Acceleration Second82
7月13日、土曜日。
各々が学校や用事を終わらせて午後4時30分になった頃に喫茶《せせらぎ》に集合した《メテオライト》の面々。
《チャイブ・リリース》だけはまだリアルでの面識がないので合流は出来なかったが、今は中野第2戦域のどこかで領土戦が始まるのを待ってくれている。
あの《神獣級》エネミー《タキリビメ》との戦闘も昨夜のことで、レギオンとしての強度を上げられたはずの今日を迎えたわけだが、集まった面々の神妙な面持ちにはレギオンマスターであるテルヨシがジュースを飲みながら苦笑。
サアヤとユリは経験が豊富なため多少はリラックスしているように見えて、やはりまだまだ急造に近いメテオライトの不安要素は危惧している様子。
クラリッサとリクトは領土戦こそ経験はあるが、これから戦うのは本気でこちらを潰そうと1週間前から編成などを考えてきただろう赤、青、緑の大レギオンとあって、落ち着いているようで考え事は尽きないような表情。
シズクとアキラはプレッシャーに弱いところがあるせいか、すでに血の気が危ういものの、始まってしまえば腹は括ると信じたい。
「さてと、もうすぐ始まるけど、何か不安なことは?」
「ズバリ言うわね。不安要素なんて考え出したらキリがないわよ」
「そうね。そんなのプロミにいた頃もいっぱいあったけど、このレギオンは特に多いかも」
「そ、そんなこと言われるとますます緊張が……」
それらの内心を大体で察した上で領土戦の前にあえて口を開いたテルヨシが愚問とばかりの問いかけをすると、半分くらいは呆れながらのサアヤとユリがすぐに答えて、アキラがオロオロしてしまう。
付き合いの短いシズク達はここにどう反応すべきか迷いがあって口は開かなかったが、サアヤ達の反応だけでも展開できると思っていたから問題ないとばかりに笑顔を見せて話を続ける。
「そうなんだよねぇ。オレも昨日はあのあと領土戦のことを考えながら寝てたんだけど、考え出したら終わりが見えなくて……」
「まさか徹夜したんじゃないでしょうね」
「開き直って寝ました」
リーダーとしてちゃんと考えてるのかと思わせることをそれらしく言うから、サアヤも本当に徹夜していたなら褒めるかもな雰囲気を出した。
だがテルヨシはそんなサアヤをバッサリと切り捨てて早々に寝たことを告げると、サアヤ含めて全員がため息を吐いて呆れてしまう。
そういう反応は良くないし! とツッコミを入れたいところではあるものの、ここはグッと堪えて今度はリーダーらしく話をまとめにいく。
「でもオレが開き直ったのは別にネガティブな動機じゃないんだよ。サアヤ達ならきっと、どんな相手でも全力以上の力を出して戦って、そして勝利してくれるって信じたから、安心して眠れたんだ。不安な要素は確かにあるけど、自信満々で挑んで心を折られるより、やっぱりこうなったかって考えの方がダメージも少ないじゃん?」
レギオンとしては不安いっぱいなのはもう仕方のないこと。
ならばそれを上回るポジティブな考えがあればいいんだと言うテルヨシの開き直り方は、少し強引で無理もあった。
しかし自分達の実力を信頼していると言われて嬉しくない人間はこの場にはいなかったようで、ちょっと照れ臭さも見せながらのサアヤ達は、ここでこれ以上ネガティブなことを言っても仕方ないと割り切ってくれたようだった。
「フフッ。なんだかテル君がレギマスっぽーい」
「失礼ですよユリさん。オレは正真正銘レギマスなんですから」
「それって私が言わなきゃサアヤがずっとレギマスだったから、実質的にテルがそれっぽくなったのは私のおかげよね」
「クラリッサのおかげとか恩着せがましい言い方はあれだけど、頭がしっかりしてくれるのはこっちとしても喜ばしいことね」
「サアヤ姉はテルさんがカッコ良いこと言ったから嬉しいの間違いなんじゃ……」
「アキラ君、そういうことは言わない方が……」
「惚気なら外でやってもらえませんか? 僕らは遊びに来たわけではないので」
それを証明するように緊張やら不安やらが消えたとまでは言わないまでも、ずいぶんと和らいだ面々は各々がらしい感じで口を開いて
それが照れ隠しなのかどうかテルヨシはあえて探りはしなかったが、鉄拳制裁をしたサアヤが雑談はここまでといった雰囲気でスパッと切り替える。
「それじゃあ領土戦前の作戦会議やるわよ。1人いないけど、それは始まってからでもどうにかしましょう」
その切り替えの早さにはいつもながら感心するテルヨシは、レギマスになってもこういう仕切りはまだサアヤの方が上手いなぁと思いつつ、各々の持つXSBケーブルをニューロリンカーと直結させて、領土戦前の直結対戦の場を会議場とした。
作戦会議と言っても、3レギオン毎にどういう人選をしてどんな戦術を使ってくるかは全くの未知数であることもあって、具体的に『こういう戦い方をしよう』というのをガチガチに固める必要はない。
そういうのはエネミー狩りなどのパターンを作れる時のものなので、今回に限れば相手の出方次第で臨機応変に対応出来るように柔軟な計画を立てるに留める。
主な段取りとしてはスタート時。
領土戦では戦域内を東西にバッサリと分けて自陣と敵陣が区切られて、その陣地内に1人1人がランダムで配置される。
そこからまずはどうするか。敵も同じ条件なことから、まずはレギオン内での合流は最低限としても、闇雲に動いて接敵が先になるとそこから崩れる可能性は低くない。
数的優位を作るのも大事だが、8人全員が固まったからといって、それが領土戦での有利になるかはまた別問題。
8人集まったからそこを一網打尽なんてことも起こりうるだけに、単純に数的優位を作り出すのは戦術の幅を狭める行為になるわけだ。
そういった基本戦術からしてシズクみたいな領土戦の経験が皆無な人には養われていないし、クラリッサやリクトも本気で攻めてくる大レギオンを相手となれば勝手が違ってくる。
と、それらのことを共通認識として頭に入れていると、改めて不安要素が色々と浮き彫りになってゲンナリしそうになる。
テルヨシだって8対8の領土戦は初めてなので、始まってどういう展開になるかは予測が難しいし、目の届かないところでの戦いも考慮しなければならないので気疲れもあるだろう。
それでもやると決めた以上はテルヨシもサアヤ達だってとっくに腹は括っている。
だからなのか会議が始まってからはあのシズクさえも無駄口を叩くことなく黙って話に耳を傾けていて、自分が領土戦で一番足を引っ張りかねないことも理解しているのだ。
そんな殊勝な態度のシズクを見せられればテルヨシ達もおふざけを挟めるわけもなく、滞りなく真剣そのもので終わった作戦会議を経て、午後5時ジャストを迎えて、ついに領土防衛の3連戦の火蓋が切って落とされた。
《レガッタ・テイル》となってフィールドに降り立ったテルヨシがまず確認したのは、フィールドの属性と自分の現在地と、対戦するレギオン。
フィールド属性はこの先の自分達に暗雲でも立ち込めるかのような曇天と無機質で強固なオブジェクトで構築される《魔都》ステージ。
デュエルアバターによっては必殺技ゲージが溜めにくいこともあって、フィールド中央に配置される《
次に自分の現在地を周囲のオブジェクトや地形から数秒で割り出しにかかり、もう2年近くもバトロワなどで駆け回ったことから中2戦域のどこにいるかはざっくりと判別できる。
神田川沿いの南側で川の流れ方から方角もわかり、自分達が西側の配置であることと、近くに拓けた広い空間があることから、そこが運動場だと判断して中野富士見町辺りにいると断定。
そうなるとフィールドのほぼ中央に配置されたことになって、要塞拠点はほぼ北に500mとない新中野駅にある。
作戦としては真っ先に占拠に行く手もあるが、例外なく要塞拠点は拓けた空間に配置されるため、敵の編成が遠隔揃いなら良い的になること間違いなし。
その辺を見極めるための最後の確認で自分と一番近い敵のデュエルアバターの名前を確認してレギオンを特定しにいけば、危なかった。
右上の表示には《Thistle Porcupine》の名前があり、《シスル・ポーキュパイン》と読むそのデュエルアバターはプロミネンス《三獣士》の1人。
「ポッキーかいな。どう動くかわからん」
確かに先週にレギマスであるユニコが三獣士を全員出すみたいなことを言っていたので、領土戦に出張ってきていても何ら不思議はないが、本当に三獣士を出撃させてきたならハードな戦いになるなと思わざるを得ない。
さらに相手が遠隔揃いのプロミなら要塞拠点の占拠は後回しがいいと判断して、感情の起伏が激しいポッキーがテルヨシの名前を見てどう動くか見極めてから動こうと決める。
仮にもレギオンの幹部なので独断専行してぶつかってくることはないと願いたいが、あのポッキーなので先制パンチとか言って仕掛けてくる可能性は十分にあるのだ。
その辺でどうかとガイドカーソルの動きを静止して見ていると、カーソルの向きはゆっくりではあるがフィールド中央に向かう進路を取ってテルヨシに近づいてくる感じではなかったから、おそらくは向こうもまずは合流を図ったものと判断。
それならとテルヨシも領土戦前にいくつか決めていた事柄を思い出して、開始から30秒経つところでその意識を音に集中。
すると少し離れた位置でドゴォン! という爆発音が炸裂し、戦闘が起きたのかと思うが、違う。
これはこちらの合流を図るためのサインで、ユリが《リトル・ボム》を爆発させて現在地を音で教えてくれたのだ。
その音がした方向に最速の最短で駆けたテルヨシは、相手がプロミであることから先制のための作戦を実行しようとする。
ユリがいたのは要塞拠点のほとんど西側の戦域の端っこで、素のスピードが一番あって位置も近かったテルヨシが最初に合流することに成功。
ユリの合図に応じる予定だったサアヤとリクトもすぐに来るはずなのでそちらを待つのも1つの手だが、プロミが相手なら悠長にやってるより攻める。
「バーちゃん、飛べる?」
「構わん。上げよ」
なので合流して早々に簡単な確認を取ってから小ジャンプしたユリを足で受け止めてそのまま勢い良く上空へと蹴り上げてしまう。
ユリは《ディセント》のアビリティで降下しながら降りられるので心配はないし、これでプロミに先手を打てたはずだ。
具体的にどうなるかと言うと、フィールドの上空に上がったユリは視認してなければそれだけで高い視点から索敵からの不意打ちが可能で、そのユリの攻撃で敵の位置を大雑把に把握することが出来る。
もしも今の打ち上げが見られていたとしても問題なく、ユリを警戒して向こうの足が鈍ればそれだけで効果はあり、高高度にいるユリを撃ち落とせる戦力がいるかの判断も出来るし、攻撃してくれば居場所もわかって回避は比較的容易。
こっちのリスクを最小にしながら敵の動きに制限を与えられる最善の1手。
実際にこれはかつてのプロミもやっていた戦術の1つで、まさか自分達がやられる日が来ようとは夢にも思わなかっただろう。
どう動いてもプロミ全体の鈍化には成功したも同然で、ユリも降下先は要塞拠点を目指してくれている。
さらに領土戦前の打ち合わせのメールで《チャイブ・リリース》には開始からまっすぐに要塞拠点を目指すように指示を出しているので、タイミングが合えばそのままユリとの合流も出来るだろう。
「次だな。ガッちゃん、スピン。そっちは任せた」
「なるべく早く準備しなさいよね」
「要塞拠点の動きが気になるが、リリースが耐えてくれるだろう」
あまり楽観視するのも良くないものの、失敗してもリカバリーする能力は各々がちゃんと持ってるので、本格的な戦闘が始まっても立ち回りに大きなほころびは出ないと信じて、合流してきたサアヤとリクトとは会話も短くまたすぐに分かれてフィールドへと散る。
この領土戦ではいくつかの作戦を同時進行で進める予定でいたが、そのうちいくつが通るかは不明。
だからこそ全てを試していこうと強きに出たテルヨシ達が次に仕掛ける手は2つ。
1つは開始から要塞拠点とは違う、自陣に配置される拠点を1つの目印にあらかじめリリースのように向かわせて合流を図る計画で、もう1つもその方法で合流はできているはず。
フィールドのどこに降りてもそこと決めておけばすれ違いは起きないし、合流の間に接敵されたら要塞拠点に移動するようにとも指示している。
つまり行った先に人がいなく、決めた時間内にも来ないようなら次の作戦にという流れだったが、テルヨシが向かった拠点にはバリバリに警戒心を上げているシズクが狙撃銃の《カリス》を構えていた。
そのせいでテルヨシの接近にも恐ろしい反応をしてカリスを向けられたものの、テルヨシとわかると狙いを外して「遅ぇ!」と怒られてしまった。
「暴れたいのはひしひしと伝わるけど、それを面に出さないようにね。オレとルールーは……」
「んなのわかってる。オラ行くぞ。アタシ達が動かなきゃ他が苦しくなるんだろ」
「ではエスコートさせていただきますよ、お姫様」
そんな血気盛んなシズクをコントロールする役目になるテルヨシがせめてもの助言として釘を刺しにいくが、ちゃんとわかってはいるシズクも怒鳴ることもなく了承して移動を促す。
シズクはシズクで面倒な性格をしているが、根は良い子なのでテルヨシも余計なことは言わず紳士的な態度で接してから《テイル・ウィップ》をシズクの体に巻き付けて持ち上げる。
もう1つの作戦が無事に決行していてくれれば動きやすさが段違いになるのだが、それは本格的に戦闘が始まらないとわからないところはあるので、それを待つよりも先に動いたテルヨシとシズクがこの防衛戦で担うのは、遊撃だ。
レギオンで一番の機動力を持つテルヨシがシズクを持って移動することで、移動と攻撃を分担し、ヒット&アウェイを狙い続ける。
これが綺麗に決まれば相手にとってウザいことこの上なく、テルヨシ達に気を取られて大技持ちのサアヤ達が制圧に乗り出せばトントン拍子で勝ちが転がり込んでくるというわけだ。
実際はガイドカーソルという厄介な存在が奇襲という行動を阻害してしまうので、思うよりも遊撃としては機能しないのは想定内。
その対策のための手がもう1つの作戦になるので、それと並行できれば遊撃はようやく十分に機能する。
それまではとにかく敵陣内でひたすらに動き回ってシズクに攻撃してもらってかき回し、向こうの作戦や準備が整うのを妨害。こちらの作戦が成功するのを援護する。
「まずは誰がいるかを把握するからね」
「それはお前の仕事だ。アタシは撃つ」
それが最良と思いつつ、この遊撃での目的はプロミの8人の参加者を全て暴くことにもあり、今のところわかっているのは移動中に切り替わったポッキーと《
三獣士の残り2人《ブラッド・レパード》と《
いま表示されているのはブレイズでガイドカーソルの指す方向にまっすぐ突っ込んでいるので、もうすぐ接敵はするはず。
方向的には要塞拠点とは違う拠点にいそうな感じで、待ち伏せの可能性もあるしユリの牽制で下手に動けない可能性もある。
どちらにせよやることはシズクによる当て逃げと情報収集は変わらないので、速度を緩めずに走り敵拠点のあるだろう角を曲がると、いた。
ブレイズの他に《
「きたきたぁ! 正面からとかナメんなよ!」
「ハトっちと私から逃げられると思わないで……」
「ブッ飛ばーすッ!」
2人ともが遠隔攻撃型なのはすぐにわかったので狙い撃ちされないようにすぐに軌道修正しつつ、待ってましたとばかりの2人の言葉を遮るようにシズクが攻撃されるより先にカリスをぶっ放して牽制。
その有無を言わさない先制には2人も慌てて拠点の裏に隠れたが、こちらの目的はこれで達成したのでシズクに追い打ちを警戒させながら次の相手に移行。
清々しいまでのヒット&アウェイに攻撃はシズク任せでなんだか楽な仕事してるなぁと走りながらに考えてしまったテルヨシだが、タクシー並の揺れのなさでシズクを運べる技術は何気に凄くて、攻撃の際にも地に足がついてるんじゃないかと言うほどには安定していたらしいシズクからも「その調子で頼むぞ」と褒められる。
それには調子に乗っちゃうテルヨシが速度を上げて次の相手を求めて激走していると、今度は《
これであと1人が誰かわかれば向こうの作戦の1つも見えてくるなと思っていると、プロミ側の陣地内でいくつかの戦闘音が聞こえ始めて、爆発の音などからユリの攻撃もいくら放たれていることはわかった。
だがそれ以外にも面白そうな戦闘が起こっているらしく、テルヨシとシズクが敵陣を南から北へと縦断していたところで、バッタリとクラリッサと遭遇。
ただしこのクラリッサは100%必殺技である《マスカレード・ボール》によって生み出された分身体で、それを証明するように本人も「偽者ですわ」と暴露。
この分身体が敵陣に進行してきたなら、いよいよこっちのペースだと思いながら、混沌としてきたフィールドを止まることなく駆けたテルヨシは、ここからが本番だと言わんばかりに楽しそうな笑みを浮かべた。