて危ないエネミーを連れ出してまで守らせるわけないでしょ。アイテムなら適当な倒されそうにない神獣級エネミーにでも食わせた方がよっぽど安心できるわ。《太陽神インティ》とかよさげね」

 

「あれは近づくこともできんし、口があるのかすらわからん謎すぎる火の玉エネミーじゃろうて」

 

「でも倒したって人はまだ聞いたことないし、危ないアイテムを食わせて安心するならあいつか四神くらいじゃないかしら」

 

 あんまりうんうん唸っても仕方ないので、冗談混じりで適当な推測を述べて和やかな雰囲気にしようとしたら、速攻で否定された上にテルヨシが知らない神獣級エネミーの話で勝手に盛り上がり始めてしまい置いてきぼりに。

 まぁ結果として2人の雰囲気は和やかな感じにはなったので失敗ではなかったが、蚊帳の外な自分が寂しいので盛り上がってるところに申し訳なくも割り込んで話を区切り、また本題の方に戻そうとした。

 

 だがその前に進行方向の先に明らかにエネミーではない2つの人型のシルエットが見えて、和やかムードから一転して臨戦態勢に入って立ち止まったテルヨシ達は、まだ遠くて誰かもよくわからないそれに警戒心を全開にする。

 わざわざ危険なメタトロンの近くにいるなら、その存在をすでに知っている可能性は高いし、それならばメタトロンをミッドタウン・タワーに設置した人物と関わりがあるかもしれない。事によっては当人であることも考えられる。

 そのため慎重に接近していくテルヨシ達であったが、近づくにつれてそれがデュエルアバターであることがわかり、その装甲色も判明し、シルエットまでがわかるまでに接近すると、向こうも接近に気がついて明確にその顔をテルヨシ達に向けてくる。その全身からは警戒の気配すらない。

 

「以前に見たような面子だな……」

 

「羨ましいのかい、拳ちゃんっ」

 

「だからお前が拳ちゃんと呼ぶな」

 

 向こうが戦闘の意思を見せなかったことで、テルヨシ達も無駄な交戦は避けるために警戒を解いて話ができる距離にまで近寄っていくと、2人のうちの1人《アイアン・パウンド》が口を開いて会話へと興じる。

 以前というのはおそらく、災禍の鎧の件でエネミー狩りをしていたところを無視して横断したあれだろうが、そんなことは挨拶程度の切り出しでしかないのはわかってるので、テルヨシも軽くジャブで返しつつ、もう1人の意外な人物に話しかける。

 

「グラちんも重役出勤、お疲れ様です」

 

「…………」

 

 その相手であるグリーン・グランデは、大盾ザ・ストライフをドンと前で構えて直立不動のまま、顔だけをテルヨシに向けてすぐに元の目線へと戻って動かなくなる。その視線の先には、東京ミッドタウン・タワーがある。

 

「まさかグランデとパウンドがいるなんてね。アンタ達もメタトロンの視察に来たのよね?」

 

「ああ。聞いた時は半信半疑だったが、こうして実際に見てしまえば受け入れるしかあるまい。我らはこれを深刻な事態と見て、早期の解決を図ることにしたのだ」

 

「それでわざわざグランデも来ておるのか。他におらんのか? デクリオンくらいはいた方がよかろうに」

 

「生憎と急を要した案件で、動けたのは俺と王だけだったのだ」

 

 どうやらグランデとパウンドもメタトロンの出現を聞きつけて来た野次馬的なあれだったのだが、テルヨシ達とは違って何らかの対応策を持って待機していたようだった。

 それでもたった2人でメタトロンを相手にするのは無茶苦茶な話に思えるが、無謀なことはしないパウンドがそれでもやると言うのだから、勝算はあるのだろう。

 おそらくはグランデの存在がそうさせるに至っていることもなんとなくわかる。

 

「ふーん。急を要したってことは、何らかの策があるけど、時間的に余裕がないってことだよね? 差し支えなきゃ教えてくれる? 場合によってはオレ達も協力はできるかもだし」

 

「ちょっとテイル。勝手に話を進めないで。こいつらは長期的な試行錯誤が好きな変わった連中なのよ。だから協力なんて軽く言わない方がいいわ」

 

「話を聞くだけでもよかろうて。協力するかはそれからでも遅くはあるまい。どうじゃ、パウンド」

 

 そして早急に対処すると言って、集まるタイミングを選べていない以上、それがパウンド達のタイミングで行えることではないのを理解したテルヨシが軽い気持ちで尋ねると、ちょっと慌てたサアヤが露骨に嫌そうな意見で割り込んでくる。

 加速世界で最大のレギオンともなると、色々と探究もしているのだろうが、サアヤが物好きと言うくらいには具体的にやってるその内容から今回の対処に当たるのなら、テルヨシ達が考えつかないような妙案である可能性は高い。

 だからユリも話を聞くだけでもサアヤをなだめつつパウンドに振ると、1度グランデに顔を向けたパウンドは、そのグランデが小さく首を縦に振ったのを見てから視線をテルヨシ達に戻してその口を開く。

 

「あまり推奨はしないが、協力してくれるならありがたい。我らはガストの言ったように長期的なデータ収集で《変遷》にある法則性があることを突き止めたのだ」

 

「変遷の、法則性?」

 

「変遷は基本的にランダムなんだが、大きく分類した8属性。地水火風木金と聖暗が連続して同じ属性になることはない。そんな中であるタイミングで前者の6属性に変遷が片寄り、聖暗の属性にならないことがあり、そのあとに変わる聖暗属性のステージがかなりの上位属性になる可能性が高いことを突き止めた」

 

「相変わらず変なことを調べてるのね……」

 

「じゃがそれが本当ならば、こうしてグランデとパウンドがおるということは、今がそのタイミングということなのじゃろう」

 

「そういうことだ。まぁさすがにジャストタイミングがわかるわけじゃなく、大まかにこの時間帯といった大雑把なものにはなるが、そう巡っても来ないチャンスを逃す手はないからな」

 

「時間帯って……もしかしてお2人さん、ここでどのくらい待機してるの?」

 

「内部時間ではもうすぐ1ヶ月になるかもしれん」

 

「さぁ帰るわよ」

 

「エネミーの1体くらいは狩っていかんか?」

 

「野獣級くらいにしとこう。あんまり時間かかるのはNGで」

 

「……踵を返すのが早すぎるだろ!」

 

 パウンドの話では、もうすぐ暗黒系の上位ステージに変遷するから、それで地獄ステージになったらメタトロンを討伐するといったものであった。

 それを実行に移すまでに収集した情報はさすがといったところだが、それでも変遷によって出現するステージが地獄とは限らないし、タイミングにしても精密にはわからずに逃さないために内部でひたすらに待つことになる。

 それを証明するようにグランデとパウンドはすでにダイブして1ヶ月ほども待ちぼうけしていると聞けば、協力に前向きだったテルヨシでさえ、速攻で撤収を決めたサアヤとユリに便乗して踵を返してしまった。

 そのあまりの却下の早さに硬派なキャラも忘れてツッコんでしまったパウンドの叫びは、わずかでも希望を持たせた故の悲痛さが含まれていて、良心くらいはあるテルヨシも心が痛んだが、それでもこれからいつになるかもわからない変遷を待ち続ける気力はなかったので、呑気に話をしながら離れていくサアヤとユリに合わせてその場をあとにするのだった。

 

 代々木公園辺りで適当にエネミー狩りをしてからフィールドを離脱したテルヨシ達は、備えなしで遭遇したグランデとパウンドの作戦が上手くいくことを願いつつも、そうそうスムーズにはいかないだろうこともわかった上で、今後の対応を考えながら夕食の準備を始めていく。

 それが終わった午後6時前に何故かハルユキの家に直行すると言っていたマリアが帰宅して初対面であろうユリと遭遇する事態が発生して、面子的に誤魔化しが難しいとさえ思ったテルヨシ。しかし……

 

「あれ、サアヤさんとユリさんがいる」

 

「マリア、おかえりー」

 

「マリアちゃん、おかえりなさい」

 

「……あれ? マリアとユリさんって知り合い?」

 

「うん。ニコさんが『あたしの姉貴だ!』って4月くらいに紹介された」

 

「もう知り合いでしたー」

 

「…………オレのドキドキを返して!」

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