私が初めての彼女を見た時、可憐だと思った。幼い顔は芍薬のように清楚で愛らしく、私は守ってあげたいと思った。
私が最期に彼女を見た時、儚いと思った。頬を伝う涙は悲哀に満ち、今にも崩れ落ちそうで……どうして彼女の笑顔を守れなかったのだろうと後悔した。
「すみません」
私は熊野権現の参拝のため、一晩泊まるための宿を探していた。
「はいよ、お待たせ」
家の主が私を出迎える。
「私は修行僧をしております、安珍と申すものです。熊野権現へ向かう途中なのですが、日が暮れてしまい宿を探しているのです」
「それならうちに泊まってもいいぜ」
「すみません」
「なに、困ったときはお互い様さ……それに、うちのチビがあんたを気に入ったようでな」
男の後ろにいる幼い少女が頭を覗かせる。
「ああ、名乗るのを忘れていたな。俺は清重、庄司清重だ。そしてこっちは娘の」
そう言うと男は後ろに隠れていた娘を私の前にやる。
「……清、清姫です」
少女は消え入りそうな声で名乗る。
「こいつは人見知りが過ぎて、仲良しがが全然いなくてな……よかったら一晩の礼として話し相手になってくれや」
清重はニタッと笑う。
「そんなことでいいのなら……よろしくお願いします清姫様」
私が笑顔を向けると清姫は顔を真っ赤にする。
「はい。安珍……さま」
「なぁ安珍殿、晩酌に付き合ってくれないか?」
あれから毎年、参拝の際はこの家に寄ることが習慣になっていた。
「清姫は遊び疲れた
「話し相手としてなら付き合いますが、私は飲めませんよ仏道的に」
「ちょっとくらい良いじゃないか。ほらあれだ、般若湯だよ般若湯」
「……仕方ありませんね。少しだけですよ」
「よしきた!!」
清重と酒――般若湯を酌み交わす。
「なぁ、安珍よぉ、うちの娘を嫁に貰ってくれないか?」
清重は飲み始めて直ぐにできあがり、絡むように話しかける。
「ご冗談を」
「冗談なもんか。あの
清重は真面目な顔で尋ねる。
「あんたもうちの娘を
「幼女趣味はありませんよ」
冗談めかして笑う。
「なら、女になったら貰ってくれるんだな」
「…………」
「あと三年もしたら、あの娘も13でいい年だ。その時になったらいいか?」
「…………」
仏門に帰依する者は戒律として結婚はできない。それは常識であるにも関わらず、それを問うということは本気なのだろう。
だが、ここは考えるまでもなく断るべきだ。清重に嫌われまいと曖昧な返事はかえって逆効果であるし、嫁にするなどもってのほかだ。
「……それも、いいかもしれませんね」
それなのに答えは違っていた。酒に酔っていた所為なのか分からないが、何故かそう答えていた。
その時、隣の部屋で会話を盗み聞きしていた者の存在にも気づかずに――
つづく