人類最速の俺が逝く緋弾のアリア   作:じょーく泣虫

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ワトソンもやべー奴だった

 

――なーんか、キナ臭ぇんだよなぁ。

 

なんて言っておきながら、あまりに漠然としすぎていた。

 

これじゃあダメだ、と思い自分が持ってるコネと武偵高特有の超封建主義を利用して1年の男子諸君に依頼を持ちかけた。

 

 

ワトソンに関する情報を探偵科、諜報科、情報科を使って調べ上げさせ、通信科の生徒を使ってワトソンの部屋の盗聴を......1日の間で何処まで把握できるか、という体でやらせた。

 

更に2年の強襲科の生徒達を炊きつけてワトソンにぶつけ、戦闘力を確認させてもらったが、コッチに関してはワトソンが一枚上手だったと言える。

 

ワトソンは、ヒルダを追い払った時のガン・エッジを使わずにごく普通のアル=カタで戦った。

 

その際の動きは把握できたが、何処となく手加減しているような感じがして......ワトソンの具体的な戦闘力を知ることはできなかった。

 

――ワトソンは、周囲を騙すのが上手い。

 

放課後になった今、僅かに手に入れた情報を纏めて報告しにきた1年の諜報科の生徒から資料を受け取り、それを読んでいるが――すごいな、依頼を出したのが昼休みで、今は放課後。

 

日付が変わっていないのにも関わらず、少量ではあるが情報を仕入れてくれた1年の連中には感謝しなければならない。

 

資料には、ワトソンは自分の本質を隠している......という漠然としたものから、体脂肪率は27%である、靴は上げ底、等......

 

――どこで手に入れたんだこんな情報。てか体脂肪率27%って......隠れ肥満か?

 

......全く意味のない情報ばかりが転がり込んできて、ちょっと頭が痛くなる。

 

もうちょっと、こう......家系の話とかそういう物が聞けるもんだとばかり思っていた。

 

しかしこれも大切な資料。しっかりと目を通しておかなければ。

 

ファイリングされた情報を鞄の中に押し込んで、

 

「御苦労さん、たった数時間でこれだけの仕事......すげーな」

 

1年、諜報科所属の男子生徒に向かってそう話し掛けると、

 

「いやぁ、そうでもないっすよ......盗聴趣味の奴とか、イケメンの弱みを握ってやるーっていう理由でやってただけですしー」

 

たははー、と笑いながら1年の生徒は俺に背を向けた。

 

「じゃあ俺はこの辺でさよならっす。また明日の放課後あたりに、ここで。失礼しまっす、パイセン!」

 

「おう、また頼むわ」

 

「うーっす!」

 

そう言うと、1年の男子生徒は軽快な足運びで下校していき、角を曲がるとその姿は見えなくなった。

 

その後暫くの間、10分くらい中庭で携帯を弄っていると――

 

視線のようなモノを感じて、携帯を仕舞い立ち上がる。そして、見られていると思う方向に身体ごと振り向いて目を向けた。

 

「――気付きましたか。随分と敏感なんですね」

 

聞き覚えのあるやや高い声。それではっきりと位置が分かり、そこに焦点を合わせると......木の影、そこから件の男がゆらりと現れた。

 

「......ワトソンか。男からそんなにネチっこい視線を浴びるのは初めてでなァー......けっこー、分かりやすかったぜ?」

 

出てきたのは、エル・ワトソン。

 

少し柔らかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。

 

俺もそれだけなら、何の警戒もしないんだが――

 

ワトソンの手にはSIGが握られている。

 

――警戒しないワケ、ないよなぁ?

 

「どーしたんだワトソン、そんなモン握りしめて。何か、問題でもあったかァ?」

 

俺の問にワトソンはぴた、と一瞬動きを止め――やれやれ、と言わんばかりに首を横に振った。

 

「問題ですか。ええ、そうですね......分かっているんでしょう?」

 

ワトソンはどこからともなくクルス・エッジを取り出し、構える。

 

「なんのこったよ、構えんなって」

 

こつ、こつ、とローファーの音を鳴らしながらゆっくりと近づいてくるワトソン。

 

「もう、知ってるんですよ。冴島さんが僕のことを知りたがっていることくらい。そんなに知りたいのなら――自分で確かめてみては?」

 

そう、呟くように囁いた直後。

 

ワトソンは上半身を、地面に叩きつけられるんじゃないかと思うくらいの勢いで沈め――先ほどの緩慢な動きとは打って変わって、俊敏な動きで俺との距離を一気に詰めて、

 

「――フッ!」

 

地面スレスレまで低くした上半身をやや右側に捻り、一気に跳躍してきた。

 

そのまま体の捻りを戻し、遠心力をつけたクルス・エッジの迅速な一撃が俺の首を狙って叩きつけられようとしている。

 

「っ!」

 

俺は素早く身を屈め、前方にローリングをすることでワトソンが作り出した隙間を潜り抜け、斬撃を回避した。

 

そのまま、勢いを殺す事なく立ち上がり――その際に左手でデュランダル・ナイフを抜き、XVRを右手で握り――振り向くと同時、目の前にあった黒光りする物体に焦点が合い、反射的に左に上半身を捻り込むようにして移動した。

 

直後――バンッ!

 

発砲音が耳元で爆ぜ、鼓膜を打ち震わせる。

 

――ィィィィィィ......と、甲高い音が響くだけで、周囲の音を何も拾ってくれなくなった耳に舌打ちをするが、それすら聞こえなくなったようだ。

 

目もチカチカと明滅を繰り返して異常を脳に訴え続けてくる。

 

今すぐ腰を下ろして休みたいが、そうも言っていられない。

 

まともに機能しなくなった目でワトソンを捉えようとして――迫り来る銀色の刃、らしきものを見つけた。

 

咄嗟にデュランダル・ナイフを持ち上げ、銀の軌道を変えるべく思いっきり下から掬い上げた。

 

ギャギリリリィィッ!!

 

と、音がしているのだろう。軽く火花のような物が散ったのが見える。

 

そのまま振り上げた左腕を捻り、ワトソン目掛けナイフの刺突を行う。

 

一度目。捉えた感触なし、回避された。

 

二度目。切り払い。ワトソンが距離を取ったのが見える。

 

三度目は行えず。ワトソンが牽制のつもりか、SIGから2発弾丸を吐き出す。

 

俺が意識的に加速するよりも先に、本能がそうさせた。

 

ゆっくりと動く銃弾をナイフの大振りで振り払い、獣の様に地面を駆けてワトソンに接近する。

 

再びナイフの距離に迫ったと同時、加速を終えるとワトソンは俺が銃弾を避けた上で接近してくることを見通していたのか、フェンシングの突きのような動きで俺を出迎えていた。

 

俺はそれに対してワトソンの剣......身体よりの方の刃を、ナイフを滑り込ませ、外に押し出す。

 

グググっ!

 

ワトソンの剣はかなり押し払われ、今ここで俺がナイフを戻せばすぐさまワトソンに対して有利を取れる位置まで来ている。

 

そこに来てワトソンは腕力に対して不利を悟ったのか、剣を自ら引き下げ、代わりにSIGを1発撃ってきた。

 

この至近距離からの射撃、かなり焦ったが――攻勢を一度中止し、身を翻し、右側へ跳び退く事で回避できた。

 

しかし、また距離が開いてしまった。

 

俺の回避の隙に、ワトソンはその場から更に数歩後退しておりSIGを構えている。

 

その顔は酷く焦っており、驚きを隠し切れていないのか、額から頬を伝って顎へと落ちていく汗がそれを物語っていた。

 

汗が顎に集まり、重力に引かれて地面へ落ちていく。

 

――ポタリ。

 

今までなら、動いていたであろうワトソンが動かない。

 

俺の行動を、待っているかのような構え。

 

チェスの様に1手......打ったから、次は俺が動く番だとでも言いたげに、堂々としている。

 

――成程。次は俺か。

 

ご丁寧に待っているワトソンは、明滅する視界の中で――何処となく、引き攣った笑いを俺に見せていた。

 

「――......ゥゥウッシャァアアア......」

 

どくっどくっ、と心臓が体内に血液を回らせていく。

 

張り詰めた空気と、鈍い光を放つ銃口が俺の緊張感を高め、口の中はカラカラに干上がっていく。

 

喉は渇き切っていて、体の内側から聞こえてくる音が、まだかと急かしてくる。

 

どうしようもない渇きに、唾を飲み込んでも満たされる事は無く――逆に吐き出した吐息が、身体の熱を冷ましてくれる気さえした。

 

「――行くぞ、ワトソン」

 

体中の筋肉がギチギチと膨れ上がり、力を蓄えていく。

 

それに気付いたワトソンは静かに、しかし確実に迎撃してみせようと言う気概が見えた。

 

小さく上下する肩、若干震える顎、僅かに揺れる腕。

 

ワトソンは明らかに、何かに怯えていた。

 

何に怯えているのかは知らないが、銃を撃ったという事は、撃たれる覚悟があったという事だ。

 

故に手加減は無く、俺は果たしたかった本来の目的の為に――動く。

 

俺は、大きく一歩......踏み出す。

 

飛び出す様に駆け、姿勢を低くし――ワトソンの剣の範囲に滑り込み、右手でワトソンの足を掴む。

 

滑り込む際に曲げた右足の膝を軸にして上半身を起こし、右手を後ろに払い退けてやると、驚くほど簡単にワトソンは倒れた。

 

その事に違和感を覚えるが、俺は止まらない。

 

勢いを殺す事無く、両膝を揃えて、軽く跳躍。

 

ワトソンの上に圧し掛かり、馬乗りのような状態になる。

 

そのまま、ナイフをワトソン目掛けて振り下ろそうとした時――

 

 

「やり過ぎだ、アホゥ」

 

ゴッッッ――!!

 

何者かの声――やる気の無さそうな女のものである事だけは分かった――が聞こえた直後、側頭部を堅い物で殴られた感触が伝わり、俺は吹き飛ばされた。

 

「――ぐ、ぅ!?」

 

ズシャアアアアッ、と地面を滑り、両手を地面に押し付けブレーキ代わりにすることでなんとか止まった。

 

そして、殴った犯人を補足しようと思い顔を上げるが――

 

「......え?」

 

きょろ。きょろ。

 

首を左右に大きく振って周りを見渡すも、倒れているワトソンしか居らず、俺の頭部を殴った奴の姿は何処にも見えない。

 

このまま地に伏しているのは危険だと判断し、立ち上がろうと力を籠める。

 

「だーかーらぁ、ちょっと落ち着けってぇ」

 

のし......

 

背中に、重みを感じて再び地面に押し付けられてしまった。

 

俺の背中に乗った物体の正体を知りたくて、顔をギリギリまで背中に向ける。

 

そこに居たのは、尋問科の教諭。

 

蘭豹先生の、親友で――やべー奴。

 

「綴......先、生?」

 

「せーかぁい」

 

名前を当てられた綴先生は気怠そうに返事をして、俺を椅子代わりにしたまま足を組んで煙草を吸い始めた。

 

「見てたぞー冴島ァ......ワトソンは途中で武装解除もしてただろー......なのに追撃......は、いいとしてぇー......馬乗りになってナイフはダメだぞぉ」

 

気付けば俺が手にしていたはずのデュランダル・ナイフは――

 

綴先生の手の中にあり、綴先生はそれを俺の目に映る様にユラユラと振っている。

 

――てか、途中から、武装解除してた?

 

綴先生に言われた事を思い出し、ワトソンを見れば......SIGは弾き飛ばされていたのか、雑木林の方へ転がっており、クルス・エッジはワトソンの後方、5m程の位置に無様に投げ出されていた。

 

「冴島ァ。お前ぇ、武偵だろぉー。模擬戦とか決闘とかでもさぁ、殺しはダメだよ殺しは」

 

ジュッ。

 

「あぁっっつ!!」

 

首筋に煙草を押し付けられ、焼ける音がした。

 

熱い、熱い。

 

鈍い痛みがジリジリと伝わってくる。

 

先に仕掛けてきたのはワトソンだ、俺はそれに対応しただけだと伝えようとする。

 

「お、俺!別に何にも!」

 

「言い訳は後で聞くからさぁ......とりあえず立てぇー、そんでぇー教務科前に行け」

 

そんな事はどうでもいいと言いたそうに、綴先生は立ち上がり、根性焼きされた首を思いっきり掴んで俺を引き起こした。

 

綴先生は面倒臭そうに俺の背中を叩いて教務科に行けと言う。

 

逆らうと何されるか......いや、もう死刑宣告を受けたような物だ。

 

俺は速やかにナイフを仕舞い、服装の乱れを直し――ワトソンを一瞥して、教務科へ向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ワトソン視点――

 

人の皮を被った化け物。

 

よく聞く言葉だが、その言葉通りの人物を――僕はフィクションの中でしか、見たことが無かった。

 

現実にそんな人間が居るとは到底思えなかったんだ。

 

だって、そうだろう?

 

超能力を持った人間だって、所詮人間だ。

 

超人的な能力を持っていたって、人間は、人間だ。

 

僕はそう思っていたんだよ。

 

でも僕は、今日この日――自分が今まで抱いていた思いが、間違いだった事に気付いたんだ。

 

というのも......1年生の女子達が教えてくれた情報の中に、我々が監視対象にしている男、冴島隼人が僕の情報を集めているという事を教えてくれた。

 

我々が警戒している男......僕にはなぜ、こんな極東の、島国に住むちょっと変わった超能力を手にした男がこれほど恐れられているのか理解できなかった。

 

そこで、僕は――僕らしからぬ考えを思いついた。

 

冴島隼人と直接戦って、戦闘データを収集する。

 

これだ。

 

あの人達も、僕が手に入れた冴島隼人の戦闘データを目にすれば、きっと考えを変えるはず。

 

冴島隼人は、恐れるべき存在ではない。眠れる獅子ではなく、寝呆けている猫に過ぎないということを証明してみせよう。

 

――なんて、やってみた結果がこれだ。

 

初動。警戒させてからの攻撃は、僕の予想よりもずっと早く対応された。

 

そこからの連撃、僕は無駄のない完全な動作で攻撃をしたはずだが――どうだ。

 

目の前に居る男は当然の様に至近距離で放たれる銃弾を避け、斬り弾く。

 

剣で突こうすれば内側に潜り込まれ、剛力と速度を持ってして破壊力に変えたエネルギーで僕の剣を吹き飛ばす。

 

拳銃にとっての必殺の距離。90㎝あるか、ないかというギリギリのラインで咄嗟に撃った銃弾を、この男はあろうことか目で銃弾を捉え――それから回避してみせた。

 

化け物め。

 

僕の左側に4足歩行の動物の様に姿勢を低くし地面に悠然と爪を立て、此方を睨みつけてくるその目は、ギラギラと飢えた様な輝きを放っている。

 

それを直視するだけで、闘争心は急激に鎮静化し、僅か――いや、明確な恐怖が僕の心と体を支配していった。

 

舐めるような視線ではなく、一歩、一挙、ワンアクション起こそうとした瞬間、野生と知性の入り交じった音速の化け物に首を掻き切られる未来がはっきりと見える。

 

恐怖心からか、自分の呼吸音が大きく聞こえ始める。心臓の鼓動が、伝わる。

 

肩が動き、それに連動するかのように腕がブレて――狙いが定まらない。

 

あの獣のような男を縛り付けておく鎖が、自分自身の恐怖心によって断ち切られると思うと、更に怖くなる。

 

恐怖を押し殺そうと必死に噛みしめていた口は、何時からか奥歯をガチガチと鳴らし、震えていた。

 

膝がわらい、立つことすら許されなくなっていく。

 

これほどまでに自分が崩れ去っていくのにも関わらず、目の前にいるソレは不動。

 

獲物を狙う狩人の様に微動だにしない。

 

しかし、その姿勢、その目――それら全ては獣の様だった。

 

「――――......ゥゥウッシャァアアア......」

 

その化け物は、吐息を零した。

 

体内に貯まりきった熱量でその身が焦げるのを危惧したのか、沸騰したヤカンから吹き出る蒸気が男の口から体外へ排出されていく。

 

その吐息は冬の朝方早いロンドン、霧に包まれた街の様に獣の体を覆い尽くし、輪郭を曖昧にした。

 

これは、僕が惑わされているのか、そういう物を魅せられているのか。

 

霧に溶け込む人間なんて、存在しない。

 

だが、現に彼はそうしている。

 

そう、なっているのだ。

 

「行くぞ、ワトソン」

 

瞬きをするのと同時――獣の喉から発せられた、掠れ気味の低い声が聞こえた瞬間。

 

目の前に奴がいた。

 

――ッ!

 

この距離で剣は振れないと判断し、剣を自分の後方へ滑るように捨てる。

 

亜音速の拳銃弾による迎撃を行おうとするが、既に冴島は、自らの足を掴んでいた。

 

しまった、と思うよりも早く、身体は宙へ浮き、倒れ込む。

 

その時だった。中庭の南、校舎の影に――尋問科の綴教諭の姿を確認できた。

 

良かった、助かった。自分の中に安堵の気持ちが広がっていく。

 

倒された瞬間に、自分の意思でSIGを腕で弾いて遠くへ捨てる。

 

これ以上、戦う意志はないという証明。

 

これで、この化け物も止まるだろう。

 

そう思った。

 

しかし、現実は違った。

 

冴島は僕を倒した直後、膝だけの跳躍で浮いて――そのまま僕の上に馬乗りになり、ナイフを振り上げた。

 

――本気か!?

 

彼の目を見れば、獲物をもう少しで仕留められる......その喜びと、若干の狂気を感じ取れた。

 

口元は三日月の様に鋭く裂けていて、ナイフを――この角度なら、首だろう――突き立てる事に何の躊躇も感じていなさそうだったのだ。

 

ナイフを持つ彼の腕が頂点に達して――数瞬止まった。

 

まるで今から、神聖な儀式を行う。これ(ナイフ)がその道具で、生贄は僕だ......と、言われている気分だ。

 

――参った。

 

そう言おうとするが、それよりも先に彼のナイフが振り下ろされた。

 

ああ、なるほど。

 

やはりこいつは。

 

「化け、物......め!」

 

――首輪を付けられない、支配不可能の怪物。

 

人の皮を被った化け物だった。

 

目を閉じて、軽率な自分を恥じ――化け物たる彼に畏怖した。

 

そして、笑みを零す。

 

「やり過ぎだ、アホゥ」

 

この戦いは僕の負けだろう。

 

だが、この場はこれでいい。

 

なにせ、これが最良の一手なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワトソンちゃん......ダメだよぉ大人を使おうなんてぇー」

 

冴島が中庭から出ていって数十秒ほど経った時、綴教諭が言葉を零した。

 

横目で見てみれば、新しい煙草を口に咥えている。

 

「――何のことですか」

 

「惚けなくてもいいぞぉ分かってるから」

 

やる気の無さそうな、気怠そうな綴教諭だが――全て、見抜かれていたか。

 

そして、その上で僕を助けてくれた。

 

「......ありがとうございました、先生」

 

「あーいいよ、そういう薄っぺらい感謝なんていらないから。今回だけね」

 

綴教諭はそれだけ言ってしまうと、教務科の方へと足を進めていく。

 

「今回だけで十分ですよ。それだけで僕は――トオヤマを、仕留める事が出来る」

 

ぽつりと漏らした言葉は、誰かに拾われることも無く、風に溶け込んで消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

外堀は、もうすぐ埋まる。

 

そうすればトオヤマ。次は君だ。

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