アクセル・ワールド~蒼き閃光Ⅱ~   作:ダブルマジック

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 始まった梅郷中学校の文化祭。

 開場早々にクラス展示に顔を出したサアヤをクラスメイトの女子を中心に紹介できたのは良かったが、いつまでもワイワイやってると他の客が入りにくいだろうととりあえず席に落ち着かせてテルヨシお墨付きのケーキを出していく。

 バイト先の常連であるマリアやユリ。母親がパティシエールのあきらは「店の味の方が美味しい」と辛口になるものの、生徒の出し物としては及第点以上をくれて、フーコと謡は普通に美味しいと評価し食べてくれる。

 しかしサアヤはと言うと、まだ客の入りが甘いのを良いことに新聞部部長を筆頭としてクラスの女子に詰め寄られて、テルヨシとの馴れ初めなどを矢継ぎ早に尋ねられケーキどころではなかった。

 

「それじゃあわたし達は他の出し物を見て回りますから、後でまた合流しましょう」

 

 女6人で割と大所帯だったこともあって、客の入りも考えれば長々と居座るのもあれかと思ったのか、ケーキを食べ終えて少しだけ待っていたフーコ達は、まだまだ終わりそうにないサアヤと、ついでにテルヨシと同居してる噂の少女だと判明して巻き込まれたマリアを置いて笑顔で手を振りながら先に教室を出ていってしまう。

 こういうところはさすがなフーコに苦笑いを浮かべつつ、助け船を求めるサアヤとマリアの困り果てたような視線をかるーく受け流して他の客の対応をする。

 が、それが地雷だったか、困り顔から一転して般若のような形相をチラッと見せた2人にビクッとなってしまい、物凄くお花が咲き乱れるガールズトークの中へと突撃。

 

「あのぅ、そろそろ皆さんお仕事に戻られてもよろしいのでは?」

 

「残念ねテル君。これが今の私の仕事よ!」

 

「部長には聞いとらん。話ならここ以外でも出来るでしょ。サアヤもマリアもまだ来たばっかりで他を見て回りたいだろうし、解放してあげて。話なら後日オレがするから」

 

 ちゃんと話が区切れそうなタイミングを見計らって割り込んだので「テル君は邪魔!」とかならないようにしっかりと解放してあげる理由も付け加えて説得すれば、話のわかる女子達は「それもそうだよねぇ」と同意が取れ、部長も少しの間はついて回る許可をもらってようやく席を立ってくれた。

 なんだかんだで仲良くはなったらしい女子達に手を振られて教室を出たサアヤとマリアは、すぐ外まで見送りに出たテルヨシに小声で話しかけて今後の予定を合わせにくる。

 

「マリアがいるからロータスとかはすぐわかると思うけど、ネガビュが揃いも揃って文化祭にいるって何なの? マッチングリスト見たらなんかユニコちゃんまでいるし」

 

「お祭りだし大目に見てよ」

 

「まぁいいんだけど。それでアンタはいつ頃に時間が取れるの?」

 

「午前中は割と余裕ない感じ。クラス展示から講演まで30分とないし」

 

「……講演?」

 

 それで午前中は一緒にいられそうにないとわかると露骨に残念な顔をしたサアヤだが、テルヨシの言う講演が何なのかわからずに首をかしげる。

 そこでそういえばと講演のことをサアヤに話してなかったのを思い出し、すぐにARで表示されてる文化祭のスケジュール表を開いてもらい、11時半に行われる講演についてを教える。

 

「……えっ? なにアンタ……ひょっとしてなんか凄い生徒なの?」

 

「テルはテルだよ。誉めると調子に乗るからダメ」

 

「マリアが厳しい……でもそういうわけで自由時間は講演が終わってからになるかな」

 

「そうなんだ。それなら仕方ないから、午前中はマリア達とブラブラして……」

 

 そんなわけで昼食くらいからなら一緒にいられると話すと、納得せざるを得なくてマリアと部長で移動を開始しようとする。

 が、その話を聞いていたクラスの女子達が顔だけ廊下に出して割り込んできて、残念そうなサアヤが可哀想とでも思ったのか「店長はフリーで良いよぉ」と粋なことを言ってくれる。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、なーんか見返りを求めてないですかね?」

 

「バレてたか。じゃあ今度テル君のバイト先に行くから、ケーキを割引にして?」

 

「それはオレが独断で決められることじゃないんですが……」

 

 軽い感じで提案されたことにサアヤは嬉しそうにする一方、テルヨシはクラスの女子が何の見返りもなしに自ら負担を買って出ようなんて優しさ100%な行動をするとは思えず、後日に無茶な要求をされるならと言及する。

 その見返りがまたテルヨシ個人でどうこうなることでもないから、サアヤには悪いが断ろうとした。

 

「K。割り引いた分はテルが負担すれば問題ない」

 

「それなら売上に影響はねぇしな」

 

 しかしその前に後ろから音もなく近づいたパドが話に勝手に了承してしまい、一緒にいたユニコまで後押ししてきて困る。

 その突然の登場には女子達が誰だと一瞬なったが、バイト先に何度か来てくれてはいるのですぐにテルヨシの同僚だとわかり納得しかける。

 それでもパドに決定権があるのは不思議だったから揃って「何で?」みたいな顔をしたので、仕方なくパドが店のオーナーであることを教えて、オーナーからの許しが出てしまえば話にも渋々で了承するしかなかったのだった。

 

「マリアよ、来月のお小遣いは割引です」

 

「テルがカッコ悪い」

 

「自分の取り分だけ減らしゃ良いだけだろ。マリアを巻き込むなよなぁ」

 

 話が丸く収まって自由の身になったはいいものの、代償付きでは手放しで喜べず冗談も言いたくなったが、これから教室に入ろうとしていたユニコにツッコまれて撃沈。

 ユニコとパドの他にはハルユキともう1人、ハルユキの袖を摘んで放さない、見慣れない気弱そうな灰色のショートカットの女の子もいたが、バーストリンカーかなと勘繰りつつもとりあえず挨拶だけして名前を聞き出す──日下部綸(クサカベリン)というらしい──ことはできた。

 そのパド達のグループとはとりあえずで別行動にして、展示物を散策しながら部長の独占インタビューが終わっていなくなってくれた頃に、ようやく緊張も解けたサアヤが「ロータスに会いたい」とか言うもんだから、どこにいるかもわからない黒雪姫にメールを送ってみると、数秒で返信が来て「見つけたから動くな」と指示があり、校舎前の玄関外で待つこと2分。

 

「シフトをサボって彼女とデートとは良いご身分だな、テル」

 

「ちゃんと交渉して勝ち取った自由ですよーだ」

 

 校舎の中から姿を現した黒雪姫は、テルヨシのクラス展示のシフトも頭に入っていたのか鋭いジャブを飛ばして調子の良さを示してくる。

 それにも慣れっこなので軽くいなしてやり、マリアとも挨拶を終えた黒雪姫は、ようやく訪れたサアヤとの邂逅で何故か腰に手を当てて偉そうに見る。

 

「お前がそうなのか。こちらでもずいぶん気の強そうな顔をしているな」

 

「ふーん。アンタがそうなのね。こっちでも黒いとかどんだけリアルに色が侵食してるのかしら」

 

「悪いが私の黒リスペクトは物心ついた頃からだ」

 

「だからあっちでも黒いわけね。納得。でもまぁ……わかってたけどお互いに少し寂しいもんね」

 

「……やめろ。周りがおかしいだけで、私達は晩成な……というよりお前はまだ良い方ではないか!」

 

 黒の王として威厳的なものを出したかったのだろうが、そんなものに一切動じないサアヤは、負けず劣らずの強気で黒雪姫と視線を合わせて向き合い、なんか喧嘩腰の挨拶になる。

 しかしすぐに互いが互いの胸部装甲に視線を落として同時に落ち込んでしまうという謎行動をし、大きさではサアヤの方がひと回りは大きいのですかさず黒雪姫のツッコミがズビシッ! と指差しと一緒に入る。

 そんな話をマリアの前でしてほしくなかったが、マリアもマリアで「私が2人の歳にはどのくらいになってるかな?」とか自分の胸を軽く触りながら尋ねてくるから、未来予知などできようはずのないテルヨシは無責任なことも言えず「あとでユリさんとフーコさんに大きくなる秘訣を聞いてみな」と他人任せにしてあげたのだった。

 そうしてサアヤと黒雪姫のリアルでの対面は胸の話で落ち込んで終わり、まだやることでもあるのか割とすぐに移動しようとした黒雪姫は、敵も味方もなくバーストリンカーとしてでもなく、文化祭に遊びに来たテルヨシの彼女として扱って「来たからには楽しんでいけ」と言ってから校舎に引っ込んでいってしまう。

 生徒会でも出し物をするとか言っていたから、その辺で手抜きはしない黒雪姫ならギリギリまで準備とかしてるのかなと考えつつ、サアヤの目的が果たせたから次はマリアが行きたいところへと行くことになり、ARマップを見ながらチユリの所属する陸上部のクレープが食べたいと言うのでそちらに向かう。

 

「あっ、テル先輩とマリアちゃん! いらっしゃーい」

 

「ウサギ耳がキュートね」

 

「倉嶋さんは今日も元気です」

 

 陸上部のクレープ屋は食堂の一角にあり、出入り口に近い校舎の外とは集客率で差が出てしまうが、そこはくじ引きの結果で文句は言えない。

 それでも美味しければ人気は出るし、チユリ達が頭につけてるウサギ耳などの仮装的な見た目で盛り上げればノリで売れたりもするのが商売。

 それがわかってる陸上部のクレープ屋は同業──クラス展示の方だけど──としてなかなか強敵だ。

 どうせ今さらオプションなどつける余裕もないクラス展示は味で勝負してもらうとして、テルヨシとマリアに元気よく挨拶したチユリは、その横のサアヤを見て誰だろうと首をかしげる。

 

「ねぇテル。もしかしてこの子も?」

 

「そうよ。魔女の子」

 

「ああ、魔女か。はじめまして、私は都田沙絢。テルの彼女で、扇子のお姉さんよ」

 

「あー! 噂のテル先輩の彼女ですか! って、扇子の……もしかして、ガスト姉さん?」

 

 2人と親しげな感じからサアヤもチユリがバーストリンカーである可能性に気づき、直接的な言葉は避けて教えてあげれば、サアヤもチユリが《ライム・ベル》であることがわかり、自己紹介も兼ねつつサアヤも自分が誰かを教える。

 すると噂は聞いていたチユリが割と大きめの声で驚き周囲の視線を集めるが、すぐにペコペコ頭を下げてから言葉を理解しにかかって、サアヤが《エピナール・ガスト》であることに思い至り小声で確認。

 それに笑顔で応えたサアヤは、他の客もいるからと話もそれくらいでクレープを注文し、話したいことはあるのだろうチユリだったが、ここでの雑談は渋々やめて注文されたクレープを作って3人を見送る。

 

「あっ、タッくんの出し物が11時15分からあるので、よければ一緒に見ませんか?」

 

「すっごいギリギリだけど、見る!」

 

「終わったら体育館にダッシュしなきゃだよ?」

 

「剣道場と体育館は隣接してるからダッシュできないけど問題ない。問題なのは体育館の出し物の進行をしてる恵にギリギリで入って何を言われるかわからんことだ……」

 

「土下座すればいいよ」

 

「オレの土下座が安くなっていってる気が……」

 

 その別れ際にタクムの所属する剣道部の出し物を一緒に見ないかと提案してきたチユリに、断る理由もなかったテルヨシはサアヤとマリアが「いいんじゃない」といった顔をしたのを見てから答え、時間が結構シビアなことを危惧するマリアには大丈夫だと言う。

 が、やはり恵には怒られるだろうなと考えてげんなりし、マリアの土下座の提案にもここ最近で何回かしてしまってる土下座が安くなってそうで効果が薄い気がしてしまう。

 それでも恵なら情に訴えれば大丈夫だろうと思うことにして、クレープを食べながら次の行き先を決めていると、恐れ多そうなハルユキからメールが届き、合流しようと提案が。

 どうせユニコ辺りが言い出したことだろうとは思いつつ、タクムの出し物も割とすぐだしと合流には賛成。

 メールを返して校舎の玄関前で再び待っていると、校舎の中からまぁゾロゾロと女子をたくさん侍らせたハルユキが先頭でやって来て、その一団には周りもちょっと仰天気味。

 揃いも揃って美少女、美女の集団を引き連れるあの男はハーレム王なのではなかろうかと冗談混じりに思いつつ、なんかあの集団に加わるといよいよ注目度が限界突破しそうだなと頭をよぎると、サアヤとマリアもなんか以心伝心したのか近寄ってきた一団から距離を取るように離れて無関係を装おうとしてみた。

 そうすれば慌てん坊なハルユキが焦って追いかけてきて結局は合流となってしまい、屋台から抜けてきてウサギ耳をつけたままのチユリまで合流してきて、総勢12人となった集団は、やっぱり目立って仕方なかった。

 

「これヤバい。やっぱ散開しない?」

 

「あわわわわ……ボクが合流しようなんて言ったばっかりに凄いことに……」

 

「あら、両手に花どころじゃない状況はテル君も鴉さんもどんとこいではなくて?」

 

「何にでも限度ってもんがあるでしょ。こんなにバーストリンカーでリアルを固めて戦争でも始めるつもりなの? バカなの?」

 

 一応は黒雪姫とタクムを除き梅郷中学校にいるバーストリンカー全員が集まったことになるこの集団だが、いくらお祭りだからといって12人はやはり多い。

 マッチングリストを見た限りでは綸があの《アッシュ・ローラー》ということになるのだが、リアルとアバターの性別が逆転する例はよくわからない事情がありそうなのでとりあえずスルーして、こんな目立つ集団での行動はさすがのテルヨシでも避けたいと思わざるを得なく、ハルユキも安易に合流したことを後悔している様子。

 

「まぁまぁフーコ姉さんもサアヤ姉さんも喧嘩しないで。とりあえずもうすぐタッくん達の演舞も始まりますし、テル先輩の講演もありますから、それが終わったら考えましょうよ」

 

 この状況を楽しめるフーコの余裕はさすがを通り越して呆れてしまい、サアヤも女だらけな空間にテルヨシを放り込みたくない──喜ぶからだ──のか、分散に賛成のようだ。

 しかしタクムの演舞ももうすぐ始まるし、その後もテルヨシの講演があるのでそれを考えるのは後回しにしようとチユリが提案すれば、満場一致で可決されとりあえずこれから始まる演舞を見るために12人が同じ目的地に向けて進行……いや、侵攻していった。

 剣道場に着いてみれば、すでに中はほぼ満席状態で立ち見を余儀なくされてしまい、低身長のマリア、謡、ユニコはフーコ達のあざといお願いで最前席を男子から譲ってもらい、小学生の特権だなぁと思いつつ残りのメンバーは後ろの方で立ち見。

 タクムも女子人気が高いので客には女子生徒が結構いて、まだ始まってないのにヒソヒソと声かけの打ち合わせをしているのが聞こえてきて苦笑。

 そのタクムが想いを寄せている相手のチユリはそれをどう思うんだろうとチラッと見てみるが、どうやら心配はそこではなく無事に演舞が成功で終われるかのハラハラが勝ってしまっているようだった。

 そして11時15分になって剣道場の明かりが落ち、ステージにだけ照明が照らされると、タクムをセンターで先頭にした水色の(かみしも)まで着て白ハチマキを巻いた武士スタイルの男子剣道部員が腕組みして立っていて、鳴り始めた音楽に合わせて腰に差した模造刀を抜き放っての演舞が始まった。

 

「あのセンターの子が《シアン・パイル》?」

 

「そうだよ。よくわかったね」

 

「周りを見ればなんとなくね。でも意外。あっちがてっきり鴉かと思ったけど、あのぽっちゃり君がそうなんて」

 

「見た目からはアバターの判断は難しいよねぇ」

 

 その剣道部員の中には、春先にハルユキ達を苦しめた能美征二の天真爛漫な笑顔で踊る姿もあってちょっと違和感は拭いきれないが、彼はもう略奪者《ダスク・テイカー》としての記憶を失ったただの後輩。タクムとも今は良好な関係を築いていると聞く。

 そんなことは知らないサアヤは、隣からテルヨシにだけ聞こえる声量で囁きかけて、タクムがシアン・パイルであることを周囲の様子から察して見抜き、先ほどの移動の際にハルユキが《シルバー・クロウ》であることを知らされて驚いたことを正直に話す。

 言われなきゃそもそもハルユキがバーストリンカーであることもちょっと疑いそうなリアルにはテルヨシもちょっと同意だが、リアルの姿がどうあれデュエルアバターがその影響を受けるケースはほとんどないし、むしろタクムのような育ちも良さそうな好青年がバーストリンカーになれてしまう方が異質にさえ思える。

 

 なんにしても心の傷が千差万別であることを再確認したテルヨシは、クライマックスで手拍子も混ざってきた剣道場の雰囲気に呑まれて、サアヤと一緒に手拍子に参加して場を盛り上げ、音楽と手拍子の終了と共にカッコ良くポーズを決めて締めたタクム達は、盛大な拍手に見送られてステージを降りて引っ込んでいく。

 5分程度の演舞でも相当なクオリティーと運動量だったなぁと感心しながら、タクムを迎えに剣道場の裏の方に回っていったハルユキ達を見送り、今度は自分の番だなとちょっと気合いを入れて伸びをする。

 

「あと10分ないけど、間に合う?」

 

「ん、すぐそこだしね。余裕」

 

「その余裕は講演にもかかってるのよね?」

 

「もちのろん。サアヤとマリアに恥はかかせられんし、まぁ楽しんでって」

 

 そのテルヨシのそばにいたサアヤとマリアが何やら心配するようなことを言ってくるから、信用のない自分の普段の頼りなさを感じつつも、今日くらいはカッコ良く見せてやりたいと親指を立ててみせる。

 それには直前になってもいつも通りなテルヨシに安心したのやら呆れたのやらな反応を見せたサアヤとマリアは、お互いに顔を見合って笑ってしまう。

 

「じゃあ楽しませてもらうわ。アンタのポカにも期待しながらね」

 

「1回だけ盛大に失敗した方が緊張とれるかも」

 

「失敗しないってばぁ」

 

 それでもやっぱり言うことは言うサアヤとマリアに失敗を期待されてもと思いながら、いよいよ時間も迫ってきたので話はそれで終わり、今頃ハラハラしてそうな進行役の恵を安心させるために移動を開始していった。

 

「はい、ありがとうございましたぁ。さて、次は文化祭にお越しの皆様には強制的に宣伝されたであろう特別講演です」

 

 体育館に入って脇から裏へ回り、テルヨシの到着が遅れるとでも思っていたのか、やたらゆっくりな喋りで進行する恵が壇上からステージ脇へとチラ見して、そこにテルヨシの姿があることを確認すると、安堵したように小さく息を吐いてから、テルヨシの名前を述べながら引っ込み、すれ違い様に「あとでお説教ですわね」とお叱りを受けてしまい苦笑。

 時間通りには到着したのだから怒らんでもと内心でツッコミつつステージ中央の壇上に立ったテルヨシは、ほぼほぼ満員の体育館と生徒から上がる「テルせんぱーいっ」という黄色い声に笑顔で応えつつ、リハーサル通りにスクリーンの映像も出ていることを確認。

 次に体育館をザッと見回してサアヤ達の姿を確認すると、黒雪姫が特等席でも取ってくれたのか、みんなして最前列に加わって熱い視線を送ってくる。

 最後にニューロリンカーのAR表示に妙なものも見つけて触れてみたら、なんか聞かされてないこの講演のライブ映像が中継されていて、カメラの位置からして客に混じって最前列中央に陣取っていた恵のニューロリンカーのカメラで撮られていることがわかる。

 

「おい進行さんや。ライブ中継は打ち合わせになかったんですが」

 

 講演を始める前にマイクまで使って出てきた第一声がこれである。

 これにはほぼ名指しされた恵が声が入るとあれだからとジェスチャーでとぼける仕草をして誤魔化してきたが、こんな仕返しの方法があろうとは予想すらしてなかったテルヨシは、ざわつく体育館の雰囲気を無視して短く息を吐くと、

 

「まぁいいや。んじゃ始めまーす」

 

 めちゃくちゃ軽い調子で講演の開演を宣言。

 それにはテルヨシを知る一同からの盛大な「軽ッ!」という容赦ないツッコミが入って幕を開けてしまったのだった。

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