翌日の金曜日。
昨夜に黒のレギオン側で動きがあったとだけ聞いていたテルヨシがようやく話を聞けるとなった朝のHR前。
長くなりそうだからと自分とハルユキの挑戦権を使って1時間たっぷりで話してくれる心遣いはありがたかったが、なんか話すことは同席するタクムとチユリにもあるらしくて、その辺も含めて黒雪姫と時おりハルユキが加わって話し始める。
まずはテルヨシも知るところの《帝城》へと入ってしまったハルユキと謡は、かつての災禍の鎧の初代所有者《クロム・ファルコン》がまだ抜け道があったらしい帝城侵入から、その奥にあった神器《ザ・ディスティニー》を入手したまでの記憶の導きによってエネミーとエンカウントすることなくそこに到達。
ハルユキと災禍の鎧との繋がりが見せた奇跡によってどうにかそこまで行けた2人は、そこでまさかのデュエルアバター《トリリード・テトラオキサイド》と名乗るバーストリンカーと遭遇。
ザ・ディスティニーと並んで鎮座していた神器《ジ・インフィニティ》を腰に差したリードは、敵意を持つことなくハルユキと謡に帝城内部で得た情報を教えてくれ、四方の門に本来備わっていた封印を予め壊していた張本人でもあった。
そうしておいて、いつか訪れてくれる存在を待っていたらしいリードの助けもあって、昨日に行われた脱出作戦もなんとか成功し無事に2人を帝城から脱出させて無限EKからも救出できた矢先。
今度は一緒に作戦に参加するはずだったフーコの《子》である《アッシュ・ローラー》が作戦開始から姿を消していたことが判明し、近くにいるはずだと捜索に飛んだハルユキがISSキットを装着した集団に袋叩きにされていたのを発見。
多勢に対してISSキットもあるのではハルユキでも助けることは不可能だったが、激情に身を委ねてここで災禍の鎧を再度装着してしまい、その侵食度も比ではないレベルにまで到達し《6代目クロム・ディザスター》となってISSキット装着者を圧倒的な力で一蹴。
その後すぐにISSキット装着者から赤い光が抜け出てどこかへと飛んでいくのを見たハルユキは、それがISSキット本体へと向かってると確信してそれを追跡。
そうして辿り着いたのがまさかの《東京ミッドタウン・タワー》で、光はその建物の中へと吸い込まれていったらしい。
そしてさらにひたすら《変遷》を待つと言っていた緑のレギオンの《グリーン・グランデ》と《アイアン・パウンド》とも遭遇し、一旦は戦闘になったものの、メタトロンがいることがわかって、ようやく来た変遷でも《地獄》ステージにはならなかったことからグランデとパウンドはチャンスを逃したことで離脱。
ハルユキも内部時間で1時間後に切断すると言われていたために間を置かずに強制離脱。
派手に暴れたおかげで現実に戻ってからのハルユキは鎧の侵食も弱くなっていたが、またいつ暴れ出すかわからない恐怖から黒雪姫達の前から逃走し、人知れず全損しようとするも、それを現実のアッシュが阻止して黒雪姫達がなんとか引き戻すことに成功。
と、ここまでがタクムとチユリも知るところで、本来ならば今日の放課後にハルユキの鎧の浄化を『強行』する予定だったらしいが、昨日の解散後にハルユキと黒雪姫が2人で偶然ながらも合流し、流れでいつ始まるかわからない鎧の侵食を再度弱めておこうと動いたらしい。
そうしてダイブした《無制限中立フィールド》の東京ミッドタウン・タワーの近くで合流しようとした2人だったが、そこでは先刻にハルユキにその存在を見せるためにパウンドがあえてメタトロンの攻撃を誘発し、そのメタトロンが動いたと報告を受けて以降、BICの恩恵を使って現実時間の知覚のままで加速しずっと待機していた《ブラック・バイス》とエンカウントしてしまい、そもそも災禍の鎧を生み出すきっかけを作った加速研究会は好機と見てハルユキを拉致して鎧を回収──要するに全損だ──しようとした。
災禍の鎧もバイスのことを覚えていて、ハルユキの意思をも押し潰して強引にバイスと戦闘に及び、しかし卑劣な策略で合流した黒雪姫に攻撃を誘導されてしまい、暴れ疲れて動けなくなるを待つバイスの強かさに1度はしてやられてしまったらしい。
しかし寸前のところで災禍の鎧の呪縛を断ち切ったハルユキが正気を取り戻し、瀕死にまでなっていた黒雪姫と共闘してバイスの撃破に成功。
災禍の鎧も長らく存在し続けた禍根を断ち切られて沈黙し、今はただ寄生の属性を持った強化外装《ザ・ディザスター》としてハルユキの元にあり、今日の放課後はその鎧の寄生属性を取り除いて本来の2つの強化外装、ザ・ディスティニーと大剣《スター・キャスター》へと戻してあげるだけとなったと。
「なるほどね。災禍の鎧が寄生なんて属性を持って生まれ変わって、所有者の元を転々としたのは、クロム・ファルコンの加速研究会の連中を殺したいって願いが形になったのと、そもそもとして2つとない神器ザ・ディスティニーだったから消滅しなかったわけだ」
そこまでの話で災禍の鎧に関する悲しい過去を知ったテルヨシは、鎧の誕生に関わったクロム・ファルコン、通称ファルと《サフラン・ブロッサム》というF型デュエルアバター、通称フランの話にやるせなさを覚え、災禍の鎧についても純粋で強い思いが歪んでしまったがために呪いとなって残ってしまっただけで、チェリーの件を含めても今は憎しみを抱く対象にはできなかった。
帝城からザ・ディスティニーを取って戻ったファルは、当時から共に行動していたフランに腐食以外のほぼ全ての耐性を与えるという規格外の鎧、ザ・ディスティニーをプレゼントし、一時は加速世界でも逸脱した強さを得ていた。
しかし本来なら帝城を攻略したバーストリンカーが正規で獲得できる強化外装がシステムの穴から入って持ち出されてしまったせいでゲームとしてのバランスが崩壊。
当時はまだ黎明期と呼ばれる手探りの時代に反則級の強化外装の出現は脅威でもあり、様々な懸念があったが、神器ゆえに所有者を全損させてもアイテムだけが移動して新たな所有者が生まれてしまい、鎧の脅威は消えることはない。
その問題を早期に解決しようと動いたのが、加速研究会。
決して善意で行ったわけではないだろうし、研究会側にも思惑はあったと思われるが、バイスと他もう2人は、フランを誘い込んで無制限中立フィールドの特定のステージ属性に出現する神獣級エネミー《ヨルムンガンド》の縄張りに放り込み、鎧の唯一の弱点である腐食攻撃によって無限EKを仕掛けた。
そうすることで全損すれば、鎧は元あった場所へと戻されて加速世界に平穏がもたらされる。
と、バイスは説いたようだが、それで「はいそうですか」と強い愛情をフランに抱いていたファルが納得できるはずもなく、会長とやらの強制蘇生の必殺技で1時間の待機を待たずにヨルムンガンドに即死させられていくフランの元へとバイスの拘束を振り解いて辿り着くも、すでにフランは全損の1歩手前でヨルムンガンドの牙も止まることなく襲い掛かる。
そうなるくらいならとフランはファルに自らにとどめを刺させて全損。鎧はファルへと移動し、こうなった状況を作り出したバイス達を倒すために鎧を装着し、鎧の唯一の弱点である腐食に耐性を持つクロムとが合わさってヨルムンガンドを一蹴。
そのヨルムンガンドからドロップしたスター・キャスターも駆ってバイス達を倒そうとするも、寸前で逃げられてしまい、怒り狂ったファルはそこで装着した2つの強化外装を心意の力で融合しザ・ディザスターを誕生させ、フランを嵌めるために使われた他のバーストリンカーを皆殺しにしていった。
それから5度。災禍の鎧は渡り歩いて呪いは引き継がれ、6人目の装着者ハルユキによってようやくその禍根を断ち切ることができたのは、本当に喜ぶべきことだ。
「とにかく災禍の鎧は今日にでも元に戻せるってことだろ。大変だったみたいだが、それにはオレもホッとしたよ」
「そうだな。これでマリアもこちらの案件から外すことができる。今週は私達が独占してしまったから、赤いのが拗ねる前に解決して良かったよ」
「ニコたんあれで寂しがり屋だからねぇ」
そうした話が終わった頃にはすでに時間もほぼ1時間を使い切るところで、今度の七王会議でのハルユキの断罪は避けられた現実の安堵がその場を包み込み、和やかな雰囲気が流れる。
正直、何をどうやって災禍の鎧の呪縛を解いたかは、ハルユキの体験からの話では理解が8割あったかくらいには曖昧なものだったが、それでもファルとフランの魂と呼べるものが救われたことはわかったので、テルヨシもそれでよしとしたのだった。
そのさらに翌日の土曜日。
無事に災禍の鎧を浄化することに成功し、今でも規格外と呼べるザ・ディスティニーとスター・キャスターを誰の手──黒雪姫達もだ──も届かない場所に封印したことをマリアから聞いたテルヨシは、ちょっと勿体ないことをしたんじゃないかと思いながらもその選択に賛同して封印については言及するのをやめた。
そうしたことがあったからか、バイトに向かう足も自然と軽やかになり、ちょっとテンションが高いと調子に乗る悪い兆候もありながらも、パドと珍しく店長にまで注意を受けて落ち着いてからは何事もなくバイトも終了。
今日は領土戦はお休みということにしていたので、そそくさと着替えて出かけていったパドの行方を気にしつつも、このあとはサアヤとユリが来る予定もあるのでマリアと一緒に帰宅。
「今日はマリアも参加ね」
「おす。よろしくお願いします」
「何で体育会系のノリなのかしら……」
「これはスルーして恥ずかしがらせる流れだった」
「そんな流れはないから!」
帰ってから着替えて少しだけ夕食の下準備をしていたら、すぐにサアヤとユリが一緒にやって来てさっそく会議を開始。
今日はマリアも参加しての会議だが、そこに拒む理由もないテルヨシ達が少しのノリで迎え入れて空気を緩和してから切り替える。
「まずユリからね。行ってきたんでしょ、東京ミッドタウン・タワー」
「レギオンの代表として美早と一緒にね。まぁ私はおまけみたいなもので、報告なんかは美早がしてくれてるけど」
「東京ミッドタウン・タワーって、現実の?」
「うん。少し考えればわかるけど一応ね。外から侵入できないなら、始めから中から入っちゃえばいいかなって」
それで最初に報告を上げてくれたのは、今まで東京ミッドタウン・タワーに行っていたらしいユリで、ユリに言われてから意外な作戦にテルヨシとマリアがほぼ同時に「おおっ!」と声を上げた。
ユリの話は単純明快で、メタトロンに守られてる東京ミッドタウン・タワーだが、その東京ミッドタウン・タワー内からダイブしてしまえばメタトロンを無視できるだろうと。
「あー、期待してるテル君とマリアちゃんには悪いんだけど、それは無理って結論なんだよね」
「マリアはともかく、テルはわかるでしょ」
「マリアだけ除外はズルい! って言いたいけど、そりゃそうよね」
「テル、何で?」
「それやるなら切断セーフティーが必要なのよね。外に出たらメタトロンにやられちゃうわけだし。でも切断セーフティーをやるにはホームネットみたいな中継がないと出来ないでしょ?」
「…………あっ。ミッドタウン・タワーのどこかのお部屋を取らないとダメ?」
「マリア、冴えてるわよ。それで1番安いところでどのくらいだった?」
「えーっと……ツインルームで1泊3万円」
「さんっ!?」
「まんっ!?」
「円かぁ……」
加速世界での出来事なだけに盲点だったが、いち早く動いてくれたユリが明るくないのをすぐに察したテルヨシは、サアヤに言われるよりも早くその理由についてを考え始めて、マリアに問われる前にはすでに答えは出てきていた。
それを聞いたマリアも冴えていて話が進むと、その辺のことを調べる前提だったユリが厳しい現実を叩きつけてきて、テルヨシ、マリア、サアヤと言葉を分けて愕然としてしまった。
どうしたってバーストリンカーの最年長は高校1年生。そんな学生100%の集団が最低3万円をはたいてまで問題の解決に乗り出すにはあまりに高すぎる。
「……まぁ侵入方法の方は引き続き可能性を探るとして、その東京ミッドタウン・タワーに何があるかは突き止めたよ」
「へぇ。テルにしては情報が早いわね」
「何もなかったってこともなさそうね」
「ISSキットの本体があるっぽい」
「ネガビュ提供の情報です」
現実世界からのアプローチは出来ないとわかって項垂れた一同ではあったが、そこで思考停止しては問題の解決はあり得ないのでテルヨシがその中でも掴んだ情報を提供して、2人もISSキットと聞いて目を見開き、ドヤ顔を決めかけた。
しかしテルヨシの言葉のあとに間髪入れずにマリアが補足説明をしてしまったためドヤ顔の披露に失敗。
「ふーん。やっぱりロータスとは仲良さそうね。学校でもよく話したり?」
「あっちから話しかけてくることはあんまり……って、大丈夫なのこの話?」
「問題ないわ。近々アンタの学校で文化祭があるんでしょ。そこでリアルで会う約束したから。ああ、招待券はアンタからもらう予定だからよろしくね」
「あ、じゃあ私もお願いしまーす」
「私も!」
「りょ、了解でーす……」
2人を驚かせてやる珍しいチャンスで空振りして落ち込んでるところに自然とそんな問いかけをするサアヤに思わず答えかけたが、リアルに関する話を言いかけたことに危機感を覚えてその辺を尋ねると、やはり謡の救出作戦の時に何やら話していた内容はリアルに関してだったようだった。
まぁこれでバーストリンカーであるサアヤを文化祭に呼べるので黒雪姫様様といったところだが、便乗してユリも来ることが決定し、最初から呼ぶ予定のマリアまで手を挙げて招待券をせがむので、もうなるようになれな精神でヤケクソ気味になってしまう。
「それはそれとして、ISSキットの本体があるとわかったなら、メタトロン攻略は最優先事項になったわね」
「焦ったところで仕方のないことだけど、キットの感染は待ってはくれないし、次の七王会議ではその辺の具体的な方針を決定してほしいわ。テル君も遠慮するタイプじゃないし、何か気づいたらユニコちゃん達に割り込んでね」
「この前それやってレディオに嫌な顔されましたけど」
「いいのよアイツは。自分の思惑通りにいかないと拗ねるタイプだし、詰めも甘いし、どうせ場を乱すようなことしかしないわ」
「酷い言われよう……」
そのテルヨシを見て引っかけ回せて満足したのか、話を戻したサアヤが今後のこちらの動きを確認して、七王会議の方での決定も報告するようにと暗に言ってみせると、割と無茶なことを言うユリに苦笑しつつ、レディオをボロクソに言うサアヤにさらに苦笑するのだった。
そうして週末のプチ会議もお開きとなって、今夜はパドのところにお泊まりだと言うユリが帰り支度をすると、何故かマリアを少し借りて部屋を出ていってしまう。
数分で返すと言われてからリビングのソファーに移動したテルヨシとサアヤだったが、なんとなく部屋で2人きりという何故か珍しい状況に緊張して、隣り合って座るものの互いに話題が思い付かない。
彼女持ちになっての経験は皆無のテルヨシも色々と考えは浮かぶのだが、何が地雷になるかわからないと軽い混乱状態に陥って本当に言葉で出てこない中、なんかサアヤも色々と考えた末に「ああもう!」とヤケクソな台詞を吐いてからぽすっ。
その体をテルヨシの方へと傾けて倒れて、そのまま膝枕の状態になってしまう。
「ねぇテル。私達ってまだ恋人らしいことちゃんとしてない、よね?」
「えっと……そう、ね。まだデートすら行ってなかったっけ」
「マリアもいるし、こう堂々と『付き合ってます!』って感じは出したくなかったけど、それでお互いに縮こまって遠慮してる感じがするのよね」
テルヨシを見上げる形で話を振ったサアヤは、まだ恥ずかしそうにしながらも真面目なことを言うから、テルヨシもサアヤが落ちないように注意しつつ正直な気持ちを吐露する。
「そうね……そもそもこうして会える時間も2人きりになれる状況を作らないとだし、普通の恋人らしいことは難しいのかもね」
「アンタが平日の全部にバイト入れてるからこうなってんでしょ。シフトを見直せバカ」
「だって彼女なんて学生のうちにできるなんて考えてもいなかったんだもん……」
「どんだけ過小評価よそれ……惚れた私がバカみたいじゃない。っていうか文句を言いたいんじゃなくてその……つまり……」
「今がチャンスと仰りたいわけですか」
「むぐっ……」
そうして話してるうちにユリの意図がこの辺にあったことに気づいたテルヨシは、おそらくは示し合わせたのだろうサアヤとユリの連携に応えるように、いつの間にやらその目をキュッと閉じていたサアヤの無防備な唇を見つめてキスしようとする。
が、膝枕の状態からキスするのは意外と難しく、サアヤの頭をちょっと持ち上げて唇を近づけると、その身を委ねるサアヤは目を開けないでテルヨシのキスを待つ。
そしてその唇同士が重なろうとした瞬間、部屋のドアが開く音が聞こえ、次いでマリアの「ただいま」が玄関から聞こえるよりも早くサアヤがソファーへと座り直して何事もなかったようにする。
──が、状況は何事もなくとはいかなかった。
部屋の構造上、玄関からリビングへは1本の通路で繋がってるので、玄関からでもリビングの一部は普通に見えてしまう。
しかもそれがサアヤ側のソファーの端っこが見えるもんだから、リビングまで入ってそのサアヤの隣にテルヨシがいたとなれば、足の位置やらが慌てて戻っていくのが見えたはずのマリアはなんとなくでも状況を察してしまえたのだ。
「…………あの、私、今日は倉嶋さんの家にお泊まりしてくるね」
「「…………えっ?」」
「だからその……テルもサアヤさんも気にしなくていいよ。2人とも恋人同士、なんだから……」
その急なマリアの言葉に咄嗟に言葉が出なかった2人は、すぐに身を翻して自室へと入っていき、泊まるための道具を持ち出したマリアを見てようやく動き出し、慌てて引き留めにいくが、もうすでに半分以上は聞く耳を持たなくなっていたマリアは2人の制止を振り切って玄関のドアを開き、出ていく際に一言だけ……
「ごめんなさい」
そう言って、ドアを閉めてしまうのだった。