あのやべープレイから一夜明け、登校してきたキンジの顔を見るがかなり参っているようだった。どんまいキンジ、いいこときっとあるよ。
キンジもアリアが隣にいるため愚痴も言えず、一人精神をすり減らしているようにも見えた。
午後の授業は各科毎に行うのだが、SSRの場合、超能力を使った犯罪捜査や超心理学を用いた犯罪捜査など、とんでもなく胡散臭いものだ。
所属している人数もそう多くなく、サイコメトリーやダウジング系の超能力による捜査が主だっている。
そんな中で移動もできる、攻撃にも転用できる、そんな自分自身を加速させる超能力を持つ俺は意外と珍しいタイプだったりする。
それはさておき、俺の午後の過ごし方は能力をチビチビと解放しつつ、ジョギングをし続けること。これでスタミナを鍛えて、能力もレベルアップ!できる...はず...!
事実周りから見ればジョギングじゃなくて短距離走でもしてるように見えるんだろう。
それよりも、まだ時速82km程でしか走れない。しかも全力でそれだ。そんなんじゃあダメだ。もっとだ、もっと速く、もっと、もっと!
そんな事を思いながら走っていたら、すぐに授業が終わってしまった。
帰り際にキンジと遭遇したが、随分とズブ濡れだった。どうやら猫を探してたらしい。
また明日な、なんて話をしつつ寮に戻って、夕飯食って、筋トレをする。
至って普通だ、キンジの周りが喧しくなっただけで、何も変わらない。平凡な日常だ。
それからしばらく日が経って。
台風がここら一体に上陸して大雨を降らし続けている今日。
教室でホームルームが終わり、今日は自棄に人が少ないな、休校にでもなったか?と思案しているところにアリアがやってきて、挨拶もなく一言。かなり焦っているようだった。
「サエジマ...Aランク...!アンタもきなさいっ!」
よく分からんが急いでいるみたいだ、後を追いかけよう。急ぎ足のアリアの後を付いて歩いているとアリアが何処かへ電話をかけ始めた。
「キンジ。今どこ」
どうやら相手はキンジのようだ。その間も足取りは緩まることなく、強襲科へ向かっている。
「ちょうどいいわ、C装備に武装して女子寮の屋上まできなさい」
C装備?なんでそんな物騒なモノを―
「授業じゃない!事件よっ!あたしがすぐと言ったらすぐ来る!」
そんな、アリアの張り上げるような声で―
俺は何とも間抜けな声を出してしまった。
「よーキンジ。ひでぇツラだな」
「うるせー、お前も似たようなモンだ」
女子寮の屋上でガッチリと武装を施した俺とキンジは互いの顔を見て笑い合う。
こうでもして気を解さないとやってられない気がするのだ。
そこに、階段をゆっくりと上がってくる音が聞こえ、顔を向けると、レキがいた。
「レキ、お前もアリアに?」
キンジも気付いたようでレキに声を掛けてる。
「はい」
「そのヘッドホンで何聞いてんだ?」
「音楽ではありません」
「じゃあ何聞いてんの?」
「風の音です」
...へー、すっごい趣味の子もいたもんだ。あーでもなんだっけα波だったか?そーいう音を聞くと、ストレスの解消に役立つらしい。
髪の色が奇抜だし、そういう事を弄ってくる奴らが居たんだろう。それでああいう風にリラックスするのが基本になったんじゃねぇかな...?
こんな非常時にこんな日常みたいな会話をするのはどーかと思ってるが、こういう事をしてないと気が落ち着かない。
そうやってそわそわしていると黙っていたアリアが口を開いた。
「...時間切れね。もう少しSランクが欲しかったけどこれ以上は無理。4人で追跡を開始するわ」
気軽にSランクを欲しがる辺りやべー感じがする。あれ?でもアリアとレキは現行Sランクだしキンジは元Sランクだし...あれ?俺だけじゃん!俺だけなんかちょっとレベル低いパーティメンバーみたいじゃん!
ガクリと人知れず事実に気づいて気分を落ち込ませるも、すぐに切り替える。
「追跡って、何をだ?」
「バスよ、バスジャックが起きたわ。男子寮の前に停車する、7時58分発のバスよ」
バスジャック、しかも武偵が乗るバスを―
―待て、なんだ、そりゃ。 それじゃあ...それじゃ、まるで...!!
武偵を狙ってるみたいじゃないか!
「...武偵、殺し...か?」
自分でも驚くくらいに抑揚のない声が出たと思う。
「そうよ、でもこれ以上説明している時間はない―」
アリアの声をかき消すように、ヘリが屋上へ着陸しようとしていた。
キンジとアリアが何か話し合ってるが、ローターの音がうるさくて聞こえない。
「ああっクソッ!やりゃあいいんだろ!」
そのヤケクソ染みた叫ぶ声だけが、辛うじて聴きとれた。
「サエジマ、アンタはヘリの中で待機よ。幾ら速くても、走るバスには追いつけないわ」
「ん...!―あいよ」
追いつけない、と言われたことに一瞬マジにキレそうになったが、全力を出せても晴天時で時速82kmが限界なのだ。こんな暴風雨が吹き荒れる中で、そんな速度が出せるとは思わない。従っておくべきだ。
「だが、だがもし...お前たちのどっちかが負傷したら、そん時は動くぜ」
俺たちはパーティを組んだ瞬間から仲間だ。互いを信じ、互いを助け合う。それが仲間だ。
だからこそ、仲間を放ってはおけない。
キンジとアリアが飛び乗って、爆弾探しが始まった。無線越しに2人の会話が聞こえる。
こんな状況になっても、揉めてるなんて大丈夫か、なんて思いつつも警戒を続けた。
そんな時にスポーツカーにUZIが取り付けられたものがやってきて、バスを撃ち続ける。随分と派手にやってるようだ。
そんな中で、あの2人は無事かと少し探して、見つけた。バスの屋根、そこにいた。
キンジは、あろうことか防弾ヘルメットを脱いでいた。アリアも、さっきの攻撃でヘルメットを割られたらしい。
そんな頭のガードが薄い状態の2人が、屋根に到達し、揉め合っていた。
「おめーらっ!今そんな事してる場合じゃないだろ!」
無線を使って叫ぶが熱くなりすぎた2人の耳には届かないらしい。
そうして、キンジの後ろに、あのスポーツカーが見えた。
「キンジッ!後ろだぁアアアッ!」
叫んだが、キンジの反応は鈍い。
だが、そこにアリアが飛び込んだ。キンジを庇って。
アリアが撃たれ、ゴロゴロと側面に転がっていくのが見えた。
――それを見て、何が仲間を撃ったのかを理解して。
俺はヘリから飛び降りた。パラシュートがひらく。グンッと体を引っ張って、減速していくのが分かる。
着地して、パラシュートを脱ぎ、立ち上がる。
―瞬間。
――世界が 加速した。
視界に映る豪雨は大量の水滴へと姿を変え、地面に叩きつけられた水滴が弾ける瞬間まで見える。
自分の体からあり得ないほどの熱気が溢れてくるのが伝わる。
バスの排気口から出る熱の陽炎がスローモーションのように映る。
自分の足を一歩前に、また一歩、前に。
速く。もっと速く。キンジが撃たれる前に。もっと速くなれ!
「う、ア、オ、オオ、アあ、あああああああッッ!!!!」
一歩踏み出す度に体にぶつかった雨の水滴が弾けていく。その水滴の動きさえ、さっきよりも遅く見えた。
一歩踏み込む度にバスに近づく。スポーツカーとの距離が縮まる。
そして、何度目かの前進で―
スポーツカーの横に並び、追いついた。その速度のまま、体を捻らせ回転を加え蹴り飛ばす。
簡単に追いつけたことを考えると俺の速さはもう時速80kmなんて目じゃないんだろう
そんな蹴りを、打ったならどうなるのか。
スポーツカーは大きく蹴り上げられ、グシャリと反転して潰れた。
それを横目で見つつ、バランスを失い、地面に転がり込む。
それを期に世界は加速を終えて、水滴はまた豪雨へと姿を戻していた。
雨に叩きつけられ、頭が冷えていく。左足は逆にどんどん痛くなる。
無線を見ると結構ズタボロだったけど、まだ使えるかな?
雑にとって、まだ動けるはずのキンジと、ピンピンのレキに繋ぐ。
「後、よろしく」
そのまま痛みで気を失うわけでもなく、体全体が痛くて動かせないので応援が来るまで、一人橋の上で、ずっと雨模様の空を眺めていた。
足いてー...アリアは、無事だろうか。キンジは大丈夫だろうか。そんな事を考えてしまう。落ち着け、大丈夫だ。
それから少しして、響き渡る轟音で少し背筋が寒くなった。たぶん、レキがやったんだ。無線越しにあの呪文みたいな、あの言葉が聞こえた。勝ち確ってやつだ。
どうせあの狙撃お化けのことだ、ピンポイントで金具でも撃ち抜いて外したんだろう。
しばらくしてから、回収班に拾われ、すぐに武偵病院へ搬送された俺は、キンジ、レキの無事を確認し、アリアと同じ部屋に押し込まれた。
アリアも無事で何よりだ。額の傷は、どうにもならないけど命あっての物種だろう。
そうしてバスジャック騒動は終わり。一息ついて、独り言ちる。
やっぱり高校生でバスジャックの対処はやべーって。