始まった《スカイ・レイカー》との壮絶な対戦は、残りHPゲージを互いに3割ほどにしたところで佳境を迎える。
両者がダメージからの回復を待つインターバルで会話に興じている間、テルヨシは後ろで《テイル・ウィップ》を巻き貝のようにして窪みのある器を作り、そこに絶え間なく降り続ける霧雨で雨水を貯めていた。
「まぁオレが挑戦者って立場だし仕方ないけどさ、ここらでレイカーから仕掛けてくるってのもいいんじゃない?」
「そういえばわたしは受けだけでしたね。そちらの方が性に合ってるというのはありますけど、得意分野でだけ挑戦者に受けて立ってもカッコ悪いですね。その挑発、乗ってあげますよ」
その雨水がある程度貯まるタイミングを体に出来る水滴からおおよそで割り出して、振り向くことなくレイカーを挑発するテルヨシ。
というのも雨水を貯めた状態で自分が仕掛けるにはちょっと動きがぎこちなくなってしまって、それによってレイカーに付け入る隙を与えてしまいかねなかったから。
もちろんレイカーが視覚的に見えなくはされてるテイル・ウィップに気づいていてあえて挑発に乗ってきた可能性もあるので、作戦が失敗することも視野に入れて動く必要はあるが、失敗を恐れて何もしないことの方が愚か。なら先の先を読めばいい。
「……いきますよ」
この対戦で初めてレイカーから仕掛けてくることに少し緊張しつつ、そんな断りを入れてから仕掛けてきたレイカーの進撃はテルヨシの全速よりは遅いまでも近接系としての素の速度では速い部類。
《ゲイルスラスター》による加速は使わずに接近してきたところから、勝負どころはまだのようだが、テルヨシ的には使われる前に決着が望ましい。
一直線に迫ったレイカーは構えるテルヨシに対して抜き手のような右手の突きで先制し、顔めがけて来たそれにビビることなく最小の動作で外側に躱してカウンターのパンチを顔面に叩き込もうとする。
しかしそれはレイカーが誘い込んだ攻撃であったのか、繰り出したパンチは左手で完璧に受け止められて、クロスする右腕がテルヨシの右腕を絡め取って合気道に似た技で関節の稼動域を利用して地面に倒そうとしてくる。
曲がらない方向に曲げられる関節に上手く力が入らないテルヨシは為す術なく地面に倒されそうになるも、その力に抗わずに逆に勢いをつけることで体を1回転させて転倒を阻止。
ついでに極められそうだった右腕も抜き取って着地後すぐにバックステップし体勢の建て直しにかかる。
が、それすら読んでいたらしいレイカーの動きは機敏を通り越して予知に近く、バックステップしたテルヨシと速度を合わせて距離を詰めて間を開けさせずに左右の手から繰り出された水平チョップが空いた両脇腹へと突き刺さりHPゲージがガリッと1割削れる。
「肉を、切らせて……」
「──ッ!!」
それでもテルヨシは怯むことなく繰り出されたレイカーの両腕を掴んで挟み拘束すると、その伸ばされた腕の肘を狙って膝蹴りで強打。
関節も意識したそれにはレイカーも抗えず、命中した左肘は激しいスパークと共にHPゲージを1割削り、肘は良からぬ方向に折れてしまう。
いくら仮想世界でのこととはいえ、骨折レベルの損傷はレイカーの思考をわずかに鈍らせ、動きが止まった瞬間を見逃さずに腕を放して1歩後退。
ここで貯めに貯めたテイル・ウィップの雨水をレイカーの顔面めがけてぶっかけて思考と同時に視界も一瞬奪って攻撃へと転じ、深く屈みながらの時計回りの右足払いでレイカーを宙に浮かせ、足払いから流れるように軸足で強引に立ち上がりながら今度は倒れかかったレイカーの頭に渾身の回し蹴りを叩き込む。
「だっしゃらああぁぁあ!!」
叫ばずにはいられない気力全開の攻撃はテルヨシからすれば完全に不可避のものだった。
事実、テルヨシの回し蹴りは倒れかけるレイカーに命中したのだ。
しかしレイカーはテルヨシの蹴りが当たったのと同時にいつの間にか上下で逆に噴射口を変えていたゲイルスラスターを起動して蹴りの振り抜き速度を越える速度で横へと動きダメージをほぼ無効化。
結果的にレイカーの頭を軽く撫でた程度の蹴りにしかならなかった渾身の攻撃がフォロースルーに入ったところで、レイカーがゲイルスラスターを起動したまま地面を蹴って体の向きを調整して噴射口を元の位置に戻し、そのまま攻撃へと転じてきたのを確認。
全力の蹴りだったのと、強引な立ち上がりで酷使した左足がガクガクになっていたのもあり、レイカーの接近に対応が遅れたテルヨシが取れた咄嗟の行動は《インパクト・ジャンプ》による緊急回避。
物凄い速度で迫ったレイカーはなんとかやり過ごせたが、必殺技発動時にモロに力を込めた方向がわかる感じにしてしまったせいで、大きくバックジャンプしてテイル・ウィップの補助付きで着地は成功したが、その時にはもうレイカーが方向転換を終えてテルヨシに再度迫ってきていて、もう1度だけ使えたインパクト・ジャンプを使う暇もなくゼロ距離に迫ったレイカーの突き出された右ストレートがクリーンヒット。
壮絶な加速を得たその拳によって残りのHPゲージは容易く吹っ飛んでしまった。
──惜しかったなぁ。
そんな感想を抱きながら物言えぬ浮遊霊のような存在になって死亡マーカーの付近であぐらをかいたテルヨシは、視界の【YOU LOSE】の炎文字を見るまでもなく敗北を受け入れて反省会。
思考と視界を奪ってまで仕掛けた攻撃が避けられるなんてこれっぽっちも考えてなかった。
それが敗因だなと自分の慢心に渇を入れていると、死亡マーカーの近くにレイカーが近寄ってきて、健闘したテルヨシに労いの言葉をかけてくれる。
「ナイスファイトでしたよ。遠ざかりつつあったわたしの対戦勘がギリギリのところで戻らなければ、結果は変わっていたかもしれません。また機会がありましたらお手合わせ願いたいですね。テイルさんは不思議とそう思える清々しさがあります」
凄く嬉しいことを言ってはくれたのだが、生憎とその言葉に物理的に返事ができないテルヨシは、あとで黒雪姫にメッセージを伝えてもらわなきゃなと思いつつ、その言葉を受け取ってレイカーがこの対戦を閉じたことで現実世界へと意識が戻されていった。
現実世界へと意識が戻ったテルヨシは反射的にグローバル接続を切りつつ、隣のマリアに視線を向けて申し訳なさそうにするが、負けてきたテルヨシに対してマリアはグローバル接続を切りつつニコッと笑ってくる。
「負けちゃったけど、凄かったよ」
「んー……次は負けない?」
「何で疑問系なの?」
「いや、言葉ではそう言っておくべきかなぁと」
「言うならちゃんと言う方がいいよ。あとサアヤさんから伝言。『なに負けてんのよ!』だって」
「厳しいよぉ……」
落胆させたかと思ったものの、対戦自体はマリアにとって楽しめたものになったようなので安心しつつも、彼女の厳しいお言葉には涙するしかなかった。
まぁサアヤの厳しさは今に始まったことではないので今さらかと開き直ったところで、朝の約束事を終えマリアのお見送りとなってハイタッチしてから学校に向かおうとしたところ、ふと何かを思い出し立ち止まるマリア。
「あっ、今日はお店に行かないで家にいるから」
「何だ? 宿題でもするの?」
「内緒ー」
「にゃんだとー?」
それによって伝え忘れた案件は学校が終わってからバイト先には来ないというもので、当然ながら理由について尋ねたテルヨシにはぐらかしに来たマリアは、言及される前に走って行ってしまい、悪いことをするつもりならわざわざ言ってくるわけもないので、気にはなりつつもどうせ様子見にも行く暇はないから了承するしかないのだった。
学校では着いてすぐに朝練をしていたチユリに見つかって、そういえば観戦者としていなかったなと1人納得しながら、対戦自体は知っていたチユリに結果報告をして別れて教室へと行き、一足早く来ていた黒雪姫にレイカーへの伝言を残していつもの日常へと戻る。
放課後のバイトも問題なく終わらせて、今日は新宿第2戦域での領土戦に参加してきてようやく帰宅。
時刻は午後6時になる少し前といったくらいで、それもまぁいつもとほぼ変わらないことではあった。
「おかえりー」
「おかえりなさーい」
「…………ん?」
だがリビングに入って聞こえてきた声は聞き慣れたマリアのものともう1つ、これも聞き慣れた声がして不思議に思い、リビングのソファーでくつろいでいたマリアとは違い、姿なきその人物を探してキッチンの方に目を向けると、いた。
「ん? ああ、お邪魔してまーす」
「マーリーアーさーん」
「はーい」
「なーんでサアヤがいるのかなー?」
「遊びに来るって言ってたから!」
「はい聞いてませんっ!」
「ひゃふんっ」
その人物、サアヤはちょっとメンズ寄りのシャツとパンツの私服にエプロンをつけて夕食を作っていたらしく、呆然とするテルヨシに少し振り返ってすぐ調理に戻る。
そんなサアヤは1度無視してリビングにいるマリアに向き直ってその辺を絶対知ってるだろうと詰め寄ると、なんかテンション高めで悪気もなく親指を立てて言うもんだから反射的にデコピンをお見舞いしてしまった。
すると今度はキッチンからサアヤが寄ってきてテルヨシの頭にチョップを加えてくるもんだから何故にと振り返る。
「こら、マリアを怒るのは筋違いよ」
「じゃあサアヤが内緒にしろって言ってたわけね」
「そんなことも言ったかなぁ。っていうか遊びに行く的なことは言ったじゃない」
「昨日の今日だよ!? 近いうちにって近すぎない!?」
「なに? 迷惑だったって言うんだ? ふーん」
「いいや! とても嬉しいです!」
どうやら今朝の対戦の時にでも観戦ついでに遊びに来ることをマリアに告げていたっぽいサアヤの来訪はテルヨシにとって突然で、呑気な言動には思わずツッコんでしまったが、嬉しくないわけはないのでその辺は全力で訂正しつつサアヤのご機嫌は取っておく。
「それならいいけど、明日は日曜だし問題ないわよね?」
「……ん?」
「だから休みだから泊まっても問題ないわよねって言ってんの。マリアの許可はもう取ってるけど、家主はアンタだし一応ね」
「…………なるほど。オレと一緒に寝たいと?」
「どこをどう解釈したらそうなるのよ……マリアと一緒に寝るに決まってるでしょ。バカ言ってる暇があるなら手伝ってちょうだい。もう少しで出来るけど手は多い方が早いし」
「男をオトすならまず胃袋を鷲掴めと言いますしな。良い心持ちじゃ」
「アンタ人の話を聞かないわね……」
「聞いた上でふざけてる」
とりあえず遊びに来たことはわかったので、夕食まで作ってくれてることから少し長居するのかなと思っていたら、がっつり泊まっていく旨を知らされて思考停止。
確かに泊まりに来るようなことを昨日に言ってはいたが、まさか昨日の今日で遊びに来るだけでなく泊まりにまで来るとは予想外。
それでもマリアがすでに歓迎ムードでテンションが高いし、夕食まで作ってくれた手前で泊まる気満々の女の子を帰すのは残酷すぎるので、テルヨシもすぐに受け入れ体制からおふざけモードに移行しいつもの調子に。
そしてマリアとやってるような家でのおふざけをサアヤとやったら、端から見たテルヨシとサアヤが面白かったのか、クスクスと笑うマリアに2人して釣られて笑ってしまい、どうせだからとそのあとは3人で夕食の準備をしていったのだった。
サアヤは意外にも和食が得意らしく、作られた料理もしょうが焼きと刻みキャベツにホウレン草のおひたし。ワカメと豆腐の味噌汁と純和風なラインナップ。
アメリカ育ちなテルヨシはここまでの和食を作ったことがなく、洋食が中心だったのでなんだかとても新鮮で、マリアもおばあちゃんと一緒に暮らしていた頃を思い出したのか、テルヨシの料理より嬉しそうに食べていた。
サクラのように壊滅的なオリジナリティーを出すこともなく作られた料理はとても美味しく、テルヨシもマリアも大満足なまま完食し、初めて振る舞った料理が好評だったサアヤもホッ、と胸を撫で下ろしてから後片付けを始めて、テルヨシも手伝いつつ、マリアにはお風呂の準備を頼んでおく。
こうした些細なことでも知らないことだらけなテルヨシ達は、改めて自分達の関係が現実で始まったばかりなのだと自覚しつつ、恋人同士だということを思い出してする共同作業がなんだか気恥ずかしくなったりしたのだった。
「現実とは残酷なものである……」
「バカ言ってないの」
「変なテル」
それから女2人が仲良くお風呂に入って、テルヨシがそのあとに1人寂しく入浴を済ませたまではあくまで当然の出来事で納得できたが、いざ寝るぞ! となった時にひょっとしたら3人で雑魚寝くらいはと考えていただけに、意気揚々とマリアの部屋に行こうとする自前のパジャマ姿の髪を下ろしたサアヤとマリアに愕然。
食事中に言ってはいたのだが、今日はマリアとの親交を深めるのが目的なので、テルヨシよりもマリアが優先されることは理不尽だと文句も言えない状況。
しっかりと外堀も埋めていくサアヤの堅実さには恐れ入るが、単純にマリアが可愛すぎるからな気がしないでもないので、マリアの魔性の女的な魅力に嫉妬しつつも、この短い時間で姉妹のように仲良しになった2人を見てそれには微笑ましく思いながら自室に入って、それでもやっぱり寂しくて泣き寝入りするのだった。
珍しく泣き寝入りなんてしたもんだから、マリアがサアヤの家に移り住むという変な夢まで見て目を覚ましたテルヨシは、深夜の1時を回っていた時刻を確認しつつカラカラになっていた喉を潤すためにキッチンへと足を伸ばす。
冷蔵庫から麦茶を取り出してそれを飲んでいると、トイレから水の流れる音がしたので少し黙っていたら、丁度サアヤも水でも飲もうとしたのかキッチンへとやって来てテルヨシとばったり。
「テルも目が冴えたの?」
「サアヤとマリアが意地悪するから寝付きが悪いんだもん」
「子供か」
明かりが乏しかったのでテルヨシがいたことに多少は驚いたようだが、少し眠気もあるのかリアクションは薄かったサアヤは、洗うのも面倒だしとテルヨシが使ったコップを拝借して麦茶を飲むと、いじけ気味のテルヨシを察してすぐにマリアの部屋には戻らずにリビングのソファーで話をしようと提案してくる。
断る理由もないし眠気も微妙だったからテルヨシもそれに了承してサアヤと隣り合ってソファーに座り、互いに顔は見ずに正面を向いたまま話をする。
「いい子ね、マリアは」
「当たり前だろ。あっちでもこっちでも自慢だよ」
「私もあんな可愛い《子》が欲しかったわ」
「それは《イーター》が可哀想な発言ね」
「あの子は……良くも悪くもマイペースだから、私が色々言うのを鬱陶しいって思ってる節があるのよ。男の子って本当によくわからないわ」
「そこはほら、男のプライドが邪魔するみたいなあれよ。カッコつけたい時期ってのは男にはあるもんだし」
「テルにも覚えが……って、今もか……」
部屋でどんな話をしたのかはわからないが、現実のマリアと知り合ってそんな感想を述べたサアヤはこれからもマリアと仲良くしてくれそうだと安心。
嫌う方が難しいくらいに良い子なのは疑わないから心配などしていなかったが、女同士だからな部分を示すような子の話もするから、ちょっとぞんざいな扱いをされた《アイス・イーター》へのフォローをする。
しかしそれも自分に返ってくる言葉のカウンターで撃沈しガックリしたら、小さく笑ったサアヤはごめんと謝ってくる。
「まぁテルのカッコつけは寒いけど、私は自信なさそうに対戦するイーターよりずっと好きよ」
「比較対象がイーターなのね……」
「なに? テルをライダーくらいのレベルと比較したら可哀想でしょ。あっちは実力あってのカッコつけだもの」
「そう言われるってことはオレもまだライダーより劣ってるってことか……サアヤの1番は遠いな……」
流れるように辛辣な言葉を放つサアヤの容赦のなさはグサグサとテルヨシにダメージを与えてきて、それにちょっといじけるようなことを言って気持ちも沈みかけたのだが、直後に隣のサアヤがとんっ、とその頭をテルヨシの肩に乗せて体重を預けてくる。
「それはそれよ。一応、私の今の1番はテルなんだから、そんな落ち込まないでよ」
「……サアヤのデレが破壊的に可愛いんだけど、このまま抱き締めても怒らない?」
「セクハラでマリアに訴えるわよ」
急なサアヤのデレには驚くものの、嫌なわけはないから雰囲気的に攻めるべきかと了承を取りに行くが、割とマジなトーンで拒否されたので仕方なくそのままの状態で話を続けることになる。
「レベル10への道は敬遠してくれたけど、これからどうするか考えた?」
「それなぁ……今のところ確定的な道はないんだけど、色んなやつから噂とかは聞くし、チャレンジする価値はありそうなところを目指すのがいいかもな」
「レベル10以外でささやかれてるゲームクリアって言うと……テルがずっと敬遠してた戦場の方か」
「そもそも対戦格闘ゲームってだけのブレイン・バーストなら《無制限中立フィールド》なんて上位フィールドは必要ないんだよね」
「上限値がある状態のバーストポイントは加速とレベルアップする人が増えるだけ総量は減るだけだし、救済措置って名目だと思ってたけど、だったらレベル4以上って制限を加えてる理由がわからないしね」
「色んなところで引っ掛かる作りがあるんだよ。だからこそレベル10になって開発者と話す権利ってのを取るのも選択肢として間違ってない!?」
表情こそ見えないが普通の会話は恥ずかしくて出来ないと判断したのか、真面目な話で繋いできたサアヤに合わせてテルヨシも真面目に話をするが、またレベル10への道を進む可能性を示した直後に頭を持ち上げて顔面にぶつけられてしまう。
あくまでも選択肢としてあったのだと言いつつ謝って、改めて今後の当面の目標をサアヤに話してみる。
「まずは《帝城》の攻略を基盤に色々と模索してみようと思う。さしあたってはその門番である4体の《超級》エネミーの戦力調査が最優先ってとこ?」
「…………サラッと言うけど、まだ誰も成し得てない帝城攻略よ? 努力と工夫でどうにかなった四大ダンジョンとは訳が違うんだからね?」
「目標は高いくらいでいいんだよ。叶いそうとか届きそうな可能性があると人ってのは油断するからね」
それがどれほどの偉業かをよくわかってなさそうなテルヨシの軽い感じに頭を抱えそうになったサアヤだったが、長いため息で色々なものを吐き出してから呑気なテルヨシに言葉を返してくる。
「……まぁ、テルの道を閉ざした私が文句を言うのは筋違いだし、別の道を一緒に目指すって約束もしたんだから、ついていくわよ。その上でテルのことは私が守る。だからテルは私を……守りなさい……」
普段はサアヤの方がノーブレーキなのに、目指す道の上ではテルヨシの方がノーブレーキなのは笑えるが、持ちつ持たれつな関係が嬉しかったテルヨシは、ついてきてくれると言ったサアヤを絶対に守ることを約束し、それ以降は口を閉ざしてしまったサアヤが静かに寝息をたて始めたのがわかってちょっと困ってしまう。
このままの状態で寝るには苦しくなるし、一緒に寝たら寝たで翌朝にマリアの方が早く起きて見られるとあれな感じになるしで、悩んだ末にサアヤを自分の部屋に運んでベッドに寝かせて、自分はソファーで一夜を過ごすという最善を取ることになるのだった。