ようやく《タギツヒメ》の《力》の試練、第2関門を突破したテルヨシ達だが、残りの水晶玉は2つ。
つまり試練はまだ2つ残されていることは確実で、タギツヒメも順調に試練を突破してくるテルヨシ達に嬉しそうな雰囲気を含めて対峙してくる。
『ならばこれはどうでしょうね』
こっちは毎回必死に攻略してるだけに楽しそうなタギツヒメの声は苛立ちを覚えるが、3つ目の水晶玉が砕けて消えると、今度は急にテルヨシ達の上から影が落ちて暗くなり、見上げてみれば透明な壁になっていた天井が巨大な岩石で隠れてしまい見えなくなっていたのだ。
巨岩はテリトリーの幅いっぱいをほぼ埋めるほど大きく、輪郭に光が差し込んでいるがそれもわずか。
そしてその巨岩は謎の重力で浮いているらしく、ゴゴ、ゴゴ、と地響きと共にゆっくりと降下を始める。
『上ばかり気にしてはいけませんよ』
あれを破壊するとなると遠隔攻撃はほぼ必須だろ。
そう考えた矢先に暗くなったテリトリー内にまたもタギツヒメの声が響き、次いで最後の水晶玉が砕けるサウンドが響き渡り、この段階でのまさかの2つ同時の試練にはさすがに冷静ではいられない。
そんな中で何が来るんだと身構えたテルヨシ達の周囲に、1辺が50cmの光を放つキューブが無数に出現。
ただの光源とは思えないそのキューブは、緩い乱回転をしながら滞空するが、光の先に見えるタギツヒメが手に持つ剣を掲げて《タキリビメ》と同じように必殺技を発声。
『《
タキリビメの《オオツナミ》がそれはもう凄まじい威力を誇っていたため、タギツヒメの固有技も相当なものだと予想したが、その凄まじさは理不尽なレベルだった。
出現したキューブがタギツヒメのコマンドによって高音を発するほどの高速回転を始めて、そのまま移動を開始したのだ。
キューブ自体の高速回転があって、先ほどのキューブとは完全に別物な動きをするミニキューブは、接触の際の角度が定まらないため入射角と反射角とがイコールにならない。
そのランダム性がテルヨシ達を惑わせて、しかも数が多すぎて対応しきれなくなるのは必然で、天井の巨岩もどんどん降りてきてテリトリーが狭まっていく。
「全部は無理! みんな!」
「わかってる! 誰でもいいから攻撃できたらして!」
時間経過で難易度が格段に上がっていくこの試練では短期決戦に臨むしか選択肢はなく、それが可能なのはもはやこのテリトリーを支配するタギツヒメ。
それが持つ能力をコントロールする剣を破壊することだけと以心伝心したテルヨシ達は、天井の巨岩とキューブはほとんど無視してタギツヒメを照準。
ただし全員が攻撃に回ればキューブの餌食になるのは確実なので、攻撃力などを考えて即座にユリとシズクが抜擢されて、テルヨシ達はその2人に迫るキューブの迎撃に専念。
主な防御はサアヤとカイが担当して、テルヨシ、アキラ、リクト、クラリッサはタギツヒメまでの射線の確保のために前方に来るキューブを処理。
この処理も痛いのなんので、そう何度も繰り返しできるわけではないため、ユリとシズクも必殺技を惜しまずにタギツヒメをひたすらに狙う。
幸い、コントロールの都合なのか仕様なのかわからないがタギツヒメ自身が回避に動く気配は全くなく、2人の攻撃をキューブに受けさせたりして被弾を抑える挙動が多い。
「ぐえっ! もっとDPS上げて!」
「やってるだろ! 文句言うなら突っ込めバカが!」
「それは言えてるわ。突っ込んでスプラッシュ食らえ!」
「そこは当たらないように努力してくれないかな!?」
おそらく本殿のそばには狭い範囲でキューブだけを弾くフィールドみたいなものが展開されていて、その外ではタギツヒメもキューブの脅威に晒されるために動けないのだろう。
事実キューブ全ての動きを完全に把握してコントロールしているわけではなさそうな部分が見えて、キューブがタギツヒメの方向に行くこともあり、それがタギツヒメの近くで弾かれて反射するのが見えた。
だからといって剣の破壊が楽なわけもなく、2人の火力だけではこちらが先に全滅する可能性が高くて、テルヨシも隙を見て攻撃しろと怒鳴られる。
その際にユリとシズクの攻撃の巻き添えになっても責任は負わないとサアヤに言われて非常に非情。泣きたくなるほどだ。
それでも我慢してチャンスをうかがっているうちに、天井の巨岩もいよいよ10mの高さまで迫ってきて、範囲の縮小によってキューブの動きが激しさを増してテルヨシ達の攻撃を妨害してくる。
もう1つ弾けばすぐにもう1つ2つ飛来するレベルの密集率でテルヨシ達のHPゲージがゴリゴリ削れていき、その猛攻の前にクラリッサが脱落。
黄色系統でよく頑張った方と称えてやりたいがそんな余裕もないテルヨシも半分を切って減り続けるHPゲージに、使う隙がなくてずっと満タンな必殺技ゲージとの差が忌々しく思えて舌打ち。
「ちぃ! テイル! 3秒稼いでやる! お前もブチ込んでこい!」
「スピン! お前は漢だねぇ! 惚れるぜ!」
「キモいこと言うな!」
「おいスピン! 余力があれば俺にも力を貸してくれ!」
「男衆! 企みあるなら早くしなさい!」
「ぼ、僕は何もないよぉ!」
なかなかのストレスに晒されて痺れを切らしたのはテルヨシだけではなく、同じように舌打ちしたリクトも本気で限界が近いだろうことを察して、瞬間火力の高いテルヨシを撃ち出す準備をしてくれる。
さらにカイもさすがの防御力でユリとシズクを守っていたが、そろそろ《リサティテーション》の威力も上々な仕上がりになったか、低い機動力をリクトにカバーしてもらおうとしているっぽい。
その方法はおそらく《ジャイロ・ブレーカー》で強引に吹き飛んでタギツヒメに突っ込み、激突と同時に発動させるつもりだ。
それに巻き込まれないためにもまずはテルヨシが突撃する準備として、その場で足の爪先を交互にトントン、トントンと地面に接触させ、その間の無防備をリクトが決死のカバー。
「《インビジブル・ステップ》」
狙ってやったのかは知らないが、必殺技発動までの時間稼ぎで最後にカバーした時にカイのいる方向に吹き飛んだリクトを横目で見つつ、貴重な5秒を無駄にしないためにタギツヒメへと突撃。
飛び交うキューブを高速で躱しながらタギツヒメへと迫ったテルヨシは、その手に持たれている剣のみに意識を向けて集中攻撃。
接近戦になればタギツヒメもキューブでの防御ができずにテルヨシを吹き飛ばそうとする挙動を見せるが、その隙を狙ってユリとシズクも攻撃を当ててくれる。
テルヨシの全力の連続攻撃でも剣を手放さないタギツヒメの耐久も相当に高く、再三に渡る攻撃も虚しくテルヨシのインビジブル・ステップの効果時間が終了。
しかしダメージの蓄積は出来たはずなので、ユリとシズクの攻撃の邪魔にならないように素早く後退。
「ジャイロ・ブレーカー!!」
そしてテルヨシと入れ替わるようにしてリクトの必殺技発声がして、その必殺技を受けたカイが弾丸のようにタギツヒメへと撃ち出されテルヨシとすれ違う。
天井の巨岩もキューブの数から考えればあと2mも下がれば身動きすらまともに取れなくなるのは間違いなく、健闘したアキラとリクトもここで死亡。
頼みの綱となったカイは、勢いそのままにタギツヒメに激突して動きを止めると、必殺技の弊害だった行動無効から抜けて即座に後ろへと回り込む。
「リサティテーション!」
そこから放たれた起死回生の一撃。
それにわざわざ後ろに回り込んだ理由にここで気がついたテルヨシは、その行動に至らなかった自分の機転の悪さを反省。
タギツヒメはキューブの脅威に晒されるのを嫌って本殿前のキューブを弾くフィールド内の位置をキープしていた。
つまりそれはタギツヒメ自身の能力とは別で、始めからこのテリトリーに備わったギミックであるという証拠。
ならそのタギツヒメをフィールドの外に出してしまえば……
カイのリサティテーションには強制ノックバック効果が付与されているため、エネミーである以上はタギツヒメもその効果対象になり、強烈な強化外装のパージも加わった威力でその体が浮き上がり、フィールドから吹き飛んでテルヨシ達の方へと向かってきた。
そこからはタギツヒメもキューブの脅威に晒され、HPの面でこそテルヨシ達を圧倒していたが、天井の巨岩は例外らしく、押し潰されれば死ぬと理解していたのかキューブ含めてその動きを停止させた。
「《バースト・ショット》ぉぉお!!」
そこからいくつかのキューブをコントロールして攻撃してくる気配があったので、着地を狙って接近を試みようとしたら、何よりも勘が鋭いシズクが真っ先に絶妙のタイミングで必殺技を放ち、狙撃銃《カリス》の射抜くような弾丸がタギツヒメの剣に命中。
「スラッシュ!」
その攻撃でついに剣の先端が欠けて、破壊まであと少しだと確信すると、行動力の塊みたいなサアヤが展開剣を鉤爪のように並べてその剛爪でタギツヒメにラッシュ。
その猛攻にタギツヒメもキューブで迎撃するが、そこはテルヨシとユリの付き合いの長いコンビが的確にフォローし、サアヤの気合いに圧されてかジリジリと防御しながら後退する。
「うらぁあああ!! リリース! やりなさい!」
「リサティテーション!」
タギツヒメの狙いは後退しながら再び本殿前のフィールドに入ることだとわかっていてラッシュを続けたサアヤは、防戦一方になっていたタギツヒメから距離を取るように展開剣を縦に並べて自らはその並びに押される形で後退。
それと入れ替わるように今度は大砲型の《アレース》をぶっ放したシズクの砲弾がタギツヒメを襲い、ほとんど強引にダメ押し。
最後にフィールドに戻ってくるのを待ち構えていたカイが再びリサティテーションを使うことで、ダメージとノックバックを与えてまた吹き飛ばすと、その間にタギツヒメの持つ剣が半ばから折れて破壊されたのだった。
タキリビメがそうだったからテルヨシ達も剣が破壊されたのを確認して攻撃をやめたら、吹き飛んでテルヨシ達よりも後方に優雅に着地したタギツヒメは、手に持つ剣を見て小さく笑うと、そのまま鞘へと納めてスゥッと右手を凪ぐと、天井の巨岩とキューブが消滅し、外周の壁も静かに沈没していった。
それだけですでにタギツヒメに戦闘の意思がないのはわかったので、テルヨシ達も1ヶ所に集まって近寄ってきたタギツヒメに視線を向ける。
『タキリビメの試練を乗り越えただけあって、要領はずいぶんと良かったですね。この剣の破壊を目指すまでに迷いがありませんでした。それがあれば妾のセンジュで全滅させることが十分に可能でしたが』
「どうだろうな。リリースの機転がなきゃギリギリ間に合わなかった気もするし」
「それよね。どうしてアンタはインビジブル・ステップでタギツヒメを押し出さないかな。そのくらいわかってると思ってたのに」
「剣の破壊に意識を向けておれば仕方あるまい。それに儂らのフォローもせねばならんかったし、あれもこれも求めるでない」
「結果オーライと言えば聞こえはいいが、集中力のムラだけはどうにかしてほしいな」
「グチグチ言うのは後にしろよ。それより報酬もらうんだろ」
タキリビメとは違って高圧的な印象がないタギツヒメは、エネミーらしからぬ戦闘の考察をしてテルヨシ達を評価。
その内容での不満点を便乗して言ってくる辺りがサアヤとカイらしいが、それは後でにしてくれと思えば、意外にもシズクが話を進めてくれる。
戦闘が終われば和やかすぎるテルヨシ達の雰囲気にクスリとしたタギツヒメは、その手を合掌させてから離して、その間から1枚のアイテムカードを出現させる。
『では妾の試練を乗り越えた褒美を差し上げましょう。それをどう扱うかは、残りの試練を乗り越えれば自ずとわかることでしょう』
「さてさて、今回のアイテムは……《Phoenix Blade Proto》。《フェニックス・ブレード》か。かっけぇ」
「日本語訳だとどんな銘になるのかしらね」
「神話を元にしているなら、おそらくは《
「相変わらず博識なやつじゃの。それも勉強の中に含まれておるのか?」
「……そういうことにしてくれていい」
タギツヒメから渡されたアイテムカードの名称からカイがまたも博識を披露してみせると、リアルで少し因縁が出来たユリがちょっとだけ勉強方面を絡めたツッコミで困らせる様子がなんだか新鮮。
カイも変に反発せずにそういうことでいいやと投げやりで、その反応にはユリもやれやれといった感じ。
そのやり取りを小さく笑ってから、前回はちょっと失敗した件を早めに処理しようと、タギツヒメが消えてしまう前に話を切り出す。
「ああそうだタギツヒメ。無理な頼みではあるかもだけど、このアイテム、あと2つほど貰えたりしない?」
『小戦士というのは傲慢なのですね。褒美というのはそれ相応の対価なくして得られないものなのですよ』
「そうは言うけど、アンタのお姉さんはまた試練をやるのは面倒だからって私達との雑談と交換でくれたんだけど」
『それはタキリビメが辺境の地で小戦士達を待ち続けて退屈していたからでしょう。妾は500年に1度程度ですが、こうして小戦士達がやって来ますし、妾の試練に悪戦苦闘する様を見るのは嫌いではありません』
「なかなか良い性格をしておるな……」
「またやるってんなら相手になってやるよ!」
「まぁ待てルーレット。タギツヒメも高度なAIを有している。同じ試練をまた俺達に仕掛けたところで、攻略の手順をほぼ確立した俺達からその悪戦苦闘する様とやらが見られないことはわかってるはずだ」
『何を勘違いしているのですか小戦士。妾の試練にシステム的なプロセスがインプットしてあるわけではないのですよ。妾の機嫌を損ねれば、センジュ以外の手を繰り出すのもやぶさかではありません。そうなればそなた達はたちまち全滅することでしょうね』
「ほらリリース。喧嘩腰良くないよ。謝っといたら?」
「むっ……出来れば穏便に済ませる方法はないだろうか」
前のタキリビメの時はアイテムカードを3枚貰い損ねて、雑談披露という凄い拘束時間を経て試練をスキップできたが、それがタギツヒメにも適応されるかはわからないので尋ねてみる。
するとタギツヒメは存外、Sっ気のある性格のようで、おしとやかな言葉遣いとは裏腹。
それで本当にまた試練を2回もクリアすることになったら事なので、カイには言動を謝罪させてから別の手段はないかと問いかけると、あまり考えたことがなかったのか少し沈黙して思考に入る。
『……そうですね。そなた達は《イチキシマヒメ》の試練はまだなのですよね』
「ええ。これからそっちにも行く予定だけど」
『では好都合というもの。実は妾達は試練を与えるシステムに縛られて、普段は自らの領域から出ることが叶いません。しかし試練を突破し、リザルトであるこの状況においては妾にその呪縛は無効。故に今ならばこの領域からの脱出は比較的容易なのです。ですからそなた達がイチキシマヒメの試練に挑む様を妾に見せてほしいのです』
「ほう。それはまた面白い提案じゃな」
『ですが試練を経ての通り、妾の力の根源はこの剣。この剣なしでは妾も存分に力を行使できませんから、たとえ高位《ビーイング》の妾といえど《ミーン・レベル》にはびこる他のビーイングに苦戦を強いる可能性が高い』
「要は俺達に同行してイチキシマヒメの試練に挑む様を見せればアイテムカードをくれるんだな。それならばこちらに何の不利益もない。条件としては破格だろう」
「そうだねぇ。じゃあそれで構わないよ。道中、タギツヒメはオレ達が守ればいいわけだな」
「エネミーを守るって意味わかんねぇ……」
『ビーイングと呼びなさい。小戦士』
ほとんど自我に近い思考を有するエネミーは何かと変わってるとは学習していたが、タギツヒメもだいぶ変わってる。
3女神もダンジョンのボスエネミーのような移動制限がされていることをここで初めて知ることになるが、その制限が今なら解除されてることから、次の目的であるイチキシマヒメの試練に同行すると言い出すので、特に不都合があるわけでもないその交換条件で即決。
これでイチキシマヒメの試練を乗り越えたら、とかの条件になってくると少し面倒だが、テリトリーの外に出られることを喜ぶタギツヒメの楽しげな雰囲気にそれはなさそうと笑う。
「……でも待って。それってつまり向こうに行ってから、またここまでタギツヒメの護衛をしなきゃならないんじゃ……」
「うげっ。帰るまでが遠足ってやつか……」
「その辺はどうなんだ?」
『そこは抜かりはありません。おそらくあと54000秒以内に《フィールドアトリビューション》の変更が起きるでしょう。そうすれば妾の剣も再生しますから、戻る時には小戦士達の力も必要ありません』
「5万……15時間くらいか。フィールドアトリビューションってのはフィールド属性で、要は《変遷》時のエネミーの再湧出と同じ現象を利用するのか」
「変遷が予期できるとか便利ね。それも長年のデータってやつ?」
『耳慣れない単語ですが、理解があるのならそれで構いません。では行くとしましょう』
「いやいや、待てタギツヒメよ。儂らの仲間がまだ蘇生できておらん。そちらの都合のみで進めるでない」
そうと決まったら早く行きたい気持ちが先行するタギツヒメが無駄に可愛いと思えるものの、決まってから気づく帰りのことで問題発生。
かと思われたが、そこは大丈夫とすぐにわかり改めて行こうとするタギツヒメに対してもツッコミ役に回らざるを得ないユリの苦労を労う。
7000年以上生きてるタギツヒメにとって1時間程度は瞬きに等しい時間とは思うが、他人に言われるとその待ち時間は長く感じるものらしく、待っている間に手乗りサイズのキューブを5つも出してジャグリングしたりテルヨシにぶつけてきたりで暇潰ししてくる。
そのぶつけられるダメージが無駄に痛くて、ただでさえ減ってるHPが減少するのでやめてほしいと言えば、あからさまに不貞腐れて別のことをしだすところは人間と思考が一緒。もはやAIと人間とで区別することすら些細なことのように思えた。
その後、無事に蘇生を終えたアキラ達も話自体は聞こえていたので、特に説明の必要もなく意見がまとまり、タギツヒメという奇妙な同行者を加えて次なる目的である神奈川県鎌倉市にあるイチキシマヒメのいる神社を目指して移動を開始した。