アクセル・ワールド~蒼き閃光Ⅱ~   作:ダブルマジック

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Acceleration Second66

 ようやく本日の最大イベントである都田家訪問まで辿り着いたテルヨシだったが、そこで待っていたサアヤのお母さん、ハルミの衝撃的な質問に飲みかけていたジュースを噴き出しそうになり咳込む。

 サアヤが自室に着替えに行ってる間にリビングで2人きりなのをいいことに、初対面でいきなり「キスはしたの?」は破壊力抜群すぎて、いつもはそういうことを言う側なだけに衝撃は大きい。

 突然のことで咳しながら涙ぐんでしまったテルヨシにさすがに謝りはするハルミさんだったが、大丈夫とわかると質問の答えを待つような期待の表情を向けてくる。

 

「あの……そういうことをサアヤさんが言いたがらないから僕に聞くんですか?」

 

「それもあるんだけど、テルヨシ君の話を聞いてると、なんだかずいぶん女の子にだらしないイメージがあったから、割とそういうことに抵抗ない子なのかなって思ったんだけど」

 

「イメージと違いましたか?」

 

「話よりもずっとしっかりしてる感じはあるし礼儀正しいから、ちょっとサアヤを怒りたい気分です」

 

「いえ、女性に甘い性格なのは間違っていませんし、本当はキスに近い行為にもあまり抵抗はないんです。中学に上がるまではワシントンに住んでいたので、ハグとかは挨拶みたいものですし」

 

「あら、帰国子女なの。英語は堪能……ではないのね。逆に珍しいような気もするけど」

 

 その期待に沿うかはわからないものの、テルヨシなりにその質問が自分を探るものと予測して質問で返しつつ真意を聞く。

 ハルミさんはまだサアヤから聞いた話の中でしかテルヨシのことはわからないため、そのイメージ通りの男ならちょっと……みたいなことは思ってたっぽい。

 ただサアヤがどう話したかも気になるが、伝わってる部分が完全に間違いでもなさそうなので、そこはちゃんと訂正しつつ欧米文化に慣れてることを説明。

 12歳までワシントンに住んでいて英語をまともに話せないというのに疑問は持たれたものの、ちょっと特殊な環境で育ったと察してくれてそれ以上は何も言わずに話を続ける。

 

「それで質問の答えとしては、サアヤさんとまだキスなどはしていません」

 

「それはサアヤが嫌がったりしてるから?」

 

「いえ、おそらくサアヤさんはもう何度か僕にそういうことをしていいとアピールしてくれていると思います」

 

「じゃあどうしてしてあげないの?」

 

「……これを言うのは恥ずかしいんですけど……」

 

 自分の性格を改めて説明してハルミさんとのイメージを矯正した上で、先ほどの質問の答えを正直に述べ、その答えには尚更キスもしていない現状に疑問を持ったようだ。

 それはそうだろうと、順序だてて話してこの答えを聞かされたら自分でもそうなると確信できるので、その理由については物凄く個人的な想いがあったために少し恥じらいを持って吐露。

 

「大切に想えば想うほど、1つ1つの行動が起こす変化とか結果が、一気に出てしまうことが少しだけ怖いんです。今までの当たり前が明日には当たり前でなくなっていたり、当たり前じゃなかったことが、ある日から当たり前だと思うようになったり。それは恋人だからとか関係なく、全てにおいて言えることなのかもしれませんけど、オレはサアヤとの繋がりを、たとえ周りがどう言おうと自分達のペースでゆっくりでも強くしていきたいって考えています。サアヤには焦れったいって思われてるかもしれませんけどね」

 

 そうして自分の臆病な部分をさらけ出したテルヨシは、ついつい目の前の人がサアヤのお母さんであることを忘れて、一人称をオレやサアヤを呼び捨てにしてしまってハッとしてしまう。

 その事には気分を害したということはなかったようだが、話を聞いてハルミさんは小さく笑うと、茶々を入れるお茶目な母親ではなく、1人の娘の母としての顔でテルヨシを見る。

 

「サアヤは……上に歳の離れたお兄ちゃんがいて、そのお兄ちゃんにベッタリだったせいか、少し女性らしさが欠けて成長したんです。このままだと女性としての魅力が伸びなくなるかもと思って、日本舞踊の稽古へ無理矢理にでも参加させて、せめて所作だけでも身に付けさせました。でもサアヤは綺麗な所作とは裏腹に心が凄くたくましくなってしまって、中学に上がった頃は恋愛なんて出来ないと、少しだけ落胆もしていたんです。でもそのサアヤが3年生になってからどことなく身だしなみを気にし始めて、先月には彼氏ができたって報告してくれた時は、本当にビックリしました。あのサアヤを好きになってくれる子がいたんだって」

 

「……遠回しに僕とサアヤさんをディスってませんか?」

 

「そういう意味ではないの。ただサアヤは性格こそたくましくなりましたけど、本当は女の子として扱われることを誰よりも望んでいるってわかってたから、テルヨシ君がサアヤをちゃんと見てくれてるんだなって思ったら嬉しくなっちゃって。女は恋をすると変わるっていうのが日に日に目に見えてもいて、だから1日でも早く会わせてってお願いしたの。サアヤが好きになって、サアヤを好きになってくれた人がどんな人か知りたくてね」

 

 本人不在でハルミさんが語った本音は、心からサアヤのことを大事に思っていることがヒシヒシと伝わってきて、聞いているテルヨシの心までポカポカと温かくなる。

 それをまだ15歳の少年に聞かせるべきか悩んだ節も見られたが、テルヨシが真剣にサアヤと向き合ってくれてると理解してくれたのか、隠すことなく話してくれたことには感謝しかない。

 

「その、15歳のガキが言うのもなんですけど、これからもサアヤさんとは仲良くさせていただきます。たまには喧嘩もするかもしれませんけど」

 

「ふふっ。喧嘩くらい男女の間では日常茶飯事ですし、どんどんやっちゃって。それでサアヤとのキスはいつの予定なの? もうそろそろあの子も焦れているはずよ」

 

「や、やっぱりそう思いますか。それに関しては割とすぐにでもと思ってはいるんですけど……」

 

 そのハルミさんが話をした上でテルヨシを認めてくれたのだ。それが嬉しくないはずがなく、歳不相応ながらもしっかりとサアヤとの交際の許可を言葉にしていただく。

 それで真面目で大事な話は終わりにしようと、両手を合わせてお茶目な母親の顔に戻ったハルミさんは、やはりキスくらいはすぐにでもすべきと助言してくれて、それには今日一番のマジ顔をしかけたところで着替えを終えたサアヤがリビングに入ってきて話は強制終了となってしまった。

 

 リビングに入るなり話をしていた様子の2人に「何を話してたの?」とストレートに尋ねてきたサアヤの性格は相変わらずだが、まさかハルミさんとキスのタイミングの話をしていたなんて言ったら殴る蹴るの暴行に及ばれるのは必至。

 そんな娘の姿が想像できたハルミさんも下手に場を乱そうとせずに「サアヤのどこが好きなのか聞いてただけよ」と、かなりギリギリのラインで捏造する。

 自分をどう言われたか気になるサアヤは退散していったハルミさんを他所に隣に座って問い質してくるが、その前に着替えたサアヤをチラッと観察。

 制服姿が基本的に見慣れていることもあって、着替えてきたサアヤは何を着ても新鮮なものだ。

 その中で今回はザ・部屋着といった短めのショートパンツとワンポイントの白のポロシャツの超ラフスタイル。

 ここで少し気合いを入れておめかし! といった感じもなく、普段からこうなんだろうという日常感が滲み出ている。

 

「……何よ、だんまりになって」

 

「それはそうよサアヤ。彼氏が遊びに来たんだから、大胆にミニスカートくらい穿いてくればいいのに。ねぇテルヨシ君?」

 

「スカートって……制服がそうなんだからいいじゃない」

 

「制服のスカートは少し長めでしょ。下着くらいチラ見せしなさいって言ってるの」

 

「それが娘に対する命令か!」

 

 沈黙した時間はわずかだったはずだが、普段から反応が早い方のテルヨシの小さな変化にも気づいてきたサアヤの鋭さには参る。

 その様子を夕食準備に取りかかったらしいハルミさんがキッチンから茶々を入れてテルヨシが何をしていたかを看破。

 見てないのによくわかると戦慄しつつまたも親子の独特な空気に割り込めずにいたら、自分の服装を見られていたとわかって落ち着かなくなったサアヤは、小さな声で「スカートが良かった?」とか可愛いことを聞いてくる。

 もうそれだけでご馳走様な状況だが、色々と悪い方向に頭が働いたため少し動揺を誘ってみる。

 

「スカートももちろん見たいけど、今のサアヤも自然体で凄く良いなって思うよ」

 

「──ッ!!」

 

 そのためにあえてサアヤの耳元でささやくように言ってあげ、とどめのにっこり笑顔を向けたら最後、みるみるうちに顔全体が茹でダコのように赤くなって、声にならない声を出しながら思考停止状態に陥ってしまった。

 そのあとに理不尽な連続チョップを無言で食らわされてソファーに沈んだテルヨシだが、親の前でも普通に手は出るらしさに何故か安堵。

 

「テルヨシ君、お夕食を一緒にどうかしら」

 

 それでも楽しそうな2人の雰囲気は伝わってしまったか、作業しながらのハルミさんがもう少し長居してもらおうとそんな提案をしてくる。

 時間を確認するとすでに17時になるところで、夕食も一緒にというのは非常にありがたい申し出だ。

 

「ダメよお母さん。テルの家にはアキラと同い年の子がいるって話したでしょ」

 

「そういえばそんな話も聞いた気が……」

 

「すみません。その子に夕食を作らなきゃならないので、今回はご遠慮させていただきます。次はその子と一緒に来るか、事前に用意をしておきますので」

 

 だが冷静になったサアヤがテルヨシが断りを入れるよりも早くマリアの心配をしてくれて、ちゃんと話してはいなかったようだが覚えはあったか、ハルミさんもそういえばと口にする。

 そんなわけで今日はマリアにサアヤの家に行くことは告げていたが、夕食は準備してなかったので丁重にお断りすれば、残念そうにはしたもののハルミさんも納得して「次はその子も一緒にね」と言ってくれた。

 その流れでサアヤがマリアが心配になってしまったか、なるべく早く帰ってあげた方がいいのではと口にしてしまって、それを言われてしまえばテルヨシは帰るしかなくなる。

 ここで粘ってマリアを蔑ろにするのかとサアヤに怒られるのは間違いないからだ。

 

「せめてサアヤのお部屋を拝見は……」

 

「そんなのこれからいつでも見られるわよ。でもマリアの空腹は1分1秒を争うの」

 

「そこまでマリアは腹ペコキャラではないけどね……まぁバイトが終わってる分、今日はちょっと手の込んだ料理でも作ってきますよ」

 

 それでもせめてとまだ完遂してないサアヤの部屋への進入に果敢に挑んだが、そんなことの一言で片付けられて却下されてしまう。

 最後の突撃も玉砕に終わって落胆してしまったテルヨシに申し訳なさそうな表情こそ見せるサアヤだが、自分が言ったことを撤回はせずにテルヨシを立たせる。

 が、その話を聞いていたハルミさんがまた茶々を入れて空気をぶち壊す。

 

「とかなんとか言ってるけど、本当は昨日から見せる気は満々で、気合い入れちゃってかえって恥ずかしくなっただけでーす」

 

「お母さん!!」

 

 その暴露のおかげで少し漂った残念な空気は払拭されたが、秘密をバラされたサアヤに「そんなんじゃないから!」と言い訳されながらまたもチョップ連打を食らうのだった。

 

 家に滞在した時間はわずか20分ほどだったが、その短い時間でも濃密で有意義な時間だったと思いながら玄関を出ていくと、見送りに出てきたサアヤが後ろで手を組んで話をしてくる。

 

「今日はちょっとバタバタしちゃったから、次はゆっくりできるようにしましょ」

 

「マリアを連れてくる約束もしちゃったし、いっそのこと1泊する手も」

 

「マリアはいいけどアンタはダメよ。家の生活観とか色々と見られるのは私だけじゃなくてお母さんとかもなんだから」

 

「男女差別では?」

 

「そうよ? 悪い?」

 

「いえ、当然の主張でございます」

 

 別れ際の何気ない会話に穏やかな笑顔でいてくれるサアヤを見て心が癒され、寂しさはだいぶ薄れてくれる。

 話したように次に来る時はマリアも一緒なので、サアヤの部屋にもスムーズに入ることは十分に可能だろうなと密かに思いつつ、今日の気合いの入った部屋とやらも見たかったと、そこだけは残念にしておく。

 それで寂しさが出てくる前にさっさと行こうと一言「それじゃあ」と言おうとしたら、後ろ手に組んだままのサアヤが何やら少しモジモジとした雰囲気を醸し出してきたかと思えば、ちょっとだけ顔を上げてテルヨシの顔に近づける仕草から何も言わずにその目を閉じてしまう。

 それが意味するところはアホでもわかるので、テルヨシも意を決してそうしてくれているサアヤの気持ちに応えようとその肩に手を置いてみると、少しだけ体をビクつかせたサアヤは「来るのか?」といった感じでその目がより強く閉じられる。

 ただ1つ、気になることがあるとするなら、それは視覚的にはサアヤには完全に死角だったこともあって仕方ない部分もあるが、そこだけはクリアしてあげないとサアヤが恥ずかしさで死んでしまうだろうから、クリアするためにサアヤの顔に自分の顔を近づけ……

 

「……お母さんが覗いてるけど、それでもしていい?」

 

「へっ? ええっ!?」

 

 角度によってはしてしまっているように見えるだろう距離で耳元にそう囁くと、予想外の言葉にパッと目を開けたサアヤはテルヨシを振りほどいて後ろを向き、玄関の扉の間からニヤニヤしながら覗いていたハルミさんを発見。

 当然、鬼のごとく怒りを噴出させたサアヤがハルミさんをチョップ連打しかねない勢いで玄関に行こうとし、そそくさと退散していったハルミさんを「許さない」と怒気も含めて声を荒らげる。

 

「サアヤ」

 

 しかしそうなるのをわかっててあえてそうしたテルヨシは、親子喧嘩が発生してもなるべく穏便に済むようにサアヤが歩き出すところを引き留めて振り向かせる。

 その呼びかけの声でほとんど反射的に振り返ったサアヤは、即座に自分の肩を掴まれてその顔に近づいたテルヨシに対処が追いつかず、振り返りざまに不意打ちのキス。

 サアヤに勢いがあったので歯と歯がぶつかるハプニングも考えて掴んだ肩でサアヤをコントロールしてなんとか事故は防げたが、思ってたのと全然違ったのかすぐにテルヨシの胸に手を当てて離れにかかったサアヤは、確かに触れた感触を確かめるようにその唇に指を這わせた。

 

「お気に召さなかった?」

 

 その反応がちょっとだけ残念だったテルヨシが正直な気持ちを聞こうと尋ねてみると、ようやく頭が現実に追いついたか顔面真っ赤な状態になってから、その首をふるふるふるふる。首が吹っ飛んでいかないか不安になる勢いで横に振る。

 

「……人が決心して待ってたところに不意打ちして、怒ってるところにも不意打ちなんて酷いわ。でも、残ってる感触はとっても心地良いの。何でかな」

 

「それはたぶん、今のオレと同じ答えだと思うよ。言ってもいい?」

 

 それが治まると胸に手を当てて浅く呼吸し、今のキスの感想を述べてくれるが、嫌な気持ちにさせずに済んでひと安心。

 そしてサアヤの言う心地よい感触はテルヨシの唇にも確かに残っていて、その理由を尋ねてきたサアヤではあるが、質問で返したそれに小さく首を横に振って答えとする。

 

「次はちゃんとサアヤのタイミングでするから」

 

「次は普通でいいからね。こんなの連続されたら心臓が持たないわ」

 

「了解。それじゃあまたね、サアヤ」

 

「うん。ばいばい、テル。ありがと」

 

 キスしたあとというのはなんだか会話が続く気がしなく、帰るタイミングまで逃しそうなのを阻止するようにテルヨシから別れの言葉を切り出して、まだ余韻に浸っているサアヤも少し艶っぽい笑顔で手を振って見送ってくれた。

 それでサアヤの家から歩いて中野駅まで辿り着いて、南口に出たところで近くの座れそうな場所に腰を下ろして、そこで自然とうなだれてしまう。

 

「はぁぁぁぁ…………はっず」

 

 なんとかサアヤとのファーストキスには成功してここまで来られたものの、正直に言ってテルヨシにはここまでいつも通りを通せたのが奇跡だと思えていた。

 サアヤの前でこそ平静を装っていたが、本当のところはサアヤのように顔面から火を噴いて、さらに地面を転げ回りたいほどのキザな行動をした自覚があって、実行に移した恥ずかしさがその身を襲っていたのだ。

 だがそれをやってしまうとサアヤからキスの余韻を奪いかねない醜態となるし、こっちが恥ずかしがると帰るタイミングを完全に見失って後味の悪い別れになると直感して、それはもう必死に全力で我慢していた。

 その反動が今になって襲いかかってきて座り込んでしまったが、自分のやったことに後悔はないし、あそこでキスしない選択はサアヤに恥をかかせることになったと思えば、自分が死ぬほどキザな行動で自爆するのなんて些細なこと。

 そうやって自分のキザな行動が良い方向にいったと言い聞かせ、数分かけて落ち着きを取り戻したテルヨシは、いつまでも座ってても仕方ないと立ち上がり、その足を高円寺の自宅マンションへと向けて夕食をどうするか考え始める。

 それと同時に今日のサアヤの家でのことをなんとなく考えて、サアヤが別れ際にあんなことをしたタイミングに察しがつく。

 おそらくだがサアヤは、テルヨシとハルミさんの話をドア越しに聞いていたのだ。

 どこからかはわからない。仮に全てを聞かれていたとしたら、本人には聞かれたくない本心を語っただけに恥ずかしさ全開だが、最後の方のキスのタイミングうんぬんの話は聞かれていたはず。

 サアヤはそれを聞いていて知らん顔であえてハルミさんのとぼけた話に乗っていたが、今までのアプローチが分かりにくかったと思ったのか、その結果がストレートなキス待ち顔である。

 

「…………テル、顔が緩んでる。ちょっと気持ち悪い」

 

「ええ? そうかなぁ?」

 

 そのキス待ち顔が超絶に可愛くてテルヨシの脳内メモリに永久保存された上でリピート再生され続けてしまったので、帰ってから夕食が開始された段階でも惚気けてしまってマリアから引かれてしまう。

 それでも締まらないテルヨシの表情に諦めたマリアが無視する方向に舵を切ってしまったのは悲しいが、今夜はそれを差し引いても幸せゲージが振り切ってるので、明日はその幸せをマリアにお裾分けする形でリカバーすることにして全てを終えてベッドにダイブ。

 そのベッドの中でも考えているのはサアヤのことばかり。

 明日は店に来てくれるのか。来てくれたらどんな挨拶をしてどんな話をしようか。

 そんなことばかりを考えて全然寝られる気配すらなかったが、考えられることがひとしきり出し切られたところで眠気もやって来て、次第にその意識が遠退いていった。

 ただ、薄れゆく意識の中で確かに感じたのは、人を好きになることの大切さと、素晴しさだった。

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