「《バースト・ショット》ォォオオ!!」
《ボッシュ・ルーレット》をレギオンに引き入れるべく、ルーレットの提示した条件である『ルーレットに勝利する』ことを実行に移してテルヨシが果敢に挑んでいた。
しかしやはり《五芒星》の《天井知らず》。その実力は生半可なものではなく、どちらに傾くとも言えない戦況にやっとできたと思った矢先に、強引な《エリーニュス》の弾丸《アレークトー》が無理な体勢から襲いかかり、辛くも回避した隙を突いて今度はエリーニュスの必殺技が炸裂。
大出力による破壊の弾丸は息つく間もなくテルヨシへと迫ってきて、ほとんど高熱のエネルギーがぶつかってきた感じの力の奔流に右腕の肘から先が巻き込まれて蒸発。
それだけで済んで良かったと考えるべきか、右手を失ってしまったと考えるべきか少し悩んだが、その悩みを解決する前にエリーニュスをストレージに戻したルーレットが次なる強化外装を装備してもう動き出してしまった。
その手に持たれたのは特殊弾装のハンドガン《ホーライ》で、片膝から完全に立ち上がったルーレットはそのホーライに《エウノミアー》の弾丸を装填。
エウノミアーは範囲感知型の電撃地雷を設置する弾丸で、食らうとダメージ+軽いスタンという近接殺しな性能を持っているが、反応圏が動かない設置型なのは救いだ。
もう1つ確認されている《ディケー》は対象に5秒間、銃口を向けてロックオンが完了すると、発射と同時に対象に強力な落雷を放つ特殊な弾丸で、使われるならこちらの方が厄介だったかもしれない。
どちらにせよホーライの前で動きを止めたら『詰み』なので即効性のないエウノミアーならばと正面突破に走ったテルヨシに対して、ルーレットはその遅延性も計算した上で進路上にエウノミアーの弾丸を放って、ちょうど通過する頃に発動するように設置しつつテルヨシとの距離を保つように後退。
当然そうするよなぁとガックリしてから、道を阻むようにエウノミアーを扇状に撃ち出すルーレットに唯一の突破口となった《インパクト・ジャンプ》による強襲を仕掛ける。
インパクト・ジャンプの速度ならエウノミアーの反応圏に入っても電撃を食らう前に範囲外へ脱出しつつルーレットに痛打を与えられる。
しかしだ。そんなテルヨシの行動を『誘導』している可能性が頭をよぎると、エウノミアーを6発撃ち切ったルーレットは次なる弾丸を装填するが、ここでまさかの新種を取り出してきた。
「《エイレーネ》!」
特殊弾装のホーライだから単純な攻撃力を持つ弾丸ではないと確信しているが、何が起こるかわからない以上は回避するのが良いはず。
そのためエウノミアーの電撃地雷に踏み込まないようにブレーキをかけたところでホーライの銃口がテルヨシに向き弾丸が発射されるが、予想以上に遅い弾速は動体視力など必要なく視認できてしまうもの。
時速20kmあるかどうかな弾速で、しかもグレネードのように飛距離も出ないのか30m程度の距離でさえ弾丸は重力で落ち始めてテルヨシに当たることなく地面に落ちてしまった。
「……って、ふざけんなよバカァァア!!」
その現象をついつい見届けてしまったが、自分が今どこで止まってしまっているかを冷静に思い出して、何の効果があるかわからないエイレーネの弾丸が目の前のエウノミアーの反応圏に着弾したことに気づいて慌ててインパクト・ジャンプを後方に向けて発動。
バヂンッ!! と目の前で弾けたエウノミアーの攻撃をギリギリで避けて遥か後方で着地をしたテルヨシだったが、70m以上も離れたルーレットも追い撃ちをかけるには少し遠い距離であることを考えて、今のエイレーネの弾丸の違和感に気づく。
効果は謎で直接の攻撃力を持ってるわけでも、炸裂するわけでもなかったエイレーネの弾丸だが、ジャイロ回転をしながら迫ってきた弾丸は先端が尖った注射器のような形をしていた。
だとするならエイレーネはあの注射針に対象が刺さることで効果を発揮するタイプの弾丸と予測でき、好奇心から当たってみたいとも思うが、今は大事な対戦なのでその気持ちは封印して再び集中。
避けられたものの必殺技ゲージを使わせて接近を阻止したルーレットはしてやったりなのかホーライをストレージにしまって新たな強化外装を呼び出し装備。
それを見て改めてルーレットの戦い方が上手いことに舌打ち。
ルーレットの強力無比なアビリティである《レイズ》はデュエルアバターやエネミーを攻撃することで溜まるゲージを満タンにすることで段階的に強化外装を強化できるもの。
上限も今のところ確認できていないので天井知らずなどと呼ばれているが、このアビリティの脅威はデュエルアバターやエネミーの闊歩する《無制限中立フィールド》や参加者の多いバトルロイヤル・モードにほぼ限られる。
これまでのルーレットの戦いからおおよそではあるがレイズの強化タイミングを割り出していたテルヨシの考察では、1段階目のレイズを使うのに同レベルのデュエルアバターのHPゲージを5割ほど削らないといけないらしく、通常対戦フィールドにおいてはレイズはどうやっても1段階しか強化出来ないことになる。
レベル8のテルヨシ相手なら4割くらい削れば使えるのかもしれないが、それでも誤差の範囲で1段階なのは変わらない。
それは使っているルーレットが一番よくわかっているからだが、通常対戦においてルーレットはそのレイズを前提とした戦い方を全くしないのだ。
レイズに頼らずとももう1つのアビリティ《インクリース》で装備制限はあるが、強化外装の能力を倍にできるため火力面でも他に劣るということもなく、レイズに拘らないから自分のタイミングで強化外装をストレージにしまって別の強化外装を取り出す手段も取れる。
そのギャンブル性もある強化外装の出し入れで臨機応変に戦えるルーレットのセンスは常軌を逸しているが、そのランダム性に相手も速応力を求められる戦いに勝利してきたことで、レイズを使った戦い方も含めて《
ホーライの次に出てきた強化外装はボウガン型の《アポロン》で、以前に見た弩弓よりもかなりスケールダウンし片手で持てるサイズにはなっているが、小回りが利く分で今は面倒だ。
それにアポロンの射程ならルーレット自身も接近しなければ当たらないので、予想通りまっすぐに突っ込んできたところをどう迎撃するか考える。
だが考えなければならないのはアポロンだけではない。
ルーレットにとってはいま装備している強化外装が警戒されることなど考えるまでもなく、そんな警戒の中へ単純に突っ込んで来るだけの単細胞なら苦労はない。
おそらく有効射程に入る直前か入った瞬間に強化外装をチェンジして自慢の臨機応変さでそのまま攻撃してくる。
その変化にテルヨシは対応しなければならないため、アクションはどうしてもルーレットより半歩遅くなるが、それは受け身に入った場合だ。
「──いいね、この感覚」
ルーレットは自分の強化外装がどんなものかをよく理解して、何が出てきても状況に最適な攻撃に繋げるだけの錬度を数々の対戦の中で培っているが、それが有利なのはルーレットが対戦のペースを掴んでいる時。
ルーレットが『ここで強化外装をチェンジする』と決めたタイミングでやらせるから後手に回ってしまうなら『ここでどうすべきか』を選択させることで先手が打てるということ。
ただし反応速度も尋常ではないルーレットが選択に迷うタイミングはかなりシビアなもので、おそらくそうと決めたタイミングの直前でなければ迷いを生じさせることは不可能。
それを見極めて、悟られずに攻撃するという難易度は最上級レベルだが、その状況に笑ってしまったテルヨシの頭に失敗の2文字は存在しなかった。
アポロンの有効射程は約30m。テルヨシ相手なら15mは近づきたいところだと思うので、まず30mでどう動くかを観察。
その30mラインを全速で駆けたルーレットはスピードを緩めずに肉薄してきて、20mラインも越えてくる。
ここでアポロンを構えて狙いをつけてきてテルヨシの動きを見るが、テルヨシもその観察眼で『見ることに重点を置いた』と見抜いてノーモーションから瞬発力だけで前へと走り出す。
これによってルーレットが詰めたかっただろう残り5mを一気に詰めてルーレット本来のチェンジのタイミングを外し、アポロンの発射タイミングも誘導。
やはりテルヨシの動き方で対応を変えるつもりでいたルーレットはその足に急ブレーキをかけてアポロンの弓を発射。
そのタイミングを誘発したテルヨシは軌道の下を潜る低空姿勢で躱して前進を続け、次の1手が繰り出される前に攻撃するつもりでいた。
アポロンを撃ち終えたルーレットは次弾装填よりも強化外装のチェンジを選択し次の強化外装に持ち替えたのだが、右手に持たれたハンドガンはルーレット最強の流星群《アストライオス》。
「《バースト・ショット》ォオ!!」
これもまた空に撃ち上げてから炸裂させる遅延性のある強化外装だが、必殺技はその限りではなく、撃った瞬間に巨岩爆弾を繰り出すアストライオスはこの状況で一番出てほしくなかった。
目前まで迫ったテルヨシに対して放たれたアストライオスの巨岩爆弾は、まるで立ちはだかる壁のように出現してテルヨシの攻撃を阻み、当たった瞬間に内包したエネルギーを炸裂させようとするだろう。
不可避の状況なのは間違いない。ならばどうやってダメージを最小限に留めるかが大事……
誰でもそう思うだろう状況なのは間違いないが、ここでテルヨシが考えたのは全く別の角度からの思考。
アストライオスの巨岩爆弾はもうどうしたって当たってしまうが、10mとない距離にまで肉薄していたテルヨシに対してこれを放ったからには、ルーレット自身も爆発範囲に入ってしまっていて、相応のダメージは覚悟していたはず。
だがアストライオスのダメージでスタンした相手になら、どの強化外装でも追撃で仕留められるだけの総ダメージを叩き出せると瞬時に考えて撃ってきた、のだとすればやはりルーレットの対戦勘は驚異的。
防御に回ってもどうせやられる状況になるなら、一か八かの賭けに出てもいいだろうと、目の前の巨岩爆弾に全力の蹴りをぶち込んでまさかの押し返しに出る。
巨岩爆弾自体にも推進力があったので軽減が精々だが、《テイル・ウィップ》で地面を捉えて体が後退しないように補助してやれば食い止めることは不可能ではない。
それによって撃った直後にバックステップもしていただろうルーレットを爆発の範囲に少し入れてダメージをいくらか増すことができ、テイル・ウィップが破壊されながらもしっかりとテルヨシの体をその場に留めて吹き飛ぶのを阻止。
あまりの爆発に腕やら何やらが吹き飛んでしまったかというダメージで感覚がわからなくなったが、HPゲージはギリギリ1割を残して踏み留まることに成功。
ルーレットもガイドカーソルが表示される位置まで後方に吹き飛んだようだが、ダメージもそれなりに入って残りは3割ほど。
「インパクト・ジャンプ!!」
爆発の煙の中で視界はゼロだったが、ガイドカーソルが出てくれたおかげでルーレットの位置はわかったので、姿が見えたら撃たれると確信して最後の奇襲と意気込んでインパクト・ジャンプで前へと跳ぶ。
当たるかどうかはルーレットの体勢次第のため、当たらなかった場合に即座に切り返してインパクト・ジャンプを使えるように足を繰り出し、実際にその足が空を切ってルーレットの後方に流れたと理解した時には、すでにターンを終えて改めて開けた視界でルーレットを捕捉。
あの状況で後方に転がって《カリス》をしっかり構え、直線は危ないとローリングしてしっかり回避していたルーレットはもはや化け物で、テルヨシが後方に流れたのも察知してカリスがこっちを向く瞬間に最後のインパクト・ジャンプで強襲。
──ガガァァアン!!
これを食らえば自分が負けると確信していたか、インパクト・ジャンプから繰り出したテルヨシの蹴りが最初に捉えたのは、体を守るように構えられたカリスで、その攻撃で粉々に砕け散ったカリスと共にルーレットが後方へ吹き飛ぶ。
しかしHPゲージはまだ1割を残していて、地面を転がると思われた体も必死のリカバリーで両手足をつけてダメージを最小限にして止まり全損を防ぐ。
「うおぉおおおお!!」
「うらぁああああ!!」
両者共にあと一撃でHPゲージが吹き飛ぶ状況。
20mと離れてしまった距離がもたらしたアドバンテージは圧倒的にルーレットにあり、新たに呼び出された《アネモイ》に《エウロス》の弾倉が装填されてしまう。
完全に不利な状況にギャラリーに入っていたサアヤから「踏ん張れテイル!」と渾身の声援が飛んできてテルヨシの背中を押し、放たれたエウロスの弾丸の1発目を奇跡とも言える動きで回避。
だがあと5発も避けて接近するのは奇跡の中でも奇跡が起きなきゃ無理に等しいが、前に進まなきゃ勝機もないのでジグザグ走行でルーレットへと迫ってみせ、ルーレットも気合いとは裏腹に落ち着いた構えでテルヨシを狙う。
──そして、奇跡は起きた。
テルヨシがルーレットのエウロスの弾丸を5発とも避けきったわけではない。
アネモイのトリガーにかけていたルーレットの人さし指が音もなく砕けて発砲されなかったのだ。
ほんの一瞬。完全に予想外なことに思考が停止したルーレットが反対の手に持ち替えて撃つまでに要した時間はわずか2秒となかったが、その一瞬の好機を逃さなかったテルヨシは20mの距離を自慢の足で一気に詰めて今度こそ最後の一撃をルーレットに食らわせた。
【YOU WIN!!】
仮想世界なのに軽い息切れを起こしていたテルヨシは、その炎文字が視界に広がった瞬間にようやく自分が勝利したことを理解して、その場で力なく大の字に倒れ込んでしまう。
次いで訪れたのはこの対戦を観戦していたギャラリーからの惜しみない歓声と拍手の嵐。
戦域的にプロミのメンバーの姿が多いが、それでもこの戦域にいるほぼ全てのバーストリンカーだったのだろうギャラリーの人数は20人近くいて、この世紀の名勝負を観られたギャラリーから「マジ最高!」とか「鳥肌立ったぜ!」とかの言葉をかけられて悪い気はしない。
「いやぁ……キッツイ勝負だったぁ……同レベルなら負けてたかもしれん……」
「ホントにヒヤヒヤしたわ。負けたらしばらく口を利いてやらないつもりだったんだけど」
「勝ったからオッケーっしょ」
「そういうことね」
ギャラリーが対戦の余韻に浸る中でサアヤが近寄って会話してくれるが、負けてたら大変なことになっていたことに戦慄しながら、サアヤがルーレットが倒された位置でそのルーレットに声をかけるのを見る。
「さて、結果も出たし約束は守りなさい。20分後、言っておいた店に来て。ただ先約があるからきっちり20分後でお願いね」
その言葉からこの対戦を了承する前に両者の間で取り決めがあったようだが、聞いた限りではリクトの条件を達成してくれたと判断できる。
その辺で抜かりないサアヤには感謝しつつ、ポツポツと言葉をかけては抜けていくギャラリー達にそろそろフィールドを閉めると宣言してから、10秒ほどでバースト・アウトして現実世界へと戻っていった。
神経をすり減らした対戦だっただけに戻ってからすぐにグローバル接続を切って深呼吸をしたテルヨシは、わずか2秒に満たなかった世界での出来事を一旦忘れてバイトに集中。
何事もなくサアヤに注文のケーキを出してから作業しつつ店頭の様子をうかがっていると、15分ほど経ったところでサアヤと話していた黒雪姫が席を立って会計に入り、レジに立ったテルヨシと短い会話。
「今日はすまなかったな。連絡手段は今回で確保したから、こういったことはお前を経由する必要はなくなった」
「そうですか。何の話をしていたかは気になるけど、直接会ってするくらいだから、言及しない方がいいよね」
「気になるならあとでサアヤに聞け。サアヤが話すべきと判断したなら私も文句は言わん」
「サアヤが決めていいことなのか。なんか変なの」
サアヤとした話についてはサアヤの判断で聞いてもいいと言う黒雪姫の言葉の不思議さ──話を持ってきたのが黒雪姫だからだ──はあるが、本人がそう言うならと納得しつつ、食べたケーキの感想も述べてくれた黒雪姫は、会計を済ませてサアヤに軽く手を振ってから店を出ていき、残ったサアヤは数分後に来るだろうルーレットを待つためにゆっくりとケーキに手をつけていた。
《オリジネーター》である《レッド・ライダー》の《子》で実妹というルーレットなら確実にテルヨシとサアヤよりも年下なので、それらしき女子が1人で来店するのを待っていると、きっちり20分後にそれっぽい女子生徒が来店。
下ろすと膝までありそうなほど長い、赤い光沢のある黒髪をツインテールにした身長150cmにも満たない、学校指定の夏服セーラーに透けブラ対策にカーディガンを着た美少女は、店に入るなりカーディガンの袖口に隠れた手でスカートを軽く握りレジに立つテルヨシに近寄る。
「あの、待ち合わせをしていて……」
「もうこの店に来ている人かな? それともこれから来る人と?」
「あ、あの、もう来ているはずなんですけど、会うのは初めてでその……」
この子があのルーレットだとすればあまりに衝撃的すぎるリアルの気弱さだが、尋ねられた事からルーレットとほぼ確信。
イートイン・コーナーに行ってもいいかと尋ねたかったっぽいルーレットが言葉に困っているのを察知して勧めてあげようとしたら、状況を見ていたサアヤが立ち上がって声をかけてくれる。
「テル。その子はたぶん私のことを探してたはずよ。待ち合わせもしてたしね」
「そっか。ならこれで解決だ。ご注文はどうしますか?」
「あの、えっと、オススメでお願いします」
「ではお財布にも優しいものを」
サアヤが来たことでホッとした雰囲気になったルーレットは、それで注文もテルヨシに任せてサアヤと一緒にイートイン・コーナーに移動して、端から見てもサアヤに強気のつの字も見せずにペコペコしてる様子に苦笑。
リアルがあんな感じなのに、どうして加速世界ではああなのかと思わざるを得ないが、リクトでもそうだったのだから、きっと五芒星は自分含めてみんな変わり者なんだろうと勝手に解釈してリーズナブルなケーキをルーレットへと出して、始まったサアヤとルーレットの邂逅に少し緊張するのだった。