人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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やべーくらいに本気なんだ

ジャンヌに狂ったような発言をしてから数十分が経過し、とりあえず互いが互いを落ち着かせる形でなんとかいつも通り...とは行かないまでも、落ち着くことができた。

 

場所は音楽室のまま変わらず、2人で壁に背を預け座っている。

 

まだ熱い頬をぽりぽりと掻いて隣で同じように顔を赤くして少し俯いているジャンヌを横目で見る。

 

「その...あの...さっきは、急に変な事言って悪かったな...」

 

ポツリと独り言を漏らすように、ジャンヌに謝罪する。

 

「気に、しないでいい...その...嬉しかったから」

 

ジャンヌはそう言ってくる。また顔が熱くなるのを感じる。

 

「お、俺たち...全然、互いのことを知らないよな...」

 

「あ、ああ...そうだ、な...うん」

 

「だから、自己紹介を、しよう」

 

「...今更か?こんな、タイミングで?ふふっ」

 

ジャンヌは俺の発言にツッコミを入れてクスクスと笑う。

 

「わ、笑うんじゃねーやい。でも、必要なことだろ?」

 

「ああ、ふふふ...自己紹介とは、ふふ、はははっ!」

 

少しツボに入ったのか、ジャンヌは笑い続ける。

 

あの事件の時とは違う、朗らかな笑顔。

 

それを見て、俺も少し笑う。

 

「じゃあ、俺からな。名前は冴島隼人。年齢は17で...ランクは...ああ、クソ。そういう事を言いたいんじゃないんだが...」

 

上手く言葉が出てこずに、頭を掻く。ジャンヌの方を見ると俺をじっと見つめ、俺の言葉の続きを待っていた。口元には薄く笑みを浮かべて、目は慈愛に満ちている。

 

「...趣味は、走ること。自分の足でも、バイクでも、チャリでも、なんでもいい。勉強は...まぁ、そこそこ出来る。でも基本的には体を動かす方が得意だ。欠点は遅いと言われるとすぐにキレること...かな。」

 

そう言ってジャンヌを見る。

 

「私はジャンヌ・ダルク30世。年齢は17。趣味は...その...笑わないか?」

 

ジャンヌが少々恥ずかしそうに俺を見る。

 

「俺ら趣味以上に恥ずかしい事ぶっちゃけあっただろーがよォ」

 

「う...そ、それもそうか、趣味は、その...理子が着ているような、フリフリの付いたロリータ系の服を着るのが、好きだ...勉学は得意だと自負しているし、体もそれなりに動かせる。欠点は、自身の描いたものに大きな『誤算』が生じることにどうしようもなく怒りを感じること、だ」

 

「なんだ、思った以上に普通じゃねーかよ、魔女なんて言われてるから俺ぁもっと変なヤツかと思ってたのによ」

 

「それは私のセリフだ。スピード狂なんて言われてるくらいだから日常生活の全てを速さに費やしているものだとばかり思っていたぞ」

 

俺とジャンヌは互いを見て、少し呆けて笑った。

 

予想以上に普通で、互いの事を知り合った俺たちはやや距離が縮まったように思えた。

 

で、これ以上遠回りできないくらいの所まで話し合って、すっかり日が沈み始めた頃にようやく校舎から出る事にした。

 

ジャンヌを女子寮まで送り、その間も話が絶える事は無かった。

 

そして、ジャンヌとの別れ際。

 

「それじゃあ、また明日。会えるか分からないが、一応な」

 

と、言ってジャンヌは俺に背を向ける。

 

俺の思い込みかもしれないが、その背中が妙に寂しそうに見えてつい、声を掛けてしまった。

 

「ジャンヌ!」

 

呼び止められたジャンヌは、ゆっくりと振り返る。

 

曇り空が一瞬晴れて雲の隙間から月明りが差し込む。月の静かな光が俺たちを照らし始める。

 

ジャンヌは、俺の言葉を待っていた。

 

「あ、その...携帯!電話番号...交換、しようぜ」

 

そう言って、ジャンヌに近づく。

 

「お前は、また明日なんて言うけどよ...俺は、まだお前と話したい」

 

自分の携帯の電話番号を表示させて、ジャンヌに見せる。

 

ジャンヌは、それを見て深い笑みを浮かべる。

 

「――ああ、私もそう思っていた」

 

ジャンヌが手を見せてくる。

 

ジャンヌの手には、携帯が握られていてその画面にはジャンヌの携帯の電話番号が表示されていた。

 

―なんだよ、考えてる事一緒じゃねーか。

 

2人して、声を抑えて笑い合う。

 

電話番号を交換し合って、今度こそ別れる。

 

「夜、電話かけるよ」

 

「ああ、待っている」

 

そう告げて、男子寮に帰ってくる。そのまま自室の扉の前に行き、左胸の内ポケットに入ったケースからカードキーを取り出し、認識させるがエラーを吐く。

 

「お?」

 

そこで気付いた。左胸じゃなくて、右胸の内ポケットに入っているカードキーが、俺の部屋の鍵だったという事に。

 

―頭呆けちまってるな...。

 

自分の行動に苦笑しながら鍵を開ける。

 

「ただいま」

 

帰宅を告げる挨拶をするが、部屋には誰も居ない。明りを点けて、鞄をソファに投げて風呂に入る。

 

 

 

 

風呂に浸かっている間に考える。きっと俺はどうしようもなく、あの人に惚れているのだろう。

 

一目惚れだ。出会いがどうであれ、過程や時間なんて関係ない。愛は出会った瞬間から生まれるもの...らしい。

 

―こんなにグズグズ悩むなんて俺らしくねーぜ...。

 

なんて言ってみたが、これまでの人生でモテた経験は一度もないし、告白されたこともない。キンジとアリア、キンジと星伽のイチャつきを見て涙を流すくらいには一人だった。

 

詰まる所、俺は恋愛の経験値が絶望的に低い。女性を喜ばせる言葉なんて一つも言えないしデートの誘い方も、プランの組み方も、楽しませ方も知らない。

 

どうすれば会話が盛り上がるなんて事も分からない。だけど、だけど。

 

この胸の鼓動は、高鳴りは。ジャンヌを見る度に、声を聞く度に高まるこの想いは、間違いなく本物だと証明している。

 

 

 

俺はどうしようもなく、ジャンヌ・ダルクという女性に惚れてしまったのだ。

 

 

 

風呂から上がり、電話で気持ちを伝えよう、そう思いすぐさま風呂から上がり濡れる髪なんて気にも留めずにパンツを履きシャツを着てすぐに携帯をひったくるように掴み、登録されたばかりのジャンヌの番号を選択して、通話開始を――押した。

 

Prrrr...Prr

 

『冴島...か?』

 

ジャンヌの声が聞こえる。どくん、どくんと心臓の鼓動が聞こえ始める。

 

「あ、ああ」

 

緊張で喉が渇いていく。

 

『本当に、掛けてくるんだな。要件は、何かあるのか?』

 

「ああ、放課後の音楽室の、あの返答...やり直させてほしい...んだ」

 

ジャンヌが息を呑む音が聞こえる。

 

『そ、そうか...』

 

「ああ、だから聞いてほしい」

 

『いや、少し待ってくれ』

 

「どうした」

 

電話の向こうで、ジャンヌが誰かを風呂場の方へ誘導する声が微かに聞こえる。

 

 

 

『待たせたか?』

 

「いや...大丈夫だ」

 

―落ち着け、落ち着け。

 

風呂上がりという事もあわせて、汗が出てくる。

 

 

『では...こほん。私は...お前に、あの時一目惚れをした...お前の生き方に、在り方を知って、恋をした...お前が、好きだ』

 

 

 

ジャンヌが、好きだと言ってくれる。胸の内側から溢れてくるこの熱い思いは嘘じゃないと教えてくれる。我ながらチョロいものだと思う。

 

 

 

「ああ...俺も、俺も...一目惚れだったと思う。ダイヤモンドダスト舞う地下倉庫で、お前を見て...惚れた...こういう時なんて言えばいいか分からない、けど」

 

 

続きを言おうとして、ジャンヌに遮られる。

 

 

『大衆文学から引っ張ってきたような月並みな言葉は、要らない。お前の言葉で、お前の想いを、私に伝えてほしい』

 

 

ジャンヌにそうフォローされる。

 

 

―情けねぇ、それでも男かよ...!

 

息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。そして、俺は静かに言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

「お前の声が好きだ、髪が、瞳が...好きだ。お前を見る度に、お前の声を聞く度に高鳴る俺の心は、お前に惚れていることが嘘じゃないと教えてくれる。愛に、時間は関係ない。出会った瞬間から、育まれるものだ...俺は、お前のことがどうしようもなく...好きだ」

 

 

 

―好きだよ、ジャンヌ。

 

 

 

 

そう、はっきりと告げる。

 

 

ジャンヌから返答はない。少し、気になって耳を澄ませると、携帯の向こうで啜り泣く声が聞こえた。

 

 

「ジャンヌ?泣いてるのか...?」

 

 

『ぐ、大丈夫...まさか、想いを伝えられただけで、涙が溢れてくるなどと思わなくてな、少し...戸惑っていただけだ。私も、自分で思っている以上に重い女だったようだ』

 

 

「ジャンヌ」

 

 

『クスン、どうした』

 

 

「大好きだ」

 

 

『私も、大好きだ』

 

 

そうして想いを伝え合う。

 

 

「そ、それで話は...終わりだ」

 

『そうか、夜も更けてきた...そろそろ寝るとしよう』

 

「ああ、そう、だな...おやすみ、ジャンヌ」

 

『...うん。おやすみ、隼人』

 

そうして、通話を終了する。

 

携帯の画面をしばらく見つめ、布団に飛び込む。

 

そして、すぐに布団を引っ被って、ゴロゴロと転がり始めた。

 

「ぬあああああああああああ!!!!!!ああ、ああああああああっ!!!!!ああああああああああっ!!!!」

 

―恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい!!!キャラもなんかちげーしいいいいいい!!!

 

ゴロゴロと転がって、色々と言ってしまった過去の自分の発言に顔を真っ赤にする。

 

その日は寝れるわけもなく、朝を迎えるまでずっと悶絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の、午前授業が終わり昼に入るタイミングでキンジが俺の前にきて、ギョッとしている。

 

「ど、どうした隼人。すごい隈だぞ」

 

理子に何かされたのか?とキンジが小声で問いかけてくる。

 

「なぁ、キンジ...」

 

「ど、どうした」

 

「愛って...なんだろうな」

 

「本当にどうした!大丈夫か!?」

 

キンジに肩を掴まれガクガクと揺すられる。そこにアリアがやってきた。

 

「ハヤトってば朝からずっとその調子なのよ。何かあったのかしら」

 

―マジに、一睡もできなかった。

 

武藤と不知火たちに心配されながら昼食を食べる。

 

あれ、今日の昼...何にしたんだっけ...。

 

そのまま時間が流れ、午後の授業に入るが同学年のSSRは全員合宿で出払っているので途轍もなく暇である。

 

屋上で寝ようかとも考えたが、生憎の雨模様でそんな天気の中野外で寝るなんてことはしたくない。

 

無難に保健室に入り、体調が悪い旨を伝えてベッドを借りる。

 

布団を被ってしばらくすると、睡魔が一気に襲い掛かってくる。

 

それに抗うことなく、受け入れると眠りはすぐにやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、夕方だった。

 

ベッドから起き上がり、制服を羽織る。先生に礼を告げて保健室から出る。

 

特にすることもなく、フラフラと校内を歩く。

 

足が自然と向かったのは、音楽室。

 

『火刑台上のジャンヌ・ダルク』は聞こえてこないが、直感めいたものでジャンヌがここにいる気がした。

 

ガチャリ、とドアを開けるとそこには、こちらに背を向け、外の景色を見つめているジャンヌがいた。

 

ジャンヌは扉の空いた音に気付き、こちらにゆっくりと顔を向けて俺と目が合う。

 

少し、驚いたような顔をしてすぐに深い笑みを浮かべる。

 

「なんとなく、ここにいる気がして...な」

 

そう告げながらジャンヌに近づく。ジャンヌはそんな俺の発言に少し驚いて、俺も驚く発言をしてきた。

 

「隼人も...?奇遇だな、私も...ここにいれば、会える気がしたんだ」

 

思ったよりも、緊張せずに普通に話せることに驚いているが、きっと向こうも同じだろう。

 

ジャンヌも窓から離れ俺に近づいてくる。

 

2人の距離が、縮まる。

 

ほんの少し腕を前に伸ばせば、ジャンヌの肩に手が届く距離。

 

なんとなく、悪戯心が差し、少しの勇気を振り絞って手を伸ばし、ジャンヌの肩―その後ろ、背中に手を回してこちらに引き寄せた。

 

びっくりするほど軽くて、簡単にジャンヌは俺の胸に収まる。

 

「な、なんのつもりだ...!?」

 

ジャンヌは胸の中に収まったまま少し顔を上げ、俺を見ている。

 

「こうしてみてーと、思ったから」

 

―嫌だったか?

 

そう尋ねるとジャンヌは少し拗ねたような顔をして

 

「そういう聞き方は卑怯だ...私は何も言えなくなる。というか、昨日ドモっていた奴とは思えないほど積極的だな?まぁ、構わないが」

 

と言って挑発的な態度を見せて、顔を沈め胸に押し付けてくる。

 

俺は苦笑を漏らして、もう片方の手でジャンヌの頭に手を乗せて撫でる。

 

そんなことを暫く続けてから、ジャンヌにピアノを弾いてくれと頼んでみた。

 

ジャンヌは快く引き受け、演奏を始めた。

 

俺はジャンヌの後ろの、窓際の壁にもたれ掛かって聞き入る。

 

静かな時間が、ピアノの音色と共に過ぎていく。

 

この時間を邪魔をするモノは何もない。2人の時間は、2人の速度で過ぎていく。

 

今だけは、この空間が世界から区切られて俺たちだけの時間が流れているような気がした。

 

突如、ジャンヌが演奏を止める。

 

ん、と思って顔を上げると、ジャンヌは扉の方をじっと見つめている。

 

扉を開けて入ってきたのは、キンジだった。

 

「キンジ?」

 

「隼人!なんでここに?」

 

キンジは俺を見つけ少し安堵した表情になるが、ジャンヌを見てまた表情を険しくする。

 

恐らく、ジャンヌを警戒しているんだろう。

 

「大丈夫だぜ、キンジ。ジャンヌはもう争う気はねーよ」

 

「隼人の言う通りだが、そう簡単には信じられないだろう」

 

ジャンヌは話しながら椅子から立ち上がり、すぐ後ろにいる俺に体を預けてきた。

 

キンジがそれを見て酷く狼狽する。

 

「私は、司法取引を済ませて――隼人に会いに来た。それだけだ」

 

そう言って、ジャンヌは俺の腕をとって自分の腕を絡ませてくる。

 

「あ、キンジ。お前に言うのが最初だけどよ」

 

「な、なんだ!今混乱してるんだ、なるべくショックの軽い物で頼むぞ」

 

「俺たち、付き合うことになりました」

 

「へふん!」

 

俺がジャンヌと交際することになった旨を伝えるとキンジが変な声を上げて床に倒れ込んでしまった。

 

だがジャンヌにとってはどうでもいいことなのか、俺の発言を気にしていた。

 

「むぅ、昨日はあれほど恥ずかしかった隼人との逢瀬は恥ずかしく無くなったが、この関係を他人に伝えるのは中々に恥ずかしいな」

 

「逢瀬って...いや間違ってねーのか?」

 

とりあえずジャンヌに退いてもらい、床に倒れこんだキンジを介助する。

 

「おーい、大丈夫かぁキンジィー?」

 

ペチペチ、と顔を数度叩くとキンジが意識を取り戻す。

 

「ハッ!」

 

「起きたか」

 

キンジは起き上がって、一つ一つ起きたことを呑み込んでいるようだった。

 

「お前ら、何時から付き合いだしたんだ」

 

キンジが額に手を当てて溜息を吐いている。

 

「昨日の夜だ」

 

ジャンヌが俺の指を両手で弄りながら答える。ちょっとくすぐったい。

 

「そ、そうか...争う気は、本当にないんだな?」

 

「くどい。私は元より隼人に会いに来ただけだ。私の感情を確認するために、な。そしてそれは間違っていなかった。それだけだ」

 

ジャンヌは一切キンジの方を見ないで告げる。

 

そうしてしばらく疑心に捕らわれているキンジと一切興味を示さないジャンヌの問答が続いたところで、キンジが質問を変えた。

 

「イ・ウーについて教えてほしい」

 

ジャンヌの雰囲気が鋭くなり、すぐに霧散した。

 

「出来る事なら教えてやりたいが、それは無理だ」

 

「無理?」

 

「どういうことだ?」

 

「おそらくアリアから何も聞き出せなかったから私の所に来たのだろう。だがな、私も喋るに喋れんのだ」

 

「話すことを禁じられているのか?」

 

「違う、問題はイ・ウーが私闘を禁じていないことだ。私が話せば、内容次第で私が狙われる。だが、差し障りのない範囲で教えよう」

 

「お前なら、お前ほどの戦闘力があれば、狙われてもどうにかなるだろ?」

 

キンジが、皮肉交じりにジャンヌに問いかける。

 

ジャンヌは苦々しい顔をして、はっきりと言った。

 

「無理だ。私は、戦闘能力に関してはイ・ウーの中で最も弱いのでな」

 

ジャンヌはそう言いながら、俺の指を弄ぶのをやめて、今度は腕を引っ張って、肩にかけるように誘導し始める。あすなろ抱きのような体制をとると、満足そうに頷く。可愛い。

 

――ジャンヌで、最弱なのか...。

 

サラリと出てきたとんでもない事実に、途轍もない衝撃を受けた。

 

キンジも同じようで、驚愕の表情を浮かべている。

 

「なら、もっと強くならねーとな」

 

―立ち止まっている時間はないわけだ。

 

「それもいいが、まずは私の話を聞いてほしい」

 

「ああ、悪い」

 

「構わん。ではまず基本的な事を話すとしよう。イ・ウーとは学校のようなものだ、ただし、全員が教師で、全員が生徒だ。天賦の才を神より授かった者たちが集い、技術を伝え合い、何処まででも強くなる――いずれは、神の領域まで。それがイ・ウーだ」

 

ごくり、とキンジが唾を呑む。

 

「何が、目的なんだ」

 

「目的は個々が持つものだ。組織としての目的は、ない」

 

天才同士が、互いに互いを教え合い、互いの能力をコピーしあって、強くなる。

 

―つまり

 

「理子が変声術を教え、ジャンヌが理子に作戦立案術を教えたのか」

 

キンジが尋ねる。

 

「そうだ」

 

「随分と仲がいいんだな」

 

「たしかに、仲は良かった。理子は努力家だったし、私は好きだ」

 

「え?理子が努力家だって?」

 

キンジが聞き返す。

 

「イ・ウーで最も貪欲に力を求め、最も勤勉に学んでいたのが、理子だ。理子は一途なまでに自分を変えたがっていた。悲痛なまでにな」

 

ジャンヌの顔に少し影が差す。あすなろ抱きっぽいことをしている俺の腕にそっと手を添えてくる。

 

そんな時に、音楽室の扉がノックされ、中等部の連中が入ってくる。

 

「すいません、部活でここを使いたい...ので...」

 

女子生徒たちが俺とジャンヌの体勢を見て赤面させる。

 

「あー悪ィな。すぐに出てくわ」

 

キンジとジャンヌに声を掛けて、音楽室を出ていく。

 

外は雨が降っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やべーくらいに恥ずかしくて、でも本気で、この熱さは嘘じゃなかった。

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