《メテオライト》が発端となって計画され実行されることとなった《帝城》攻略作戦は《オシラトリ・ユニヴァース》を除く6大レギオンとで協力して行われることになり、先立っての攻略目標となる《四神》のうちの1体《セイリュウ》の厄介なスキル《レベルドレイン》への対策が通用することを証明してきたテルヨシ達は、そのまま当初の目的であった千葉県八千代市にある高津比咩神社へと到着。
そこをテリトリーとする《神獣級》エネミー《タギツヒメ》の試練に挑むため、その尖兵としてサアヤ、アキラ、クラリッサが出陣。
女峰山の主《タキリビメ》は《勇気》という重要なワードを強調していたことから、ここのタギツヒメも何らかのワードを強調してくるはずと予想。
だが実際にどんな試練が襲いかかってくるかは全く不明なため、始めから全員で突っ込んで全滅するのは愚作と判断して、公平なジャンケンによって生け贄……もとい尖兵が決定したわけだ。
「それじゃ行くわよ」
「そ、速攻でやられたらごめんなさい!」
「なるべく粘れるようにいたしますけど、皆さんも観察だけは怠らないでくださいな」
「まっかせなさい! 見るのは得意だ!」
「テイル……その言い方は色々と誤解を生みそうだぞ……」
「いつも女の尻を追っかけて見ておるからな」
「酷いバーちゃん! オレは尻だけじゃないもん! ちゃんとおっぱいとか二の腕とかも……ぐほぉ!!」
その3人が作戦など特に立てられないからと、決まったら決まったで割とあっさりと行こうとするから、その役目を全うしようとするサアヤ達の頑張りに応えようと、テリトリーの外からの観察はバッチリだと言う。
しかし何かとボケる習性のあるテルヨシが言うから話は脱線して、本当に変なことを口走る前にサアヤからの制裁が加えられて沈黙。
こんな怪我では観察力も落ちるってば……
なんて言葉がテルヨシの口から出てくるわけもなく、笑い者にされた彼氏が恥ずかしいのか、サアヤもさっさと切り替えてみんなの集中力を再び上げさせる。
「ボンバーがここに来たのは鎌倉の次らしいんだけど、その時は会話イベントの最中に離脱して何も起こらなかったってことを考えると、やっぱりテリトリーからの離脱自体は容易なのかしら」
「それはわからんの。会話イベントの最中ではギミックが発動せんような感じじゃったし、儂がいち早く離脱したのは、鎌倉と同じようなイベントが発生するかの確認のためじゃったから、会話イベントを終えてみんことにはなんともの」
「とにかく行かないことには始まらないということですわ! 行きますわよ!」
「うわぁ! シンデレラさん引っ張らないでー!」
一応、移動中や現実世界でも確認してはいたが、改めて事前のユリの調査についてを述べたサアヤに対して、来た本人がそれ以上はわからないと言ってしまえば、もう行くしかない。
その辺で割り切りが良いクラリッサがアキラの腕を引っ張ってズンズン進んでいき、サアヤも仕方ないかとそのあとに続いて入り口となる鳥居を潜りに歩を進めた。
その様子を各々が観戦しやすいように陣取って見守りながら、すでにテルヨシは今回のフィールドを観察していた。
鳥居の先は50m四方ほどの拓けた境内で、障害物は一切なし。
その境内を取り囲むように《古城》ステージなりの背の低い荘厳な神社の建物と石垣が取り囲んでいる。
最奥には本殿がバーンと鎮座して、ユリの調査によると境内の真ん中辺りに差し掛かると、その本殿からタギツヒメが出てくるらしい。
と、そうこう観察していたら鳥居を潜ったサアヤ達が境内の真ん中に到達して足を止めると、聞いた通りに本殿の正面の扉がひとりでに開け放たれて、その奥からタキリビメによく似た巫女のようなエネミーが低空飛行しながら降りてくる。
遠目からは細かい装飾などは判然としないまでも、その腰に差されている剣と背後に浮く水晶玉のような球体が4つあるのはわかった。
『その様子からして、ここへ偶然に迷い込んだ小戦士というわけではないのでしょう。──妾の領域に足を踏み入れた勇敢なる小戦士達よ。その強き意思を以て妾に示しなさい。そなたらの《力》を──』
──力、か。ずいぶんと漠然とした試練だが──
遠くから聞こえてきたタギツヒメの美声はとてつもなく澄んでいて、とてもではないがエネミーから発せられた声とは思えないほど。
しかし現実としてそれを受け止めて、会話イベントを終えたここからが本番だと集中力を上げ、タギツヒメが両腕を左右に伸ばして広げたのが見えた瞬間、境内を取り囲む外周に変化が起きて、ゴゴンッ!
壮絶な音を上げて外周の地面が隆起して、あっという間に高さ20mはある鋼鉄の壁が出現。
「……ハァッ!? ちょっとちょっと!!」
その壁は高津比咩神社を丸ごと覆ってしまう範囲に展開されてしまい、中の様子は全くわからなくなってしまう。
それにはテルヨシ達も仰天して、慌てて抜け道がないかとぐるっと1周したりしてみたが、まともに入れそうなのは上だけ。
なのでユリを飛ばして様子を見てもらおうと打ち上げてみたが、何やら少し動いてみせてから、想定よりもずっと早く降りてきたユリが残念な報告をしてくる。
「天辺は確かに空洞になっておるようじゃが、その天辺には黒い膜のようなものが張られておって中の様子は見えん。儂の《リトル・ボム》でもびくともせんかったが、おそらくは車の透かし防止窓のようなものじゃろう。光は通過しておる」
「となると試練が始まったらこちらの意思での撤退は不可能ということだな。これは想像よりもキツい……」
上も蓋をされていると聞いてガクリと肩を落としたテルヨシ達の気持ちは想像するに容易いが、これで確定したのは、タギツヒメの試練は始まったらクリアするか全滅するまでテリトリーからは逃げられなくなるということ。
ユリが飛んでいる間に壁の破壊も狙ってみたが、どうやら破壊不能オブジェクトのようで全く歯が立たなかった。
そうなると頼りになるのは中にいるサアヤ達となり、すでに2分ほどが経過しているが、音や振動も遮断するのか中は静かそのもの。
不気味なまでの静寂を見守ることしか出来ない歯痒さに落ち着きがなくなるテルヨシだったが、それもすぐに終わり、さらに30秒ほどしてから壁の内側の空から3本の光が空へと向けて伸びていき、次いで高く隔てていた壁がズズズ、と音を立てて地面へと沈み込んで消えてしまう。
光は間違いなくサアヤ達の死亡エフェクトで、壁の向こうの景色が見えると、鳥居の前に浮遊する死亡マーカーが3つあり、試練のクリアは出来なかったと認識。
「やはり全滅するまでは壁はなくならないか。これはタキリビメよりも面倒かもしれんな」
「そうは思わねー。あれはあれで山を登り直す手間の方が精神的にキツい」
「その分、こっちはバーストポイントこそ失うが、蘇生からすぐに合流できるしな。俺もこっちの方がイライラしねーかも。エネミー戦なら死ぬのも想定の内だし」
「なんにしてもガッちゃん達が蘇生するまでは作戦の立てようもないし、適当に休んどこ」
「そうじゃな。時間もまだまだあるでの。焦ることはない」
問題なのはその死亡した3人以外に試練の内容を知り得なかった現実で、何か話そうにも作戦を立てることすら出来ない。
仕方なくサアヤ達が蘇生するのを各々で1時間待ち続けて、ほとんど同時に死んだらしいサアヤ達が蘇生して戻ってきたところでようやく話が進む。
「あの試練は最悪よ……痛覚2倍がこれほど辛いと思ったことはないわ……」
「ぼ、僕は速攻で砕け散ったからそこまでじゃなかったけど……」
「硬くなるアビリティがありましたのに粘らなかったのには悪意がありましてよ……」
「あ、悪意はないですよ! ガスト姉もシンデレラさんも『これは無理だ』って結構早めに言いましたよね!?」
話だけを聞くと3人ではどうしようもない試練だったことはわかり、死ぬまでに苦しみが伴うことも判明。
粘れば粘るほど辛いようだが、その辺でアキラが潔く死んだことを口論するのをとりあえず止めてあげて、まずは中で何があったのかをハッキリとさせる。
「試練が始まってから外周を壁で塞がれたのはわかったと思うわ。天井は光源の確保のためか開いてたけど、ボンバーのリトル・ボムが見えたから抜けられはしないみたいね」
「試練は極悪ですわよ。壁が出来てからすぐにタギツヒメの後ろに控えていた水晶玉の1つが割れて、外周の壁とは別の高密度のエネルギーの壁が出来ましたの」
「それがタギツヒメとの間を隔てるように展開されて、毎秒20cmずつ鳥居の側に移動してくるんです」
「壁自体にダメージは発生してないんだけど、どうにも耐久値があるみたいで破壊するまでに相当な攻撃をしなきゃダメね」
「わたくし達だけでは攻撃力不足で、迫る壁に対してあまりに無力でしたわ」
そうして言葉を分けて1時間前に挑んだ試練についてを説明してくれたサアヤ達に難しい顔をしてるだろうユリ達を見る。
テルヨシが説明を聞いて真っ先に考えたのは、そのエネルギーの壁の攻略ではなく、失敗した場合と仮に突破した場合だ。
失敗した場合は先ほどの愚痴からもわかるように、外周の壁とエネルギーの壁に挟まれてプチッと圧殺されることになる。
サアヤ達がほぼまとまって鳥居の前で死亡していたのはそういうことの証明なので、それを想像するとあまり失敗はしたくない。というかしたくない。
そしてそのエネルギーの壁を破壊して突破したとしても、クラリッサの言葉を信じるなら、タギツヒメの後ろに控えていた水晶玉は全部で4つあったわけで、似たような試練があと3つは控えている可能性が高い。
「1つの試練につき1度の失敗を踏むとして、最低でも3回は死ぬことになりそうよね……」
「テイルよ。あまりネガティブに捉えるでない。初見でも突破できる可能性はあろう」
「力を示せってのは、純粋な攻撃力を求められてるってことなのか。それとももっと深い意味なのか。その辺も考えておかないと前回みたいに間違った解釈も出るぜ」
「要はこいつでブチ抜いていけばいいんだろ。ならさっさとやるぞ」
「ルーレットさんが頼もしい……」
「褒めると調子に乗って制御できなくなりますわよ」
タキリビメの時は《オオツナミ》を突破したところで剣を破壊したので、その先にあったと思われる試練をスキップした可能性があるが、今回はそのスキップは使用不可能とあって段階を経る攻略はテルヨシ的に割と新鮮。
これはいずれ行う帝城攻略作戦でも必要になる段階なので、今のうちにその感覚を養っておこうと少し集中力を上げていた。
そんな中でこの手の《破壊》を得意とするシズクがかつてないほどに頼もしい存在であるのはアキラの言う通り間違いなく、だからといって主導権を持たせるとクラリッサの危惧の通りコントロールが難しくなってくるので、その辺は注意しなければならない。
あくまで最大火力を鑑みてシズクを中心に余力を残しつつ壁の破壊が出来るように打ち合わせ。
壁にダメージを与えても必殺技ゲージが溜まらないとの悲しいお知らせも考慮して、可能な限りの必殺技ゲージの温存を考えて30分ほどで編成が完了。
テリトリーの中と外で隔絶されてしまう都合、シズクのアビリティだけが勿体ないが全員での特攻と決めて、この1回でクリアするつもりの意気込みで鳥居の前に立ったテルヨシ達。
「……にしても備えすぎじゃない?」
「あの広さだとこのくらいが限界でしょうね」
「シンデレラ酔いが発生しそうで嫌だなこれ……」
ただその一同の中には事前に用意したクラリッサの《マスカレード・ボール》の分身体40体が加わって、大変気持ち悪い光景になっている。
どこを見てもクラリッサとあってアキラやリクトなどはすでに立ちくらみがしていて、嫌がられたせいで「わたくしが悪いみたいに言わないでくださいな!」と41体が声を揃えて言うもんだから、同じ声が幾重にも重なった不気味な声にテルヨシも苦笑いするしかなかった。
エネルギーの壁にダメージ判定がないとのことでクラリッサの分身体にもダメージソースになってもらう算段で鳥居を潜り、境内の真ん中まで移動すると、先ほどの同じようにタギツヒメが姿を現して、やはりタキリビメと同じく加速世界の誕生から消滅を免れ続けた高位エネミーと思わせる言葉を紡いでくる。
『前回は様子見といったところですか。どうやらそなた達がタキリビメの言っていた《勇気》の試練を越えし小戦士のようですね。ならば妾も少々期待するとしましょう。そなた達の力を』
タキリビメ戦から現実世界ではまだ2日も経っていないので、テルヨシ達の感覚ではつい最近のことだが《無制限中立フィールド》ではその1000倍の2000日ほどが経過している。
その間に長らく暇していたタキリビメが《ハイエスト・レベル》を利用して残りの姉妹にテルヨシ達の話をしていたようだ。
どういう伝わり方をしたのか全くわからないのでサアヤ辺りが「余計なことしたんじゃないでしょうね」とここにいないタキリビメに文句を漏らしていたが、それもタギツヒメが一方的に会話イベントを終わらせて外周の壁を出現させたことでどこかへ飛んでいった。
そしてクラリッサの言う通り4つある水晶玉の1つが甲高いサウンドを響かせて砕け散り、その破片が前面に舞うと、それを元に半透明の赤いエネルギーの壁が展開された。
「赤い……」
「それじゃ頼んだわよテイル! ルー子!」
実際に見るとエネルギーの壁は威圧感たっぷりで、タギツヒメ側とを隔てる壁に隙間は完全にない。
確かにこんなのがジリジリ迫ってきたら嫌になるし、破壊できなければ圧殺される未来が待っている現実はもっと嫌だ。
その未来を回避するためにテルヨシ達も持てる力を迫るエネルギーの壁へとぶつけ始める。
エネルギーの壁が外周の壁と完全に密着するまでにかかる時間はきっかり200秒。その間に壁の耐久値を上回って破壊すればこちらの勝ち。
というのが全体の結論ではあるが、やはり警戒はしておこうと、ダメージソースのシズクをテルヨシがコントロールして動かし、本当に単なるダメージによる破壊で攻略できるのかを観察。
こういう観察力はレギオンで一番ということでテルヨシが抜擢されたが、その責任は割と重い。
「ルールー、端から下から上へゆっくり攻撃。徐々にスライドしてって」
「チマチマやるのは趣味じゃねーんだが」
「頼りにしてるんだからお願い」
「……わーったよ」
シズクもだいぶ言うことを利くようになったのは確かな成長でちょっと感動しちゃったが、シズクだけを見ていていいわけでもないので、規則正しく攻撃していくシズクをメインにしながら、他にもクラリッサの分身体の攻撃やサアヤ達の威力によって変化がないかをこれでもかという集中力を観察。
非常に神経を使うので鳥居の前でどっしりと座って構えるテルヨシの横では、ダメージには期待できないカイもサポートに回ってくれて、その年長者の知識を貸してくれる。
「エフェクトを見ると威力によってエネルギーの削がれ方が目に見えて違うな」
「実際に削れてるのか、はたまた吸収してるのかわからないのが怖いけど、厚みが少しずつなくなってはいってるね」
「何故わかる?」
「透過率。ほら、向こう側の景色が攻撃の開始時より鮮明になってる」
「ああ……言われてみれば。よく気づくものだ」
「もう少し経てばリリースにもわかったよ。とにかくこの壁は物量の火力で壊せそうなのは間違いない、と思う」
「あとは本当に破壊できるのかだけか。破壊できたとして、全部が砕けるのか、一部だけが砕けてその隙間を潜る形になるのか。そこは見ておかないとな」
リアルでの面識を経たことでカイとの会話もなんとなく壁がなくなった感じがあるなと、場違いな感想を抱きつつもしっかりとやることはやり、カイも迫る壁の圧迫感をものともせずに意見してくれる。
そしてシズクも文句を言ってそうな雰囲気が満々の様子で端から端までの攻撃を終えてくれて、そのあとは壁にだけ自由に攻撃していいと指示していたことから、必殺技は使わずに《アネモイ》でアホみたいに撃ち始めていた。
そのシズクの頑張りの結果、テルヨシが出した結論は単純な攻撃力での破壊が可能とのことだった。
それを聞いたサアヤ達はシズクほどではないが予測が確信に変わって俄然やる気になったか、猛然と攻撃の頻度を上げて攻撃を始めた。
「あらあらあらあら」
「おい、本当に壊せるんだろうな……」
しかし現実は非情で、サアヤ達の再三に渡る猛攻によって順調に壁は薄くなっているのだが、もうすぐ180秒が経過するところまで来ても壊れる様子がない。
どれだけの耐久値なんだよ! と叫びたくなるほどの硬さに観戦していたテルヨシとカイもいよいよヤバいとあって攻撃に参加。
『うらぁぁぁああ!!』
もう気合いをいれているんだか泣いているんだかよくわからない叫びが全員から漏れながらの総攻撃は、端から見たら相当にヤバい光景だっただろうが、そんな世間の目とか気にしてる場合ではないテルヨシ達の気合いと汗と涙と鼻水が飛び散る──そういう気持ちでってこと──ような猛攻が続く。
あと10秒。9……8……7……刻々と迫るタイムリミットを頭で理解しながら攻撃の手を緩めないテルヨシ達は、自分達の想定以上の壁の耐久を恨めしく思い、その気持ちまで乗せて撃ち放つと、テルヨシの背中が、みんなの背中が外周の壁に触れたところで、ピシリ。
ここにきて初めて壁に異音が響き、直後には迫る移動も動きを止めて、寸でのところで壁と壁の間に挟まっていたテルヨシ達はほとんど動けなくなってしまった。
ただそこからイラッとしたサアヤとシズクが壁を思いっきり蹴りつけたら、それがとどめとなって壁は蒸発するように消滅。
その結果ほぼ全員が前のめりに倒れ込んで安堵の息を漏らしていたが、そうはならなかったテルヨシは安堵の気持ちはありつつもすでに臨戦態勢を整えていた。
「みんな! 次が来るぞ!」