ISSキットの不安がある中でもいつも通りに行われたバトロワ祭りは、その不安があろうと今日も盛況のようで、開始から10分ほどが経った今も他のフィールドよりも音が響く《鉄鋼》ステージの至るところから、激しい戦闘音が聞こえてくる。
その戦闘音を避けるように立ち回ってきたテルヨシも未だ集中力を保ったまま、死角の多い場所にいたのだが、それでもガイドカーソルとバトルロイヤルの仕様によって最低でも1人には捕捉されてしまうので、その相手が見えるところに姿を現してくれたのは
「……ファーストラブ……珍しく合ってる英語だ」
「そこは今はどうでもいいんすよ!」
その相手《パンジー・スティング》が現れて早々に真っ向勝負を挑んできたので、その唐突なガチンコの理由についてを聞けば、何故かサアヤとのリアルでの仲を聞かれ、《親》が《アイス・イーター》であることからリアルでもサアヤと知り合いらしいスティングは、どうやらそのサアヤに片想いをしていたようだった。
人を好きになるのは自由なのでテルヨシもとやかく言う権利はないが、その相手が彼女のサアヤなら、たとえ泣かせることになっても諦めてもらうしかないのが悲しい運命。
「テイルの兄貴がスーパーストロングでナイスガイなことはベリーノウですけど、それでもアタックもできなかった俺のこのヒートなソウルをどうすりゃいいかアンダスタれねんす!」
……アンダスタれねんってなんやねん。
というかそんなに熱い想いをサアヤに抱いていたなら、アタックくらいしておけとマジで思うが、直前に自分を認める発言をしてくれたのでその辺はツッコまないでやりつつ、割とキャンキャン吠えるスティングの声は物凄い反響して悪目立ちしていた。
なのでとりあえず話は聞きつつも、周囲への警戒レベルを上げていると、まだキャンキャン吠えてたスティングがようやく臨戦態勢になった。が、
「そんなわけでこれは俺の八つ当たりも含まれてるんですけど、俺のヒートなソウルもキャッチしてくれたらそれがいいんじゃ……ギャッ!!」
そりゃもう堂々と視界良好な場所にいたせいで、他のバーストリンカーから容赦なく遠距離攻撃で叩かれてしまい、この辺は本当にバカな部類だなぁと思いつつ、爆炎から抜けてきたスティングの接近にテルヨシも構えてみせる。
「ってなわけでゴー・フォー・ブロークンッ!!」
「それはホーンの専売特許だがな」
スティングはバカだが、バカなりにサアヤへの気持ちを諦めようとして、自分の気持ちも背負って真面目に付き合ってほしいってことを言わんとしてるのはわかった。
それはやろうと思ってもなかなか出来ないし、未練たらたらで引き摺り続ける人も少なくないデリケートな問題だ。
──バカではあってもお前は男だよ、スティング──
その生き様は同じ男として不覚にもカッコ良いと思ったし、その心意気を買わないわけにはいかないので、テルヨシもどんとこいな気持ちでいた。
「ちょちょちょちょっ!? 何でエスケるんですか!?」
しかしながら今はまだバトロワ祭りの序盤の乱戦時。
参加者が多数ひしめく今では、そのスティングの心意気を汲める存在がテルヨシのみだと、本人達が望む望まないに関係なく他の参加者からの攻撃の横槍は免れない。
そこを「空気読めよバカ野郎!」なんて言おうものなら「はっ? 知るかよバカ野郎!」と言われるのがオチ。こっちの事情などお構いなしなフィールドなのだから当然だ。
だからこそテルヨシはその真っ向勝負とやらをするのは今ではないと示すようにスティングから逃走をしてみせたのだ。
しかしおバカなスティングはそんなこともわからずに必死に追いかけてきて、的確に死角への移動をこなしているテルヨシとは違い、とにかく最短ルートで走るスティングは移動中でもどっかんばっかん他のバーストリンカーからの攻撃を受けてしまい、そのHPゲージはどんどん減少していく。
これでは真っ向勝負の前にさようならしそうなおバカさんのイノシシっぷりは誰譲りなのか考えたくもないが、退場されても困るので一か八か。《インパクト・ジャンプ》での長距離ジャンプでスティングとの交戦距離から抜けて、ガイドカーソルとゲージ表示からも逃げてしまおうとする。
「インパクト・ジャンプ!」
本来の使い方をすれば40mほどは一気に跳べるインパクト・ジャンプで消えるように近くの建物オブジェクトの屋上に跳んだテルヨシは、華麗に着地を決めてから視界上の表示からスティングの名前が消えたのを確認しつつ、まだ捉えられる視界の中にいたスティングを見ると、見失ったからか相当に悔しがりながらもさすがに残りのHPゲージを守るために隠れていったのも確認。
すぐに下りるとまたスティングとの交戦距離に入ってしまう可能性が高いので、遠距離攻撃が出来ないのに高所にいるのはあまり得策ではないが、仕方なしに逃げる算段だけは立てて周囲の状況を観察。
各所から絶え間なかった戦闘音もいくらか落ち着いてきて、視界の表示も切り替わりが頻繁ではなくなってきたことから、もうすぐ乱戦から局地戦に移行する頃かとおおよその推測が立つ。
そうなればスティングとの真っ向勝負も短い時間ではあるができなくもないので、戦闘音のしない場所を見定めてから、スティングが消えていった方向へと飛び下りて再びスティングを視界上に表示させる。
そうなればスティングもまたイノシシのようにテルヨシを追ってくるので、他のバーストリンカーがいなさそうな場所へと上手く誘導してどうにかこうにかタイマンできる状況を作り出すことに成功。
……だがそもそも、ただでさえ神経をすり減らすバトロワ祭りで、さらに神経を使う『特定のプレイヤーを死なないように誘導する』なんてことをしなきゃならないのかと疑問に思ってしまい、そんな思惑も知らないで目の前でやる気満々のスティングを見たら、なんか理不尽な怒りが込み上げてきてしまう。
──よし、倒そう。完膚なきまでに。
何やら戦う意識のベクトルがスティングとは違ってしまったテルヨシだが、戦うことに変わりはないので、ようやくやる気になったのがダイレクトに伝わったからか、珍しく仕掛けることに躊躇いが見えたスティング。
以前までは無鉄砲でがむしゃらに仕掛けてきた印象だったが、ようやく敵との戦力差を感覚的にわかるようになったようで成長が見られたが、仕掛けてきたのはスティングの方なのも事実なので、ブンブンと顔を振って臆した自分を奮い立たせて仕掛けに来ようと足に力を込めた。
──ピコンッ。
まさに戦闘開始といった絶妙なタイミング。
集中力を高めた瞬間に訪れた視界上の新たなプレイヤーの表示は、否が応でも反応せずにいられなかった2人ともがその足を止めて、両者と同じくらいの距離に姿を現したプレイヤーに目を向ける。
「ようやく会えました。スターターだからいるのはわかってても、会えるかどうかは運が絡むので」
とても爽やかで礼儀も知っていそうなM型デュエルアバターは、その視線を明らかにテルヨシへと向けた状態で嬉しそうに話しかけてきて、初めて見るその相手にテルヨシもちょっと困惑。それと同時に衝撃も受ける。
視界上の表示からわかる相手の名前は《
すでに局地戦に移行しているこのフィールドを生き延びるためには、いくらかの被弾は覚悟しなければならないが、表示されているサーベラスのHPゲージはまだ9割は残して輝いている。
テルヨシも同じくらいの被弾には出来ているが、レベル8であるテルヨシが至っている最小のダメージ量と同様のダメージ量に抑えるサーベラスのレベルは、1。
最初期のレベル。聞かない名前からも新人である可能性が限りなく高いサーベラスの出現は、かつてバトロワ祭りを初めて開催した時に遭遇した《アクア・カレント》を彷彿とさせる強者感が……
後から聞いた話では、カレントは《四神》の1体である《セイリュウ》から《レベルドレイン》という特殊な技を受けたことによってレベルがダウンしてしまった経緯があり、レベル以上の実力を持っていたことは納得している部分がある。
が、目の前のサーベラスはそのカレントとは違って、おそらく何の経緯もなく、完全なる新人である気配がしていて、それがほぼ被弾なしで目の前にいることの衝撃はカレント以上のものがある。
「オレを探してた? 今日は男にモテる日なのかね……」
そのサーベラスが自分を探してフィールドを駆けていたのが疑問だが、カタフも数えて本日3人目のご指名にはさすがのテルヨシもちょっとどうしたのかと謎のモテ期の到来に困惑。
男にモテてもなぁ、とかマジで思いながらもサーベラスのデュエルアバターを観察するテルヨシは、それでもサーベラスがどういったデュエルアバターかがいまいちわからない。
色としては艶のない灰色で、四肢には目立つ突起などもなく、強化外装も見当たらない。
体も細身で小柄。犬科動物的なフェイスマスクは、上下の牙をモチーフにしたギザギザのヘルメットの間から黒ずんだゴーグルレンズが覗く形。
取り上げるのがそれだけなくらいには特徴といった特徴が少ないサーベラスだが、あれでここまで生き残った新人ならば、当然ながらそれを裏付ける能力か実力はあるものと仮定して、探していたからにはスティング同様に戦う意思があるのだろうとそこら辺を問いただそうとする。
「あなたの噂は聞き及んでいます。その噂のテイルさんは僕が戦いたい方の1人でもありましたので、本日はそのためにお祭りに参加しました!」
が、それより早くテンションが上がっていたサーベラスが礼儀正しくも挑戦的な参加理由を述べてくれて、わざわざテルヨシに挑むだけに参加したという事実に呆れ半分、驚き半分。
「そうした理由なので、実際にお会いできた手前、身勝手ではありますがこれからあなたに挑ませてもらおうと……」
「ちょっと待ッチングー!」
完全にテルヨシだけしか見ていなかったサーベラスが、そのテンションのままテルヨシに挑もうとしたところで、忘れ去られていたスティングがツッコミのように割り込みをかけてきて、本当に視界に入ってなかったのかビックリした雰囲気のサーベラスは、割り込んできたスティングに初めて視線を向ける。
「粋がる新人は俺も嫌いじゃねーが、生憎とテイルさんと先にバトるのは俺。割り込みはノーサンキューだぜ!」
「……これは失礼しました。何やら因縁があるようですが、それでも僕もテイルさんとの対戦を譲りたくはありません」
「ほぅ。つーことはテイルさんとバトる前にやることは決まったな。わりぃけど俺はこの腕のせいでジャンケンなんてピースな方法で決められないぜ?」
「構いません。男同士が譲れない戦いなら、この拳で決めましょう」
……オレ、待たなきゃいけない空気だよねぇ。
バトルロイヤルだということを思い知らされた先週の出来事を思い出しつつも、なんか盛り上がる2人を見たらサアヤのように割り込む気にはなれなかったので、仕方なく勝者と戦う流れに身を任せて地面に座り込んだテルヨシ。
その間にも他のバーストリンカーから狙われる可能性もあったので周囲への警戒は怠らないが、情報として自分のことを知ってる節があったサーベラスが手の内を見せてくれるならありがたいとばかりに観察に入ったテルヨシの視線に気づいたのか、スティング相手に徒手空拳で構えながらもこっちにも警戒するような気配を醸し出す。
それが油断にならなければいいがな。
そう思いながらレベルの上では完璧に格上なスティングが先制するようにサーベラスへと仕掛けていき、自慢の槍のような腕を伸ばして鋭い突きを放つ。
これに対してサーベラスは慌てることなく見事な捌きで突きの狙いを外して空振りさせ、スティングの外側へと流れるように移動してカウンター気味に手刀を空いていた脇腹へと叩き込む。
鮮やかな一撃にテルヨシも感心してしまうが、一撃としては軽いためスティングが怯むはずもないと確信しつつ、すぐに向きを変えて至近距離からの右腕の突きを放つものの、サーベラスは当たるのは覚悟してその突きを左肩の装甲の絶妙な角度で受けて滑らせ、ダメージを最小に抑えると、今度は突き抜けたその腕を真上から手刀が襲い、鈍い衝突音と共にスティングの右腕に浅いヒビが入る。
「ぐっ、らぁあ!!」
あの腕が折られるとスティングは攻撃力のほとんどを奪われてしまうので、一旦サーベラスを引き離すように蹴りなども交えて連打を浴びせて距離を取る。
しかしそれはレベル4がレベル1にするような逃げの1手ではない。
明らかに格上を相手にして切羽詰まった側が無理矢理にでもやる足掻きにも近い行動。
つまり今の攻防はそれだけスティングが押されていた何よりの証拠。
「なん、なんだテメーは!」
「どこにでもいる対戦を楽しむ1人のバーストリンカーですよ。なったのはここ最近のことですがね」
スティングがナメてかかった節は見られなかったが、直接戦って出てきたスティングの疑問は、やはりサーベラスが新人にあるまじき実力を秘めていることを裏付けており、経験値は決して多くはないはずなのに動きの無駄のなさが際立っていて、テルヨシもちょっとちあきに似た将来性の高さに戦慄。
その危険性を肌で感じたスティングは、テルヨシとの対戦まで温存しようとしていた必殺技ゲージを使うことも厭わない様子で構え直して、突撃の構えから一気に距離を詰めて両腕を引き絞って必殺技発声。
「《ラッシュ・ニードル》!!」
そこから繰り出される両腕の目にも止まらない突きの連打は、おそらく今のテルヨシでも全弾を捌くなんて芸当は不可能。
突きのくせに面での制圧をしてくるあの必殺技は空間を抉る威力があるので、如何なサーベラスでも全力回避はせざるを得ないだろう。
そう思ったテルヨシだったが、スティングの必殺技が放たれる直前。当のサーベラスは回避に動く気配すら見せないまま、その場で踏ん張り受けて立つように構えたのだ。
まさかの受けに回ったサーベラスは無謀にも思えたが、直後にフェイスマスクの上下の牙がガッチリと噛み合うように閉じたのを見たテルヨシは、その変化がもたらした結果に驚愕する。
「ぐっ……あああぁぁああ!!」
痛みに耐えられずに叫んだのは……必殺技を放ったスティングの方。
スティングの連続突きは確かに動かぬサーベラスに連続で命中し、激しい衝突音が響いたのだが、必殺技を終えて動きを止めたスティングの両腕の槍は、その時にはすでに肘の辺りから先を消失していた。
「か、硬すぎだろうがクソ……」
スティングの必殺技を真っ向から退けるほどの防御力。
そのあまりの性能に思考停止気味だったスティングは、距離を取るのも忘れていた隙を突かれて反撃の一撃をクリーンヒットさせられ、元々がかなりの被弾率だったせいでHPゲージはそれで全損。
バトルロイヤルでのこととはいえ、レベルが3つも上のスティングに勝ってしまったサーベラスの実力は、疑う余地もなく本物。
「これで心置きなくあなたと戦えます」
競合するスティングを倒してフェイスマスクを元に戻したサーベラスは、そのジャイアントキリングをなんとも思ってないのか、訪れたテルヨシとの戦いに心を踊らせて構えてみせる。
インターバルもなしにさらなる格上相手に物怖じしないその度胸はもはや恐怖すら覚えるが、テルヨシとて強敵相手の対戦は恐怖よりも楽しみが上回る。
サーベラスに倣って新人であるという意識を排除し構えたテルヨシは、サーベラス以外の名前がまだ視界上にないのも確認してから、ほぼ意識をサーベラスへと集中して突貫。
先ほどのスティングとの戦いでわかったことは、レベル差を考慮しても被弾時のサーベラスのHPゲージの減りが明らかに少ないこと。
そしてスティングの言葉からサーベラスはレベルに見合わない高い防御力を有しているのは確実。
それを考慮して迎撃に構えたサーベラスへのテルヨシの初撃は、ほぼ全力の中段回し蹴り。
まずはその硬さとやらを直に感じるべきと判断しての一撃だったのだが、単発ゆえのミス。
そんな攻撃は受けるまでもないといった感じでその場に深くしゃがみこんで蹴りを掻い潜ったサーベラスは、流れるように回転回し蹴りで片足立ちのテルヨシの足を払い転倒を狙ってくる。
「いいの?」
テルヨシの舐めプのようにサーベラスには見えたかもしれない攻撃。
しかし意地の悪いテルヨシはそうやって『対処が容易な単発技』を繰り出すことでサーベラスの行動を誘導し、予想の範疇の動きをしたサーベラスに対して思わず声を漏らす。
サーベラスの鋭い蹴りは軸足となっていたテルヨシの足を綺麗に払う……より早く《テイル・ウィップ》を軸にし直したテルヨシが軸足だった足をも持ち上げて蹴りを躱して空振りさせると、浮き上がった体からぐわんっ!
回し蹴りを放ってフォロースルーに入ろうとしていた足を体の回転を利用して加速させて縦回転に変え、ほぼサーベラスの真上から撃ち下ろす変則蹴りを放ってみせた。
「うぐっ……!」
タイミングとしてはカウンターも回避も防御すらシビアなものではあったが、直前に声をかけてしまったからか両腕による必死のクロスガードを頭上に掲げて強烈な一撃を防御。
ガードを挟んだとはいえ、レベル8がレベル1に与えるダメージは予想よりもずっと大きく、如何なサーベラスといえど体勢もままならない状態で受けたせいですぐに地面へと沈んで四つん這いのようになってしまい、その目の前で着地を決めたテルヨシは、容赦なしに再び軸回転からの下段回し蹴りでサーベラスを蹴り飛ばしてやる。
──ガガガンッ!
普通のレベル1デュエルアバターならば、これだけでHPゲージの全てが吹き飛ぶだけの威力を持つ連撃だったが、サーベラスは驚異的な防御力と反応速度でこれらの直撃を全て避け、蹴り飛ばされる直前にもしっかりと腕をガードに回してクリーンヒットを避けてきた。
威力を殺すまでは不十分で地面を何度か転がってリカバリーしてきたサーベラスは、そこで残りのHPゲージを2割ほどにしながらも、まだまだ戦えるといった意思を込めて構えてみせる。
「凄い……凄いですねテイルさんは。あんなに変則的でかつ滑らかな攻撃。予測するのも難しいです」
「いや、お前もさすがだよ。レベル1でこれは正直、今後が怖すぎる」
一方的な攻防ではあったものの、さらにテンションが上がったサーベラスが興奮気味にテルヨシを称賛してくるが、そんなことをする余裕がまだあるサーベラスに背筋が凍るような恐怖を覚えつつ、視界上の自分のHPゲージを見て、数ドットとはいえ『攻撃したはずが減っていた』事実に苦笑いしてしまい、同時に撃ち込んだ感触からあることを確信する。
──あいつは、メタルカラーだ。