バトロワ祭りも終盤に差し掛かり、なんとか外部から入手したという心意を扱えるようになる『何か』から《ゲーテ・スピン》を解き放ったテルヨシ。
それで調子を取り戻したスピンとそのままガチンコで対戦を再開させたまでは良かったのだが、全開のスピンの猛攻によって優勢は一気になくなり、渾身の必殺技《ジャイロ・ブレーカー》によって、物凄い勢いで建物オブジェクトへと激突させられる。
ジャイロ・ブレーカーには短いながらもスタン効果が付与されているため、受けた時点で受け身すらまともに取れなくなり、かなり有用な必殺技と言える。
おかげで盛大にダメージを受けたテルヨシのHPゲージは残り1割くらいにまで減少。スピンとの差はほぼなくなってしまった。
「げほっ……容赦ねぇ……」
「おら! 立てよテイル! まだHPゲージは残ってんだろうが!」
「ホント……調子いいのな……」
もう互いにクリーンヒット1発で吹き飛ぶHPゲージながら、その闘志は増すばかり。
さすがにウザいと思うくらいには元気になったスピンのテンションに苦笑しつつも立ち上がったテルヨシは、誰のおかげでその元気が出せたかと口に出したかったが、男がグチグチと言うのもカッコ悪いので、それは拳で返してやろうと煌々と輝く必殺技ゲージを確認して前へと出る。
満タンではないので《インビジブル・ステップ》は使えないが《インパクト・ジャンプ》なら3回も使えるゲージ量は十分すぎる。
スピンも必殺技ゲージの消費を抑えるために駆動部分の回転を止めてテルヨシの迎撃に構えるだけだが、スピンにはまだ必殺技が1つあり、それはジャイロ・ブレーカーより威力は落ちるが消費の少ない《ジャイロ・ショット》での攻撃がある。
これも衝撃波なので発射点を見ないと避けるのは困難で、両手足から出せるせいでフェイントも混じえられると見極めも難しい。
だからこそスピンの挙動に一瞬の見逃しもないように接近し、素振りを見せたらこっちがインパクト・ジャンプで先制するつもり──だったのだ。
「《ブラスト・ゲイル》!!」
「「へっ?」」
だが2人のギリギリの攻防が衝突する寸前で、横からそんな必殺技発声が響き、目の前の相手に全身全霊で挑んでいた2人は、揃って間抜けな声を出して声のした方を同時に見る。
それと同時に放たれたサアヤの必殺技ブラスト・ゲイルの発生させた横倒しの竜巻によって為す術なく吹き飛ばされた2人は、これも揃って建物オブジェクトへと叩きつけられてそのHPゲージを消失させられたのだった。
「アンタら、これがバトルロイヤルってこと忘れてんじゃないの?」
消滅する寸前に聞こえたサアヤの声色は、もう呆れを通り越してバカに諭すようになっていて、2人してその事を完全に忘れていたことに気づき、とっても恥ずかしい思いでフィールドを出ることになったのだった。
結果としてレベル8となって初のバトロワ祭りはマイナス収支で終わってしまい、ハイランカーのリスクを身をもって味わう苦い経験となったが、反省は帰ってからでも出来るのでグローバル接続を切らずにそのまま再度加速。
バトロワ祭りも終わってすぐなのでまだいるだろうとスピンの名前を探して対戦を挑み、さっきは流れで出来なかった話をするために、ドン引くくらいの観戦者──これもバトロワ祭りのせいだろう──をサアヤを除いて解散させて無観客状態に。
スピンも用件はわかってくれていたので、先ほどのような熱いテンションは引っ込めて冷静な思考でどっしり腰を下ろして話をしてくれる。
「んで、スピンが譲ってもらったっていうやつはどんなもんなわけ?」
「ああ。俺もアイテム欄での名称くらいしかわからないんだが……」
そうして正体不明の心意を扱えるようになる『何か』についてを話してくれたスピンの言葉は、始めこそテルヨシもサアヤも信じられないといった雰囲気になる。
しかし先ほどのスピンを見れば真実でしかなく、2人はその現実を受け入れるしかなかった。
「テールー」
「……ん。なんだ、マリア」
翌朝。
家に帰ってからもスピンの話が頭から離れなかったテルヨシは、どうすればそんなものが出来るのかと思考し続け、それは朝食時まで長引いてしまい、大事な話をするマリアの言葉も半分程度しか入っていなくて反省。
話自体はすでにサアヤがパド辺りに伝えてプロミにもいっているだろうし、登校すれば黒雪姫という頭脳もあるので、1人で唸りながら考えるよりは建設的な段階を踏もうと思考を一旦切って、マリアの話に集中する。
「今日は放課後にテルの学校に行くからねって言ってるんだけど」
「えーと、それはあれだよね。新校舎設立の際に無くなっちゃう動物飼育の飼育動物の引き取り先の1つとして、うちが場所を提供するっていう」
「そうだよ。その小屋のお掃除に行くから、今日はお店には行かないって話」
「ちょっと待った。ってことは同じ飼育委員でマリアの親友という『うーちゃん』もうちに来るってことだよね?」
「そう、だけど」
改めて聞いた話から変な食いつきをしたテルヨシになんだか嫌な予感がしたのか、マリアがあからさまに表情に出してくるが、そんなのお構いなしなテルヨシは、さっきまでの難しい顔はなんだったのかといった笑顔でマリアにウキウキしながら話をする。
「じゃあ放課後にそのうーちゃんに挨拶しに……」
「嫌」
「……なしてさ?」
「どこの方言?」
「北海道とか色んなところかな。それより何で挨拶しちゃダメなの?」
「だってうーちゃん可愛いから、絶対テルが変なことするもん」
「テルヨシお兄さんは変態さんじゃないんですが……」
当然、学校の話をすればほぼ名前が出てくる噂の『うーちゃん』も同行してくるだろうと読み、顔すら知らないその子に会いたいと思うのは自然。
マリアと仲良くしてくれてる子だし、ちゃんと挨拶はしないとと半分以上は真面目な理由──残りは可愛いと聞いていたから興味本意ではある──なのだが、普段の性格がマイナス評価を与えるのか、マリアからは敬遠されてしまいガックリ。
マリアの通う松乃木学園は、少子化の波でその生徒数が減少。
10年ほど前から様々な対策がされたものの、抜本的な対策とはならずに敷地の一部を売却し、今年の1学期をもって初等部の現校舎が取り壊しとなり、初等部・中等部の合同校舎の新設と相成ったのだ。
その際にやむを得なく継続が不可能とされてしまったのが、敷地内で飼っている飼育動物達の飼育。
学校側は『適切な対応をする』とは言ったらしいのだが、小学生でもその意味くらいはわかり、この1学期でどうにか方々へと掛け合って飼育動物の引き取り先を見つけて、ほぼ全ての動物が無事に引き取りを完了させられた。
しかし松乃木学園には引き取ることもできない動物が1匹だけいて、それはどうしても飼育していかなければならないとなり、同系列の梅郷中学校にある使われていない飼育小屋を提供しようという話になったわけだ。
もちろん、その話は生徒会などに通る案件なので黒雪姫と恵も知るところだが、別にマリアが泣き落としでどうこうしたとかではなく、ちゃんと手順を踏んだ上での決定だと聞いたものの、どうしても何かの力が働いたと思えてならない。
「……とか言われて引き下がるテルヨシお兄さんではなーい」
その辺で黒雪姫も言葉を濁したことがあったので、時折やってる職権乱用を今回もしてそうだなぁとか思ってスルーしたのはつい最近。
裏がありそうなこの話に興味が湧いたテルヨシは、表面上はマリアに顔出しはしないと言っておきつつ、いつものように登校してマリアを見送ってから、怪しい笑みでそんなことを呟いて梅郷中学校の門を潜っていった。
「……ってことがあったんだわ」
「…………うむ。にわかには信じがたいが、それが起こりうるのもこのゲームの奥深さというべきか……」
その企みはまぁ人に話すことではないので、放課後の楽しみにしておきつつ、こっちもこっちで話しておかなきゃと今日はハルユキとの逢い引きをキャンセルしてもらって、黒雪姫と2人でランチとしたテルヨシは、昨日のモーターの件を真面目に話してその感想と意見を黒雪姫に求める。
黒雪姫でさえにわかには信じられないといった雰囲気で難しい顔をしたが、やはり古参ゆえに整理も早く、いくつかの可能性を話してくれる。
「お前も知っている例で言えば、我々が問題として直面している《災禍の鎧》。強度などから言えば違いはあるが、原理はあれに近いかもしれんな」
「ああそっか。でも譲渡されたアイテムを使うだけで心意が使えるようになるってのはどうよ?」
「そこはまだ不明な部分が多いが、話を聞く限り個々人から独自の心意を引き出すわけではなく、そのアイテムに『あらかじめプログラムされた心意技』を使えるようになるといった外的な要因ならば、使用者は『器』としての機能でしかないのかもしれん」
「つまりそれはアイテムを介して『別の誰かの心意技』を使ってるって可能性か。ますます原理がわからんがね」
モーターが攻撃的な思考と行動を取ったことに関して、黒雪姫は鎧の干渉に近いものと推測し、それにはテルヨシも言われて納得。
そして問題の心意技の譲渡についてもそれらしい可能性を示してくれたのはさすがだが、この短い時間で具体的なことまでは考えが及ばなかった黒雪姫は、残りの休み時間を確認しながら席を立つ。
「何にしてもその《ISモード
「いいよ。その辺はオレとかサ……ガッちゃんとかで動いてみるから、姫はハルユキ君のことに集中しな」
「任せきりは癪だ。こちらでも私がふ……レイカーと知恵を出してみるが、フットワークはお前の方が良いだろ。ガストの顔の広さも活かして情報収集してくれ」
「りょーかーい」
とりあえず今は問題が色々あるので、誰がどうするかといった大雑把な方針決定だけして、1つ1つ片付けていこうとなる。
とりわけハルユキの鎧の浄化はタイムリミットも絡む早急な案件。その優先順位は比べるまでもない。
その上で頭は貸すと言うのがどれほどの労力かは説明する必要もないが、どうにも簡単な問題じゃない予感があったテルヨシは、やはり手回しは色々しておこうと思案に入った。
「それはそれとして……ってなるはずが……」
放課後。
さぁバイトだバイトー! の前にうーちゃんに会いに行こう! と、HRが終わるのを待ちわびていたら、なんか担任からの呼び出しを食らい現在、職員室にて担任からある提案をされていた。
テルヨシも今年で最上級生だし、紛いなりにも
そんな生徒がいてそのまま卒業させてしまうのはあまり学校にとっても意味がないとのことで、今月末に開催される文化祭。そこでテルヨシに檀上で何かしてほしいとのことだった。
何かというのはもちろん心理学による何かしらの講義的なプレゼンみたいなそれだが、正直なところ面倒臭いし断りたかった。
しかし現実はこの学校に入学できるだけの学力はギリギリないくらいで入学させてもらい、あれな成績も温情で切り抜けてきたところはあるので、学校側からの要求を無下にできない部分が多分にあったりする。
「…………うい」
なので決して圧力があったわけでもないそれを断ることが出来なかったテルヨシは、概要をまとめたファイルを渡されて解放され、今週中にでも内容を固めて教師陣にまずプレゼンしなきゃならなくなった。
あっちもこっちも忙しいよぉ。
なーんて悲鳴をあげると黒雪姫辺りが「それを生徒会副会長でありレギオンのマスターである私に聞こえるように言うのか?」とかなんとか言われそうだから、心でだけ泣いておき、バイト先には少し遅れることをメールしておいたのでほんのちょっと時間があったテルヨシは、結果的に良い頃合いになったので飼育小屋のある敷地の北西の角へと足を運んでみる。
全校生徒にその存在すら忘れ去られてるだろう、何も飼われていない飼育小屋まで行ってみると、予定通り来ていた体操服姿のマリアが見えて反射的に声をかけそうになったが、絶対に怒られるのでそれは少しだけ延ばして何故かいたハルユキとだけ目が合いつつ、背中を向けるうーちゃんらしき体操服姿の黒髪女子に音もなく接近。
「君がうーちゃんかな?」
その背後にまで迫って肩をチョンチョンと指で触って声をかけたテルヨシに対して、ビクッと肩を跳ね上げた少女は1歩飛び退いてテルヨシへと振り返る。
身長や体格はほとんどマリアと変わらないが、イタリア人の血を濃く引いたマリアと違って顔立ちは純和風。
前髪をスパッと眉の少し上で切り揃えて後ろ髪をポニーテールにまとめた少女は、マリアが言う通り将来が楽しみになる可能性を秘めていた。
そんな観察をイヤらしい目線など一切なくしたのだが、ちょっと混乱気味のうーちゃんに代わって膝裏に蹴りを入れてきたマリアは、踏ん張りが効かずに這いつくばったテルヨシとうーちゃんの間に入って庇う位置取りをする。
「来ちゃダメって言ったのに!」
「だってぇ……マリアがいつもお世話になってます。って一言だけでも言っておこうと思った親心だもん。やましい気持ちはこれっぽっちよ?」
「ある時点でダメ! それにバイトは?」
「用事があったから遅れるって言ってある。ああ、用事ってのはこれじゃなくて本当によ?」
早速マリアに怒られてしまったものの、うーちゃんを見ずにはバイトになど行けないの精神だったので、めげずにマリアとコントを繰り広げ、親指と人差し指で1cmくらいの隙間を作ってやましい気持ちの割合を示す。
それでも怒るマリアの厳しさにうちひしがれていると、やり取りを見ていたうーちゃんからアドホック・コネクションの接続申請が飛んできたので、話には聞いていたテルヨシも驚くことなく了承し、視界にチャット窓が表示される。
そしてそれが成された途端に、マリアを隣に移動させてテルヨシと向き合ったうーちゃんは、目を疑うようなタイピング速度でホロキーボードを打ってチャットで挨拶してくる。
【UI> はじめまして。あなたがマーちゃんの話していたテルヨシお兄さんなのですね。私も1度はお会いしたいと思ってましたので、会えて嬉しいのです。マーちゃんと仲良くさせてもらってます、
「マリアがずっとうーちゃんとしか言わないから本名が知れて嬉しいよ。皇照良。マリアと同じく気軽にテルって呼んでくれていいよ」
【UI> ではテルお兄さんとお呼びするのです】
かなり礼儀正しい文面でその性格がわかる謡からは育ちの良さか家柄みたいなのがチラッと見え、見た目以上にしっかりした印象を覚える。
そんな謡がわざわざチャットでの会話をするのはもちろん理由があり、マリアの話では『運動性の失語症』を患っているからだとか。
ざっくりと説明するなら、謡は発声する機能が上手く働かずに肉声や思考発声が出来ないということなのだ。
この辺で障害があるのはマリアのおばあちゃんもそうだったことから割とすんなりと受け入れるテルヨシにニコニコとする謡は、またホロキーボードを叩いてテルヨシへと語りかける。
【UI> テルお兄さんのお話はマーちゃんや噂でたくさん耳にするのです。サッちんとも仲良しさんとうかがってますから、これから色々と話すこともあるでしょうから、よろしくお願いします】
「サッちん? ああ、姫のことか。本名で呼ぶことなんてないから記憶の彼方に飛んで……ん? 噂? 姫? ってことはうーちゃんは姫と知り合いで……姫が唯一知ってる松乃木学園の生徒ってことは……」
【UI> お察しの通りなのです。その辺のお話は近くすることになるはずですので、サッちんの了承が出たらということで。それよりもアルバイトの方はよろしいのですか?】
「えっ……にゃあ! バスの時間がぁ! うーちゃんはマリアとこれからも仲良くね! あとハルユキ君! マリアとうーちゃんに何かしたら姫にチクるからね?」
「は、はひっ! 何もしませんできません!」
どうやら謡もまたマリアから色々と聞いていたらしく、初対面なのにその性格に動揺しなかった──大抵の人は微妙なリアクションをする──のはそういうことで納得。
しかし噂と聞くと疑問は浮かぶため、その辺で勘の良いテルヨシは黒雪姫との交友があると話す謡が、以前に黒雪姫の言っていた『松乃木学園に1人いるバーストリンカー』であると確信。
マリアにはずっと同じ学校のバーストリンカーについて話す必要はないと言っていたから責められないが、まさかずっと話に聞いていたうーちゃんがそのバーストリンカーだったとは思わずこの場で話し込もうとさえした。
だがギリギリの時間を使って顔を見せに来た都合、バスも待ってはくれないとあって謡に促されるまま大慌てでその場を去るテルヨシは、その去り際に呆然としていた何故いるのかも知らないハルユキに念押しだけしていったのだった。
遅れてバイトに参加したため、今日はイートインコーナーでのおしゃべりを封印されて真面目に仕事をさせられていたテルヨシ。
しかも休憩時間となれば、タイミングを合わせてくれたパドと2人きりで休憩室にて加速世界の話題で会議。当然、話は昨日のISSキットの件。
「プロミにはもう周知させて、他のレギオンにもそろそろ情報が行き渡ると思う」
「とはいえ、それで注意できんのは7大レギオンだけってな。それ以外の零細レギオンや無所属には無駄に混乱を招く可能性もあるし、難しいところか」
「ISSキットの流布は今のところ防ぎようがない。それでも拡散を遅らせることはしておく。それがニコの意見」
「そうなるとISSキットの現物を押さえるのも、危険はあるが原因究明にはいいかもしれないな……」
「スピンが持ってたアイテムはすでに使用済みでアイテム欄から消えていた。となるとアイテムを流布しているバーストリンカーと接触する必要がある。でも私やテルのような名前が広く知られるバーストリンカーは警戒される可能性が高いし、あまりリスクを負ってミイラ取りがミイラになっても本末転倒」
「だよねぇ」
すでに7大レギオンへの周知は済んでそうな報告をしてくれるパドだったが、それでも全バーストリンカーの半分以下の周知ということになるし、心意システムの詳細を隠したままISSキットに注意しろというのは、零細レギオンや無所属にまで周知させるとなるとなかなか難しいこともわかる。
ならば問題解決のためにISSキットの現物の入手を考えるが、これもパドの指摘通りそうそう上手くいくわけもなくため息が出る。
「あまり後ろ向きでもいけない。この件では私も少数で情報を共有しながら収集する。必要となればテルにも手伝ってもらうから、ネガビュとも何かあるだろうけど、優先順位は冷静に判断して」
「どうして問題って順番じゃなくて一気に押し寄せてくるんだろうね」
「世の中はそう上手くできてない」
「がっくし……」