GⅢに散々やられた後――キンジからバスカービルの女性メンバー全員が戦闘不能になったという報告を受け、戦慄を覚えた。
4人は『ジーフォース』......GⅣ?......と名乗る――恐らく、GⅢの仲間だろう――女一人にやられたらしい。
それで、なぜか知らないがそのGⅣはキンジの妹を名乗っているらしく、4人を襲った理由も、キンジに近づく女を排除したかった......から、だとか。
――何言ってんだコイツ、とは思ったがキンジはあまりギャグを言うような奴ではないし、マジなんだろうな。
キンジは慌てた様子で、「とにかく隼人も武偵病院に来てくれ」、なんて言った。
俺も結構マジにぶちのめされてフラフラだし、どっちみち武偵病院には行かなきゃならない。
また、戦うのか。
俺はすっかり冷え切った夜の風が肌を撫でる感覚に身震いを起こし、覚束ない足取りを早めて武偵病院へ駆け込むのだった。
「――初めまして、でいいのかな?冴島隼人。私はジーフォース」
武偵病院のロビーで、治療を受け終えた俺は、例のキンジの妹なる女と面会した。
成程、確かにキンジの言う通り――何処となくカナの面影がある。
これならキンジの妹って言われても信じてしまいそうだ。
「――......ふぅん。随分と......お兄ちゃんと、仲がいいんだね......ここで、殺しておいた方が安泰かな?――男同士、っていうのもあるだろうしィー」
――なんてこったキンジ、お前の自称妹は病み気味で、初対面の俺をホモ扱いしやがったぞ。
「悪ィが、俺ァノーマルだぜ。彼女もいる」
「ならいいや」
ボケる気力も無く、素直に事実を述べるとGⅣは俺に向けていた殺気を霧散させる。
――......GⅢよりか、弱い......?
この女がどれだけマジだったかは分からないが、それでもこの身に伝わる殺気はどう考えてもGⅢよりも弱かった。
いやまぁ、単純に俺がGⅢとの戦いに慣れすぎてるだけかもしれないが。
「じゃあ、そーゆーコトで。これからよろしくね、冴島セ・ン・パ・イ」
ここでやる事は全て終わったのか、GⅣは不吉な発言を残して静かにロビーから去っていった。
「――先輩って、まさか......」
――武偵高に来るワケじゃあ......ねぇ、よな......?
俺は、久々に軋み始めた胃の辺りを軽く撫で、上を向いて――どうか、来ないでくださいと神様に祈ってみた。
翌日......休む間も無く、傷だらけの体を必死に動かして、ジャンヌに伝えられた案件――『ジーサード・ジーフォースの一件について、師団のメンバーを招集し会議を行う』という物――に応じる為、移動していた。
......仮装をして、な。
なぜ仮装をしているかというと、今日はハロウィンの催しがあり――教務科から、それっぽい恰好をして動けと言われたからだ。
仮装する気分じゃなかったが、やらないと教務科の先生方から有り難いお説教を受けるハメになる。俺はそんな指導やお説教を受けたくはないので、適当にフランケン・シュタインの格好をして行動をしていた。
会議場として選ばれた場所は、ファミレス・ロキシー。
会議開始の指定時刻は15時からで、それよりも5分程早く来たが――楓並木の道に貼りだされたオープンテラスには、既に『師団』のメンバーのほとんどが集まっていた。
「悪ィ、遅れたか」
魔女の格好をしたジャンヌの隣に座り、丸テーブルを囲むメンバーを一瞥する。
ジャンヌ、玉藻、ワトソン......それに、PC画面に表示されたメーヤ。
少し深刻そうな雰囲気を醸し出してはいるが、この場所に居る全員は落ち着いていた。
カフェオレを一息で飲みきり、大きく息を零せば、ジャンヌが心配そうに蒼の双眸で俺を見ている事に気付いた。
その視線にサムズアップで自分は大丈夫だとアピールし、キンジの到着を待つ。
結局キンジが来たのは、それから7分も後の事だったが。
「では、少々性急ではあるが、師団会議を始める。先日『師団』のバスカービル――1名はウルスの兵も兼ねているが――その5人が、無所属であったはずのジーサードと、ジーフォースに討たれた」
隼人は以前襲われていた事を黙っていたようだったが、と、ジャンヌが一言付け加えて俺を横目で睨みつつ、先日の一件を報告した。
その視線に苦笑いで答えると、ジャンヌは呆れたような表情をして溜息を吐き、会議を進めた。
「昨日、同乗させたジーフォースから聞き出したんだが――ヤツらがジオ品川を拠点にしていたのは、単にレキをそこで発見したからだそうだ。サエジマを含め、アリアたちは皆奇襲でやられた、ということだ」
カボチャを被ったワトソンが補足する。
「いくら寡兵とはいえ、許し難いな。不意打ちとは」
碧眼を瞬かせたジャンヌが、脚を組み替えた。
「勝てればそれでいいンだろーよ。卑怯な手を使ってでも、な」
「......どうする?ジーサードとジーフォースは別々に動いている。戦うか?」
キンジが、結論に急ぐ。
それを聞いて、俺たちは目を逸らす。
「......?」
玉藻がメロンソーダを飲み、
「――仲間をやられて熱くなる気持ちは分かるがの。あまり失望させるでない、小童。戦う?では――遠山の。お主、勝てるのか?」
子供のようなくりくりの丸い目を鋭くさせ、人外特有の怪しい光を曳かせながら、キンジに聞いた。
「そ、それは......」
「先程、ワトソンから聞いたが......バスカービルの娘たちはジーフォースに、冴島のはジーサードに手も足も出なかったそうではないか。そいつに勝てるというのなら、どのような策があるか申してみよ」
「――......ぐ......――具体、的には――......その......まだ、何も――すぐ、思いつくものじゃないが――.......」
キンジは言葉を詰まらせながら、必死に紡いでいるが――今は時機じゃない。
「キンジ。オメーの気持ちは痛い程よく分かるしよォー......俺もGⅢをぶっ飛ばしてーとは考えてるんだ......だがよォ、今はダメだ......今は、ダメなんだ」
「なんでだ!隼人テメー!仲間がやられて、はいそうですかって納得出来るワケないだろッ!やり返したいとは思わないのか!」
「そうキレるなって......アリアもやられてムカッ腹が立ってるのは分かるがよォ-
......んー......理由は2つ、かな?1つ目は、俺たち『バスカービル』が満身創痍だってこと。2つ目は......交渉の余地があるってこと......かなァ?」
「うむ。今のヤツらはジーフォースの鎧を脱がせ、刀を棄てさせた上で『バスカービル』への使者にしているのじゃ......十分に交渉の余地はあるじゃろう」
「だが、アリアたちは不意打ちで......!」
「遠山の。掟を忘れるでない。『戦役』では、いつ何時、誰が誰に挑戦する事も許される。奴らの手口は汚いが、間違っておらんのじゃ」
「じゃあ、戦うなってか!不意打ちでやられたんだぞッ!」
「闇討ちがどうした......これは、『戦』ぞ?」
「何ッ......!」
「戦とはそういうモノじゃ。互いに名乗りを上げて、堅苦しい礼儀や作法を行った上で相対する事などせんよ。昔じゃあるまいし。フェアプレーを誉められるスポーツではない、喧嘩でもない、血で血を洗う闘いの末、和合せねばならん時も多々あった」
キンジは玉藻に言い返そうと言葉を練っていたようだが、何も言い返さなかった。
「奴らは『自分たちが強い』と示したうえで、武装解除させたジーフォースを残した。無所属であるが故に交渉の余地はある。それをみすみす此方から形無しにすることもあるまい」
「それは......まぁ、そうかも、しれないが」
「それに奴らは話に依れば、『科学』を御する。得体のしれない存在じゃ」
――極フツーの一般人から見たら玉藻の方がよっぽど得体のしれない存在だと思う。
「科学の使徒と儂等――魔女や化生は、相性が悪いのじゃ。加えて今は璃璃色金の粒子が濃いでの」
玉藻は頬を膨らませて、面白くなさそうに言う。
璃璃色金。レキの故郷にあったもので――藍幇のココたちが言うには見えない粒子を撒いて超能力者を弱らせた、らしいが......俺には一切その影響が現れない。
まぁ特に気にしてないからいいんだけどさ。
キンジは説明を求めてジャンヌを見た。
「――理解し辛い事かもしれないが、璃璃色金は超能力者の能力を弱らせる粒子を撒く事があるのだ。チャフを撒いてレーダーを使用不能にするような感じでな。だが困ったことに......それは、極めて広範囲に行われるのだ」
「広範囲?」
「地球の表面の1/3程度には影響する。丁度文化祭の頃か、あの時期からまたその濃度と強度が上がってな。今現在は日本全域も、その影響下にある」
ジャンヌがそう説明し終えたところで、
「加えて、どの様な現象で起こるかは不明だが――璃璃色金に影響を受けない超能力者が、急激に増加しているのじゃ。今まで全く素質さえ覗かせなかった者たちが、突如として超能力者になっておる......気をつけると良い、街中には玩具を手に入れて喜ぶ者たちが少数ではあるが居るだろうからの」
「地球規模の超能力妨害に加えて、最近になって増える超能力者......なんだそりゃ」
「白雪は鬼道術を間違えていた。私もあの様なミスをしてしまうかもしれない」
「つまり、今は時機が悪い」
「まずはよォー、傷を治す事優先だぜ」
「そう......だな。まずは、そうしよう。だが――奴らはどうするんだ、玉藻」
「取り込む」
「......何?」
「まずはジーフォース。いずれはジーサードを――『師団』に取り込むのじゃ」
「なん......だって......?」
「『戦役』では、中立や無所属を多く引き入れた方が良い。表の戦と同じことじゃよ」
「バカ言うなよ。あんな奴ら、一体どうやって仲間にするつもりだ」
「対話だけが取り込む方法ではない。金銀財宝、権力、異性――ありとあらゆる手が使われてきた。かつてはそれを目当てに中立を宣言する奴らも居たでの。ジーフォースの好みが分かれば、それをエサに師団の兵にできるやもしれん」
キンジが首を傾げた所で、キンジの正面に居たワトソンがカボチャ頭を持ち上げた。
「トオヤマ、その事なんだが」
「なんだよ」
「その、えっとだね......ジーフォースという女は......昨日の車でも、聞いてるこっちが恥ずかしくなるほどに......君に会えた事が嬉しくて仕方ないと語っていたんだ。つまり、どうも、君に気を許している雰囲気がある」
「だからなんだ......寝首でもかけってか」
「いや違う。ボクが言いたいのは――その、つまり......ロメオだ」
「ロメオ......ッ!?」
ワトソンの言葉に、俺とキンジは揃って飲み物を零しそうになる。
ロメオとは......武偵用語で、男性が女性に対して行うハニートラップの事だ。
それを提案してくるとは......キンジが受けてくれるかは分からないが.......。
――手段は、選んでられねーぜ、キンジ?
俺たちの目線を一心に集めたキンジは冷や汗を額に浮かばせて――苦々しく歪ませた口を、静かに開いた。