アクセル・ワールド~蒼き閃光Ⅱ~   作:ダブルマジック

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原作13巻辺り
Acceleration Second35


 6月28日。金曜日。

 昨日は《五芒星》の1人である《チャイブ・リリース》の勧誘に大失敗し、ISSキットの正体がおぼろげに見えたが、進展としては微妙となった。

 サアヤに渡したISSキットもその夜には報告が上がってきて、余計な混乱を避けるために様子見でユリと《三重士》だけに話したこと。

 そこから注意すべき案件も現状では見当もつかなかったらしく、それでもライダーが生きているなどと思う人はいなく、ユニコにも今日の予定にあるエネミー狩りの最後に話すとあった。

 

「…………マジでこんな大々的にやるんですか?」

 

 それを受けて今日の登校ですぐに黒雪姫に報告をして中継役としての責務を果たし、何故か昨日の今日ですっかり持ち直した黒雪姫の謎の機嫌の良さも気になったが、その辺で無駄に鋭いテルヨシに対して「何でもないさ」で押し通してきて教えてはくれなかった。

 機嫌の良さからして黙ってる理由がネガティブ方面ではないことは間違いないので、そこはまぁ心配ないかと言及はやめてあげたが、ちょっと気持ちの上下が激しいのでとりあえず1発だけデコピンをしてやった。

 そして迎えた昼休み。

 明日は文化祭前日ということでちょっと忙しくもなるので、今日のうちに済ませてしまおうと教師陣の呼びかけに応じて、当日のテルヨシの講演の最終確認を会議室を使ってさせられていた。

 講演の内容については聞いてくれる人達に関心が向くように、かなり日常の中の色々に寄せて構成したため、教師陣からの反発の声もなく無事に通過。

 おそらく特別枠入学者としては最初で最後の仕事になるので頑張らなければならないが、別の意味で頑張っちゃった教師陣からは、当日のテルヨシの講演に合わせて事前の告知をローカルネットから配信して集客を狙うらしい。

 これは他の出し物系の展示でも見ようと思えばタイムスケジュールから見ることはできるが、ほとんど強制的にポップアップするように仕向けるようで、見たくなくても目に入ってくる残念仕様。

 

「いちおう言っておきますけど、これで集客とか反響があっても、それは僕のあれであって、学校側が『こんな生徒を輩出しています』みたいな宣伝は詐欺になりますけど……」

 

 別に大勢の前での講演など、アメリカで教授の手伝いで壇上に上げられたりが日常だったテルヨシにとっては大したことではない。

 だが気がかりなのは言葉にした通りのことで、学校側がそこまで意欲的になるほどのイベントではないと個人的に思えたからだ。

 それに対しての学校側からの回答は『日本の教育の利益と弊害についてを考えさせる個性の伸ばし方』を世間に考えさせる目的があるらしい。

 日本というのは昔から『みんなが同じことをやる』という集団行動や教育理念で学ばせる環境が整備されていて、その中で優劣。スクールカーストが形成される。

 だがそれは一概に良い面ばかりではなく、皆が『同じことをやらされる』と言い換えることもできてしまい、個人の個性を伸ばすための環境と教育理念が根付かない。

 だからその枠からはみ出してしまう、テルヨシのような突出した個性は羨望や期待を受けるのと共に、枠から逸脱して孤立してしまうこともある。

 人と違うからと爪弾きにされ、それでいじめが発生したりとなってしまうのは、そうした教育環境に一部で問題があると、そう唱える人は数十年前から少なくない。

 

「ああなるほど。つまり学校側が世間に主張したいのは『僕のような生徒でもこの学校は個性を失いません』ってところですか。学校も慈善事業ではないですしね。同系の松乃木学園のこともありますし、生徒数の確保は経営に直結した問題。何も間違ってません」

 

 そこから考えれば学校側の思惑は自ずと見えてきて、どストレートに本音を吐き出すが、学校側としては生徒にそうした本音を肯定するのは卑しさや利用した感があるので黙るしかない。

 それでもテルヨシとしてはこの梅郷中学校に入学しなければ出会わなかっただろう黒雪姫や恵、ハルユキ達は大切な存在になったのは確かで、学校側にどんな思惑があろうと気にしないことにした。

 これで自分に何か不利益があるわけでもないし、その辺で問題がないなら別にといった感じで話すことはもうないかと確認すると、教師陣からは明日の確認作業もよろしくとだけ言われて終了。

 時々だが教師陣すら戦慄することを平然と口にするテルヨシのこれは自覚もある悪い癖ではある。

 しかし口にしたことはあくまでも物事の本質であり、そこにテルヨシの感情は含まれていないのだが、やはり言葉というのは発せられるだけで受け取る側の捉え方も違ってきてしまうということ。

 それもわかってて言葉にしちゃうから反省しかないテルヨシは、とりあえず明日の準備では明るくやろうと決めて残りの昼休みで急いで昼食にするのだった。

 

「ああああああー……」

 

 放課後、バイトも終わって帰宅の徒につく前。

 今日は店には来なかったサアヤが、それでもバイト終わりのテルヨシに間に合うように店まで来てくれて、歩きながら話をするくらいの時間はできたのだが、なんだか不思議な疲れを見せるサアヤは色んなものを吐き出すような『あ』を息の続く限りひたすらに伸ばしてみせる。

 その奇行には相当のストレスか何かがあったと推測するのは容易だが、こっちから尋ねるとタイミングが狂いそうだから自分から話してくれるのを待つ。

 

「……《ルー子》に会ってきた……」

 

「ルールーに? ああ、だからそんなにゲッソリしてるのか。その様子だと話もできなかった感じだね」

 

「イーターも昨日、ボッコボコにされた上で私に挑戦状を叩きつけてきて、肝心の話はこれっぽっちも聞かなかったみたいで、今日は私が会いに行ったら『敵討ちに来たか!』っていきなり攻撃されてハッスルし出して、こっちの制止も無視されて結局は超火力で叩き潰されたわ……」

 

「攻撃の意思もないサアヤを叩くって……やっぱりルールーはおかしい」

 

「ルー子の戦う姿勢は嫌いじゃないけど、この『対戦超おバカさん』なところだけは直してほしい。切に」

 

 サアヤがここまで頭を抱える理由が五芒星の最後の1人であるルールー。《ボッシュ(Bosch)ルーレット(Roulette)》にあるとわかると、問題児の行動に頭を抱えるのは賛同する。

 よくわからないが会った当初からルーレットは『周りはみんな敵!』という謎思考を持っているところがあり、とにかく共闘とかそういうのが出来ない残念な子なのだ。

 その異常とも言える好戦的な思考からテルヨシと同じで通常対戦をメインにしてレベルを上げた猛者で、現在のレベルもサアヤと同じ7。

 エネミー狩りすら野獣級までソロ討伐してしまう──もちろん相性もあるが──辺りはまさに鬼のような実力の持ち主で、レギオンの勧誘も未だにひっきりなしの引っ張りだこ状態。

 それでもソロプレイを続けるルーレットの孤高の強さはテルヨシもサアヤも認めるところだ。

 が、やはり対戦フィールドでは会話にすらならないのは論外なので、そこだけはどうにかしてほしいものと本気で思う。

 

「あの子、観戦も全くしないタイプだからギャラリー参加で話も出来ないし、とにかく個人情報がなさすぎ。会話が成り立った人とかいるのかも不明よ」

 

「オレも視界に入っただけで攻撃されて話とかできる感じはまっっったくしなかったわ。誰もが知ってるバーストリンカーなのに、誰も何も知らないバーストリンカーでもあるんだよねぇ」

 

「そうなるとあの子との交渉の可能性は《親》を経由するしかなさそうだけど……知ってる?」

 

「それずいぶん前からある疑問だよね。あれだけの《子》なら親も鼻高々だろうに、それを名乗るバーストリンカーは聞いたこともない」

 

「…………やっぱりあの子の親はもう……」

 

「そうなのかもねぇ」

 

 そうしたところで会話が成り立たないルーレットをどうすればいいか話す中で、彼女の親についても話す。

 しかしルーレットが台頭してきた頃からすでに親の影も形もないことから、2人でほぼ同じ結論。全損してしまったのだと考えて、そこからの交渉は諦めるしかないかと振り出しに戻ってしまった。

 

「……ルー子についてはとりあえず保留にしましょ。それよりも四神攻略の可能性。なんか考えてみた?」

 

「それなんだけど……あり得ないことかもしれないけど、やるだけやってみる価値はありそうなことは思いついてる」

 

 そんなルーレットだから交渉の糸口など現状でないに等しいため、そこでうんうん唸りながら考えたところで妙案が浮かぶわけもないので早々に切り上げて、次に解決すべき問題を持ち出すサアヤに対して、昨日にパドから言われて実行に移してみようと考えていた案を前置きまでして話してみる。

 

「…………って感じなんだけど……やっぱ無理よね」

 

「……いいんじゃない? 戦国時代みたいな頃に生きてた私達からは生まれない発想よ。やってみてダメなら、また何か考えれば良いだけだもの。後退するわけじゃない」

 

「でもその場合の取り分とかなかなか……」

 

「まだ時間はあるんだから一緒に考えるわよ。思いつかないならいっそのことロータスにでも知恵を借りればいいわ。頭良いんでしょアレ」

 

 時間も限られてるので口早に考えていた案を話してみて、バカらしいと一蹴されてもおかしくないなと身構えていたら、まさかの好印象でビックリ。

 しかしそれならそれで考えなきゃならない問題も出てくるので、そこをどうするかと問えば、サアヤもすぐには答えが出ないから一緒に考えようということになる。

 プライドどうこうもこの際いらないとばかりに黒雪姫に頼る案まで出したサアヤは、そろそろ分かれ道になるからと立ち止まりテルヨシを見送る。

 

「あっ。明日は泊まったりする?」

 

「んー……遠慮しとく。アンタも文化祭の準備とかで疲れるでしょ」

 

 完全に分かれてしまう前にふと毎週のように土曜日は泊まっていたサアヤが今週も泊まりに来るかを尋ねると、少しだけ考える素振りをしたサアヤは、今週は遠慮すると答える。

 しかしテルヨシとしてはむしろ泊まってくれた方が嬉しいのは言うまでもないので、自分を気遣うサアヤに気にしなくてもいいと言おうとした。

 が、サアヤなら夕食だって作れるしむしろテルヨシの家での作業を減らせるまであるので、どこか微妙に理由の強引さが見えてきて、その事に勘づいたことに気づいたサアヤが髪を指でクルクルしながら観念したように本音を漏らす。

 

「…………泊まっちゃったらその……準備に時間をかけられないから……」

 

「……準備?」

 

「アンタの学校にその……か、彼女として行くわけだから……なるべく彼女らしくしたいっていうか……ああもう! わかれバカッ!!」

 

 ──どげしっ!

 サアヤ的には壮絶にらしくないことをしようとしてたからか、察しの悪いテルヨシに苛立って最後まで言う前に察しろと腰に蹴りを入れてくる。

 さすがに加減くらいはしてくれたが、割とまだ貧弱な下半身では踏ん張りが微妙で膝をついてしまい、やり過ぎたとすぐに手を伸ばして立ち上がらせてくれた。

 

「とにかくっ! 泊まりには行かないから。それじゃあね」

 

「お、おっす。楽しみにしておくっす」

 

 サアヤとしてはもう本音は言い切ったっぽく話を締めてしまい、テルヨシもそれに合わせて交差点を渡っていったサアヤを見送りつつ、さすがにバカでもアホでもないので言わんとしたことは理解。

 確かに泊まってしまうとテルヨシが登校するまでの時間でおしゃれする時間を奪われるし、1度帰宅するにしても手間でしかない。

 それなら自宅でばっちり支度して文化祭に参加する方が時間を有意義に使えるし、テルヨシにおしゃれした姿を直前まで見られないメリットも生まれる。

 そうしたおしゃれをまだまだしたことが少ないサアヤだとそれに要する時間もそれ相応になるのだろうし、自分のためにしてくれることに嬉しさを覚えないわけがない。

 あとは当日のサアヤを見る楽しみが増えたのでなんだか元気をもらったテルヨシは、明後日に迫った文化祭でサアヤに恥をかかせるようなことはできないなと、より一層の気合いを入れて挑むことを決意したのだった。

 

「おかえりなさーい」

 

 文化祭の楽しみが増えてちょっとウキウキしながら帰宅して早々、いつもならリビングで宿題でもやりながら迎えるマリアが、何故か玄関まで来て出迎えてくれたことに何か不思議な感じがする。

 機嫌はいつもと変わらないし、文化祭を控えたこのタイミングでおねだりなんかをしてくる子でもないから疑問に思いつつ玄関から上がってリビングに移動すると、その時に理由が判明する。

 

「さっきミャアさんから連絡があって、テルが帰ってきたらボイスコールしてほしいって」

 

「ミャアから? 緊急だった?」

 

「んー、いつも通りな感じだったけど、ブレイン・バーストのお話だって」

 

 どうやらバイト終わりで別れてから帰宅までの間にパドからマリアに連絡があったらしく、グローバル接続を切っていたテルヨシは何の話かを把握しつつマリアと一緒に夕飯の支度をしながらホームネット経由でグローバル接続をしてパドにボイスコール。

 

GE(こんばんは)、パド」

 

『帰宅が遅い。徒歩で帰ってた?』

 

「途中までサアヤと歩いて帰ってたからかな。悪いね。それより話って何?」

 

 繋がっていきなり文句みたいなことを言われてしまったが、せっかちさんなパドだから別に気にせず手間を取らせてしまったことを謝罪しつつさっそく本題に。

 

『今日プロミでエネミー狩りをすることは知ってたはず』

 

「ああうん。もしかしてもう終わった?」

 

『私のバイト終わりに合わせてくれてたから終わったのは現実時間で10分くらい前』

 

「バスに乗った頃か。それでエネミー狩りで何かあった?」

 

『まだ確認が取れないから慎重に動いてるけど、神獣級エネミーに意図的に襲われた』

 

 慣れた手つきで調理しながらパドとの通話をしていくと、今日のエネミー狩りで問題が発生したらしく何が起きたのかを聞けば、ちょっと言葉の意味についてを考えてしまう発言に首をかしげる。

 

「エネミーに意図的に襲われた?」

 

『Y。エネミー狩りをしてた私達のところに「誰か」が神獣級エネミーを放り込んできた』

 

「その誰かってのがわからない感じか」

 

『……姿だけなら見えた。だけどそれが問題』

 

 神獣級エネミーともなれば余程のことがない限りは遭遇戦にはならないし、パドの言い方からしてその神獣級エネミーが本来のテリトリーを無視して現れた可能性があった。

 そうなるとエネミーが調教された状態で連れてこられてプロミを襲わせたことになり、パドもその存在を確認していた。

 しかし問題はその存在にあったようで、わざわざテルヨシに報告してくるからにはテルヨシにも関係のあることなのは間違いない。

 

『神獣級エネミーの上に乗って現れたのは……黒の王《ブラック・ロータス》だった』

 

「ふーん」

 

『……反応が薄い』

 

「あ、ごめん。あんまりあり得ないことだと素直に受け取れなくて。ミャアだってそれが事実ならそこまで冷静に構えてないでしょ」

 

『それは当然。私も黒の王がプロミを襲撃する理由がないことくらいわかってる』

 

 作業しながらその正体について身構えたテルヨシにパドから告げられた人物の名は確かに衝撃だったが、冷静になるまでもなく黒雪姫がそんなアホなことをするわけがないので、何かあるなと勘繰り、パドも見た人物が本物の黒雪姫であるなどと思って報告してきたわけではないと補足。

 

「そのロータスの偽物はどうしたの?」

 

『神獣級エネミーを放り込んでからエネミーの上から降りて、地面に触れて溶けるように消えた。それから私達はすぐにニコの力も使ってその神獣級エネミーから逃げ切って離脱した』

 

「地面に触れて消えた……」

 

『何か心当たりがある?』

 

「いや、可能性の域を出ないからなんとも。でももしもそいつがオレの知る奴なら、消えたんじゃなくてプロミを観察してた可能性がある」

 

『……ニコも同じようなことを言ってた。見られてる感じがしたって。あとは本物の黒の王よりも情報圧が小さかったとも言ってた』

 

「行動の理由は判然としないけど、もし奴ならその行動に意味がないってことはないと思うから、ニコたんにも警戒させといて。エネミー狩りも控えた方がいいかも。んでオレは一応、本物から証言を取ってくればいいわけね?」

 

『Y。偽物にしても敵として黒の王をプロミに見せてきた意図は許せない。中には見えたものをそのまま捉えて動いてしまうメンバーもいるかもしれない。だから事実確認だけはしておきたい』

 

 だがそうと確信が持てるのは黒雪姫と親交のあるユニコとテルヨシを知るパドとユリくらいなもので、かつてライダーの首をハネた黒雪姫を100%信じられるプロミメンバーはほぼいないはず。

 ことに旧プロミ所属の現プロミメンバーなどはその傾向が強いのは間違いない。

 そうしたメンバー達が何かしてしまう前にとにかく黒雪姫が襲撃してきたわけではないことをちゃんと確認しておきたいというパドの判断は理解できたので、明日やるべきことに追加しつつプロミにも警戒を促す。

 

「あとはそうね……あくまで可能性として偽物の心当たりだけは教えておく。そいつは《ブラック・バイス》。加速研究会の副会長を名乗ってて、影の中に潜伏して移動する能力を持ってる」

 

『ブラック・バイス……わかった。ニコには報告しておく。Bye』

 

 長話は好きじゃないパドだからそろそろ締めるだろうなと予想して、最後に黒雪姫の偽物の可能性の1人を教えておき、そういえば七王会議の時には黒雪姫が報告していなかったなと今さらながらに考え、バイスの名を覚えたパドは用件も済んだのですぐにボイスコールを切ってしまった。

 それにしてもだ。ISSキットが流布されている今にバイスがそんなことをして何をするつもりなのか。

 プロミを観察していたなら、そのプロミに目的があったのか。或いはネガビュとプロミの繋がりを絶つのが目的か。

 予想の範疇に収まらない加速研究会の行動は読みきれない部分の方が圧倒的に多いが、予感だけはしている。

 自分達の考えも及ばないところで、加速研究会の企みは確実に進行しているということ。

 それだけは忘れないで止まっていた作業を再開させたテルヨシは、それはそれとしてと切り替えて明後日に控えた文化祭についても頭のリソースを割き始めたのだった。

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