──《ISSキット》の本体がポータルを取り込んでる?
ひと足早く《東京ミッドタウン・タワー》にある離脱用ポータルまで辿り着いたユリが、そこを潜らずに下の階層にいたサアヤ達に合流してもたらした情報によれば、45階に存在したISSキットの本体がぽーたるを潜れないように鎮座しているとのこと。
実際に見てみないことにはどういう状況なのかさっぱりわからないし、黒雪姫やフーコもおそらく正確に表現している話でもイメージが出来ていない様子。
「うだうだ言ってるな! 見りゃわかることだろうが!」
「百聞は一見にしかずじゃな。ここであれこれ話しておるよりも有意義じゃろうて」
「ン、あまり突撃志向は好かんが、ここはルーレットの意見を採用しよう。異論はあるか?」
そもそもポータルを物理的に潜れなくするなど出来るのかと思うのだが、ユリの話を聞いて黙ってしまった一同にイラついたルーレットがもっともなことを言うものだから、ある種の踏ん切りがついた一同は実際に確認することを決定。
目標が45階とわかってるので、そのすぐ下の階層まで一気に上がって、そこで1度ユリから助言が入る。
「先ほどの爆発じゃが、あれの感知範囲がどのくらいかを確認するためにあえて近寄ってみたんじゃが、20mほどで迎撃に動いてしもうての。小型のキットを飛ばして寄生しようとしおったから、それらを倒しつつ後退しておる」
「つまり今、上に上がった瞬間に攻撃される可能性もあるということね」
「では私が先制の一撃を射つのです」
「なら私が盾になってあげる」
「すまんな。儂の《リトル・ボム》では下手に放ると爆発で床が抜けかねんでの。足場がないのは主らも大変じゃろうし」
そうしたやり取りからISSキットの本体が鎮座する位置をユリが教え、その方向に《フレイム・コーラー》を構えた謡を肩に担いだサアヤは、すでに展開剣になっている《ブレード・ファン》を謡の視界と射線以外の全てをカバーするよう前面に並べてジャンプ。
「《フレイム・ボルテクス》!!」
上の階に顔が出た瞬間に必殺技を放った謡の火矢は、猛烈な炎を発生させて螺旋を描きながらISSキットの本体があるだろう軌道を突き進み、その手前にカサカサと動くキットの端末の眼に虫のような足が生えた気色悪いものがあったが、それら全てが謡の火矢によって焼かれて、火矢も本体へと命中し火柱が上がった。
「クリアなのです!」
「お見事」
それで差し迫る脅威は退けたと判断し謡が今のうちにと声を上げれば、黒雪姫達も素早く上へと上がってきて密集陣形を整え自分の目で45階の様子を観察する。
現実世界では超高級ホテルのロビーとなっている場所で、整然と並ぶ四角い柱がいくつもあり、四方の壁際は光源が乏しくよく見えないものの、謡の必殺技を受けたISSキットの本体が弱まってきているが、まだ炎に包まれていることから正面。方角として南側だけはハッキリと確認できた。
ISSキットの本体は巨大な球状のオブジェクトとして存在していて、表面全体に這い回るような細かい凹凸の網目模様が浮き出てそれが脈打つ様は、人間の脳を思わせるところがある。
色は艶消しの黒に染まり、中央には横一線の亀裂がある。
なんとも不気味な見た目だが、あの端末からすればこのくらい禍々しい方がかえって自然に思えてくる不思議な感覚になりながらも、謡の炎が収まって再び闇へと消えてしまう。
「メイデン、奇襲されないようにキット本体近くに光源を頼む」
「了解なのです」
「ふんっ。《エウノミアー》」
その暗闇に乗じて奇襲されては面倒なので黒雪姫が今度は光源の確保のために謡に火矢を射ってもらい、南側の壁と天井の境い目辺りに突き刺さった火矢が再びキット本体周辺を照らす。
それを見てから何故かルーレットが《ホーライ》の弾丸をエウノミアーへと替えて、その弾丸をキット本体の近くにこちらとの境界を作るように列配置する。
「あら、気が利くわねルー子」
「アタシはアタシの目的があるんだ。それよりここにはあれ以外に誰かいないのか」
「うむ、儂はここに3分ほど居座ったが、あれ以外には人の気配はせんかったぞ」
「ルーレット。その言い回しは少し気になる。あなたはもしかしてここに誰かいることを見越して来たの?」
「…………」
警戒は緩めないままに気が利くルーレットの行動を素直に褒めたら、茶化すなとばかりに強引に黙らせてから、ユリに確認の質問をして周囲に目を凝らす。
そしてそのルーレットの言い回しに引っ掛かりを感じたあきらが、核心に迫るようなことをズバッと言い放つと、途端に沈黙したルーレットは話すべきかどうかを迷いながらも、ここまで来れたのがサアヤ達の協力あってのことと思ってか話す気にはなったようだ。
そこで突然ストレージを操作して、強化外装の任意での入れ替えは《レイズ》による強化をリセットしてしまうのにどうして。
と思ったらホーライはそのままに《インクリース》の影響を受けずに取り出されたのは、アイテムカードだった。
これは例外なんだなと発見がありつつ、無言で黒雪姫へと渡してきたものは、天井の穴から注がれる光によって照らされてわかったが、なんとISSキットそのもの。
「これをどこで手に入れたのだ?」
「一昨日の放課後にバトロワで襲ってきたバカが、他の奴らに渡そうとしてたところをぶっ殺して落ちてたのを拾った」
「それはわかるけど、それでどうしてここに来ようなんて決断に至るのかしら?」
「それ、《レッド・ライダー》が創ったんだろ。《交差する拳銃》の話は聞いたことがあった。だから《親》代わりの人にそれの本体がある場所を聞いて来た」
「ルーレットさんに親代わりの人がいたんですね」
「アンは注目するところがちょっと違うのです」
こんなに落ち着いて話をするルーレットを見るのが初めてなので、普段のそれを知ってるサアヤやマリアは割と衝撃を受けながら、してくれている話に耳を傾けるが、本題はここに来た理由なのにルーレットにリアルでコンタクトを取れる人物がいたことに驚くマリアに謡がやんわりとツッコミを入れてしまった。
しかしそれもなんだか重要な話のような気がしつつ、今はそこではないと口から出かけたものを引っ込めて考察に優れたあきらが慎重に言葉を引き出す。
「それじゃあ、あなたはここにいるかもしれないライダーに会えるかもしれないからここに来た、ということ?」
「可能性があるなら来るさ! 何故なら──」
あきらの見解はサアヤも同じだったので言うこともなく、どうして接点もなさそうなルーレットがこんな危険を冒してまでライダーに会おうとするのか。
その辺もハッキリするかなとルーレットの話を黙って聞いていたのだが、それよりも前にフーコが「みんな!」と声を上げて一斉にキット本体に目を向ける。
そこでは本体がその正面にあった亀裂が上下に開いて、中にあった大きな眼を見せて、そこから音もなく分離して独立し自走するさっきの端末が床を走って襲撃しようとしていた。
その数は見えた範囲で約30体はいたものの、事前に張っていたルーレットのエウノミアーが振動を感知して強烈な電撃を端末にお見舞い。
一気に半分近くも撃破してくれるが、まだ10体ちょっとが抜けてサアヤ達へと寄生しようと殺到。
「奴らに触れられるな! 寄生される可能性がある!」
速度はさほどではないが小さいので、確実に狙うならギリギリでの近接は仕方ないかと、黒雪姫の注意は頭に入れつつ、火力が高く調整ができないユリとルーレット以外の5人が迎撃に動く。
黒雪姫は必殺技《デス・バイ・バラージング》を使って寄ってきた端末を蹴りの弾幕で斬り裂き、フーコも黒雪姫が取りこぼした数匹をピンヒールのかかとで串刺しにして撃破。
謡とマリアは連射性に劣る部分を互いに補うように交互にスイッチして撃つことで隙なく撃破に成功し、あきらもメタトロン戦から体の水を消費して小さくなってしまっていたが、衰え知らずな水の攻撃で弾き飛ばして黒雪姫の蹴りに巻き込ませていた。
サアヤも飛びかかって空中にきた端末を展開剣でバッサリと斬り捨てる。
端末は単体では心意技を使えないのか、20体くらいが殺到したものの、サアヤ達がそこまで苦戦するほどでもなかった。
しかしキット本体が20m以上離れたサアヤ達を攻撃してきたからには、のんびり会話をしている暇はないのかもしれない。
今の攻撃で消耗したのかキット本体も新たな動きを見せないが、それを好機と見るか早計と見るか黒雪姫の判断を待つと、まだルーレットの話は全て聞いていないが、ユニコの件もあるので破壊できるならして早くポータルを潜ってしまおうと決断。
その判断に異論のなかった一同は一斉攻撃のタイミングを黒雪姫へと託して身構えてジリジリと近づく。
そしてこちらの交戦距離の20mを切ったところで黒雪姫が合図しようとした瞬間。
「相変わらず容赦ないな。あの頃と変わってないみたいで嬉しいぜ、まったく」
不意にしたそのM型であろうデュエルアバターの声がフロアに響き動きを止めざるを得なくなる。
しかもその声はサアヤが昔、何度も……それこそ聞き飽きるほどに聞いてきた『あのバカ』の声にしか聞こえず、無意識に硬直してしまう。
黒雪姫達は声の反響のせいで確信を得られていないかわかっていないのか、誰かと問う質問を飛ばしていたが、そんなサアヤに気づいたか、ユリもまたもしやといった雰囲気が確信へと変わったように見えた。
そして声の主と思われる存在はキット本体の陰から現れ、ロングブーツ型の装甲が見えた瞬間についに黒雪姫達も絶句。
かかとにはギザギザした拍車もあり、それがわずかに回る音を立て、その装甲は純粋な、赤。
そのアバターはキット本体の横にまで来ると、左肩を寄りかからせて、頭に乗せたテンガロンハットを思わせる装甲の鍔を右手で持ち上げて挨拶してくる。
「よお、久しぶりだな、ロータス。ガスト」
「「……レッド・ライダー……」」
少し緊張感の抜けるそんな挨拶にも強張った返しをしてしまったサアヤと黒雪姫は、目の前に現れたライダーが本物かどうかについてを考える。
シンプルに、そして常識的に考えれば、目の前のライダーは本物のはずがない。
そうでなければ約3年前に起きた事件を王達が事実として受け入れていない。
首をはねた張本人たる黒雪姫も、正真正銘の本物であるなどと思ってはいないだろう。
しかし、サアヤの記憶が言うのだ。あれは本物だと。一緒に加速世界を生きてきたレッド・ライダーなのだと。
「お前は私が殺したはず、レッド・ライダー」
かつてはライダーの首をはねた場面を《イエロー・レディオ》にリプレイで見せられて
「ああ、その通りだな。あの時はなんつうか、天国から地獄って感じだったよな。お触り厳禁の《絶対切断》にいきなりハグされたと思ったら、コレだもんなあ」
真剣味が強い黒雪姫の問いにも、やはりサアヤの知るライダーらしく少年っぽさの残る軽さというかラフな感じを纏って、かつての《七王会議》で起きたことを自分の口から事細かに話し右手の指2本で鋏を作り閉じるジェスチャーまでしてみせる。
「じゃあアンタは何なの? 本物なのに本物じゃないのが私にはなんとなくわかるけど、どういう状態なのよ。幽霊?」
「ははっ、良い勘してるなガスト。ざっくり言っちまえば幽霊に近い状態だな」
「幽霊、か。ならば現実の説のように、加速世界に何かしらの恨みや未練といったものが残っているということかの。例えば、ここにおるロータスへの恨みといった具合に」
「あー、違う違う。バーちゃんもロータスが言いにくいことをあえて言ってあげちゃう優しいとこは相変わらずだけど、今の俺はもう知ってるんだ。ロータスが不意打ちしてまで俺の首を落とした、本当の理由を」
サアヤとユリともあの頃と同じように普通にらしく話すライダーにはますます本物感が増すが、サアヤの幽霊発言を肯定するような今の自分の状態は自分でもどう説明したものかと悩んでる節がある。
ならば現実の幽霊のように未練などがあるのかと言えば、そこもなんだかそういうわけでもないと意味不明なライダーには全員が疑問符を頭に浮かべてしまった。
こういう理屈っぽいことを言わせても締まらないのがライダーなのだが、そのライダーが言う、かつての黒雪姫の行動の理由について理解し受け入れてる発言には衝撃を受ける。
黒雪姫がライダーの首を落とした理由。そんなものはレベル10になろうとする野望から来た行き過ぎた行動でしかないのではと、これまでのサアヤは思ってきたが、先の《災禍の鎧》の一件で黒雪姫がライダーの首を落としたことを後悔していたこともわかって、なんとなくそれから引っ掛かりは感じていた。
だがそれだけ。この話は終わったことだと蓋をして、以降は深く考えたこともなかった。
そんなライダーの言葉に疑念を持ってしまったサアヤが黒雪姫へと顔を向けると、視線に気づいた黒雪姫も顔を合わせてサアヤの内心を察知。
「……その件はお前が望むなら後日に話そう。だが今は」
「……そうね。今はこの不可思議な状況を整理しましょう」
モヤモヤは残るが、黒雪姫が話してくれるというならいくらでも聞くし、それに耳を塞ぐほど意地も張っていない。
だが今はそれを言及している状況ではないので2人共が納得した上で話を棚上げし、その様子にライダーもわずかに笑ったように思えた。
それじゃあ本題に戻ろう。そう思って改めてライダーと向き直ったまでは良かったが、その時にライダーに変化が起き始めていて、真っ先に気づいたあきらがライダーの装甲色が変わっていっていることを指摘。
言われて観察してみると、確かに足先からライダーの体が純色の赤からどんどんと暗い色へと変わり、最後には艶のない黒色に。
「ちっ、もう来やがったか。あと3分はいけると思ったけどな……」
「──それはどういう意味だ! お前は本当にライダーなのか!? 何を言うために、この場に現れたんだ……!?」
黒色の侵食はどんどん進んで、あっという間に腰の辺りにまで及んでしまうと、時間がないのか黒雪姫の問いかけにもちゃんとした返しはしなかったライダーは、テンガロンハットの鍔を持ち上げて口早に要点を伝えてくる。
「悪いな、ロータス。話の続きは戦ってからだ。いいな、勝てよ。あん時以上に、容赦なく、コテンパンに勝て。こいつのエネルギーを使わせれば使わせるほど、俺が俺でいられる時間が長くなるからな」
「……勝てとは、いったい、誰にだ」
「そりゃあもちろん……俺に、さ」
言ってることはシンプルなのだが、それが意味するところはさっぱりすぎてサアヤ達は戸惑うが、俺に勝てと言ったライダーはそれを最後に頭の先まで黒一色に染まって、アイレンズにキットと同じ血のような深紅の光が宿った瞬間。
45階のフロア全体に恐ろしいまでの殺気とプレッシャーが満ちて、腰回りにあるリング型のガンベルトの両側にマウントされていた2丁の拳銃に両手が霞むほどの速度で手をかけたライダーは、躊躇なくそれを引き抜きこちらへ向けて構え、そしてその拳銃に込められていた弾丸が火を噴いた。
「ボンバー達は私とロータスの後ろに!」
「くっ!」
しかし長い経験と過ごした時間が段違いのサアヤは、ライダーが動いた瞬間を頭が反射的に処理して叫び、咄嗟に自分と黒雪姫の後ろに回るよう指示。
そうしてマリアとユリとルーレットをサアヤが、フーコと謡とあきらを黒雪姫が庇う位置取りとなってライダーの2丁の回転式拳銃《ヘリオス&エーオース》の凶弾を弾くことに成功する。
恐ろしいのは総弾数6発ずつのヘリオスとエーオースの弾丸をわずか2秒ほどで撃ち尽くす連射力と、その内の2発がサアヤと黒雪姫のクリティカルポイントである心臓に正確に迫ったこと。
もちろんこれもライダーを近くで見てきたサアヤと黒雪姫は防御に成功していたが、自我を失っていながらも戦闘力はあまり落ちていない気がする今のライダーが厄介そうなのは理解した。
「援護します!」
「待ってアン」
直前にコテンパンにしろと言われていたこともあって、ライダーのリロードのタイミングで猛然と斬りかかった黒雪姫を見て、後ろのマリアが《シャープネス》を構えた。
しかしサアヤはその射線に自分の展開剣を挟んで止め、自分も動こうとせずに動向を見守る。
よくよく見ればフーコ達《四元素》も黒雪姫に続くわけでなく、1人駆けた黒雪姫を歯を食いしばって見守るように身構えていた。
「これはね、アン。ロータスが乗り越えるべき過去なのよ。ロータスがそれを越えられたら、その時に私達も加勢する。だから信じなさい、ロータスを」
「過去…………はい」
何を今さら黒雪姫がライダーの首を落としたことを後悔してるのかサアヤには予測しか出来ないが、バーストリンカーとして後悔してることがあるなら、その中にはきっと『真っ向勝負で勝ち取りたかった白星』があるのは間違いない。
それはもうどうしたって果たすことが出来ない願いだし、今の戦いで消化できるものではもっとない。
それでも黒雪姫が過去と向き合うために立ち向かうべき壁であることは理解していたサアヤ達は、黒雪姫がその壁を乗り越える瞬間を見逃さないように集中する。
ライダーのリロードはアビリティ《オートリロード》によって劇的に短縮されてしまうため、排莢とほぼ同時に前腕の装甲が開いて、そこから出てきた
幸い、交戦した距離が20mほどだったことで黒雪姫もその間にライダーに肉薄しその手の剣を首筋へと振りかぶっていた。
が、遠目に見てもその剣に普段の黒雪姫からすれば冴えがないのは比べるまでもなく、そのわずかな揺らぎがライダーの銃撃を許してしまう。
至近距離から胸部装甲に連射を受けた黒雪姫は、ギリギリで左腕の剣でガードしたようだったが、その威力でジリジリと後退させられてしまい、右手のヘリオスの弾丸が撃ち尽くされたところで黒雪姫の後退が止まる。
「約束を破るつもりなの、ロータス」
そんな黒雪姫の姿を見るに見かねて決して大きくはない声でささやいたサアヤの言葉は、しかし黒雪姫には確かに届いていた。
それは災禍の鎧の一件でした口だけでの約束。
──もう2度と無様な姿を晒さない。それが黒雪姫にできるライダーへの唯一の償いだ。
そう言って了承したからこそ過去とのけじめをつけたサアヤを前にして黒雪姫がその約束を違えるなど、あってはならない。
その時はサアヤが容赦なく首を落とすと決めていたが、今さらそんなことをさせるなと暗に言ったサアヤに対して振り返ることもなく気合いを込めた雄叫びをあげた黒雪姫は、左手のエーオースが火を噴く前に再び前へと踏み込む。
今度は絶対に怯まないと、決意の踏み込みを見せた黒雪姫は可能な限りの前傾姿勢でライダーへと肉薄しながらエーオースの弾丸を潜り抜け、リロードを終えたヘリオスが向けられるのを頭突きで打ち上げて防ぎつつ、その両手の剣を広げてライダーの胴へと抱きつく。
「《デス・バイ・エンブレイシング》!!」
そこから繰り出されたのは、かつてライダーの首を落とした黒雪姫のレベル8必殺技。
鋏のように両サイドから閉じられた剣の横一線によって、ライダーの胴体は綺麗に両断されて上半身が宙に舞う。
──やれるなら最初からやりなさいよ。
その瞬間が黒雪姫にとっての過去との決着と見たサアヤ達は、両断されながらもまだ攻撃しようとするライダーを視界に捉えながら、我慢した分を爆発させて殺到し、撃たれようとしていたヘリオスを謡の火矢が射抜いて弾き、リロードしていたエーオースをマリアの狙撃が弾き飛ばし、倒れる下半身をフーコが掌打と蹴りで粉々に砕いて、あきらの水のつぶてがライダーの上半身に次々と突き刺さる。
そしてあきらによってガード不可能になったライダーに展開剣を引き絞ったサアヤは、渾身の力でその頭へと突きを放ち、寸分の狂いもなく頭を貫かれたライダーに、技後の硬直から復帰した黒雪姫が伸身後方宙返りをしながらの蹴りによる縦一閃を叩き込み上半身を両断すると、アバターのそれとは違う黒い煙となって消滅してしまった。
それらを経てライダーを知る全員が思ったことは、やはりライダーであってライダーではない違和感があること。
武装や戦術はライダーそのものだが、実力や中身が本物に劣るものだったとわかり、謎は深まるばかりで、最後に黒雪姫が倒したのにサドンデスルールによる勝利数にも変化がなかったとこぼす。
「ははは、そいつが増えたらえらいこったぜ。ここで俺の相手をしてるだけで、レベル10になれちまう」
その疑問に答えたのは、キット本体のうっすらと開いていた眼の部分からぬるっと出てきた赤い装甲色に戻ったライダー。
もう理解が追いつかない状況にキレそうになったサアヤが八つ当たり気味に攻撃しようとしてそれを全力でなだめようと両手を前にかざしたライダーのコメディーな雰囲気があれだった。
「レッド・ライダー!!」
が、その空気をぶち壊す叫びが後方からあり、なんだと振り向けば、今まで大人しすぎて腹での下したかと思っていたルーレットがまっすぐにライダーを見るが、当のライダーは初見のルーレットに首をかしげる。
そんなライダーに対して、今まで引くくらいの交戦具合を見せてきたルーレットが、初めて年相応の女の子のような声でライダーへと話しかけた。
「…………会いたかったよ、『お