文化祭前日になって知った《アクア・カレント》の《ネガ・ネビュラス》への復帰はビックリだったが、現実世界に戻ってきたテルヨシは誤差程度の差で戻ってきたハルユキと謡を見て、その嬉しさに溢れた笑顔にニッコリ。
「いいよねぇ、ネガビュはすんなりメンバーが集まって」
「えっ? でもテル先輩のレギオンって別にレギオンの拡大とか目的じゃなかったですよね?」
【UI> そうなのです。テルお兄さんのレギオンはガストさんもおりますから、メンバーを募ればいくらでも集まるはずなのです】
「まぁ誰彼かまわずにってことならうーちゃんの言う通りなんだろうけど、そういうわけじゃないからねぇ」
「テルはネガビュの人に言ってなかったんだ。メンバー集めのこと」
「言ってどうなる問題でもないからいいかなって黙ってたんだけど、目の前でメンバー加入を見ると愚痴りたくもなる」
「……誰かネガビュに加入したの?」
カレントの復帰は喜ばしいことだが、順調に人数を増やしているように見えるネガビュには、現在進行形でそれが難航している《メテオライト》としてはなかなか悔しいもので、その辺の話をネガビュにしてなかったことを今さら言及されてしまう。
それに関しては言う通りネガビュには関係ないことなのでさらっと流しつつ、会議の場にいなかったマリアも今さらカレントの復帰についてを尋ねて、謡がその事を報告したところで、時間も午後4時となる。
ここからしばらくは領土戦の時間になるのでハルユキと謡は意図しない加速で防衛に回ることになり、会話はしづらいなと時間潰しでマリアと校内を適当に回ろうかと思ったが、割とすぐに防衛戦の1戦目を終えてきたハルユキと謡が何故かそれを制止してくる。
「何かあった?」
「えっと、テル先輩ってプロミとも親交が深いですよね。今の防衛でその、停戦中のプロミのメンバーが仕掛けてきて……」
「あー、それってISSキット絡みとは違う感じ?」
【UI> そうなのです。攻めてきた方々のお話では、昨夜のエネミー狩りでサッちんが神獣級エネミーをけしかけてきたと】
「はぁ……姫には朝に報告したのに、さっきの会議で話してなかったのか。動いたのは旧プロミにも所属してた子達でしょ。だったら悪く思わないであげて。きっとその子達もプロミを守ろうってしたことだと思うし」
「それは大丈夫です。ちゃんと拳を交えてから和解しましたので」
2人によると今の防衛戦で攻め込んできたのが、停戦中のプロミのメンバーだったらしく、昨夜にパドから報告があってその理由についてはISSキットかそっちかしかないと予測したテルヨシの理解は早かった。
それでISSキット関連ではないとわかれば出てくる言葉はプロミの側に立っての弁護であり、攻め込んできたことに対して怒っているわけではなかったハルユキと謡も、テルヨシがもし知らなかったら教えてあげようといったニュアンスであったことを理解。
この件は明日にでも解決してるだろうが、パドには報告がてら伝えておくかと領土戦の終わる頃を見計らって1度校門の外へと出てグローバル接続。
バイトの休憩中とかだと思われるパドに速攻でボイスコールしてみると、これもまた速攻で繋がる。
『タイミングが絶妙。昨夜の件の他にも何かある』
「お察しの通りで。そっちでも確認はできてる?」
『Y。何人が攻め込んだ?』
「聞いた話じゃ3人。撃退もされたし誤解らしきものもとりあえずは解いたみたいだけど、そっちでも改めてお願いね」
『それから?』
「怒らないであげてってニコたんに」
『怒らないでだって。わかってるって』
「そこにいるんかーい」
さすがパドと言うようにすでにテルヨシの言うことがわかってた感じでいきなり本題に入ることができ、ポンポン話が進むと、どうやらそばにはユニコもいたようで伝言が速攻で伝わって返事まで来てしまい苦笑気味にツッコむ。
しかしそうならこっちも伝言くらい頼まれてやろうとユニコから黒雪姫に何かないかと尋ねると、一言だけ「わりぃ」と伝えてくれとあり、一応は承知したもののすぐに頭に返事が浮かんで先に伝えておく。
「うん。じゃあ姫からのお返事を先読みして返しとく。『謝るのなら赤いのに直接来いと伝えてくれ』」
『……これ以上の伝言は無意味。Bye』
それを聞いてわずかに沈黙したパドは、先日のカレーパーティーで黒雪姫とユニコの関係を見抜いたのか、このままでは伝言がしばらく続くと判断して早々に切り上げて、これ以上の用件もないだろうとほぼ一方的にボイスコールを切られてしまった。
その判断は間違いじゃないのは確かだが、なんというかこういうボイスコールを切るタイミングをいまいち掴めないテルヨシとしては、この清々しいまでの切り方は心にくるものがあって悲しいやら虚しいやら。
せめて名残惜しそうにしてほしいところだったが、切られたものに文句を言うのもかけ直すのも選択として嫌われそうなのでやめておき、グローバル接続も切ってからまた校内へ戻り、帰り支度を済ませたマリアと謡に少しだけ待ってもらって帰宅の途につくのだった。
いつもよりも早い夕食の後、珍しくマリアから話があるということでお風呂の前にリビングのソファーで向かい合ったテルヨシは、最近なにかで悩んでいた節だけはあったマリアがようやくお悩み相談してくれることに感無量。
これがお金が絡むことなら勿論だし、そうでなくてもマリアから切り出してくる話は真剣に聞いてあげようと嬉しい気持ちは封印して聞き耳を立てる。
「今週の火曜日にお店でサアヤさん達とお話したのは知ってるよね?」
「あー、うん。五芒星の話をした日だから覚えてるよ。そういやあの時はマリアも集まりの中で話があったんだよね。その辺を聞いてなかったな」
「うん。サアヤさんからなるべく早く決めた方がいいってお話されて、でもなかなか決められなくて今日まで悩んじゃってたこと」
「オレにも関係ある?」
「ないわけじゃない。でもテルは自分で決めていいって言ってくれてたことだから」
やけに勿体ぶるなと思いつつも、ブレイン・バーストの話であることはわかったので頭は完全にそっちに切り替えて、自分が何を言ったかも予測しておく。
基本的にはマリアの自由にさせてあげてるのでこれだといった確信のあることは閃かなかったが、決めた方がいいとサアヤに言われたからにはなんらかの選択肢があったようだ。
「レギオンのこと。ずっと保留にしてきたから、どうするか決めた」
「その話かぁ。悩んでた選択肢は?」
「プロミかネガビュか、メテオライトか。どのレギオンも仲良しの人がいて困ってたけど、今日ユニコさんからメールが来てて、ユニコさんも『腹を括った』って」
「……話が見えない。サアヤとはどんな話をしたの?」
「えっと、サアヤさんからは『これからプロミもネガビュもメテオライトも大きな動きをすることになるだろうから、どこにも入らずに無所属でいると取り残されちゃうかも』って言われて、私もユニコさんとかうーちゃんとかと繋がりはあっても、やっぱりゲスト扱いで作戦の深いところには関わらせてもらえなかったりはわかってた。だからフラフラしてるのはダメだって思って」
──また10歳に難しいことを言ったもんだ。
そう思いもするテルヨシではあったが、このところの加速世界の問題はレギオンとして団結して取り組まなきゃならないと感じてはいたし、中には重要な作戦だって行われることもある。
そんな時にゲスト参加ではマリアの言う通りのことが起きても不思議ではないし、いないとは思うがマリアを何かしらのスパイと思う人も出てこない保証はない。
そうならないためにもマリアはこの数日で悩んで所属するレギオンを決めたようだが、何故かその決定にはユニコも関与しているっぽくて腑に落ちない。
「話はわかるけど、何でニコたんが絡んでくるの?」
「ユニコさん、今月頃から考えてたことがあったみたいで、その決定には私も関係あるから報告してくれたの」
「具体的には?」
マリアが決めることにユニコが絡んでいるのはちょっとおかしいので当然そこを尋ねてみると、隠す気もないマリアは割と素直にメールの通りに話をしてくれたが、一応は極秘情報だから黙っておいてと釘を刺してくる。
が、また思い切ったことを考えたもんだと感心しつつも、驚きがそれを上回り目を丸くしてしまう。
しかしそうとわかれば話にも筋が通り、それを踏まえてのマリアの決定がどうなったかにようやく辿り着き、覚悟を決めた目をしたマリアはハッキリとした言葉でその答えを告げてくれたのだった。
「明日はうーちゃんと一緒に来るの?」
「えっとね。校門の前でうーちゃんとフーコさんとサアヤさんとユリさんと、もう1人かな? と合流してから行く」
話を終えてお風呂にも入って明日に備えるだけになったところで、明日はどうするのかをマリアに尋ねてみると、ちゃんと約束はしてきたようで安心。
もう1人というのがよくわからなかったが、もしかしたら《アッシュ・ローラー》辺りが来るのかもしれないなとフーコ繋がりで勘繰りつつも楽しみに取っておいて自室に入るマリアを見送ってから自分も自室へと入って、緊張とかではないが明日の講演の最終チェックをしてから眠りに就いていった。
そして迎えた6月30日の日曜日。
遠足前のウキウキに似たもので寝るのに苦戦したと話したマリアは、テルヨシが登校する10分前に起きてきて、のんびりと支度してから行くと先に出るテルヨシを手を振って見送ってくれる。
開場は午前9時半からなのでいつもの時間なら早いくらいではあるが、お客の側との気楽さの差が顕著に出たなぁと思わざるを得ない。
でもまぁ文化祭が始まってしまえば、サアヤと一緒にもてはやされて大変な思いをする──テルヨシの関係者は色々と話題性があるため──のは間違いないので、その気楽さがいつまで保てるか見物ではある。
マリア達は開場後にまずテルヨシのところに顔を出すと言っていたので、登校後すぐにクラス展示のチェックに入って、朝早くに来てケーキ作りをしていた女子チームに問題がないのを確認。
すでに文化祭の雰囲気に呑まれた感じの女子チームはテルヨシのことを『店長』とか呼んで遊んでいたものの、その余裕があれば大丈夫だろうと席を外して、約束していた新聞部に開場後すぐにサアヤが来ることを伝えて他の客に迷惑になったりしないように注意もしておく。
「うっし。それじゃあ中学最後の文化祭。受験とか部活の大会とかそういうのは今は忘れて楽しんでいきましょう」
「言わんでいいことを言って思い出させるなバカテルが」
「ホントに言葉のチョイスにセンスがありませんわ」
「だったら店長とか担ぎ上げずに副会長と書記がやればよかですばい」
「エセ方言はやめろ」
「アメリカ育ちが何を言ってますの」
そして時刻も9時半を回り、準備を完了させた教室でクラスのみんなが集まって意気込み、代表としてテルヨシが何か言えと前に出されて言ってみれば、クラス展示はテルヨシ達任せで動いていた黒雪姫と恵の辛辣なツッコミが炸裂して締まらない。
それでもいつも通りなテルヨシ達の安定のやり取りに笑ったクラスメイト達は、ローカルネット経由で表示される来場者数がカウントを始めたのを皮切りに自分の役目へ動いていき、テルヨシも最後の文化祭の開催に心を踊らせながら、まずは最初のイベントに備えてソワソワしていった。
「いらっしゃーい」
教室の位置的に開場からまっすぐに来る客でもないと一番乗りは難しいクラス展示なので、約束でもしていないとまず間違いなく最初に来るのはマリア達。
その予想通りクラス展示の最初の客は和気あいあいと話しながらやって来たマリア達で、その来店にバイトで習慣化したスマイルで応えたテルヨシ。
そんなテルヨシを見慣れてるマリアは平然と先頭を切って教室内に入り、それに続く形で謡、フーコ、ユリが仲良さそうに入ってくる。
そしてその後ろからもう1人。テルヨシも知る人物が姿を現してビックリ。
タクムと同じように現在では珍しい赤縁の眼鏡をかけた茶色のショートボブでジーンズにボーダー柄のカットソーのボーイッシュなイメージのある女の子。
「あれ? アキちゃんだ」
「おはようなの、テル君」
──
テルヨシはわずか3度しか顔を合わせたことはないが、店の店長を任されている氷見
ちょっとした用事で店に顔を出した時に自己紹介だけはお互いにしていたので話すこと自体は初めてではないが、いつもバイト中だったこともあってまともに会話をしたことは未だにないため、あきらがどんな女の子かはまだよくわかってはいない。
「……ん? 待って。この集まりでアキちゃんが馴染んでるってことは、アキちゃんも?」
「挨拶は昨日に済ませたはずなの」
「ああ…………そういうことね」
そのあきらがこの集団に普通に加わっているというのはさすがに偶然とかそんなもんじゃないのは一瞬でわかり、誰だろうと探りを入れてしまったが、快くヒントをくれたあきらによってデュエルアバターは判明。
まさかアクア・カレントの正体があきらだったとは予想もしてなかっただけに、テルヨシも少し動揺してしまったが、それよりも先にニコニコなフーコとユリがテルヨシを見て助言。
「あらあら、テル君ともあろう人がわたし達を見て何もないんですか?」
「せっかく普段はあまりしないお化粧なんかもしてきたのに、テル君は酷いなぁ」
「うわーおっ。これはとんだ失礼を。お2人とも、今日はいつもよりも美しさに磨きがかかっていて、直視したらその美しさに魅入られてしまいそうです」
【UI> 私達もいるのです】
「贔屓だー」
「うーちゃんもマリアも今日も超絶可愛いよー!」
別にテルヨシに良く見られたいとかそんな理由ではないだろうが、わざわざそんなことを言うのは男としてやるべきことをしてくれといった意味合いで、それはあきらとのやり取りよりも優先される案件であったと言いたいわけだ。
優先度については判断しがたいが、言われてしまったらやらなきゃ怒られるので、いつもの調子で改めてフーコ達を見て褒めちぎる。
フーコは制服以外の格好は初めて見るが、水色のワンピースは清楚な感じがとてもグッドで、適度な露出も素敵。
ユリは対極に露出は抑えて、薄めの生地のピンクのロングスカートと白のシャツにブラウンのジャケットを羽織っていた。
前に聞いたが大きな胸が密かなコンプレックスで、人の多いところなどでは男の視線を気にして上半身のガードが固くなる傾向にあるらしいが、その中でも今日はオシャレしてきた感は十分。
マリアと謡は校則にも一応はあるからか、今日も松乃木学園の制服姿で真新しさはなかったが、可愛さは衰え知らずなので全く問題ない。
「っと、挨拶が済んだところで……1名ほど姿が見えないのだが」
そうしたテルヨシの対応に概ね満足したマリア達ではあったが、ここまでのやり取りで絡んできていない人物が約1名いることに気づき、マリア達はその事にクスクスと笑う始末。
「はーいっ! テル君の彼女さんはー! えっと、どなたですか?」
その輪の中に躊躇なく飛び込んできたのは、約束して待機していた新聞部の部長。
さっそく噂のテルヨシの彼女が誰かを探ろうとするも、フーコ、ユリ、あきらを見回してテルヨシを見た部長は「何でこんなに美人ばっかり」みたいな痛い視線も交えて質問してくる。
そんな部長を他所に教室から出ていったマリアを目で追いつつ、時間稼ぎで部長の質問には質問で返しておく。
「誰だったら驚く?」
「いや、誰でも驚くけど、どういう繋がりからこんな美女がテル君に引っかかるのかが気になる」
「言い方……酷くない?」
サラッと酷いことを言う部長の悪意なき疑問が突き刺さりダメージを負ったものの、その時間稼ぎの間に教室の外から「ちょっと、待ってマリア」とかいう声と共にマリアに背中を押されて入ってきた人物が。
さすがに教室の中に入ってしまえばもう後戻りはできないので、出入り口をマリアがガードしてることもあって観念した人物、サアヤは、関節が動かなくなったかのようなぎこちない動きでテルヨシと向かい合うと、途端に顔を赤くして固まってしまった。
そのおかげで観察がはかどったテルヨシは、張り切ってきたであろう今日のサアヤのチェックに入る。
彼女らしくと言うからてっきりイマドキの女の子らしくまとめてくるかと思ったが、化粧っ気はほとんどなく、七分丈の紺のレギンスにノースリーブの黒のシャツと、かなり薄い白の長袖シャツを前を開けて重ね着したスタイル。
女の子らしさで言えばフーコとユリには劣り、あきらよりも凄く頑張ったといった辺りで、変に頑張り過ぎずにサアヤらしさが残っててちょっと安心。
それと同時にいつもよりも仕草が女の子らしくてドキッとするが、自分が声をかけないと話し出すことさえできそうにないサアヤが緊張でどうにかなる前にその肩を寄せて並び、いきなり抱き寄せられたサアヤはもう爆発寸前。
「部長、この子が世界一可愛い彼女の都田沙絢だよん」
「あ、えっと、えっと、テルのか、か、彼女ですっ!」
そうしてようやく彼女を紹介することができ、テルヨシに続いて持ち直したサアヤも自ら公言して頭から湯気が立ち上ぼり、そんなサアヤを見て、ほほぅと悪い笑みを浮かべた部長は、挨拶がてらに記念撮影を申し出る。
テルヨシは全然オッケーだったが、緊張しまくりのサアヤは表情が固くてとてもじゃないがツーショットを撮られていい顔ではなかった。
しかし近くで見ていたマリア達が気を利かせて「テルの方が変な顔してるから大丈夫だよ」とかそんなことを言うから、それでテルヨシも初めて自分が壮絶に引くレベルで緩みきった顔をしてることに気づいてサアヤと顔を見合ってしまい、互いの顔で笑い合ったところを部長のニューロリンカーの視界スクリーンショットが煌めいたのだった。
──そんな楽しい文化祭の始まり。のはずだった。