Acceleration Second50
全属性攻撃無効というステータスを失って攻撃可能となったメタトロンに対して猛攻を仕掛けたテルヨシ達の奮闘によって、戦闘開始から約30分ほどでメタトロンはそのHPゲージを全て削られて地へと伏した。
崩れ落ちた体は次々と光の粒子となって消えていき、その現象の最後には視界左に大量のバーストポイントの加算がされる。
初めて神獣級エネミーを倒したテルヨシは達成感とかがもっとあるものと思ったのだが、なんだか終始で《ボッシュ・ルーレット》に振り回されてしまった疲労感の方が強くて実感が湧かずにため息が漏れる。
近くでは近接組のメンバーが勝利の余韻に浸っていたりしたが、このタイミングでもまだルーレットの挙動に注意していたテルヨシとサアヤは気が気ではない。
「みんな気楽で良いよね……」
「メタトロンが倒された今が何するかわからないのにね……」
そうした呟きをしながらルーレットを見ていたら、必殺技を使ってストレージへと戻された《アポロン》から極端に銃身が短い角張ったデザインのハンドガンに持ち変わって、明らかに士気が落ちた雰囲気で今すぐ《東京ミッドタウン・タワー》に乗り込もうといった感じにはなってなかった。
その原因は出てきた強化外装が特殊弾装型の《ホーライ》だからなのだろうが、あれはあれで怖いから無闇やたらに撃たないでくれるとありがたい。
サアヤもそんなルーレットの雰囲気を察したのか安堵の息を短く吐いてからようやく周囲に目を向けて、ユリに手を振りかけて止める。
その動作にはテルヨシも気づきサアヤの向く方向に視線を向けユリを見れば、ユニコ達と合流していたユリとその近くのマリアと謡もどこかへと指を差して警戒の意思を示す。
何事かと指差す方向を向き、ハルユキ達もそれに気づいてそちら。さっきまでメタトロンが崩れ落ちていた場所を見ると、その場所の上。
上空に浮遊する物体があって、よく見ればメタトロンの頭から生えていた奇妙な突起であることがなんとなくわかる。
見えていた部分は上半分といったところだが、今は上と下が尖った白い
しかしあれも紛うことなきメタトロンの一部であるのに、ポイント加算がされた今も存在しているのか。
その疑問は黒雪姫達にもあったのか、この現象に理解ある者はいないようで対応に困る。
──おまえたちが破壊したのは、私の半身に過ぎません。
次いで一番危険であろうルーレットの挙動に目を向けて、やっぱりその銃口を向けつつあったので、目を離すのは危険だがまずはルーレットへと近寄って様子を見るように手を止めさせようとした。
そこに突如として聞こえたのは《四神》と同じような頭に響く女性らしき声で、その声を発したのが今も浮いている存在であることにすぐに気づく。
声のした後には、巻き付いていた物が解けるように開いて、それが4枚の翼であったことを理解するのと同時に、その中に包み隠されていた存在が姿を現す。
純白の鎧と衣に身を包み、髪も肌も染みひとつないマットホワイトなその女性は、とてもではないがエネミーには見えなかったが、圧倒的な存在感とプレッシャーはさっきまでのメタトロンとは比較にならない。
半身、と言ったからにはあれもメタトロンであるのは間違いないが、閉じられていた目を見開き、その金色の瞳でテルヨシ達を見るメタトロンからは、プレッシャーこそあれど不思議と敵性は感じられない。
──おまえたちは、私を縛る忌まわしき
その理由は本人から説明され、こっちにその気さえなければ戦わずに済むと言うので、完全なる未知数にしてさっきのメタトロンよりも強力なプレッシャーを放つ相手をわざわざする理由もこっちにはない。
なので答えは決まっていると思ったが、挑発とも取れる今の発言に反応しそうなのが1人いたのでテルヨシは現在進行形でその銃口をメタトロンへと向けるルーレットにタックル。
「もちろんやるに決まって……ぇぇぇええ!?」
「ちょっとルールー! ミッドタウン・タワーが目的でしょ? なら必要ない戦闘は避ける!」
そのタックルでホーライの弾丸が放たれることなく事なきを得て、なんとか取り押さえながら説得。
その間にハルユキが戦闘を望まないと声高々に宣言すると、メタトロンは再びその翼で身を包んで白い炎の柱となって消えていった。
本当に心臓に悪すぎるルーレットの挙動は寿命が縮むが、なんとか危機を回避して安堵すると、もういいだろ的な蹴りで突き放されてしまった。
ともあれこれでメタトロン戦は無事に終了。
あとは守りを失ったISSキットの本体を破壊するだけ。と、誰もが思うだろうタイミング。
しかしテルヨシはルーレットのせいかおかげか、まだ保っていた緊張感が解ける寸前にあることが引っ掛かる。
──何故メタトロンが突然動き出したのか。
そりゃエネミーなら動くしテリトリー持ちでもなければ攻撃もしてくるだろう。
だがそのメタトロンが本来はボスエネミーでありテリトリー持ち。しかもテイム状態にあったのだ。
攻撃性はテリトリー内で発揮するにしても、自らが動いてテリトリー内にテルヨシ達を入れてくるような動きは『テイムした存在が命令でもしない限りあり得ない』のではないか。
だとすれば、その命令をした存在はテルヨシ達がいることを察知してメタトロンを動かしたことになり、つまりこの近くに潜伏している可能性が高い。
それに気づいた瞬間。テルヨシは行動を妨害されてイラついていたルーレットを無視して立ち上がり、武装解除してしまったユニコ達を見てマリアにハンドサインを送り、サアヤにも見えるように《テイル・ウィップ》の先端を頭上に持っていきクルクルと回す。
そのサインは『周辺要警戒』であり、声を出さなかったのはテルヨシが気づいたことを相手に察知されないためだ。
サアヤは後ろの方にいるので直接確認はできなかったが、気づいているとしてマリアもサインに気づいて下ろしていた《シャープネス》を静かに持ち上げていつでも撃てる準備だけは整えてくれる。
しかし敵の狙いが何であるかはわからないので、テルヨシもどこにどう警戒し備えればいいか判断がつかず、漠然と周囲を見ることしかできない。
そんな中で消耗もある遠隔組が東京ミッドタウン・タワーによって出来ていた影に足を踏み入れた瞬間。その後方の建物オブジェクトの屋上からキラッ、と4つの紫の光が煌めいたかと思えば、次にはすでにその光が謡の体を貫く結果として現れる。
「……《
それには近くにいたユニコとマリア、ユリが驚く様が見て取れたが、倒れる謡に手を伸ばしたユニコに今度は地面から黒い長方形の板が2枚ぬるっと這い上がってきてユニコを万力のように挟み込み押し潰そうとする。
それを見て……いや、謡が撃ち貫かれた瞬間に両足に真っ黒な心意の過剰光を纏ったテルヨシは、一直線にマリア達のいる場所へと駆けていた。
「これはこれは……やはり君は面白い」
──声がした。
あまりに子供らしくない、教師のような口調と低い声色。
それは4月に耳にした《ブラック・バイス》と全く同様の声であり、テルヨシが板の万力に抗うユニコに迫ったが、寸でのところでその板に挟まれてしまったタイミングでのこと。
誰よりも速く駆けつけたテルヨシにしか聞こえなかっただろうその声は板が地面に沈もうとした瞬間に聞こえ、死亡エフェクトがなかったユニコがまだ生きて捕らわれたと理解するより早く沈む板へと全力の心意での蹴りを放つ。
しかし蹴り足が振り抜かれる直前で再び謡を貫いた紫の光線がテルヨシの頭と胸部装甲のど真ん中を撃ち抜く軌道で迫ったのを感覚的に察知して無理矢理に体を捻って狙いを外しつつ板へと攻撃。
光線はギリギリこめかみ辺りと脇を掠める軌道で命中したが、そのせいでテルヨシの蹴りはインパクトがズレて、板の上先端を砕く程度でユニコの解放には至らずに沈降を許してしまった。
「……まだ」
着地してマリアの横に来て光線に注意を払いつつも怖いくらいに冷静な頭で状況を分析するテルヨシは、ワンテンポ遅れはしたがここに駆けつけようとするハルユキとパドを視界に捉える。
次いで今のテルヨシへの攻撃と同時にシャープネスを向けてきたマリアにも牽制の光線を1発撃っていて、その回避に動かされていたのも把握。
4発まで撃てるらしい光線のラストは初速のあるパドへと撃って到達を遅らせたようだが、次弾発射までのインターバルは数秒確保できたと見るべきだ。
その間にテイル・ウィップで倒れる謡を拾い起こして抱き上げつつ、バイスの沈降した影がどこまで繋がっているのかを鋭い眼光で見抜きにかかる。
バイスには影の中を移動するアビリティがあるが、言ってしまえば影が途切れてしまえば1度はその影から出て別の影に入らなければならない。
そして東京ミッドタウン・タワーによって作られた影は500mほど先の交差点で途切れていて、周りには大きな影を作り出すオブジェクトもないため、必ずそこで姿を現すはず。
さらに万全を期すためには拉致されたユニコを《無制限中立フィールド》から離脱させて一時的にでも危機から脱することだ。
それをするには誰かが離脱してユニコのケーブルを引っこ抜き強制切断させるしかないが、近くには離脱用のポータルは見当たらなく、最速でも数分はかかってしまうし、現実に戻ってから3秒程度でケーブルを抜けても、こっちでは1時間近くも経過してしまう。
それでもやらなきゃならないと、自らの王が目の前で拉致された現実に絶望することなくテルヨシへと駆け寄ったユリは一言「あそこじゃ!」と指示して小ジャンプし、狙いがわかったテルヨシも跳んだユリを足に乗せて東京ミッドタウン・タワーに向けて蹴り出して離脱用のポータルにいち早く到達してもらえるようにする。
そのフォロースルーに入ったと同時にハルユキと目が合ったため、何やら自分の翼の他に別の4枚の光の翼まで出現させていたハルユキが怖いほどの加速をしていたので、この速度ならと交差点の方に指差して、その先にバイスが姿を現したことを知らせ追うように指示。
その指示を理解してほぼ直角に曲がったハルユキは尋常ではない速度で交差点を渡るバイスを猛追していき、フォロースルーを終えたテルヨシを追い抜いてパドが光線を撃ってきた敵へとまっすぐに駆けていくのを見送る。
それら全て、テルヨシが着地を終えてからの出来事で、かけた時間は約3秒。
自分でも信じられないほどの行動数だが、称賛など後回し。今は出来ることを全力でしなければ一生後悔することになる。それだけは確信している。
「ベル! メイデンの回復を頼む! ロータス! 戦力の分散は仕方ないが分担を素早く振り分けてくれ! ガッちゃん! ルールーが動いてるから頼む!」
バイスも追っていったハルユキの姿もすでに見えず、光線を撃ってきた敵も逃走に移ったかインターバルを過ぎても攻撃は来ず、黒雪姫達が遅れて近寄ってきたところでパドが進んだ先から猛烈な爆発音が轟く。
パドがやられたかとも思えるが、光線を撃ってきた敵の主武器が光線ならここまでの爆発を起こすとは考えにくいし、火柱も見えたのでおそらくはパドが逃走を阻むために《ブラッドシェッド・カノン》を使ったものと思われる。
それを確信させるように近寄ってきたあきらも「パドの技なの」と驚く一同に言って、その間にチユリが謡に《シトロン・コール》でアバターの修復をしてくれたが、受けたダメージが見た目上で回復するだけなので意識はまだ戻りそうにない。
その謡をフーコへと預けてから、この場での決定を黒雪姫へと委ねて判断を扇ぎつつ、余計な障害もなくなって当初の目的のために走り出したルーレットを1人で行かせるのは色々と問題がありそうだから、こっちに近寄ろうとしていたサアヤだけはそのあとを追うようにお願い。
ルーレットの危険性がよく理解できてるのがテルヨシとサアヤとマリアくらいということから、サアヤも考えはあったろうがその足をこっちではなくルーレットを追跡する方へと向けて走り出し、それら全てを整理した黒雪姫も時間勝負な局面と判断してチーム分けをする。
「──パイル、ベル、2人はレパードを追ってくれ! テイル、お前はレパードとの付き合いが長い。速度もある。2人を連れて出来れば追いつけ」
「任せて、先輩!」
「了解です、マスター!」
「……2人は先に行って。10秒で追いつくから」
人選に文句があるわけではない。追いつけるかもわからないパドとハルユキを追って戦力を過剰に分散するのは下策だし、短い思考で現状の戦力と連携まで考えられた黒雪姫は冷静でもある。
だがテルヨシにはここで分かれるとするなら、誰がどう動くのかを把握し、パド達にも伝える役目を担わなければならない。
だから先に走り出したチユリとタクムには全速で追いついてテイル・ウィップでまとめて運べばいいと判断し、手早く黒雪姫達の動きを聞き出す。
「私とレイカー、カレン、メイデン、アンは先行したガストとボンバーを追って東京ミッドタウン・タワーへ行く。守りを失ったとはいえ、何が待ち構えているかわからないしな」
「クロウを追わないのは諦めか、信頼か」
「無論、信頼以外にあるまい。今の彼ならきっとバイスにも引けを取らんさ」
「……わかった。ガッちゃんもアンもいるから具体的には言わないけど、ルールー……ボッシュ・ルーレットの目的もISSキットの本体にあるっぽいから、そこは頭に入れておいて」
「あのアホ娘が? ン、ならば早く追いつかねばな。あの暴走具合ではガスト1人では制御できまい」
すると残りの全員がISSキットの本体の破壊に動くという判断を下した黒雪姫は、すでに影も形もなくなったハルユキを追うのを断念。
そう決断したが、それは追いつけないから諦めたのではなく、信頼によるものであると断言した黒雪姫にテルヨシも言うことはなし。
最後にルーレットが何をするかわからないことを注意してから、意識が戻った謡の頬に優しく触れて「もう少しだけ頑張って」とささやかな声援を贈ってから先行した2人を追って走り出した。
宣言通り10秒足らずで走る2人に追いついて、そのままテイル・ウィップで拾い上げて心意技《
疲労はかなりあるが、一刻を争う事態は待ってくれないので体に鞭を打って走り、物凄い熱気が立ち込める地帯を抜けてさらに奥へ。
そこでまたさっきと同じ轟音が轟き、かなり近くで炸裂して火柱が見えて、そこを目指してひた走る。
そして、見えた。
足を止めて逃走していた敵と対峙するビーストモードのパドの後ろ姿と、機嫌の悪そうに少しイラついた雰囲気の、《アルゴン・アレイ》の姿が。
テルヨシは具体的にアルゴンについてを黒雪姫達から聞いていたわけではなかったので、この場にいることさえちょっとした衝撃だったのだが、バイスに協力し敵対しているのなら、彼女もまた加速研究会の一員であるということ。
それだけの事実があれば迷いはなく、2人の均衡を破るようにアルゴンへと駆けて捕らえるためにチユリとタクムを速度を殺しつつパドの近くに放り、空いたテイル・ウィップで捕獲に挑む。
「もう何やねんって! ──《ラズル・ダズル》」
しかし寸でのところで謎の必殺技が放たれて、頭の4連レンズから強烈な光が発生。
それには防御が間に合わなかったテルヨシは空振り覚悟で視界ゼロの中、テイル・ウィップを振りアルゴンを捕らえようとしたが、テイル・ウィップは虚しく空を切り、テルヨシ自身も盲目状態でバランスを崩して地面を転がってしまった。
「くっそ……パドぉ!」
幸い、テルヨシが至近距離で必殺技を受けたことで、後ろにいた3人はテルヨシがブラインドになって今の目眩ましの影響をあまり受けなかったはず。
ならば視界を奪われずにいてスピードの出せるパドなら逃走を追えると判断し叫ぶのと同時に、何かが物凄い速度で通り過ぎる風切り音がした。
パドもまた決断に迷いなく飛び出してくれたのだ。
そのタイムラグはほとんどなかったと思われるが、テルヨシもすぐに追おうと立ち上がるものの、視界が戻るにはまだ時間がかかりそうで困った。
だからヨロヨロとした足取りのテルヨシはどう進めばいいかわからず走るに走れなかったが、その体を両側から支えてくれる存在が声と共にやってきた。
「行きますよ、先輩!」
「ナイスアタックでしたよ、テイルさん」
小さな体でも必死に支えようとしてくれるチユリと、迷いのなかった行動を称賛するタクム。
2人の優しい後輩に支えられて導かれるようにパドとアルゴンを追い始めたテルヨシは、1秒でも早い回復を促すために2人を頼って完全に目を閉じ、追いついた先で役に立てるように準備を始めた。
「パドさーん!」
「レパードさん!!」
十数秒とかからなかったはずだが、まだ視界が戻らないテルヨシに教えるようにパドの姿が見えたことを伝えてくれた2人の声に応えるように、近くにいるはずのパドも声を張り上げる。
「手伝って! このゲートを!」
その言葉からは必死さが伝わってきたが、何が何やらなテルヨシではどうすればいいかわからず、一刻を争うのか2人がテルヨシから手を離してパドへと近寄り、あれこれ話してタクムがカウントダウンを始めてしまう。
ゲートって何? 何のカウント?
というテルヨシの疑問が解ける間もなくゼロのカウントと共にタクムの口から「《スパイラル・グラビティ・ドライバー》!!」とかいう聞き慣れない技名が飛び出し、何かを掘削するような音とドリルの回転音が。
そしてタクムの気合いの声の後には、バリバリバリィィン! といった何かの砕けるサウンドが轟き、音は止んでしまう。
「へい! 何が起こってるの?」
「GJ! あとは任せて!」
「あたしたちも行くよ!」
「そうですレパードさん! テイルさんも行きますよ!」
「だから何!? 何なの!?」
ようやくぼんやりと視界が戻りかけてきたのだが、まだ全然状況を把握できるレベルではなかったテルヨシをほぼ置いてきぼりにして話が進行。
アルゴンを追ってたはずが何かを壊す作業をしていたっぽいのはわかるが、今度はタクムがテルヨシの手を取って確認もなしにいきなりどこかへと身を投げたらしく、一瞬の浮遊感でどこかに落ちたと思ったが、すぐにその感覚は失われ、今度は手を掴んでくれていたはずのタクムの感触がなくなり、聴覚も機能していないようだ。
さらに体は何かの力の流れに流されているようで、高速で移動している感覚がなんとなくする。
──えっ? 待って。オレどこに行こうとしてるの?